結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年5月31日 Vol.218
はじめに
おはようございます。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
もう五月も最終日になってしまいました。 時の経つのは早い……って、毎週言ってしまいます。
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次の本の話。
先月末に『数学ガールの秘密ノート/場合の数』が刊行されました。 「秘密ノート」シリーズは毎年二冊のペースで出していきたいので、 そろそろ次の本の準備に掛かろうと思っています。 次は、
『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』
にしようと計画中。 いつものように数学ガールたちの楽しい会話を通して、 統計についてやさしく学ぼうというものです。
『数学ガール6』だけではなく、 『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』の方も、 少しずつ進めていきます!
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六週間は10!秒という話。
これは楽しい話題です。 WikipediaのJimmy Wales氏(@jimmy_wales)によるツイート。
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I'm inordinately happy to learn there are 10! seconds in 6 weeks.
I mean, how excellent is that?
https://twitter.com/jimmy_wales/status/735531678786048000
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つまり、六週間を秒でカウントすると、 ちょうど10×9×8×7×6×5×4×3×2×1=3628800になるという話ですね。 六週間は、6×7×24×60×60=3628800で、確かに一致します。 不思議! でも、これは数学的に何か理由があるわけではなく、 いうなれば偶然の一致です。 でも、ちょっと楽しい気分になります。
結城が特にすてきだと思うのは「7」の使われ方です。 階乗10!を素因数分解したとき、7は1個しか出てこない。 一分は60秒で、一時間は60分で、一日は24時間と、 いずれも2,3,5という素因数がふんだんに入っていて、 等分割しやすくなっています。でも「7」は出てこない。 「7」は一週間は7日というところ《だけ》に出てくる。 だからこそ、六週間が10!秒に等しくなることができた。 そこが「いいなあ」と感じるのですが……あまり伝わらないですかね。
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Google Spacesの話。
Google Spacesというサービスの話題が出ていました。 少人数での情報共有やグループ活動を行うためのサービスのようです。
◆Spaces
https://get.google.com/spaces/
少人数で共有スペースを作り、 そこに記事やURLを投稿し、コメントし合ったりできる……という感じですね。
こういうのは少し触ってみないとわからないので、 さっそく「おしゃべりすなば」というスペースを作ってみました。 Googleアカウントを持っていれば自由に書くことができます。 遊んでみてください。現在88人ほどの方が試しています。
◆おしゃべりすなば - Spaces
https://t.co/I0HVLfRgV3
結城自身は(多くの参加者も)飽きていて、 なにもやっていないのですが…… そのうち削除するかもしれません。
結城の場合は、ここでできることはTwitterでできるし、 わざわざ少人数に絞って情報共有するシーンはないので、 Spacesを使うことはいまのところなさそうです。
しかし、Twitterのときを思い出してみますと、 アカウントを作ってしばらく放置し、 あとになってから急にまた使うようになりました。 そしていまではTwitterなしではいられない。
そういえばEvernoteもそうです。 Evernoteが出始めたころ、 結城はその意味がさっぱりわからなかった。 熱くEvernoteを語る友人がいたのですが、 そんなの使う意味あるのかなあと思ったものです。 でもいまではEvernoteなしではいられない。
どんなサービスが自分に定着するのか、 予想は難しいものですね。
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多層的な理解の話。
