また、この時から数ヶ月後の2009年末、「もしドラ」の発売直後に行われたドラッカー学会では、300人以上集まったドラッカー学会の会員の方々を前にして、会長の上田先生が冒頭の挨拶で「今度いい本が出ましてね、タイトルが長いんですけどね」と「もしドラ」を紹介してくださったこともあった。その席には、この時ゲストスピーカーとして登壇する予定だったイトーヨーカドーの伊藤雅俊名誉会長がいらっしゃって、上田先生はぼくを紹介してくださった。
そこで驚いたのは、伊藤雅俊さんはすでに「もしドラ」を読んでいたことだ。しかもなんとそれを持参され、そこには無数の付箋が貼り付けてあったのである。
伊藤さんはその席で、ぼくにサインを求めながら、こんなふうにおっしゃった。
「この本は、100冊買って幹部以上の全員に読ませているんですよ」
ぼくはこの時、本当に大変な事態になっているというのをまざまざと実感させられたのだが、それもこれも、上田先生の大きな影響力があってのことだった。
さて、話を今一度、発売前の2009年夏に戻したい。
この頃までに、原稿の方はほぼ固まっていたのだけれども、「表紙をどうするか」ということがまだ固まっていなかった。
この時、加藤さんは「もしドラ」のモデルにもなった「投資銀行青春白書」を持ち出して、「このように、かわいい女の子の絵が描けるイラストレーターを移用して、ラノベ風の表紙にしようと思うのですが、いかがでしょうか?」と提案してきた。
投資銀行青春白書:Amazon
それは、ぼくもちょうど考えていたことだったので、すぐさま承諾すると、今度は誰にどんな絵を描いてもらうかということを話し合った。「ラノベ風」といってもさまざまなタイプがあるので、その中でどのようにしたらいいいか――というのを決めようとしたのだ。
その時、ぼくの中にはいくつかのイメージがあった。
一つは、「エヴァンゲリオン」シリーズのキャラクターデザインを手がけている貞本義行さんの絵が好きだったので、彼のような絵柄のキャラクターにしいたいということだった。特に、彼の手がけたアニメ「時をかける少女」のキャラクターが好きだったので、そのポスターのようなデザインにしたいと思っていた。
時をかける少女 絵コンテ:Amazon
もう一つは、「ARIA」というマンガの表紙だった。
ぼくは、表紙をどうするかというのを考える中で、「ぼくはどういう表紙が好きなのだろう?」ということを考えた。それで、本屋さんに行ってずっと表紙だけ眺めるなどということもしていたのだけれど、そこで一番心惹かれたのが、このマンガの表紙だったのだ。
それで今度は、「どうして「ARIA」の表紙に心惹かれるのか?」というのを考えたのだけれど、そこで気づいたのは、「背景にポイントがある」ということだった。
ARIA 1:Amazon
ぼくは、女の子の絵柄に関しては、(それももちろん重要なのだが)多くの絵描きさんがかわいい女の子を描くことに習熟しているので、それで決定的な差はつかないのでは――と考えていた。それよりも、むしろ大きな差となって現れるのは背景だろう。
コメント
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本の表紙の背景は、現実と地続きの空間を本の中に想像させるので、背景が素晴らしいと、表紙のキャラクターが読者の鏡像にならないような場合でも、本の中の空間にリアリティを持たせることができるという効果があるのでしょうか。
(著者)
>>1
その通りですね。背景が地続きであれば、自分の鏡像や分身でなくとも、同じ社会に存在する他者として、リアリティを持った存在として感じることができるのだと思います。