結城浩の「コミュニケーションの心がけ」

Vol.228 結城浩/数学ガールの特別授業(筑紫女学園編)(2)/夏休みの読書案内/

2016/08/09 07:00 投稿

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  • 数学ガールの特別授業
Vol.228 結城浩/数学ガールの特別授業(筑紫女学園編)(2)/夏休みの読書案内/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年8月9日 Vol.228

はじめに

おはようございます。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

暑くて、解けかけています……

 * * *

講演会の話。

今週の結城メルマガでは、 先週に引き続き「数学ガールの特別授業(筑紫女学園編)」として、 講演を読み物にしたものをお送りします。

この講演は筑紫女学園中学校の「夏休み期間の特別授業」 という位置づけになっています。 結城が中学生に講演をするというのは初めてのことなので、 たいへん楽しい時間でした。 企画してくださった先生に心から感謝です。

結城は本を書くことが仕事ですし、 顔出しNGで活動をしていますので、一般向けの講演会は行っていません。 これまでに何回か行った講演は、 ほぼすべてが学校関係者向けのものでした (研究者、大学院生、大学生、高校生、高校教師など)。 今回もその流れではありますが、中学生は初めてですね。

単純にコストパフォーマンス(単位時間あたりに稼ぐお金)でいえば、 講演会というのは割に合いません。 講演会向けの話を考える時間、講演の練習をする時間 (ある程度の長さのお話をするわけなので、必ず練習を何回か行います)、 当日の移動時間などを考えると、どうしても……

しかしながら、若い人へメッセージを送るというのは、 とても大事なことだと思っていますので、 オファーがあると結城なりに調整したり、 ギャラの交渉をしたりして、 何とかいい方向に持って行こうと思っています。 結城を呼んでくださる学校の方は、 数学ガールや結城の活動を熟知しているので、 かなり頑張ってくださっています。感謝です!

でも、交渉ごとは、いったん決まってしまった後では、 あまり意味を持たなくなります。 講演をすることも、本を書くことも、 《読者のことを考える》というスタンスに変わりはないからです。 いったん引き受けたお仕事ならば、 《相手》のことをよく考えて、そこに最高の私を注ぎ込む。 その心意気が大事であると思っています。 仮にギャラが一万円アップしたから、 品質も一万円アップ!なんて器用なことは難しいですしね。

お金はお金に過ぎません。時間は時間に過ぎません。 でも、他ならぬ《わたし》が、 他ならぬ《あなた》に出会う場面というのは、 たぶん一生に一回きりです。その場を最高に演出し、 結城が話す中学生たちに最高の体験をしていただくことは、 何よりも大切なことだと思うのです。

なぜなら、未来を作るのは彼女たちだからです。 自分が老いた後、自分が死んだ後、彼女たちがみずから考え、 判断し、未来を作っていく。だとしたら、 彼女たちに「結城が与えることのできる最高のメッセージを送る」 という態度は、私自身が未来に生き、 間接的に未来を作っているといえないでしょうか。

言い換えるなら、若者によいメッセージを送るというのは、 自分の命を効果的に使っているといえます。 若い人に、若い心に、自分が送ることのできる最高の言葉を送る。 最高のメッセージを伝える。その言葉を、 そのメッセージをどのように具体的に使うかは、若者に託す。 それは、自分の願う最高の未来を作る方法ではないでしょうか。

結城はそんなことを考えながら、講演用のスライドPDFを読み返し、 こまごまと直して当日に臨みました。

これまでの講演会は、みなさんにとても好評でした。 数学の先生にお会いしたときには、講演会後に、 書籍にサインしたり握手したりはげましたり、 お互いにエールを送り合うよい時間となりました。 結城は、生徒に接している現場の先生方を深くリスペクトしているのです。

 * * *

ポケモンGOの話。

ポケモンGOが流行しています。

いちおう結城もインストールして少し試しているのですが、 あまり熱心ではないのでレベルがさっぱり上がりません。

先日の講演会から帰ってきたら、 妻が満面の笑顔で「ポケモンGO楽しい!」 と私を迎えてくれたのが印象的でした。 あなた、いつ始めたんですか。

それはそれとして、 確保したポケモンに名前を付けられるというので、 少し数学的な名前を付けてみました。

ちょうどWeb連載「数学ガールの秘密ノート」の「広がる複素数」 を書いているところなので、それに関連して……

 ◆ドードリオに名前を付けました

2016-07-22_conjugate.jpg

 * * *

なまけごころの話。

あなたは、

 「夏休みは、時間がたくさんある」

などと思っていませんか。それはまちがいです。

 夕方には「明日の朝があるからなあ」と思い、
 明日の朝になったら「夕方があるからなあ」と思い……

詳しくは徒然草第92段をお読みください。

 ◆夕べには朝あらむことを思ひ(徒然草 第九十二段)兼好法師作 結城浩訳
 https://note.mu/hyuki/n/n3e3340ada890

 * * *

割り込みの話。

先日 @naoya_ito さんがこんなツイートをしていました。

 -----------
 Slack や SNS や iPhone の通知そのほかによる割り込みを
 自分なりにマネジメントして
 より長く集中力維持できる自己マネジメントができる人が
 そうでない人を出し抜く世界は今後も続くでしょう
 https://twitter.com/naoya_ito/status/756263944780513281
 -----------

