ぼくは、大学時代に祖父母の家に下宿していたので、近代的自我と中世的無自我の葛藤に揺れる大正生まれの祖母の姿を間近で見ることができた。そして、それ以前に中世的「無」自我を体現している曾祖母を見たり、また彼女の話を聞いたりすることもできた。それがあったから、いつからか「自分の自我」というものにも疑いを持てるようになったのだ。
最近になって思い出したのだが、ぼくは祖母に一度、「見合い結婚なんて信じられない」と話したことがあった。それは文字通り、「ぼくにはできない」という意味だ。結婚という重要なライフイベントを「他人が決める」などということは、人間の自由を阻害すること以外なにものでもないように思えたのである。
ところが、そのときまで知らなかったのだが、話した当の祖母が見合い結婚だった。そして、ぼくの言葉を聞いた祖母は、「私は見合い結婚だったけどね」と言った。
このとき、ぼくは一瞬「まずいことを言っ
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