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茨城ノ国風土記 序章その1

2018/01/28 13:06 投稿

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 木々裂く九十九折の道を一台のバイクが行く――――

 スピードもなく、トロトロとした走りはさながら凪だ海を行く小舟のようである。

 道は辛うじて舗装はされているがけして広くもない、言わばこの山の登山道である。

 走る車の少なさからか、センターラインはなくすれ違うにも苦労するであろう道幅に加え、左側半分ほどは落ち葉と土砂により、バイクが走るには些か苦労するだろう。

 男もまた対向車に気を向けつつもその道を少しづつ登って行く。

 幸い、トレッキングコースからは離れているからか対向車もなく急な登りのカーブさえ気を付けていれば登っていけそうだ。

 だが男にとってこの山の、この道がニ・三度目のツーリングであった。

 ヘルメット越しに見える道は辛うじて舗装されてるとは言え、ひび割れ、穴、落ち葉、土砂によって悪路と言えよう様相である。

 男の頭に『逃げも兵法の一手』との言葉が浮かんでいるのも事実で、ここで引き返したとて誰も責める者もなく、今日は悲惨なツーリングだったと話のネタにでもなろう。

 そう男が考えていると、急に視界が開けた――――。

 土砂崩れの影響か、はたまた間伐なのかそこだけ鬱蒼とした木々がなく、砂利の露出した斜面が広がる場所にでた。

 停まろうかどうか少しばかり悩んだのち、男はその広場にバイクを止めた。

 シャドウ400、国産アメリカンのその車体は少し砂利をザッと擦り付け止り、重い車体を左に傾けつつスタンドを砂利に沈ませる。

 大丈夫かどうか、そーっと確認しつつ男もバイクから降り、そのシステムヘルメット脱ぎハンドルにかけた。

 空の青と山々の碧の広がる景色に男は一つため息を吐き、カメラを手に被写体を探す。

 男自らを被写体にするのは憚られ、もっぱら風景やバイクを撮るのが常である。

一通り写真を撮ると、やや傾いているバイクに腰掛け男はたばこに火をつける。

 吐き出した紫煙は木々を優しく揺らす風に乗り、形を変えて溶けていった。

 木々の囁き、鳥のさえずり、他に音もなくのんびりとした時間と空間がそこには広がり、都会の喧騒も遠い遠い世界である。

 まぁ、もっともこの男はそんな喧騒にあふれかえった都会になど片手で足りるほどしか出向いたことしかなく、常にこのような静寂の中にいるのであった。

 煙草が半分ほど灰になったころ不意に周囲の音が止んだ・・・・・。

 止んだというよりは、そこだけ空間が切り取られたような深い深い静寂である、喧騒もなかなかに鬱陶しいものではあるが、静か過ぎる静寂もまた鬱陶しいものである。

 痛いくらいの静寂の中で何者かの気配を男は感じた――――

 古来、人はその気配をものの気(け)と呼んでいた、ものの気はやがて森羅万象八百万の神々とされ崇拝して来た。

 崇拝も薄まるとやがて人々はものの気をものの怪と呼び、畏怖と恐怖を抱き始めたのである。

 だだ文明の進んだ現代においてものの怪はおろかものの気を感じることは極々まれであり感じたとて気にも留めまい。

 ただ確かに今、この男が感じているのは、まごうこと無きものの気であろう。

 男はそれに動じる気配もない。なぜならば幼少の頃よりそう言った胡散臭い物や眉唾物の話が大好きであった男にとってわくわくすることはあっても恐怖を覚えることはないだろう。

「さぞや名のある方と思いますが何のようでしょう?」

 そう男は声を変えずにその気配へ声をかけた――――。





動画の方はこちらをどうぞ⇒mylist/60911641
 

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