お世話になっております。

ループス直人です。

 

濃厚な戦略論・ビジネス論で定評のある、ジェネシックス取締役、冨田 憲二氏(ジェネシックスブログSymsonic)より、ソーシャルサービスを語る上で重要となる3つのビジョンについて寄稿いただきました。

 

Webメディアの未来像

未来のWebを見据える上で、確実に疑いようの無い未来が2つある。

 

それは、①世界規模でスマートフォン(モバイルデバイス)からのアクセスが中心となるということ。それにより、起きる/寝る、食べる、移動する、会話をする、感動する、など②人々の日々の営みに、よりWebが寄り添うようになるということです。

 

これは、モバイル先進国日本では今までもさんざん語られた話ですが、あらためてこの”事実”をベースに自らを変革していかないと既存のWebサービスは生き残れないと思っています。Webは今後確実に、特定の時間にひとつの場所にとどまり、大きな画面でインタラクションするものから、不特定な細切れの時間にいつでもどこでも小さな画面で指先、いや五感でインタラクションするものへと大きくシフトします。これはかなり大きな人間とWebのありかたにおけるパラダイムシフトです。したがって、このパラダイムシフトの前と後で、Webのあり方は大きく変わらなければならないのは明らかですね。

 

これは見方を変えればもの凄いチャンスであり、今までのWebが培ってきた「情報を得る/コンテンツを楽しむ」「モノを買う」「コミュニケーションをする」…これらを提供してきたサービスはコンテンツ、ユーザーインターフェース、ビジネスモデル、すべてをモバイルファーストで再構築する必要があります。今までのWebの延長線上にあるモバイル最適化ではなく、モバイルベースでの利用シーン、インタラクションという全く異なるユーザーを中心にすべてを再定義する必要があるのです。

 

Webメディアの未来像 「3つのビジョン」

そんなチャンスがゴロゴロ転がっている真っ只中の今、私が特に興味があるのが「情報/コンテンツメディア」の未来像です。モバイルWebがメインストリームになるなかで、コンテンツ、ユーザーインターフェース、そしてメディアとしての評価指標とマネタイズモデルは大きな変革が必要であり、その未来の一端がおぼろげながら見え始めています。そして、既存の巨大Webメディアたちをひっくり返す大きなチャンスだとも思っています。本エントリーでは、この「Webメディアの未来像」に関して私なりに見据えているものを3つの軸で展開したいと思います。

 

1.画像(イメージ)が中心となる

スマートフォンがかなり幅広く普及し始めた今、恐らく国内ユーザーの最も滞在時間が長いサイト(アプリ)はFacebookとLINEでしょう。

 

私はどちらも頻繁に使っているユーザーでもありますが、ひとつ気づいた共通点があります。それは、Facebookでは写真をUPした方が圧倒的にリアクションが多い。そして、LINEコミュニケーションの中心はスタンプということです。これはどういうことか。細切れの時間でアクセスするFacebookやLINE、それぞれのサービスの特性としてFacebookはリアルな今の自分を伝えたい、そしてLINEは感情をより楽しく手軽に伝えたい。それぞれ送り手と受け手にとって最も効率的で都合が良いもの、それはテキストではなく写真やイラストであるということです。つまり、細かい「テキスト」よりも広義の「イメージ」の方がモバイルWebにおいては都合が良いのです。

 

イメージは一瞬でエモーショナルに伝える最強のフォーマットとも言えるでしょう。写真を中心にしたコミュニティサービスのInstagramはそんな文脈に沿ってブレイクしました。また、同様な思想を持った動画版のサービスがいくつかありますが、動画は全体像を把握するのに時間がかかり、また一覧性も悪い。短時間で人々の心を揺り動かす上では最強のフォーマットではありますが、画像に比べてしまうと決して相性が良いとは言えませんね。

 

いかに短時間で、コンパクトに情報を伝えるか

振り返って、R25はフリーペーパーという新たなビジネスモデルが注目されましたが、もう一つ重要な視座を持っていました。それは活字が苦手な若者に向けて800字以内にすべての記事をおさめているという点です。そして、それはモバイルメディアではさらに加速すると考えています。限られたスペース、限られた接触時間により最適化すること、より人々の生活に寄り添うことがグラウンドデザインのベースとなります。

 

もうひとつ、画像という側面からこのパラダイムシフトを象徴するものとすればPisterestのヒットですね。Pinterestの革新はUIの革新、ソーシャルフィードという大枠の概念からテキストを排除し、画像中心のシンプルでスタイリッシュな世界を作り上げ、それが今の時代に受けたんですね。こういった背景を受け、デバイスの中心がモバイルになるとどうなるか。文字は極力少なく、写真や画像・イラストなどのイメージでシンプルにかつエモーショナルに本質を伝える。これが未来のWebメディアにおけるコンテンツのあるべき姿だと思います。Flipboradなどは、やっぱり素晴らしいと思いますね。

 

 

2.メディアパワーの評価指標とビジネスモデルが変わる

モバイルシフトはトラフィックのあり方も大きく変えはじめています。検索エンジンの登場以来、Webの入り口において検索エンジンが圧倒的な支配力を持つようになり、ユーザーはメディアありきではなく、メディアの先にあるそれぞれのコンテンツをつまみ食い消費するようになりました。

 

 