じっくり考えて文章を書くと、文章の書き方についての知見も深まります。
じっくり考えて文章を書くときには、 「こう書いた方がいいかな? いや、違うな。こっちの方がいい」 のように考えるわけですよね。 つまりそこで「こちらの文章の方がいい」という《判断》を行っている。 その《判断》が妥当かどうかも頭の中で検討する。 それは、とりも直さず、文章の書き方の知見を深めていることになる。 当然のことですね。
文章書きに限りません。 私たちは一つの仕事を進めながら、いつも複数の仕事をしているのです。 つまり、
・仕事そのもの
・仕事をどう進めるかを考える仕事
という複数の仕事のことです。
仕事の中には「これは役に立つ!」という思うものもあれば、 「これは無駄なんじゃないか」と思うものもあります。 しかし、そこでいう「役に立つ」「無駄」という価値判断は、 「仕事そのもの」のレベルでの話ですよね。
たとえ「これは無駄な仕事だ」と思うようなものでも、 「仕事をどう進めるかを考える仕事」のレベルではどうでしょうか。 作業を進めている自分をいかに効率的に効果的に動かすかを考える。 管理者の視点ですね。
自分の仕事というものを、多くのレベルで、 いわば多層的に考えるなら、 完全に無駄な仕事というものは少なくなります。
「これは役に立つ!」という仕事をやっていても、 「仕事そのもの」だけに注目するのはもったいない話です。 「仕事をどう進めるかを考える仕事」を怠ると、 その仕事から得られるメリットは半減してしまうでしょう。
どんなに「ブラック」な仕事であっても、 与えられた仕事は唯々諾々と従うべきだ、 といいたいのではありません。そうではなくて、 せっかく時間を使って仕事をするんだから、 しっかり頭を使わないとね、という話をしているのです。
自分がやっている仕事から、 たっぷりとうまみを、多層的なうまみを引き出すのです。 そう考えると、どんな仕事にも魅力が出てきます。
「仕事観」とは、
「あなたにとって仕事とは何ですか?」
という問いに何と答えるか、です。 わたしにとって仕事とは何か。唯一の正解などはありませんし、 他の人と同じである必要もありません。
でもだからといって考えることが無駄だというのでもない。 私たちは毎日たくさんの時間を「仕事」に注いでいるわけですから、 仕事とは何か、それをどのように扱っていくか、 その認識は大切です。
やや大げさにいうならば、 「自分にとっての仕事」を考えることは、 「自分の毎日をデザインするか」に直結しているからです。
* * *
イライラを解消する簡単な方法の話。
イライラ、モヤモヤした気分を解消する簡単な方法があります。 それは、
大急ぎで飛び乗れば間に合うかもしれない電車を、
わざと一本見送る
というものです。
みんながあわててホームを走り、 電車に間に合おうとあせっているところで、
「よし、私はこの電車を一本見送ろう」
と決める。そして、ゆっくりと歩く。
たったそれだけで気分ががらっと変わります。 機会があったらぜひお試しください。
ポイントは、
「状況が、自分を支配している」感覚から、
「自分が、状況を支配している」感覚への移行。
ここにあると思います。
時間が迫ってる! あせるあせる! 早く電車に乗らなくちゃ! 走らなくちゃ! というのは「状況が、自分を支配している」感覚ですね。
それに対して、 「よし、私はこの電車を一本見送ろう」 というのは自分の判断です。 電車が発車して、行ってしまっても、 それは私が判断した結果にすぎない。私はまったく動じない。 これは「自分が、状況を支配している」感覚ですね。
電車を一本見送ることだけではありません。 どんなにささいなことであっても、
自分がそれを決めた。
だから、状況はこうなった。
という場面を意図的に作り出すのです。 そうすると、心にさわやかな風がさあっと吹きます。
ぜひ、お試しください。
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WorkFlowyの話。
アウトライナーとして、WorkFlowyというサービスを使っています。 先日は『数学ガール6』の章立ての再確認をするのにWorkFlowyを使っていました。
なにも見ずに、各章ごとに項目を立て、 その章で自分が書くはずの内容を書いていくのです。
アイディア出しではありません。 自分の記憶をリフレッシュし「自分がきちんと把握している項目は何か」 をあぶりだすためにやっています。 自分で「理解度チェックテスト」を作って解いているようなものですね。
WorkFlowyはたいへん便利なサービスですが、 キー割り当てが直観に反する部分があってちょっと困ります。 たとえばCTRL+Bは文字をボールドにするのに割り当てられているのですが、 Emacs風味にカーソル左移動にしてほしい。 また、SHIFT+TABで子孫を引き連れたoutdent(indentの逆)してほしい。
