結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2019年3月19日 Vol.364
目次
- 反対されると怒る人にどう対処するか - 仕事の心がけ
- 「時間を区切る」作戦 - 仕事の心がけ
- 結果を出した人がそばにいると、自分がだめなやつに思えてくる
- 理解できないことに出会ったときがチャンス - 学ぶときの心がけ
はじめに
結城浩です。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
* * *
セールです!
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「数学ガール」や「数学ガールの秘密ノート」という両シリーズだけが対象ではありません。
今年の1月に刊行されたばかりの『C言語プログラミングレッスン入門編 第3版』や、昨年刊行の『プログラマの数学 第2版』も対象になっています。
もちろん『暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス』や『Java言語で学ぶデザインパターン入門』なども対象です。
対象書籍はぜんぶで26冊。以下にリンクをまとめてありますので、ぜひこの機会をご利用下さい。
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今回のセールはSBクリエイティブの本が対象になっていますので、筑摩書房の『数学文章作法』は対象外です。
Kindleのハードウェアを持たなくても、PC、スマートフォン、タブレットにKindleアプリをインストールすれば読むことができます。
なお、あわてて購入せず、無料サンプル版で使い勝手を確かめてからご購入することを強くお勧めします。
今回のセールは2019年3月21日(木)まで。
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レビューア募集の話。
結城は現在「数学ガールの秘密ノート」シリーズの第11冊目、
『数学ガールの秘密ノート/ビットとバイナリー』
という本を執筆中です。先週はレビューアさん募集の〆切と選考がありました。
◆(応募終了)レビューア募集『数学ガールの秘密ノート/ビットとバイナリー』
https://math.hyuki.net/20190301120025/
前回2018年にも同様の募集を行ったのですが、そのときには、
応募総数43名(そのうち4名に依頼)
という状況でした。今回2019年では最終的に、
応募総数42名(そのうち4名に依頼)
という結果となりました。不思議なくらいぴったり数が揃っていますね!
ところで、結城は毎回レビューアさんに原稿を送って見てもらうという「オンラインレビュー」を行っています。最初に行ったのは1998年のことですから、もう20年以上前になりますね(ここで遠い目をする)。
それほど昔からオンラインレビューを行っているのですが、毎回ある種の「緊張感」があります。それはオンラインレビューをするとアナウンスすることで「自分一人のことではない」という感覚があるからだと思います。
本を書くというのは基本的には一人の作業です。言葉を並べている途中は自分一人で作業を進めています。もちろん《読者のことを考える》という原則を守りつつ進むように心がけています。しかし、オンラインレビューをしますよとアナウンスし、メールでレビュー依頼を出し始めると「自分一人のことではない」という実感が湧くのです。リアルな読者を意識するとでもいうのでしょうか。
読者さんがいるのだから、恥ずかしい原稿は書けない。読者さんがいるのだから、しっかり作ろう。読者さんがいるのだから……そのように読者を意識することがよい緊張感を生むのです。
そしてそれはもちろん、執筆活動にはかりしれないほどいい影響を与えます。
言い換えるならば、レビューアさんというリアルな読者さんの存在は、レビューが始まる前から結城の執筆にとっていい影響を与えていることになりますね!
オンラインレビューについては『数学文章作法 推敲編』で詳しく書きました。
◆数学文章作法
https://www.hyuki.com/mw/
また、以下のページでも情報を公開しています。もし未読なら、ぜひごらんください。
◆書籍執筆とオンラインレビュー
http://www.hyuki.com/writing/writing4.html
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現代の必読書『ファクトフルネス』の話。
『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』という本があります。この本はとてもいいです。読みやすく、わかりやすく、驚きに満ちていて、しかも役に立ちます。ニュースの見方や、世界の見方ががらりと変わります。ぜひお読みください。
◆『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B07LG7TG5N/hyuki-22/
この本には人間の「10の思い込み」が「本能」として挙げられています。以下、その10個を列挙します(表現は『ファクトフルネス』の目次から)。
- 分断本能:「世界は分断されている」という思い込み
- ネガティブ本能:「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み
- 直線本能:「世界の人口はひたすら増え続ける」という思い込み
- 恐怖本能:危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう思い込み
- 過大視本能:「目の前の数字がいちばん重要だ」という思い込み
- パターン化本能:「ひとつの例がすべてに当てはまる」という思い込み
- 宿命本能:「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込み
- 単純化本能:「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み
- 犯人捜し本能:「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込み
- 焦り本能:「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み
この10個を眺めているだけでおもしろそうだと思いませんか。ところがこの本、この10個から想像できる内容よりもずっとおもしろいのです!