今の変化はまだ、根本的なものではない

その傾向はソーシャルメディアの登場によってさらに加速され、現在は検索エンジンとソーシャルメディアの合わせ技によってその傾向は確固たるものとなっています。例えば本ブログでも記事によっては大量にソーシャルメディア上にシェアされたりしますが、その結果ブログに定期訪問してれるユーザーが爆発的に増えるわけではありません(この点に関しては私のブログ自体に問題があるとも言えますが…)。例外はあれど、人々はあくまで検索やソーシャルメディアを通じて細切れのコンテンツを消費しているにすぎないということです。

 

したがって、大抵のWebメディアの収益の手段はコンテンツを大量生成し、釣れるタイトルを考え、SEOやSMOによって集めたトラフィックをインプレッション、クリック、コンバージョンをベースにしたWeb広告によってマネタイズするという画一的なビジネスモデルにとどまっていると言えるでしょう。

 

 

モバイルファースト時代のビジネスモデル

モバイルファーストの時代において、この文脈が大きく変わりはじめています。先ずはご存知の通り、iOS/Androidを中心としたアプリベースのパラダイムシフトです。良くWebかアプリかの議論がありますが、私の基本的な考え方はORではなくAND。そして、どちらかというとニッチで細分化されたアプリケーション群がこれからのWebの入口の主流になると思っています。これはHTML5とネイティブアプリの技術論ではなく、デバイスのインターフェース論です。iPhoneでWebのブックマークをホーム画面においているユーザーがどれだけいるでしょうか。

 

では、アプリ主流になるとどういうことが起こるのでしょうか。よりひとつひとつのコンテンツが検索エンジンやソーシャルメディア上で消費されるのではなく、アプリケーション単位のメディアが入り口になります。Google経済圏、Facebook/Twitter経済圏から各コンテンツは脱却していくこととなり、その代わり、支配的地位を占めるようになったのがiOSで言えばAppStore経済圏、Androidで言えばGoogle Play経済圏ということになります。各メディアはプラットフォーム上のいちモジュールとして存在している以上、ここではプラットフォームの経済圏の中でうまく立ち回るという構図は残念ながら変わりません。(プラットフォームを目指す、という選択肢はあえて省略しています)

 

 

トラフィックからパッケージへ

では結局何がかわるのでしょうか?それは、コンテンツ単位の勝負ではなく、コンテンツをベースにしたアプリというパッケージの勝負になるということです。今までのメディアは細切れのコンテンツでWeb上でのトラフィック最大化を図ることで収益の最大化を図ってきました。しかし、これからは新たなプラットフォームと経済圏の中でパッケージとしての分かりやすさ&クオリティと、より深いレベルでのユーザーロイヤリティを獲得することで良質なユーザーを獲得し、課金、広告などより自由度を持ったマネタイズ方法が広がっていくと思います。例えばニッチなパッケージの良質メディアはユーザー課金、もしくはニッチなマーケットの広告ニーズによってPVにはよらない収益化が可能になるでしょう。よって、アプリの時代において重要なのがニッチ分野でNo.1になること、そしてもうひとつ大事だと思うのが次の項で論じるモバイルの特性を活かしたメディア作りです。

 

 

3.ラジオ的なメディア作り、ブランディングが重要になる

メディアはパッケージの勝負となり、よりエッジを立てた良質なメディアをそれぞれが目指すとなると、もはや「マス」という概念はあり得ません。少なくともプラットフォーム上のモジュールである限りは。

 

その代わり、地域やインタレストでセグメントされた良質なコミュニティを持つことで未来のメディアはPVに偏重することなく、本質的にユーザーに向けて良いものづくり、メディア作りができると考えています。そこでヒントになるのがラジオです。古くから、ラジオは他のメディアに比べてユーザーの生活に寄り添う形で進化してきました。いつでもどこでも好きな時に、コンテンツはより個人の趣味が反映されたものになり、パーソナリティとのインタラクションによってロイヤリティも高い。かく言う私もラジオ少年で、好きな番組には熱心にハガキを投稿して、それが読まれた時の感動は今でも忘れません。とり貯めたカセットテープは未だに実家に残っています。

 

 

未来のWebメディアは「キャッチボール」

“未来のWebメディアはモバイルアクセスが中心となる。それはよりユーザーと生活に身近な存在となり、ユーザーは日々の生活のありとあらゆる点でその文脈に沿ったメディアを思い出し、手元の端末からアクセスする。それがマスかどうかは関係無く、その場その場でユーザーの課題を解決したり有意義な時間を提供できるか否かの世界。だからメディアはラジオとリスナーとの関係のように、積極的にユーザーとキャッチボールをしながらパッケージの精度を日々上げていくことが求められる。逆にそうすることによって、今までのWebメディアとユーザーとの繋がりは、Web登場以来考えられなかったほどの深さとロイヤリティを生み出し、新たなビジネスモデルを創出する。”

 

 

終わりに

以上、基本的には「情報/コンテンツ」メディアの未来像に関してまとめてみましたが、それぞれのエッセンスは他の事業ドメインや、企業のあり方においても重要な視座を与えてくれるものだと思っています。このモバイルシフトの大きなチャンスは、あと半年から1年が本当の勝負所。2、3年後のWebメディアがどうなっているか、今から本当に楽しみです。

 

著者紹介

冨田 憲二(@tommygfx90

神泉ではたらくベビースターラーメン。スマートフォンアプリを開発する株式会社ジェネシックス(genesix, Inc.)取締役。

 

 2006年東京農工大学大学院修士課程卒(ビークルダイナミクス専攻)。2008年ECナビ(現VOYAGE GROUP)へ転職し、2010年5月にスマートフォン専門に開発を行う株式会社ジェネシックスを設立、同年同社取締役に就任、現在に至る。

 

ブログ : ジェネシックスブログSynsonic

 


by 許 直人
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