とはいうものの、こんなに手軽で使いやすいツールがWebですぐに、 しかも無料で使えるのはありがたいことですね。
◆WorkFlowy
https://workflowy.com
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小学校でのプログラミング教育の話。
先日から「小学校でのプログラミング教育」の話題を見かけます。 文科省が「小学校でのプログラミング教育の必修化を検討」 と報道されてからでしょうか。
結城自身は小学校教育に詳しいわけではないので、 常識的なことしか考えられませんが、 気になるのは以下のようなポイント。
「教えること」について。 授業内容が、賞味期限が短い話や、 あまりにも特殊な話に終始しないだろうか。
「教えられる側」について。 学校や児童ごとに能力や理解の「ばらつき」は非常に大きいと思うので、 そのばらつきを許容してほしい。 優秀な子をつぶさないようにしてほしい。
「教える側」について。 先生は対応できるのだろうか。 また、外部に依頼するとしたら全国の小学校で大きなお金が動くことになるので、 関連企業が安易に参入して利権の温床になることは避けてほしい。
……そんなことを思います。
なお、以上は新井紀子先生にTwitterで聞かれた対話をもとにして書きました。
https://twitter.com/hyuki/status/732726789458386944
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気持ちがこもる言葉の話。
たとえば、こんな文を例にしてお話しします。
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今日は、たくさんアンケート形式で問題を出してしまいました。
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これは結城がTwitterに書いた文の一つです。 ツイートとしては特におかしくはないのですが、 これを書籍にするときには後半部分を、 以下のように修正することになるでしょう。
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今日は、たくさんアンケート形式で問題を出してしまいました。
↓
今日は、アンケート形式の問題をたくさん出してしまいました。
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違いは明白です。「たくさん」の位置が変化していますね。 「たくさんアンケート形式〜」ではなく 「たくさん出して〜」にしたということです。
Twitterなど、オンラインであまり推敲せずに文章を書くときには、 「たくさん」「すごく」「きちんと」「絶対」「必ず」 のような「気持ちのこもる言葉」は、文の《前》に来る傾向があります。 これは結城だけでしょうか。あなたはいかがですか。
私の想像ですが、 文章を書いていくときには「勢い」が必要なので、 「気持ちのこもる言葉」が前にくるのかもしれません。
書くときにはその方が書きやすいからいいのですが、 推敲時にはその勢いを制御して、 文としての姿を整える必要がありますね。 普段から自分の文章の癖を見極めておくと良さそうです。
そういえば、先日azu(あず)さん (@azu_re)の、 textlintというツールを見かけました。
◆JavaScriptでルールを書けるテキスト/Markdownの校正ツール textlint を作った
http://efcl.info/2014/12/30/textlint/
◆textlintで日本語の文章をチェックする
http://efcl.info/2015/09/10/introduce-textlint/
まだ試していないのですが、ルールを記述して作る校正ツールのようなので、 自分専用のルールなどがうまく作れるのであれば、便利かもしれません。
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カップ焼きそばの話。
「文豪がカップ焼きそばの作り方を書いたら」 という企画がネットで盛り上がっていました。 ご存じない方は、「文豪 カップ焼きそば」で検索していただくとして、 私も(文豪ではありませんが)自作自演で参加してみました。
何のオチもヒネリもない文章ですが、 たったこれだけの文章でも考えるところはあります。 つまり《読者のことを考える》原則をどう適用すべきか、 という話です。
この文章を読む読者は、 カップ焼きそばを作ろうとしています。 そこで結城は、
「細かい手順はさておき、ありがちな失敗を防ぐ」
という文章にしようと思いました。
カップ焼きそばには「やりがちな失敗」があります。 それは、以下の三点です。
・お湯を注ぐ前にソースや青ノリを入れてしまい、
