結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2013年7月9日 Vol.067

はじめに - 数学ガール、入試に登場

おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読いただきありがとうございます。

「マシンが壊れた!」という話題がここ数週間続きましたが、 さすがに今週はマシンは壊れませんでした。 というか、ThinkPadが修理を終えて帰ってきました。 よかった。

「PCが壊れる」のような出来事は確かにショックなんですが、 毎週メルマガを書いている身にしてみれば、

 「お、これは話のネタになるかな」

という気持ちになるのもまた真実です。 文章書きのさがでしょうか。

ThinkPadというWindowsマシンが修理に旅立っている間、 AppleのMacBook Air 13インチを使って仕事を続けていました。 最初のうちは、タイプするときにキーの端に指がちょっとひっかかる感じがして たいへん不愉快でした。一日のかなりの時間をタイプして過ごしますので、 ほんの少しの不具合が気にかかるのです。 ちょうど、靴の中に小さな石が入っているようなもので、 それがどれほど小さかろうと、気になって仕方がありません。

でも、結城メルマガに書籍原稿にWeb連載にと、 たくさんの文章をMacBook Airのキーボードで書いているうちに、 手が次第になじんできました。 具体的には、それぞれのキーの中心を指がしっかり打つようになり、 キーの端でのひっかかりが少なくなってきたのです。

以前2011年にMacBook Air 11インチに乗り換えようとしたときには、 このような境地まで至ることはありませんでした。 もしかしたらこのままWindowsじゃなくてMacに乗り換えたままで いられるかもしれない、と初めて思いました。

たかがキーボード、されどキーボードです。

そして驚いたことが一つ。 修理が終わって戻ってきたThinkPadのキーボードが打ちにくく感じるように なってしまったのです(!)。 ついこの間まで「ThinkPadのキーボードはいいけど、 MacBook Airのキーボードは打ちにくい」と真剣に思っていたのに。 単に慣れの問題ということですね。

 * * *

別の話題。

Macという新しい環境が楽しくていろんなことを試しています。 Macには音声認識の機能がデフォルトで組み込まれており、 その機能をONにしておくと、テキストを入力できるところではどこでも 音声を使って文章を入力することができます。

マシンに向かって話しかけるだけで漢字まじりの文章にしてくれます。 この認識率がけっこう良いんですよ。「おっ」と驚くほどです。 以下にいくつか例を示しますね。 手でまったく修正をせずにこのくらいの認識ができます。 (ひらがな部分を音声で入力していると思ってください)

例1:この変換ではまったくミスをしていません。

 このついいとはおんせいにんしききのうをつかってにゅうりょくしていますまる
 ↓
 このツイートは音声認識機能を使って入力しています。

例2:この変換では一カ所だけ「Pages」を「エイジス」と間違っています。

 さきほどぺいじずをつかってじっけんしていたのですがてん
 おんせいにんしききのうはたいへんすばらしいですまる
 にんしきりつがとてもたかいですまる
 ↓
 先ほどエイジスを使って実験していたのですが、
 音声認識機能は大変すばらしいです。
 認識率がとても高いです。

例3:この変換では「原稿を書く」を「、降格」と間違っています。

 もしかしたらたいぷにゅうりょくをまったくしなくても
 まっくにむかってはなしかけるだけでてん
 げんこうをかくことができるのではないでしょうかまる。
 ↓
 もしかしたらタイプ入力を全くしなくても
 マックに向かって話しかけるだけで、
 、降格ことができるのではないでしょうか。

このように、けっこう認識率が高いので、 これを使えば夢の「口述筆記で原稿を書く」が実現できるかもしれません。

ただ問題が二つほどあります。 まず一つの問題は、私のように外のカフェで原稿を書いている場合には マイクに向かっておしゃべりすることが難しいということ。

もう一つの問題は、自分が無言でタイプすることに慣れてしまっているので、 「声を出しながら考える」というのが意外に難しいということ。 声を出しているとなんだか妙にせかされている気持ちになり、 文章をしっかり考えることができないのです。