おもしろいのは、ここに挙げた思い込みは相互に関連していること。たとえば「ネガティブ本能」や「恐怖本能」を読みながら「そういえば、ネガティブなことばかりいうマスコミはこういうところを煽ってるよなあ。マスコミは悪い」と私は思います。でも読み進めて「犯人捜し本能」まで来てハッと気がつきます。
「マスコミが悪い」と思うのは、まさにこの「犯人捜し本能」じゃないか! 「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込み。まさに自分はそれにはまっているではありませんか。
各章を読みながら、私は自分用にメモを取っていきました。自分がはまりやすいパターンがありそうだからです(表現は一部『ファクトフルネス』の本文から)。
分断本能に対して。「分断」を見かけたら「分布」を調べよう。二項対立を見かけたら「世界にはその二つしかないのかな」と調べる。
ネガティブ本能に対して。「ネガティブなニュース」を見かけたら「悪いニュースの方が広まりやすい」ことを思い出そう。悪いニュースが増えても、悪い出来事が増えたとは限らないから。
直線本能に対して。「なんでもかんでも、直線のグラフをあてはめないように」。この「直線本能」はまた「分断本能」や「ネガティブ本能」とも密接に絡んでいますね。
恐怖本能に対して。恐ろしいものには自然と目がいくが、恐怖と危険とは違うことを自覚しよう。
パターン化本能に対して。数字がたったひとつ出てきたときには警戒。別の数字と比べたり、割合を求めたりすること。また、ひとつの例で全体が説明されていたら警戒。他の例はないかを探そう。間違ったパターン化をしていないか気をつけよう。
宿命本能に対して。「〇〇は昔からこうだったし、これからもずっとこうだ」という主張を見たら警戒しよう。もしかしたら、小さな進歩や変化に気づいていないだけではないのか。賞味期限が切れたデータに基づいている主張ではないのか。
単純化本能に対して。一つの視点だけで世界のすべてを説明していたら警戒しよう。もしかしたら、何でもトンカチで叩こうとしているだけかもしれない。
犯人捜し本能に対して。「あいつのせいだ」と言いたくなったときには注意。世界はもっと複雑だ。犯人探しよりも原因探しをしよう。
焦り本能に対して。「いますぐ決めなくてはいけない!この問題は緊急を要するんだから!」というのを見たら、まず深呼吸しよう。焦り本能が顔を出すと、大事な問題なのに冷静な分析ができなくなる。第10章冒頭の道路封鎖の話は心打たれた。「緊急を要するのだから早く対処しなければ」という焦り本能が、人の命を奪うことだってあるという実話である。
ここに書いたメモではとうてい語れないおもしろさがいっぱいの本ですので、ぜひ読みましょう。
◆『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B07LG7TG5N/hyuki-22/
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それでは今回の結城メルマガも、どうぞごゆっくりお読みください。
反対されると怒る人にどう対処するか - 仕事の心がけ
質問
私は立場上、誰かと議論することが多いです。
議論相手の中に「反対意見を言われると怒る人」がいます。反対意見の内容が気に入らないというよりも、批判・指摘されること自体が気に入らないようです。
私はこういう人と、組織の利益を考えて議論する方法がわかりません。その人は「組織をより良くすること」よりも「自分の主張を通すこと」を大切にしているからです。
結城さんから何かアドバイスをいただけませんでしょうか。
回答
ご質問ありがとうございます。
「反対意見を言われると怒る人」というのはどのような組織にもいると思います。あなたの質問を読んだ人は「いるいる、そういう人」と頷くんじゃないでしょうか。
建設的な議論というのは、双方が参加しないと成り立ちません。そして「怒り出す」というのは論理的な議論に参加することを放棄しています。ですから「反対意見を言われると怒る人」が変わらない限り、建設的な議論は無理です。
以上です。
……で、終わってもしょうがないのでもう少し書きます。
一つ考えられる道があります。それは、怒る人とあなたの一対一の問題にするのではなく、組織の問題にするという道です。組織の利益をアップし、組織をよくしようというのは、怒る人やあなたの個人的な問題ではなく、組織の問題ですよね。
具体的には(それがあなたの状況で実現可能かどうかはわかりませんが)、組織の利益を考えて議論する「場」を、他の人たちの前や、組織の長のような人がいる所に設けることです。そうすれば、あなたの方に理があり、怒り出す方に理がないというメッセージを組織全体に伝えることはできそうです。
「反対意見を言われると怒る人」の態度を、あなたの行動で変えようとしても基本的には無理です。怒り出すか否かというのは、その人が内面に抱えている問題であって、あなたの問題ではないからです。
「反対意見を言われると怒る人」と議論することの問題点は、その人をなだめるため(怒り出さないようにするため)に議論の方向が曲がったり、肝心の内容以外のところにエネルギーが使われる点にあります。
たとえていうならば、スーパーで買い物をしているときに「お菓子を買ってくれなきゃ、ここを動かない!」という駄々っ子と同じです。困らせることで自分の意見を通そうとしている駄々っ子です。怒り出す人は「自分の考えを守るために怒る」という振る舞いをしている「駄々っ子」だと思って対処するしかありません。
ただし、怒り出す人の主張の正しさと、怒り出すという態度とは無関係であることは忘れないようにしなければいけません。怒り出す人の意見がすべて間違っているとは限りません。主張の内容的な正しさと、怒り出すこととは独立した概念です。
もっとも、その場合にこそ、怒り出す態度は問題なのですけれどね。組織の利益をアップさせる良い意見を持っていたとしても、怒り出すという態度によって正しさが伝わりにくくなってしまうからです。
ここまで「反対意見に怒り出す人はどうしようもない」というトーンで回答してきました。ただ、少し気になるところがあります。その怒る人は、反対意見を言われると「相手が誰であっても」怒り出すのでしょうか。それとも「相手があなたのときだけ」でしょうか。ちょっとそれは気に留めておいてください。
ご質問ありがとうございました。
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