そのうち一社はセールスフォースだ。昨年9月に開催されたイベント「ドリームフォース」(セールスフォース、全製品ラインを統合する新たなソーシャル戦略を発表) において、「Business is Social」というキーワードを用いて、高度に統合されたクラウドサービスを発表した。
またアドビシステムズ社は、今年3月に開催されたイベント「アドビ・デジタルマーケティング・サミット」(新しい「Adobe Marketing Cloud」は、管理者、マーケター、クリエイティブの壁を超えて) において、組織の壁を超えたデジタルマーケティングを実現する「Creative Cloud」と「Marketing Cloud」の統合サービスを発表した。
なお、クラウドサービスには三つのレイヤーがあるが、これらのサービスはそのうち上位のSaaSにあたる。最下層のIaaSはハードウェア・インフラ機能を提供するもので、Amazon Web Serviceなどがある。中位層のPaaSはさまざまなプラットフォーム機能を提供するもので、Google App Engineなどがある。最上位のSaaSはアプリケーション機能を提供するもので、今回紹介するSalesforceやAdobeのクラウドサービスなどがある。
クラウドコンピューティングでは、レイヤーごとにさまざまな企業がサービスを提供しており、かつ類似した英語名称が用いられることが多いため、その本質的価値が理解されにくい傾向がある。この記事では、ソーシャル機能を全面に出したSaaSとして、セールスフォースとアドビシステムズの二つのクラウドサービスをとりあげ、その特徴をわかりやすく整理してみたい。
背景には、ソーシャル系ツールの相次ぐ買収があった
まず、この両社による発表に先立ち、ソーシャル系ツール企業が相次いで買収されたことを思い出したい。買い手となったのはセールスフォース、アドビシステムズ、オラクル、マイクロソフト、グーグルだ。彼らは、自社クラウドサービスの強化のために、わずか1年半の間に激しい買収合戦を行った。
ソーシャル系統合ツールの五大機能は、(1)ソーシャルメディアへの投稿管理 (2)ソーシャルアプリの簡易作成 (3)ソーシャルメディア広告の管理 (4)ソーシャルメディア上のクチコミ傾聴 (5)ソーシャルメディアのアクセス分析 だ。この表を見てわかる通り、セールスフォース、オラクル、グーグルの三社は、これらの機能の多くを買収によって一気に獲得した。またアドビシステムズは、自社開発機能とあわせて、これらの機能をクラウドサービスの中に統合している。
彼らの狙いは、自社のクラウドサービスをソーシャル化し、他社と異なる独自の優位性を獲得することにある。では、セールスフォースとアドビシステムズが考えるそれぞれの優位性とはなんだろうか。それを理解するためには、ソーシャル系サービス単体ではなく、クラウドサービス全体の連携に着目する必要がある。ソーシャルという木ではなく、クラウドという森をみる視点が大切なのだ。
セールスフォースとアドビシステムズ、各クラウドサービスの特性
両社のクラウドサービスを理解するために、サービスが適用される部門を考えてみよう。典型的な組織図 (クラウドと関係の深い組織のみを図式化) をもとに、両サービスのクラウドが想定している対象組織を赤色であらわしてみた。
セールスフォースのクラウドサービスは、営業部門や顧客サポート部門が活用するCRMが基本機能となっている。それをベースに、 ソーシャルメディアによる傾聴や対話、生活者行動を分析する機能が加わり、営業や顧客サポート部門のサービスにおける新たな付加価値を生み出した。また社内ソーシャルメディアや人材交流サービスで全社における情報共有や評価の仕組みも提供し、全社の生産性向上を目論んでいる。つまり、セールスフォースはソーシャルメディアを (1) 対面営業やコンタクトセンターにつぐ「顧客とのコミュニケーション・プラットフォーム」 (2) 電話やメールにつぐ「社員やパートナーとのコミュニケーション・プラットフォーム」として捉えている。そして、コミュニケーションを深めることによる価値創出を目的としたクラウドを提供しているのだ。ここに「Business is Social」の真意がある。
他方、アドビシステムズのクラウドサービスは、独占的シェアを持つクリエイティブ領域とオムニチュア買収で得たアクセス解析領域が基本機能となっている。それをベースに、 ソーシャルメディアによる傾聴や対話、生活者行動を分析する機能、さらにソーシャルアプリを簡単に作成する機能、コンテンツや広告を管理する機能を加え、デジタル・マーケティング部門における新たな付加価値を生み出した。つまり、アドビシステムズはソーシャルメディアを、オウンドメディア、ペイドメディアにつぐ「デジタル・マーケティングにおける重要なメディア」として捉えている。そして、マーケター、コンテンツ、解析、ソーシャル担当、さらにクリエイティブの緊密な連携による価値創出を目的としているのだ。ここに「Creative Cloud」と「Marketing Cloud」を統合し、さらにソーシャル化する真意がある。
そのため、セールスフォースのクラウドサービスは、高関与商材や企業向け商材を扱う企業を中心として、顧客や社員、パートナーとのコミュニケーションを深める目的に使用するのが理にかなっている。一方で、アドビシステムズのクラウドサービスは、オンライン小売業やメディアなど、デジタル・マーケティングの比率が高い企業を対象とし、トリプルメディアの効率的な活用を目的とするものだと言えるだろう。
これ以上の情報については、それぞれのサイトをご覧いただきたい。セールスフォース社のクラウドサービス詳細については こちら を、アドビシステムズ社のクラウドサービス詳細については こちら をどうそ。
なお、著者はセールスフォース社とアドビシステムズ社に米国イベントにご招待いただいています。ただし、特に両社からは記事内容の指定もなく、検閲なども通しておりません。したがって、見たとおり、感じた通りのことを書いています。念のために付記させていただきます。
by 斉藤 徹
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