ただ、二つ目の問題は単に慣れの問題なのかもしれません。 ちょうどThinkPadからMacBook Airのキーボードに移った直後には キーボードが打ちにくいと思ったのと同じように、 「口述する」という入力方法に慣れれば、考えつつ自然に話せるのかもしれません。

以前、早稲田大学の理工展で結城が「タイピングで講演をする」という企画を やったことがあるのですが、あの企画は音声認識機能を使えばもう少し楽に実現できたかも しれませんね。

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別の話題。

先日、書籍をスキャンしてPDFに変換してくれるサービスを行っている BOOKSCAN(ブックスキャン)さんからインタビューを受けました。

 ◆BOOKSCAN
 http://www.bookscan.co.jp

数学ガールの新シリーズのこと、本を書くこと、本を読むこと、 子供時代の読書について、電子書籍についてなど、楽しくおしゃべりしました。 今週のどこかでBOOKSCANのWebサイトで公開されると思います。

インタビューを受けたとき、インタビューアさんに「どうして私に?」とお聞きしました。 なぜかというと、 http://www.bookscan.co.jp を見るとわかるんですが、 たいへん有名な方が多くインタビューを受けていたからです。 たとえばノーベル物理学賞を受賞した益川先生とか!

インタビューアさんの話によりますと、 BOOKSCANのユーザさんから「結城浩さんにインタビューして欲しい」 という要望が多かったのだそうです。要望を出してくださったみなさんに感謝です!

インタビュー記事が公開されましたら、 またTwitterなどでアナウンスしますので、ぜひお読みくださいね!

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別の話題。

先日、ある受験参考書の出版社から「数学ガールが入試に登場しました」という メールが入りました。

それによれば「2013年度、長崎大学教育学部の推薦入試問題(小論文向け出題) の一部として拙著「数学ガール」からの引用が使われている」とのことです。

なぜそれで出版社から連絡が来るかといいますと、著作権の問題があるからです。 入試問題はその性質上、著作権者に無断で著作物を使用することができます。 でも、その入試問題を収録する参考書や問題集を出版社が出す場合には、 著作権者の許諾が必要になります。 なので、この入試問題を収録しようと考えた出版社さんから、 結城のところに連絡がきたというわけです。

これまでにも何回か拙著の文章が入試問題などに使われたことがあり、 同様の連絡がやってきました。 現在のところ結城は(手続きがめんどうなのがいやなので)すべての 出版社に対して「どうぞご自由に出版してください」と返信しています。 でないといちいち契約書を交わしたりしなければならないからです。

それにしても、自分の文章が入試問題で使われるというのはたいへん光栄な ことで、うれしくなります。だって、入試問題というのはある意味その大学の 「顔」になるわけですからね。 入試問題を作っている先生が、結城の文章を選んでくださった。 これを光栄と言わずになんといえばよいでしょう。

しかも今回、 『数学ガール』からの引用は、あの有名な『ご冗談でしょう、ファインマンさん』 などの引用と並べて出題されました。

問題文は 「(これらの文章が)共通して主張していることを簡潔に論じて下さい」 というものです。名エッセイと並べられるなんて感動です!

以前、2011年度の佐賀大学医学部入試に 『数学ガール』からの引用が使われたことがあります。 そのときの佐賀大学の問題では饒舌才媛「ミルカさん」が登場していました。 今回の長崎大学入試では元気少女「テトラちゃん」が登場していましたね。 ということは(出題年度がもし等差数列になるならば)2015年度に どこかで「ユーリ」が登場することになるのでしょうか(!)

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さて、今回の結城メルマガです。 今回のメインコンテンツは「フロー・ライティング」です。 どうぞお楽しみください!

目次

  • はじめに - 数学ガール、入試に登場
  • フロー・ライティング - 書けない自分と付き合って
  • Q&A - チームリーダーになったけど
  • 次回予告 - 新書向け新企画