そこで感じたのは、「今後、コンテンツの世界はますます『CGM』が大きな力を持つだろう」ということだ。
そして、そこにおいてはコンテンツの「制作を助けるツール」が、ますます重要になるだろう。いうなれば「コンテンツツクール」の需要が、ますます伸びるのだ。
どういうことかというと、エンターテインメントの世界では今、コンテンツを享受することより、自分で制作することの方が需要が大きい。
例えば、音楽だったら他人の演奏を聴くより自分で演奏した方が楽しい、小説だったら読むより書いた方が楽しい、映像だったら見るより撮る方が楽しい――というわけである。
その楽しさの範囲が、これまではコンテンツ単体だったのが、これからは「メディア」へと移行しそうなのだ。
例えば、音楽を作るだけではなくレーベルを作る。
例えば、小説を書くだけはなく、雑誌を作る。
例えば、映像を撮るだけではなくテレビ局を作る。
DWANGOという会社が提供しているサービスは、いずれもそうした「メディアツクール」だ。ニコニコ動画は自前の音楽レーベルを作るということだし、ニコニコ静画やブロマガは自分の雑誌を作るということだし、ニコ生は自分のテレビ局を作るということだ。
そのDWANGOが、メディアミックスが得意なKADOKAWAと手を組むということは、そうしたCGM隆盛の流れが、いよいよ加速していくということを示唆している。
それと同時にこの合併は、両社の「メディアツクールとしての生き残りをかけた施策」でもあると思う。どういうことかというと、この両社には、実は「メディアツクール」業界に巨大なライバルが存在するのである。言わずとしれた「YouTube」だ。
ここ数年、YouTubeは「メディアツクール」としての存在感を急速に高めてきた。
きっかけは、そこで放送する広告収入でビジネスが成立するようになったことだ。インフラを提供しているGoogleだけではなく、そこにコンテンツを提供する一般のユーザーにも、利益が還元されるようになったのである。
そのため、多くの人がYouTubeの可能性に目を向け始めた。そこで番組を作って、ビジネスを成り立たせようとする人たちが増えてきたのだ。
折しも、日本のトップユーチューバー(YouTubeを制作する人)であるHikakin氏が、大きな人気を獲得し、多額の報酬を得ているという情報が流れた(一説には年収3000万円ともいわれる)。そうした動きに呼応して、ホリエモンや岡田斗司夫さんという著名人が、こぞって自前のチャンネルを持つようにもなったのだ。
そこで今回は、そんな激動するCGM業界の雄「YouTube」を知るために、今見ておくべき7つの番組をご紹介する。
この7つは、いずれも番組として面白いのはもちろんのこと、ユニークなビジネススキームを確立してもいて、その点でも非常に興味深いのである。
■注目のYouTube番組その1「GoPro」
「GoPro」とは、アクションカムの商品名である。「アクションカム」とは、小型軽量化を果たしたビデオカメラのことで、激しい運動の撮影に向いている。そのため、GoProを使うと、サーフィンやモトクロスバイク、スカイダイビングなど、これまでにない迫真の映像を撮ることができるようになったのだ。
GoProは、そういう映像を撮る人たちとタッグを組んで、迫力の映像を定期的にアップしている。そこでは、撮影する人は自分の活動を宣伝でき、GoProは自社の製品を宣伝でき、見る人は迫力の映像を楽しめるという「三方良し」のビジネススキームが、見事に成立しているのである。
★オススメの動画
■注目のYouTube番組その2「Goose house」
「Goose house」というのは、レコード会社のソニーに所属する若手ミュージシャンたちの集団である。
彼らは「Goose house」というシェアハウスで一緒に暮らしているのだが、ときどき歌のコラボレーションをして、その動画をアップしている。
その動画が、とてもイイのである。たいてい既存のヒット曲をカバーしているのだが、歌っている彼らが音楽することの喜びに溢れていて、強くインスパイアされる。
★オススメの動画
YouTubeは、作詞作曲の著作権料を著作権者に一括して支払っているため、CDなどの音源を使わなければ、動画の中で既存の曲を使ってもいいことになっている。だから、みんなが知っているヒット曲を歌うこともできるので、聞く方も馴染みがあって入りやすい。
また、若手ミュージシャンは自分たちを売り込むことができるので、双方にとって得があるのである。ここでも、見事なビジネススキームが成立しているのだ。
■注目のYouTube番組その3「Good Mythical Morning」
この番組は、アメリカのロスに住む2人の男性が、平日毎日10分くらいの動画を配信している。使われているのは英語で、だから英語が分からないとちょっと分かりづらいところはあるのだが、しかし注目したいのは、とにかく映像のクオリティが高いところだ。
この番組は、画もきれいだし、セットもセンスがいい。さらに、音声が抜群に良くて、その場で激しく動きながら話しているのに、ノイズや雑音がほとんどないのである。
そういう高い技術がありながら、内容はとてもくだらないことをやっているのが面白い。
例えば、ぼくが好きなのは防水スプレーを買ってきて、それをTシャツにかけた後、赤ワインを上からかけて、きちんと防水するかどうかを確かめる実験動画だ。
とにかく、司会の2人がいいキャラクターをして、言葉が分からなくても、その楽しさは十二分に伝わってくる。この番組は英語圏ではとても人気で、200万人を超える登録者がいるのだ。
★オススメ動画
■注目のYouTube番組その4「megumi sakaue」
今度は、前のとはガラリと変わって、日本の個人ユーチューバーが運営する番組である。