薄いソースや、びちゃびちゃな青ノリにしてしまう失敗。
・お湯切りをするときに、麺が飛び出してしまう失敗。
・お湯切りをする前にソースを入れてしまい、
味が薄い焼きそばになってしまう失敗。
そこで、この三点を回避するような文章にしたつもりです。
さらに細かい留意点としては、読みやすくするために、
・ステップ数を3に抑える。
・「麺」ではなく「めん」と書く。
・「青海苔」ではなく「青ノリ」と書く。
としてみました。いかがでしょうね。
全体としてこの企画は単なるお楽しみなのですが、 文章を書く練習としてはあなどれないかもしれませんね。
* * *
文章を書く場所の話。
最近ずっと「文章を書く場所」の話を考えています。 結城の仕事は文章を書くことですが「文章を書く場所は大事だ」 と強く思うことが多くなりました。
この結城メルマガでも何度も話題にしていますが、 「滞りがちな作業の再起動」では「場所」が大事な役割を果たします。 どうしても手が付かず後回しにしがちな作業に手を付けるためには、
その作業専用の場所を新しく作る
のがかなり有効なのです。
「場所A」に行ったら、自動的に「作業A」をする気分になる。 そのような場所を作るということです。 この方法は、ほんとうにうまく行くんですよ。
滞りがちな作業でなくてもかまいません。 継続的に行うべき「作業X」が生じたなら、 作業Xのための新しい「場所X」を用意する。 たとえば結城の場合には「場所X」は新たな「カフェX」だったりします。
そして、その場所Xに行ったら、作業Xしかしない。 席についてメール読んだりしない。作業Xに集中する。 何回かそれを実行すると、場所Xに行くと自然に作業Xが進むようになるのです。 習慣づけとでもいうんでしょうか。 私のことは「パブロフ結城」と読んでください(冗談です)。
文章を書くというのは、精神的な作業ですが、 精神をその「場所」に持っていくために、 身体自体をその「場所」に移動させるのが有効なのでしょう。
自分のモチベーションを自分の気持ちで制御するのは難しいことです。 なぜなら、モチベーションと気持ちは、 どちらも精神的な世界の話だから。
それに比べると、作業場所を制御するのは楽です。 なぜなら、作業場所を移動するというのは、物理的な世界の話だから。 物理的に、
「自分の身体を場所Xに持って行く」
という行動によって自分のモチベーションが上がるとしたら、 なかなかいいと思いませんか。
自分の肉体を移動して、自分の精神を移動するのです。
作業の性質に応じて場所を作るのはいい発想です。 「おっくうな作業」が生まれたら、その作業場所を変える。 「おっくうだなあ」という気持ちを切り換えるために、 その作業場所を変えるのです。
その他にも「短時間だけいる場所」「めったに来ない場所」 などをうまく自分の作業と結びつけるとおもしろいことができそうです。 物理的な場所が持つ性質を利用して、 精神的な成果物の品質を調整することはできないかしら。
たとえば、
「自分がここに来るのは一年ぶりだ」
あるいは、
「来週まで、ここには足を踏み入れることはない」
という場所に関する感慨は、 いつもと違う精神状態を自分に作り出し、 いつもと違う発想を導く助けとなるかもしれません。
場所を仕事に生かすこと。 それは必ずしも立派な書斎を構えることや、 机や椅子を整えることを意味しません。 場所という物理的なものが、自分の精神にどのような影響を与えるかを意識し、 それをうまく生かすということではないでしょうか。
* * *
大量のRTの話。
先日、何気なくつぶやいた以下のツイートが大量にRTされました。
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個人のTwitterアカウントに
義理人情や義務感を持ち込んだら
とても疲れることになると思う。
眺めていたいなという人をフォローし、
読みたいなと思うツイートを読む。
なるほど、いいね、ありがとう、読みました…と
自分の気持ちのままにハートをつけたり、RTしたり。
思いのままにしてたら疲れない。
https://twitter.com/hyuki/status/734926752993021953
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たくさんリツイートされたということは、 多くの人が同じように感じているんでしょうね。 結城はTwitterが大好きですが、 それは自分の気持ちのままにふるまえるサービスだからです。
* * *
では、今週の結城メルマガを始めましょう。
どうぞ、ごゆっくりお読みください!
目次
- はじめに
- 『数学ガール6』を書きながら - 本を書く心がけ
- 規模を見誤らない - 仕事の心がけ
- 数学のおもしろさを再認識したきっかけと、学ぶ上で大切なこと
- おわりに
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