結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年2月2日 Vol.201
はじめに
おはようございます。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
早いもので、もう二月ですね!
* * *
新刊の話。
現在は必死になって「数学ガールの秘密ノート」新刊を書いています。 心づもりでは2016年1月中に第5章までは脱稿するつもりだったのですが、 第4章で意外に手間取り、2月にもつれこんでしまいました。
それはそれとして、アマゾンでは早くも予約が始まっています (カバーはまだダミーです)。
◆『数学ガールの秘密ノート/場合の数』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797387114/hyam-22/
まだ書いていないのに予約が始まっているなんて、 焦る!焦る!……ということはありません。 「数学ガールの秘密ノート」は、もう7冊目なので、 だいたいどのくらいで無事着地できるかは見えているからです。 焦ることなく淡々と(しかししっかりと)進めることが何よりも大事。
逆に「いつも通り」に収めないように意識する必要があると思っています。 気を引き締めていかなくては。 新刊を書くときにはいつも思うことですが、
「自分が生まれて初めて書く本」のつもりで書く。
という心がけを持ち続けていきたいのです。
ところで今回のテーマは「場合の数」。順列や組み合わせですね。 「場合の数」というと、公式を当てはめて計算する分野と思われがち。 でも、背後には数学の「構造」を探る面白い物語があるのです。 もちろんその全貌を描こうというわけではありませんが、 数学が持つ「構造」の一端に触れた一冊にしたいと思っています。
第4章で苦戦したときの対処については、 後ほど「苦戦からの脱出 - 本を書く心がけ」でお話しします。
* * *
ミンスキーの話。
マーヴィン・ミンスキーが88歳で亡くなったというニュースを聞きました。
近年も人工知能が話題になっていますが、 数十年前も人工知能ブームがありました。 ホフスタッターの『マインズ・アイ』やミンスキーの『心の社会』など、 人間の思考や心についての本をよく読みましたね。
◆『心の社会』(マーヴィン・ミンスキー)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4782800541/hyam-22/
Wiredには、ロボット記者が書いた訃報が掲載されました。
◆人工知能学者M・ミンスキーの訃報を、ロボット記者が書いた
http://wired.jp/2016/01/28/robot-write-obit-ai-pioneer/
人工知能というと、数十年前のときも「機械は知能を持てるか」 や「機械は感情を持てるか」などという議論がありました。 人工知能は、何をやるかが明確になると「単なる一つの技術」 のように思える傾向があります。 「こんなのは人工知能じゃなく○○にすぎない」というわけです。 人工知能という用語は、 まるで逃げ水のように人の意識をすり抜ける傾向があります。
でも、そんなことを言ってるうちに、 少しずつ人間の行う仕事を変化させている(職業を奪っている) ようですね。
ともあれ、ミンスキーは懐かしく思い出す名前の一つです。 彼の業績もさることながら、 ちょうど結城が若い時代によく書籍で見かけた名前だからでしょう。
作家の森博嗣さんは「最後に残るのは名前である」 という主旨のことをどこかに書いていたように記憶しています。
やがて、人工知能の「名前」が記憶されることになるのかな。
* * *
数式プレビューができるメモの話。
以前から、文章をざくざく書くためのエディタとして、 Draftというものを公開し、自分でも使っています。 この結城メルマガも、最初の下書きはこのエディタで書いています。
◆Draft - A Distraction Free Editor
http://draft.textfile.org/
ちなみにソースコードは(上記Webページのソースを見ればいいのですが)、 以下で公開しています。
◆Draft - A Distraction Free Editor (GitHub)
https://github.com/hyuki0000/draft
あるときふと「これにMathJaxを入れたら、数式プレビューができるな」 と思い、さくさくと作ってみることにしました。 それが以下のページです(そのうち削除するかもしれません)。
◆Draft/Math
http://draft.textfile.org/math/
テキストエリアに入力された文字列を、 JavaScriptを使って動的に表示しているだけですが、 MathJaxを再度走らせて数式のレンダリングをしなければなりません。 その方法は、MathJaxの公式ページに書いてありましたので、 これを読んで作りました。
◆Modifying Math on the Page
http://docs.mathjax.org/en/latest/advanced/typeset.html
実際に動かすと、以下のような感じで表示されます。 右側の数式はブラウザ上にリアルタイムで表示されています。
うむ。できたできた……でも、あれ?
