結城浩の「コミュニケーションの心がけ」

Vol.336 結城浩/パクツイ/四年学んだけれど/生徒が数学を楽しめる授業/仕事のオファー/シリーズものを書く/

2018/09/04 07:00 投稿

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Vol.336 結城浩/パクツイ/四年学んだけれど/生徒が数学を楽しめる授業/仕事のオファー/シリーズものを書く/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年9月4日 Vol.336


はじめに

結城浩です。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

もう九月ですね!

今年は特に夏休みらしい夏休みは取らなかったのですが、七月に夫婦二人で二泊の避暑に出かけました。

今回のテーマは「滞在中、お互いに好きなことをする」というもの。私は避暑地で『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』の原稿を書き、彼女は近くの庭園めぐりをしていました。

朝早く起きて、宿泊地のまわりを二人で一緒に散歩し、温泉に入ってから朝食をゆっくり食べ、それぞれのアクティビティに分かれる。夕方になったら合流して食事しながら互いの活動を報告し合うという二日間。短いけれど、とても充実した休日でしたね。

あなたの夏はいかがでしたか。

* * *

炭水化物と心の安定の話。

「炭水化物を控え目にする」というのは体重増加を抑えるのに確かに効果があるようです(個人の感想です)。でも、炭水化物を控え過ぎると、物事を否定的にとらえたり、状況を悪い方に考えやすくなる効果も高いようです(これも、個人の感想です)。

ありていに言うと、一日のあいだ、ごはんをまったく食べないとやや危険な感じになります。ほんのちょっとでもいいからごはんやパンを食べるとぜんぜん気持ちが違いますね。

* * *

そんなところで、今回の結城メルマガも、どうぞごゆっくりお読みください。


目次

  • いわゆる「パクツイ」の話
  • 情報工学を四年学んだけれど、何も残せていない
  • 生徒が数学を楽しめる授業とは - 教えるときの心がけ
  • どんな仕事を受け、どんな仕事を断るか - 仕事の心がけ
  • 「シリーズもの」を書く難しさ - 本を書く心がけ

いわゆる「パクツイ」の話

「パクツイ」というのは「人のツイートをパクって(盗んで)自分のものとして行ったツイート」のことです。

「これはおもしろい!」という内容のおもしろツイートを見かけたときには、自分でリツイートする前に「パクツイ」の可能性を疑うのはネットリテラシーの観点から大事なことです。自分でリツイートしてしまうと「パクツイ」が広まることに加担してしまうことになるからです。

「しょせんTwitterなのだから、パクツイだろうが何だろうが、楽しければいいではないか」という考えの人もいますし、それは個人の自由です。結城が「パクツイ」のリツイートを避けたいと思う理由の一つは「自分のネットリテラシーの低さ」を宣伝してしまうことになるからです。「ニュースソースを確認せずにリツイートする人なのね」と思われたくないということです。

結城も、Twitterを楽しんでいて「パクツイ」をうっかりリツイートすることがあります。そんなとき、親切なフォロワーさんから「結城さん、さっきのはパクツイですよ」と教えていただくことがあります。これはほんとにありがたいですね。

おもしろツイートをリツイートする前には、そのツイートに「パクツイを指摘するリプライ」が付いていないかどうかを確認します。また、そのおもしろツイートを投稿しているアカウントが他のユーザからどんな「リスト」に入れられているかも確認します。有名なパクツイアカウントは、多くの人から「パクツイ」という意味のリストに入れられているからです。

Twitterで、そのアカウントがどんなリストに入れられているかの確認は簡単です。iPhoneの場合で図解します。

 (1)あやしいアカウントの「歯車」をタップ。
 (2)「リストを表示」をタップ。
 (3)「追加されている」をタップすると、他のユーザからこの人がどう見られているかを調べる。
 (4)「パクツイ」とか「SPAM」とか思われていることがわかる。

◆アカウントがどんなリストに入っているかを確かめる(スクリーンショット)

20180903095134a.jpg

ちょっとしたことですけれど、こんど「おもしろツイート」を見かけたら試してみてください。

さて、ここまではTwitterを使うときの「ちょっとしたこと」なのですが、結城はもう少し気になることがあります。それは「パクツイ」へのリプライのこと。

先ほども書いたように「パクツイ」には「このツイートはパクツイだよ」という主旨のリプライが付くことがよくあり、それは情報としてはありがたいです。

しかし、リプライには「どこかのコミックから抜き出してきたような一コマ」が付けられていることがあります。そしてその一コマでは、みんなが知っているコミックの登場人物が「パクツイ」を非難している。リプライ主はコミックの画像をどこかから持ってきて貼り付けてパクツイ非難のツイートをしたのです。