なるほど。確かに、深く考えたり、集中して作業したりしているときの 「割り込み」というのはとても破壊的です。 たとえば、何かを考えている途中に電話が掛かってくる。 これはちょうど「賽の河原」で石を積んでいるときに鬼がやってきて、 ガッシャーン!と石をひっくり返していくのに似ています (似ていますといっても見たことはないですが)。

自分の方から「どれ、一息入れようか」として中断するのと、 外部からの割り込みによって中断させられるのとでは天地の違いがあります。

幸いなことに現在の結城はカフェで仕事をすることが多く、 外部から割り込みが掛かることはほとんどありません。 メールは自分で取りに行きますし、 メッセンジャーの類いも通知はほとんど切っています。 仕事で私に電話を掛けてくる人は誰もいません。 仕事以外でも、私に電話を掛けてくるのは妻だけです。

結城は午前9時ころから18時〜20時ころまで、 外部からの割り込みをまったく受けずに済む環境で 仕事が出来ていることになりますね。 これはたいへんすばらしいことです。

知的生活者に取って、 集中して考えることができる時間は宝物です。

そのためには、割り込まれないようにする工夫と努力が必要です。 もちろん、仕事によっては、 他の人とのやりとりが不可欠な人は多いでしょう。

しかし、それでも、まとまった時間は必要です。 集中して、思考の品質を高くするための時間がなければ、 アウトプットの品質も高くはならないはずですから。

あなたは、自分が集中して考える時間をどのように確保していますか。 外部からの「割り込み」を防ぐ工夫をしていますか。

 * * *

「ハンロンのかみそり」の話。

世の中にはときおり「陰謀論」が流行ります。 「陰謀がない」ことを証明するのは、 いわゆる悪魔の証明になりますので、極めて困難です。

そんなとき、 心の片隅に「ハンロンのかみそり(Hanlon's razor)」 を置いておくのは無駄ではないでしょう。 「ハンロンのかみそり」というのは、

 「無知や誤解から起きたことを、
  悪意のせいにしてはいけません」

という主張です。陰謀論に適用するならば、

 「それは、あいつの陰謀じゃない。
  あいつが無能なだけだ」

となるでしょうか。

 ◆ハンロンのかみそり(Hanlon's razor) - Wikipedia
 https://en.m.wikipedia.org/wiki/Hanlon%27s_razor

 * * *

プログラミング言語の話。

プログラミング言語を学んでいる人はよく感じると思いますが、 世の中には無数のプログラミング言語があり、 それぞれのスピードで進化をしています。

最先端でプログラミングをしている人は、 それらの技術を概観しつつ、 ここぞという大事なポイントでは深く学ぶことを繰り返していると思います。 技術の進化に合わせて言語も変化することがあるからです。

ところで、それとは別の観点もあります。 プログラミング言語は「言葉」なのですから、 長い時間にわたって考えを伝え続けるという役割もあります。

ですので、変化せずに(あるいは変化がゆっくりで)、 長く続いていることもまたプログラミング言語の美徳の一つ。 その意味で、昔生まれたプログラミング言語で、 いまでも使われているものは注目に値すると思っています (C, Lisp, Smalltalkなどを念頭に置いて書いています)。

要するに私は、最新技術を使って大量のコードを生み出すだけが、 プログラミング言語の役割ではないと思っているということです。 自分のちょっとしたニーズを満たすため、 他人にアルゴリズムを伝えるため、 さらには純粋に楽しみのため。 プログラミング言語は、 さまざまなコーディングシーンの基盤となる存在なのです。

 * * *

Evernoteに定型文を書き込む話。

プログラミングといえば、 先日 @rashita2 さんがこんな記事を書いていました。

 ◆対話で進捗を記録し、Evernoteにノートを作る「進捗くん」
 http://rashita.net/blog/?p=18588

詳しくは記事を読んでいただく方がいいのですが、 内容はタイトルの通りです。

「実行すると、進捗を問い合わせるダイアログが表示され、 それに答えると整形してEvernoteにノートを作る」というプログラムです。 プログラムといっても、 AppleScriptという簡単なスクリプト言語で書かれているので、 手直しして自分なりのプログラムに改造するのは難しくないでしょう。

ポイントは二点あります。

 ・対話的なやりとりによって入力を促す仕組み。
 ・定型文をEvernoteに書き込む仕組み。

あの記事に書かれている「進捗くん」というプログラムを読めば、 この二点がどのように実現されているかがわかります。

そこで、こういう問いかけができます。 この二つの仕組みが自由に使えるとしたら、 どんな便利な自分用のツールができるだろうか?

