豊田佐吉と豊田喜一郎の父子は、必ずしも円満な関係ではなかった。
というのも、喜一郎の実母は喜一郎を生んですぐ、出て行ってしまったからだ。出て行った理由は、佐吉が研究に没頭するあまり、家庭を全く顧みなかったからというもの。佐吉は、子供にもそうだが、妻にも無関心だった。
家庭を顧みない男性は、当時はけっして珍しくなかっただろう。それでも妻が生んだばかりの子供を置いていってしまうのだから、よっぽどだったのだ。
またこれ以降も、佐吉が家庭を顧みるようになったという話はない。だから、喜一郎はおそらく父不在の中で育ったのだ。
喜一郎は、実母が出て行ってからしばらく父方の祖父母に育てられた。しかし父が再婚し、母違いの妹が生まれると、また佐吉に引き取られた。そうして、新しい母や妹と暮らし始めた。
一緒に住むようになってからも、父は仕事に忙しかった。また今度の母は、父の仕事を手伝っていた。そのため、喜一郎は
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