結城がWeb連載「数学ガールの秘密ノート」を書くときには、 素のLaTeXではなくて、自分用にカスタマイズした書式を使っています。 ですから、このDraft/Mathで書くためには機能が足りない。 それに実のところ、結城はリアルタイムでプレビューして書く習慣はないのでした。
じゃ、何でDraft/Mathを作ろうとしたかというと…… いや、ただ、やってみたかったから! (仕事からの逃避ともいいます)
Draft/Mathで入力したテキストは、使っているブラウザ上で自動的に保存されています (localStorageを使用)。 間隔は三秒です。ネットの外にテキストを送信しているわけではありません。 またブラウザを急に閉じても、再度ブラウザでこのページに来れば、 同じテキストが表示されます。 LaTeXのプレビューは5秒に一回機械的に更新するので、ちらちらします。
ご興味がある方は遊んでみてくださいね。
◆Draft/Math
http://draft.textfile.org/math/
* * *
確定申告の話。
春に向けての仕事は新刊だけではありません。 個人事業主として確定申告をしなくてはいけません。
毎月いちおう整理していたはずなのですが、 いざ集計しようとするといろいろズレを発見したり、 書類が見つからなかったり、毎年やっているはずなのに、 やはり今年もどたばたです。
確定申告の準備とともに、 ファイルした書類の中に混じっている不要物を廃棄していました。 金融機関やカード会社から送られてくる封書では、 非常に大事なものと、まったく不要な広告が混じってきます。 あれ、やっかいですね。
大事な書類はまとめ、広告は紙ゴミにすればいいだけですが、 広告の中には個人情報が印刷されているものがあるから油断ができません (たとえば、保険の新規申込書に自分の住所氏名が印刷されているようなもの)。 個人情報が印刷されているものはシュレッダーに掛けなくては。
結城が使っているシュレッダーは2014年に購入したこれです。
◆コクヨ パーソナル シュレッダー
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B001MSQWJ2/hyam-22/
音は気にならず、ゴミも捨てやすいので、 ちょっと大きめですが愛用しています。 机の下において使っています。
確定申告自体は面倒なものですが、 一年間の自分の活動を振り返るには絶好の機会です。 後ほど「2015年の振り返り - 仕事の心がけ」で軽く仕事の振り返りをします。
* * *
堀口さんの話。
堀口智之さん(@imakarasuugaku)は、 大人のための数学教室「和」(なごみ)を開いていらっしゃる方で、 現在「和から」という会社を経営しておられます。
◆大人のための数学教室 和(なごみ)
http://imakarasuugaku.com
「和から」(わから)というのは不思議なネーミングだと思うのですが、 堀口さんによれば「和はいろんなものの基本である」ことと、 「わからない」というところからも学びを始められるという意味合いで、 このような名前にしたとのことです。
◆「和から」(わから)
http://wakara.co.jp
堀口さんとは三年前に一度お会いしたことがあり、 つい先日もお誘いいただいて楽しい会食のひとときを持ちました。
社会人になっても数学(というか算数)から、 わからない人はたくさんいらっしゃいます。 あるいはまた、基本はわかっているけれど、 もっと難しい数学を学びたいという方もいるでしょう。 さらには、仕事で数学・統計が必要になってきたから学びたいという方も。 そのような方々に学びの場を提供し、事業にしていらっしゃるのは、 たいへん有意義なことだと思います。
* * *
人に対してあれこれ言いたくなるときの話。
以下は、結城がふだんから思っていることですが、 誰かのことを想定して書いているわけではなく、 あくまで一般論です。
他者の行動に対して批判的なことを言いたくなるのは誰にでもあることです。
「あなたは、何でまた、そんなとんでもないことをするの?」
と言いたくなる状況のことです。
少なくとも自分の常識では考えられないような行動をする人、 まったく想像のつかないような理由を行動基準にしている人、 あるいは自分が何回命じても(お願いしても)その行動をとってくれない人。
結城も、以前会社に勤めていた頃、 上に述べたような思いにかられることが多くありました。
「なんであの人は、ああいうことするかなあ……」
・ちょっと考えれば、無駄だってわかるだろうに。
・失敗することが目に見えているじゃないか。
・こないだも同じ注意をしたよね。
頻繁に、そういう気持ちになったものです。
でも、最近は違う見方をするようになりました。
不思議で不可解で理不尽だとしても、
それはあくまで「わたしにとって」の話である。
もしかしたら「当人にとって」は合理的なのかも。
という見方です。別の言い方をするなら、
何度言っても行動が変わらないなら、
この人にはそうするだけの十分な理由がある。
(それを当人が意識しているかはさておき)
(それを当人がよしとしているかもさておき)
ということです。
そして「理不尽な行動を取る理由」というのは、 当人にとってはある意味「命がけ」である場合も。 命がけが大げさだとしても、自分のすべてのプライドや存在理由が、 そのなにげない行動に掛かっている場合もありうる。
なので、他の人の行動にあれこれ口を出すとき (口を出したくなるとき)には、 十分な注意が必要だな、と思うようにしています。
「自分は絶対に正しい」と思ったときは特に注意。 自分は正しいという意識が、行動の強さに現れ、 その強さによって他者を深く傷つける可能性があるからです。
正しいと思うときほど、慎重に。
* * *
それでは、今週の結城メルマガを始めましょう。
どうぞ、ごゆっくりお読みください。
目次
- はじめに
- 苦戦からの脱出 - 本を書く心がけ
- 2015年の振り返り - 仕事の心がけ
- 思考力を訓練する方法は? - Q&A
- おわりに
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