かりそめのアイデンティティにすがる時代が1万年ぶりに終わった(1,698字)
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今、日本の社会は非常に混沌としている。いろんな状況が絡み合って進行している。とりわけ、4つの大きな状況がある。
第1は、少子化と人口減少だ。これが経済を大きく圧迫している。
これに対応するのは難しいだろう。これから団塊の世代が完全に死ぬまでの30年くらいが、日本経済はとてつもなく厳しくなる。つまり、貧乏になる。それを過ぎたら再び楽になるかもしれないが、しかし少なくとも向こう30年は、国そのものが貧乏という状況がまずある。
第2は、IT化やロボット化、AI化がますます進行していく。労働の効率化が加速していく。そうして、日本の経済状況とは逆に、世の中はますます豊かに、ますます暮らしやすくなる。それが、世の中を少なからず混沌とさせる。
第3は、仕事が減る。「仕事」というのは、稲作が始まってから1万年もの間、社会の重要なインフラであり続けた。しかし今、それが終わろうとしている。社会は、すぐにベーシックインカムに移行せざるを得ない。
そこで、人々のアイデンティティがどう保たれるのか? まだ誰も答えを出せていない。そのため、大きな混乱は避けられないだろう。
第4は、グローバル化だ。今、日本を含め世界中で、「国家」という枠組みが価値や効力を失いつつある。まず企業、そしてお金がグローバル化し、国家の枠組みをすでに超越している。例えばGAFAは、あらゆる国で信じられないほど豊かなサーヴィスを提供しているが、同時にあらゆる国にほとんど税金を払っていない。そういう状況がますます加速する。
すると、これから「どこの国の人間か」ということが無意味になる。そのアイデンティティが失われる。
以上の4つの状況に対して、抵抗するのではなく順応した方が生きやすいのは言うまでもない。生きやすいというか、抵抗すると死んでしまう。
第1に、日本経済が苦しくなるので、日本経済に依拠した生き方をしていると、すぐに死んでしまう。生き残るには、儲け口を日本以外に求めるしかない。あるいは、貧乏であることを割り切って生きるしかない。
第2に、ITやロボット、AIは、仕事を取られる敵としてではなく、味方として積極的に活用していかないと、すぐに死んでしまう。つい先日も、いまだにスマホが苦手なお年寄りがいるという話を聞いたが、もうそういう人が幸せに生きていける場所はなくなった。スマホだけではなく、ITやロボット、AIは、好き嫌いにかかわらず、積極的に活用していく以外に気持ち良く生きる術はない。
第3に、仕事がない世の中で、仕事に依拠しない生き方を見つけないと、すぐに死んでしまう。具体的にいうと、趣味を楽しんだり、友だちとの交流を図ったりする。そうしないと、ほとんどの人はもう、仕事には居場所を見つけらない。だから割り切って、それ以外の生きがいを見つけていく必要があるだろう。
第4には、日本人というアイデンティティは早々に捨て去らないと、死んでしまう。今、政治や思想や人種といった枠組み乗り越えて、経済が圧倒的な影響力を持つようになった。経済が、社会を否応なくグローバル化している。その中で、「日本人」という枠組みも価値を失いつつある。
その象徴が、大坂なおみ選手だろう。彼女はもはや何人なのか、誰もカテゴライズできない。また、しない方がいい。カテゴライズしないまま、彼女のような国籍の在り方をむしろ指向していく。そういう時代に突入したのだ。そういう状況に抵抗しても、社会と折り合いがつかず生きるのが苦しくなるだけだ。
以上のように、古いポジションを捨て新しいポジションに移行するのは、はっきりいって難しい。けっして簡単ではない。
しかし新しいポジションは、より本質的な生き方ともいえる。そもそも、「日本」や「仕事」というアイデンティティは、たかだか1万年の歴史しかない。その意味で、かりそめだったのだ。そのかりそめが1万年ぶりに取り払われ、今、より本質的な社会が到来しつつあるのだ。
その中で、我々もより本質的に生きていくしかなくない。かりそめのアイデンティティにすがる時代は、もう終わった。そう考えると、変革の困難に立ち向かうのも、少しは楽しくなるのではないだろうか。
2019/03/22(金) 06:00 お金をかけずにたった三ヶ月で知的生産性を爆発的に飛躍させる方法:その16(1,885字)
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