以前、MacProを買おうとしたとき、その検証動画を見ようとして、YouTubeを漁っていたら、この番組を見つけた。
この番組は、あらゆる検証動画の中で出色の出来だった。その性能がちゃんと伝わってきたのはもちろん、MacProを買うことの興奮まで伝わってきて、非常に面白かったのである。
★オススメ動画
以来、この人の番組を毎日見るようになった。
このMegumiさんという人は、ゲーマーなのでプレーの実況動画も多いのだが、面白いのはそのプレーよりも彼女の一人喋りだ。彼女は典型的なオタクなのだが、その思考や生態がよく分かって、実に興味深いのである。
■注目のYouTube番組その5「akihabaraBANKINYA」
ぼくは、電化製品やAV機器を買おうとするとき、まずブログやYouTubeを漁ってその評価を知ろうとする。そこで、何度となく突き当たったのがこの番組だ。ユーチューバーの秋葉仁さんは、ものすごい数のAV機器を所持しており、それらの検証動画を、律儀に、しかもとても丁寧に伝えてくれているのである。
例えば、ニコ生用にワイヤレスマイクを買おうとしたとき、その検証動画を探していたら、唯一この人だけが詳細なレポートをアップしていて、このうえなく重宝させてもらった。
ところで、面白いのはこの人の経歴で、もともとは秋葉原で飲食店を経営していたのが、そのお店にAV機器を導入する必要が生まれ、そこからAV機器をレビューするようになったのだ。
その経緯を語った動画もあり、とても面白いので、ここではそれをオススメしておく。
YouTubeには、タレントでもクリエイターでもないが、情報を伝えたいという情熱だけで制作している人も多い。その情熱こそ、今のテレビがなくしてしまった、本当に見るべき価値のあるものではないかと、この番組を見ていると考えてしまう。
★オススメ動画
■注目のYouTube番組その6「バイリンガール英会話 Bilingirl English」
吉田千佳さんは、シアトル生まれのバイリンガルである。もともとは、その語学力を活かして外資系コンサルで働いていたが、詳しくは知らないが、おそらく人間関係でいろいろあって辞めてしまった。彼女は非常にアメリカナイズされた人間で、いかに外資とはいえ、日本的な人間関係が上手くいかなかったのだ。
しかしながら、実はアメリカ人でもコミュニケーションスキルの高い人は、日本的な人間関係もすいすいこなす。彼女は、帰国子女という引き裂かれた文化環境で育ったがゆえ、コミュニケーションそのものが苦手なのだ。
そんな、能力は高いが社会に馴染めない彼女が、自分の生きる場所として見定めたのがYouTubeというのは興味深い。
確かにYouTubeには、社会のはみ出し者が、そのはみ出したさまを見せることで人々に面白がってもらうという、非常にプリミティブなエンターテインメントのスキームが成立している。いうなれば現代の「フリークス」だ。彼女は、ビジュアルも能力もすぐれているが、実はフリークスで、そういう背景を知ると、この動画はさらに面白く感じられるのである。
★オススメ動画
■注目のYouTube番組その7「HuckleTV」
最後は、僭越ながら、ぼくが今制作しているYouTube番組を紹介させていただく。
ここ数年、コンテンツが売れなくなる一方、CGM市場がますます活況を呈するのを見て、自分もなるべくそこにかかわるようにしてきた。特に、DWANGOさんのブロマガに参加させていただく中で、もう2年ほど有料ブロマガを執筆してきた。
その過程で「ニコ生」もすることになったのだが、始めてみると、番組を制作するということは、実にさまざまな技術や知識の積み重ねの上に成り立っているのがよく分かった。この2年は、それを積み上げていくことにとても熱中させられた。それは、よくできたゲームのようなものだった。それ自体が、一つのエンターテインメントにもなっていたのだ。
そうして知識や技術を積み重ねていくうちに、やがてそれらはYouTubeという分野でも援用可能だということが分かってきた。しかもYouTubeは、今や全世界に市場があって、場合によっては世界中の人に見てもらえる可能性がある。比べるのはおこがましいが、「アナと雪の女王」の主題歌は2億回も再生された。それほどの爆発力が、そこにはあるのである。
そこに制作者として参加することは、エンターテインメントの世界に生きる者としては避けては通れないと感じた。そのため、そこへの本格参戦を決め、人を雇い、機材を導入して、さらには家族の協力まであおいで、番組を作り始めたのである。
この番組のメインのコンテンツは、今のところ妻が制作する「お料理番組」だ。妻は料理と酒が趣味なので、お酒のおつまみのオリジナルレシピを、毎回紹介している。
また、それとは別にAV機器の開封動画を作ったり、イラストのライブペインティング動画を作ったり、さらにはマンガのレビュー動画を作ったりと、さまざまなことに挑戦している。
★オススメ動画
はてなでブログもやっています。
ぼくが今、生活の中で最も時間を割いているのは、このYouTubeの制作だ。そこでは、内容を試行錯誤するのはもちろんのこと、YouTubeの世界を観察・調査することで、そのビジネススキームの分析や確立にも力を入れている。
そのためこの番組は、そうした研究がフィードバックしたものとなっている。この番組を見ると、「YouTubeの今」を知ることにもつながるのだ。
コメント
コメントを書く(ID:20827440)
カバー曲が含まれる動画の収益は、著作権者から申し立てがあると、分配される仕組みみたいですね。
(著者)
>>1
YouTubeは、権利はさまざまにクリアしているし、ハードディスクは膨大だし、機能も豊富で、すでに4K動画も見られるんです。これはちょっと他の追随を許さないですね。