もう一人の自分を持つもう一つの方法は、「他者を利用する」ということだ。他者を鏡にし、そこに映った自分を「もう一人の自分」とするのである。
高校生の頃、あることに気づいた。それは、誰かと話していると、どんどんと自分の考えが分かっていく――ということだ。自分の希望や絶望、望みや嫌悪をいったものが、皮をむくようにクリアーになっていくのである。
あるいは、自分では思ってもみなかった発想が口から飛び出したりすることもあった。そういう経験を重ねるうちに、やがて「誰かと話すことは、自分自身の力では引き出せなかった『もう一人の自分』を引き出してもらうこと」だというのを悟った。
小説家の平野啓一郎さんは、それを「分人」という言葉で定義している。
「分人」とは、「個人」はそれぞれ一つではない。互いに無関係な、バラバラの、さまざまな側面を持っている。その意味では、「個人」というより「分人」だ――という意味だ。
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