ぼくは小説が好きなのだが、これまでは小説を読むのが好きだと思っていた。しかしながら、この年になって分かってきたのは、実は小説を読むことよりも「小説とは何か?」ということを考えることの方が好きなのではないか、ということだ。これまで小説を読んだり、あるいは書いたりしてきたのは、全てこの「小説とは何か?」ということを考えるためだったのではないか。
ぼくの読書体験として、今振り返っても人生の中で最も大きかったものの一つが、ぼくが31歳だった1999年からおよそ2年半にわたって、朝日新聞出版社が週刊のムック本として敢行していた『世界の文学』を毎週購読していたことだ。これによって、大袈裟にいえばぼくの人生が変わった。
ぼくはそれまで、文学というのは得体の知れない巨大なものだと思っていた。あまりに深く、またあまりにも広いために、一生かかっても把握しきれないだろうと観念している
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