人がエンターテイメントコンテンツに対価を支払って消費するその有り方は決定的に変わってきている。音楽で顕著なように、フリーで視聴可能なコンテンツが溢れる環境の中では、わざわざ対価を支払って消費するものに対して人が“意味付け”を求めるようになるのは自然なことだ。そのアーティストやその作品を、自分が消費する“意味”があること、それが重要になっている。
意味付けには、コンテンツとの密な繋がりは欠かせない。コンテンツ自体への心理的な没入や、コンテンツを作り出しているアーティストへの心理的な密着度などが消費を喚起する重要な起点となる。YouTubeやインターネットラジオ、その他違法性のあるものを含め、流れるままに視聴することが容易な中で、人がコンテンツを“消費”するという行為へ至る理由は何だろうか。
①ストーリーを通じて“のめりこむ”
「The Art of Immersion 」
フランク・ローズ氏の「のめりこませる技術」では、 コンテンツに“のめりこませる(=Immmersion)技術”の核として“ストーリー”を挙げ、様々なコンテンツの裏に存在している“ストーリー”を取り上げている。ストーリーには「仕掛けとしてのストーリー(宣伝物に書かれた謎のメッセージからメディアを横断する謎解きへと誘うといったものなど)」と、「コンテンツ自体が持つストーリー(映画“アバター”の青い肌の民族には、映画には出て来ないが背景となるストーリーが綿密に作られていたなど)」がある。前者では、謎解きに参加するといったように自らがそのコンテンツによって用意した仕組みに参加する、加わるという体験に価値が見出される。また、後者ではより深くそのコンテンツに関わっていくことで初めて背景に隠れたストーリーを発見するといった体験に価値が見出される。いずれもそれは体験であり、ユーザーはコンテンツを“所有する”ことの対価として金銭を支払うのではなく、その作品やアーティストを通じた“体験”への対価として支払う消費へシフトしていると認識しなければいけない。アーティストが提供していくのは、音源や映像といった単一のコンテンツではなく、体験へと移って行く。体験の際たるものはライブであって、ライブが好調ということは、それが体験を販売しているからに他ならない。
②アーティスト活動を“支える”
音楽ユーザーをいくつかのカテゴリーに分け、その心理をヒアリングしていくと、いわゆる“バンギャ(ヴィジュアル系バンドの熱心な女性ファン表現されることが多い)”的な属性の人に顕著に見られるのが、“支えたい”心理だ。例えば、ライブハウスに通い、無名なバンドを発見し、足しげくライブに通う事でバンドを支え、そのバンドが成長していくのを見守る、といったことに価値を見出すといった心理だが、この心理は、より多くの音楽ユーザーにとって大切なものになってきているように感じる。
誰かを支えることを通じて自己承認するといった要素だけでなく、自らがそのアーティストの“出世物語”に参加しているような体験に価値が見出されるという面もある。また、自分の消費が“誰かの活躍に結びつく”というような、 “貢献”にも近い心理が、アーティストとユーザーの関係性の中にはますます強く介在していくだろう。特にモノやサービスに溢れた時代を生きている人間にとっては、自分のために行う消費というよりも、誰かの為になる消費に価値が見出されるのも自然なことだ。こうした“貢献”にも近い関係性を具現化してくれるプラットッフォームの一つがクラウドファンディングと言える。クラウドファンディングは、ユーザーがプロジェクトを発見し、共感し、参加し、支える、といった行為を通じて、作品やアーティストを“自分ごと”にして、より没入しやすい仕組みである。
③作品を“リミックス(再創造)”する
「REMIX ハイブリッド経済で栄える文化と商業のあり方」
サイバー法の権威、ローレンスレッシグ氏は「再創造」と定義しているのが、いわゆるニコニコ動画的なマッシュアップやリミックスという行為だ。元のコンテンツの上にコメントを重ねていく(オーバーレイする)ニコニコ動画的な行為もあれば、様々なコンテンツの一部を寄せ集めて新たな作品を作っていくDJのサンプリング的な行為もある。加えて、マッシュアップやリミックスが要求するようなある種の技術を、想定しない行為、例えば “カラオケ”のようなことも再創造の一つと考えられそうだ。作品を自ら歌うこと通じて、コンテンツを“追体験”することも、ユーザー自身の没入に繋がるだろう。テレビ番組に出てくる架空のキャラクターを好むあまりに、自らがこのキャラクターを演じてTwitterアカウントを開設するといった行為も、“成り済まし”と言ってしまえばそれまでだが、ユーザーによるコンテンツの再創造の一つであり、深い没入があるからこそ発生する。
このように、コンテンツに対して深い没入を促す仕掛けが、エンターテイメントコンテンツの消費にとって不可欠なものになる。そして、こうした仕掛けを継続的に下支えていくために必要なのがコミュニティだ。コミュニティを考える上では、まずアーティストとユーザーの接点の生まれ方の変化と、コミュニティに運営自体の両面を考える必要がある。もちろんFacebookを始めとするオープンなプラットフォームも一つのコミュニティではあるが、アーティストに関するコミュニティとしてこれまで機能して来たファンクラブを一層進化させることも大切だ。これまでは、特にアーティストに対するロイヤリティの高いファンを前提として、ファンクラブは機能して来たが、より間口の広いコミュニティへと進化を迫られるだろう。コミュニティに関してはまた回を分けて考えたいと思う。
Photo : 「3」 by Carbon Arc
by 矢野 悠貴
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