結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2013年7月23日 Vol.069
はじめに - 自分のなすべき仕事とは
おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
ふだん私は「いつもと同じこと」をするのが好きです。 正確に決まった時間に起き、曜日ごとに決まった仕事をこなし、 決まった時間に眠る。そういう毎日が大好きです。
でも、そういう日が続くと私の中の何かがうごめいてきて、 それをゆさぶりはじめるようです。 いつもと違うことがしたくなる。 何か新しいことを始めたくなる。 きっと何かが私の中のバランスをとろうとしているのでしょう。
うわ! まさにいま、Macがクラッシュしました。 いやほんとに。冗談抜きで。 ゆさぶられた!
……こほん。取り乱して失礼しました。話を続けます。
フリーで仕事をしていると、自分で自分をゆさぶることができないと、 どうしてもジリ貧になってしまいます。いつの間にか自分の可能性や 自分の仕事をこぢんまりとまとめてしまいがちなのですね。
なので、そういう「ゆさぶり」が自分の内部に起こり始めたときには 積極的にそれに乗るようにしています。 多少失敗したり、無駄な時間を過ごしてもいいや。 「いったい何が始まるのだろう」 という思いでわくわくするほうを選ぼう。
考えてみますと、これまでの私の学びや仕事ではそういうことがよくありました。 プログラミングを学び始めるときでも、 コンピュータの雑誌に原稿を書き始めたときでも、 本を書き始めたときでも、いつもと違う何かがうごめき、私をゆさぶる。 そのゆさぶりにのっかって新しいことを始めたのかもしれません。
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あなたは心理学者の河合隼雄さんをご存じですか。 結城は河合さんの本を以前よく読んでいました。 ここしばらくは読んでいなかったのですが、 先日ふと『こころの最終講義』という文庫本を見かけて読みました。
それを読みながら、最近私がもやもやっと考えていたことに ぴったりするものを感じました。
あ、といってもこの本に書かれている内容が直接のヒントになった というわけではないのです。ですから本の内容をここで詳しくは繰り返しません。
私はここ数年「物語」について考えています。 実際「数学ガール」シリーズは「数学物語」ということになっていますから、 私はお仕事として読者さんに一つの物語を提示しているわけです。
私はさらに深く「物語」を書きたいという思いをずっと抱き続けています。 それがどんなものなのかは、 私自身にもまだわかっていないのですけれど。
でですね、河合隼雄さんの『こころの最終講義』を読み進めていくと、 「物語」について書かれているわけです。 以前、河合さんの何かの本を読んだとき、 「ああ、この人は物語について深く考えているんだな」 と思いました。でも今回読み始めたときはそのことをすっかり忘れていたのです。
何を言いたいかというと、自分が「物語」について考えているときに ふと手に取った本が「物語」についての本であるという、 その不思議さについて思うところがあったからなのです。
偶然と呼んでもいいですし、神の導きと呼んでもいいですが、 そのようなタイミングのよい出会いというものは意外にあるものです。 そしてまたこの『こころの最終講義』の中にはそういうタイミングのよい 出会いについて書かれているという。それもまた不思議なことです。
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ぜんぜん別の話です。
結城は、IT技術者向けにプログラミングの問題を出すサイトCodeIQに出題しています。 『数学ガールの秘密ノート/式とグラフ』の脱稿のあたりから間隔が開いて しまったのですが、先日(7/22)にようやく新作問題を公開することができました。
今回は「ディーペスト問題 - 星間飛行ルートを作ろう!」と題した問題です。 キュラゲ銀河政府に雇われたプログラマという設定のもと、 ある星からべつの星へ飛行するためのルートを作成しましょうという問題を作りました。
今回の問題の最大の特徴は「必要な情報一式は与えられない」というものです。 必要な情報はまとめて与えられるのではなく、 Web APIを使って少しずつ得ることができるようになっています。 つまりこの問題への挑戦者は、問題を解くために必要な情報を、 Web API経由でWebサービスから得つつ進まなくてはいけないのです。
情報を提供する側のWebサービスは、もちろん出題者である結城が作成しました。 このような状況では、非常に興味深いことが起きます。 それは、結城はいわば舞台裏から「挑戦者(の書いたプログラム)がどのような 情報をWebサービスにもらいに来ているか」をのぞき見ることができるという点です。 挑戦者の書いたプログラムが粛々とWebサービスにアクセスする様子を眺めながら、 挑戦者の組んだアルゴリズムを想像して楽しんでいます。
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またまた別の話。 刊行されたばかりの『数学ガールの秘密ノート/式とグラフ』には、 たくさんの方から感想メールをいただいています。 自分の子供のため、また親戚の子供のために買いましたというメールもその中に何通かありました。 学校で習う数学を違う角度からながめたり、学ぶことの楽しさや意味に気付いたりしてほしい という願いを込めて…とのことだそうです。著者としてとてもうれしいメールです!