ここで私はあれ?と思います。パクツイは誰かのツイートを勝手に使っているから非難される。でも、パクツイを非難するリプライでは有名なコミックの一コマを勝手に使っている。パクツイと似たことを非難リプライはやってしまっているのです。

誰かが作ったものを使ってしまう。それは無自覚にやってしまう危険があるのかもしれません。自分も(難しいですけれど)注意したいところです。


情報工学を四年学んだけれど、何も残せていない

質問

僕は情報工学を四年間学んできました。

でも、他の人のようにアプリを作ったわけでもないし、ものすごく成績がいいわけでもありません。いろんな本を買ったりして学ぼうとしましたが、何も成果物を残せません。とてもコンプレックスが強く落ち込んでしまいます。

今後どのように頑張っていけばよいのかわからなくなってきました。

回答

なかなか難しい話題です。私も、あなたがどのように頑張ればいいかという答えを持っているわけではありませんが、あなたの文章を読んで思ったところを書きますね。

あなたは情報工学を四年間学んできて「これはおもしろい」「これは驚いた」「なるほど」「こういうものを作ってみたい。作れたらいいな」「これについてもっと深く学びたい」という経験は何かありましたか。他の人の活動や、他の人の成果物はいったんわきに置いてゆっくりと考えてみてください。

記憶だけではなく、ノートや日記などを振り返って、どんな小さなことでもいいので「心に響く何か」があったか探してみましょう。

あなたが四年間の勉強を特別にサボりまくったわけではないと仮定します。四年間学んだ中で「心に響く何か」はあったのではないでしょうか。それが何かはわかりませんが、そこにヒントがあると私は思います。

アプリを作ったり、ずば抜けていい成績をとったり、誰にでもわかる成果物を残したり、というのはいわば「外向きの成果」です。その「外向きの成果」に対して不満があり、芳しくないと感じるなら「内向きの成果」はどうだろうかというのが私の問いです。他の人と比較せずに、「心に響く何か」がもしもあったとしたら、それをテコにして世界が広がる可能性があります。

学んでいるとどうしても自分の「能力」に目がいってしまいます。特に自分の身の振り方がまだ定まっていない学生時代は自分の「能力」に不安を感じます。でも「能力」に目を向けるだけではなく、自分の「関心」や自分の「性向」を発見することも大事です。それは今後あなたが活動を進めていく際の手がかりになるからです。

自分が学んできて「心に響く何か」が見つかったなら、それがどんなに小さなものであっても構いません。それをテコにして学びを進めたり、進路を考えたり、自分の幸福についての一歩を進めたりできると私は思います。

「心に響く何か」というと大げさな印象を持つかもしれませんが「自分が一生を賭ける道」みたいなものを見つけろといってるのではありません。そうではなくて、ほんのちょっとしたことでいいのです。

たとえば結城の場合には、大学時代に「自分はプログラミングが好きだなあ」と感じたり「文章を書くのは好きかも」と感じることがよくありました。それを仕事にするという意識はまだはっきりしていませんでしたが、自分の「心に響く何か」は少し感じ取っていたようです。

大学の中での「他の人との比較」というのは、大学内の成績には影響するかもしれませんが、人生を踏まえた長期的なものにはあまり影響はありません。そもそも自分が直接比較できる相手というのは極めて限定的だからです。

「他の人との比較」をした上で、落ち着いて自分の行動を分析するのは問題ありません。でもそれで落ち込んだり、やる気をなくしたりするのはもったいないことです。まあ、比較してしまうのが人情なのですけれどね。

私たちは誰しも「自分という存在」と生まれてからずっと一緒にいます。ですから、つい、自分のことを「わかっている」と思いがちです。でも、それは錯覚です。さまざまな経験をして、それに対する自分の反応を見て、初めて「自分という存在」を知っていくのです。

ですから、「自分は何かができる」ことと「自分は何かができない」ということは、どちらも自分を知ることに資するといえます。またどんなに小さなことであっても「自分の心に響く何か」を見つけることができれば、それは自分を知る大きな手がかりとなります。

目立った成果物がなかったり、特に成績がよいわけではないと、つい「自分は何をしてきたのだろうか」と考えてしまいがちです。でも、すべてはこれからです。

「あなたがどのように頑張ればいいか」への答えではありませんが、あなたの文章を読んで私が思ったことは以上です。

短絡的に考えず「自分という存在」を知る長い道のりを歩いているのだと考えましょう!

 

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