進捗の記録というのは一つの応用例に過ぎません。 Evernoteを使っている人ならば、 自分が繰り返し記録している内容に思い当たるでしょう。 「それ」を対話的に実行するツールが作れる (かもしれない)ということですね。

何かおもしろいもの、できないかな。

 * * *

表現と関係の話。

たとえば、それは大きな音だ。感動的な愛の告白でもいい。 あるいは視界のすべてを覆う深紅でもかまわない。 とにかく何らかの意味で注目を集めることが必要になる。

何のために?

そのまま続けて見てもらうために。 そのまま続けて読んでもらうために。 そのために、注目を集めることが必要になる。 作り手にとってはね。

本当かなあ。

本当だよ。注目を集めることは、 何らかの方法で受け取り手との関係を作り出すことになるから。 ある作り手は残虐な表現やエロティックな表現で 関係を生み出すことを試みる。 またある作り手は素朴な表現や可愛らしい表現や切ない表現で 関係を生み出すことを試みる。

関係を、生み出す?

作り手と受け取り手の間に関係が構築できなければ、 どんな映像もどんな言葉も虚空に消えてしまうから。

本当かなあ。

本当だよ。しかし大切なことはもっとあって、 それは、生み出した関係が、 刹那的なものなのか継続的なものなのかということ。 大きな音で今回は見てくれるさ。 可愛らしい表現で今回は読んでくれるさ。 でも、次はどうだろう。さらにその次はどうだろう。 継続的に見てくれるか読んでくれるかという問題に、 どう対処すればいいんだろう。

もっと大きな音を出す? もっともっと可愛らしくする?

そんなのは、インフレを起こすに決まっている。 だとしたら、どうすれば、 作り手と受け取り手の間に継続的な関係が結べるのだろうか。

 * * *

iTerm2のインライン画像の話。

先日 @mzp さんの以下のツイートを見て、 iTerm2でインラインに画像表示ができることを知りました。

 ----------
 iTerm2のインライン画像表示を試したかったので、
 NEW GAME!のコマを検索するコマンドラインツールを作ってた 
 https://twitter.com/mzp/status/756689753412476928
 ----------

調べてみると、imgcat(画像表示)、imgls(画像一覧) などのコマンドがすでに公開されているようです。

 ◆Images - iTerm2
 https://www.iterm2.com/documentation-images.html

たとえばimglsは画像の一覧表示(画像版のls)ですが、 中身はスクリプトなので、 自分好みに大きさや表示形式をいじることも簡単にできそうです。 結城はコマンドラインの操作が大好きなのですが、 画像の一覧を得るときだけはFinderを使っているので、 このimglsを改造して自分用のツールが作りたくなってきました。

 ◆imgls
 https://raw.githubusercontent.com/gnachman/iTerm2/master/tests/imgls

 * * *

円周率の話。

「円周率の日」というと「3月14日」が思いつきます。 もちろん、円周率の近似値である 3.14... から来ています。

ところで先日は別の「円周率の日」というのが話題になっていました。 結城はこれを @hisano_yuki さんのツイートを見て知りました。

 https://twitter.com/hisano_yuki/status/756282442428715009

その日というのは7月22日のことです。 「7分の22」という比の値は円周率にとても近いというのです。 実際、

 22/7 = 3.142857142857...

ですので、3.14 まではしっかりと円周率の近似値になっていますね。 いわば、22/7というのは「円周率の日」ならぬ「円周率の《比》」と言えましょう。

ところで、結城はふと、 「月と日の比が3.14...になるのってそんなに少ないの?」 という疑問を抱きました。22/7以外にも三つくらいありそうじゃないですか。

ということで、3.1ナントカになる日を計算してみました。 すると、

 6月19日 19/6 = 3.166666666666666...
 7月22日 22/7 = 3.142857142857143...
 8月25日 25/8 = 3.125
 9月28日 28/9 = 3.111111111111111...
 10月31日 31/10 = 3.1

ということで、 なんと3.14まで正しい近似値になるのは、22/7唯一なのです! ちょっと、驚きです。

なお、この計算は以下のRubyプログラムを書いて行いました。

 ◆一年で、月と日の比が円周率に近いのはいつか?
 https://gist.github.com/hyuki0000/adcc535e5faa17af8e9f5995ac1f34e8

 * * *

では、今週の結城メルマガを始めましょう。

どうぞ、ごゆっくりお読みください!

目次

  • はじめに
  • 数学ガールの特別授業(筑紫女学園編)(2)
  • 夏休みの読書案内 - 数学ガールの次に何を読みましょうか(中学生・高校生へ)
  • 個人的な数学愛好家として数学を学ぶ
  • 賢さを誇るということ
  • おわりに
 

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