また先日、無料プレゼント用の書籍を七冊、当選者に送付しました。 こういう作業は意外に時間がかかるのですけれど、 あまり苦にはなりません。なんといいますか、 新しい本が出たときの祝祭的なイベントの一つという感じがするからでしょうか。
新刊刊行直後に書店に行くと、当然ながら 自著が売られているかどうかすばやくチェックします。 先日行った書店さんでは「数学一般書」の棚と「学習参考書」の棚が 離れておりました。結城の本は「数学一般書」に平積みになっていたのですが、 読者さんとなる生徒さんは「学習参考書」の方にたくさんいました。 思わず平積みになった本の一部を「学習参考書」の方に移動したくなりましたよ!
いずれにしても、新刊刊行直後のあれこれを十全に楽しみつつ、過ごす毎日は感謝ですね。
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先週の結城メルマガでWindowsからMacBookに執筆環境を移した話を書きました。 それに対してたくさんの方から反響のお便りをいただきました。 結城と同じようにWindowsからMacBookに環境を移した方、 移そうとしている方は意外にいらっしゃるものなのですね。
先週は、MacBookに「プログラミングに便利なフォントInconsolata」をインストールしました。 たいへん美しく、またTwitterでどなたかがおっしゃっていましたが、 涼しげなデザインのフォントです。年を取るとどうしても目が弱くなって、 細かい字や識別しにくい文字は疲れを増すのですよね。しばらくInconsolataを試してみます。
◆Inconsolata
http://www.levien.com/type/myfonts/inconsolata.html
Macといえば先週、TimeMachine(タイムマシン)を初体験しました。 TimeMachineというのはMacのバックアップソフトウェアで、 非常にすぐれたユーザインタフェースを持っています。 バックアップソフトウェアですから、保存しておいた過去の時点でのファイルを 探したり取り出したりしたいわけです。そのときにまさに「タイムマシン」で 過去にさかのぼるようなアニメーションとフォルダ表示が行われるのです。
話にはちらちら聞いていたのですが、 自分がそれを実際に使うとまったく違う感動がありますね。 ものの見せ方はほんとうに大事なものだと思います。
◆TimeMachine
http://www.apple.com/jp/findouthow/mac/#timemachinebasics
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ちょっとまじめな話。
最近、年齢についてよく考えます。 特に加齢に伴ってさまざまな能力が落ちていくことについて考えます。 そういえばついさっきも「目が弱くなった」という話をしましたね。
たとえばCodeIQのプログラムを夜の九時に書き始めるとしますよね。 そうするともうだめなんです。頭が回らない。 考えようとしてもぐるぐると同じところを回るばかり。 プログラムよりも前に自分自身が無限ループに入ってしまいます。
仕方なくその晩は眠る。 そして次の日に起きる。朝の九時に書き始めるとまったく効率が違う。 きちんと考えることができる。前の晩がっかりしたことも吹き飛んで、
「いやあ、プログラミングは楽しいな」
などとうそぶく。
でもね。20代30代だったら、夜の九時でも朝の九時でも同じように さくさくプログラミングできたなあ、とも思うんですよ。
年齢を重ねるごとに能力が落ちるのはしょうがないけれど、 そういう自分と、どのようにつきあっていけばいいのか。 思いをめぐらせることが多くなってきました。
すごく高い視点に立って言い換えると、 それは、
私のすべき仕事って何だろう?
という問いかけともいえますね。 年を取って若い時代ほどたくさんの仕事ができないとしたなら、
自分はどの仕事をすべきなのか?
を考える必要がある。選ぶ必要がある。見極める必要がある。 そして、さらにさらに高い視点に立つならそれは、
私って何だろう?
という問いかけでもあります。アイデンティティというか。
考えてみますと、アイデンティティで悩むのは若者の特徴でもあります。 ということは私もまだまだ若いのかな。
ふだん私は「いつもと同じこと」をするのが好きです。 正確に決まった時間に起き、曜日ごとに決まった仕事をこなし、 決まった時間に眠る。そういう毎日が大好きです。 でも、新しい何かにチャレンジするのも大好きなんです!
といったところで、長い前書きは終わりにして、 メルマガを始めましょう!
目次
- はじめに - 自分のなすべき仕事とは
- 教えるときの心がけ - 難易度調整
- 再発見の発想法 - Interface(インタフェース)
- 次回予告 - フロー・ライティング
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