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小説「トキメキア・セカンド」Hisoka柊

「トキメキア・セカンド」第三章 シュート(1)

2015/06/21 20:48 投稿

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「それ、いつの話なの?」

洋風のテーブルの上には、ディーヴァお手製の料理が並んでいた。
面白いのは、部屋もテーブルも椅子さえもアンティーク調のヨーロピアンなのに
並べられてるお皿には「肉じゃが」や「焼き鮭」や「きんぴらごぼう」。
お吸い物まで純和風だった。味はもちろん文句のつけようが無い。

「うちらが生まれる前の話で…25年ぐらい前かなぁ」

「ほう…で?…その後、どうなった?」

「その梅田って政治家がね、そいつの一番弟子になったわけよ」
箸をすすめつつ、話の続きを促す。
「…テレビで奇跡を見て…その方の信者が現れてきました…」
「助かりたい奴はいっぱい居るだろうしなぁ、当然そうなるだろうなぁ」
「そいつは光の子と呼ばれた」
「あぁ!光る…からか?」
「…神の子って…意味もあります…」
「でもな、そいつの目的は人助けなんだろ?悪い奴じゃ無いんじゃない?」
「…」
シュバとディーヴァは顔を見合わせる。
「…その方は…自分を神だと名乗ったのです…」
病に倒れた人に奇跡をおこす救世主。
神と名乗ってもおかしくない…
「…その神の名のもとに…多くの不幸が訪れました…」
ディーヴァは目を伏せた。

中にはまだ猜疑的な見方をする者もいた。しかし、多くの人が光の子に群がり助けを求めた。
梅田は寄付金を募り、巨大な神殿を富士山の裾野に作り始めた。

「梅田が作った宗教団体。あの白装束の一団、あれがそうだよ」

「あぁ…何か…嫌な雰囲気だったなぁ」
「教団が出来るとさぁ、他の宗教団体とモメ始めたのよね~」

「ん~。それまでお布施で成り立ってた宗教は…たまらんだろうなぁ…」
「あっちこっちでね。抗争や殺し合いまで…でもね、ちょっと不公平な感じ」
「なんで?」
「だって。光の子の方の信者はほら…生き返っちゃうんだもん」
「あぁ…それじゃ勝負にならんなぁ…」

思想的な宗教と違って、実践的に奇跡を起こしていく宗教。

爆発的に信者を増やしていった。
光の子の信者は、抵抗する他の宗教団体を淘汰して行った。

「そゆの、ぜ~んぶ一番弟子の梅田が仕切ってたのよね。光の子の窓口も秘書にやらせてね。信者を増やして、しこたま金を溜めたって話しだよ」
「光の子ってか、それはもう金の玉子を生むニワトリだなぁ」
「…他の政治家も…自分や身内が可愛くて…その梅田を通して光の子に会いに行ったそうです…誰もが光の子の恩恵を受けようと…おのずと権力は梅田に集まりました…」
「その梅田ってやつ。総理大臣になっちまったよ」

光の子は一人だ。
時と言う制約の中では、奇跡を直接受ける人間数にも限界があった。
そこで、光の子や医師や科学者が集まり、ひとつのプロジェクトが始まった。
「光の子の細胞をいじってたらさ、特殊な細胞ってのが発見されちゃったみたい。早い話しが、光の子のクローン細胞」
「クローン?…何人もの光の子を作ったって事?」
「いや、そこまで複雑じゃないよ。だけど…もっと始末が悪い…」
「…何度かお聞きしたと思いますが…受体と言う言葉を…」
「あぁ…」
なんだろう?とは思っていた。
「左手の手のひらにね…やつのクローン細胞を移植する」
「すると、どうなるんだ?」
「…奇跡の恩恵が…離れていても受ける事ができます…」
「画期的だな」
「やつはね、生物としてやっちゃいけない一線を超えたんだよ」

食事が終わり、ディーヴァがお茶を入れてくれた。

「おっちゃん、街を歩いてて何か気が付かなかった?」
「何を?」
「老人。見かけなかったでしょ?」
そういえば…街を歩いてる人は…みな若い感じだった。
ただの若者が集まる街だと思っていたが…
「確かに…。ここのお婆さんぐらいしか見ていない…」
「…受体には思わぬ副作用があったのです。副産物とでも言いますか…人の細胞の成長のピークは25歳ぐらいと言われていますけど…」
「あぁ。そのくらいから衰えが始まるのかな?」

「…受体を受けると…受けた人の老化した細胞は…そのピークぐらいまで若返ります…子供の場合はピークで成長が止まります…」
「すごいなぁ…それって。不老不死ってこと?」
「…そうです…生物としての理りを超えたものです…」
他人の細胞が移植され、それに侵されていくイメージが思い浮かんだ。
自分が自分で無くなっていく…そんな気がした。
「んでね…受体した奴ら、飯を食わなくても生きて行けるのね」
「食わなくても死なない、って事か?」

「…そうです…食事は習慣としては残っています…と言うか…趣味のような物になってしまいました…貧しい者は食事を取りません…」
「んじゃ、働かなくてもいいんだ」
「いや、奴隷だね」
「どういう事?」
「毎月お金を取られるんだよ。ガッポリね」
「タダじゃないんだ…」
「…受体を受けた男性は、かなりな金額を教団に納めなくてはいけません…仕事ができる年齢になると強制的に…」
「女性は?確かお婆さんの話だと…受体はされないって、言ってなかったっけ?」
「そう。かわりにね、週に何回か男から光りを貰わなきゃなんない。頭に左手を当てられてね。入信したらお金を取られるのは一緒だね」
「そいつは…大変だな…もし金を払わなかったら?病気になって働けなくなったりとか」
「信者はね、病気になんないの」

「あ!そっか…」
「でもね、たまに居るらしいよ。遊びが多くてお金が払えなくなる奴」

「…そう言う方は…不適格者として…男性は受体された手首を落とされます…恩恵を受けられなくなった男女は…急激に老化が始まります…」

お茶も終わり、ソファへと席を移した。
古そうなソファだが、座り心地がいい。

不老不死の夢。かつて多くの権力者が渇望してやまなかった魅惑の果実。
受体は、教団に入信する事で受けられる。
毎月納める金額は平均収入の70%ぐらいに設定された。

実験が成功し、国民への提供が始まってからは多くの男性が病院に列んだ。

女性でも移植の実験はされたのだが、うまくいかなかった。
光の子が男性であることが原因だと言われている。
手のひらに移植された細胞は、男性の細胞の中では生き続ける事ができた。しかし女性の場合は一週間ほどで死滅してしまった。

「…始めの頃は…受体は強制ではありませんでした…入信を拒むものも多く、私達の一族もそうでした…人は生き、そして死ぬのが自然だと考える知識人も多かったのです…」
「でもね、死期が近づいてきたら、みんなビビって入信しちゃう。潔く死を迎える人はごく僅かだったらしいよ」
「…教団との抗争も、他の宗教に勝ち目はありません…国民の殆どが入信して行きました…」

「あぁ!そういえば、あの梅田ね。若返って今も総理やってるよ。20年近くも独裁しやがって…国の呼び方まで変えやがった」
「…10年ほど前です…国民の90%が信者になった記念にと…日本と言う由緒ある国名を捨て、トキメキアと言う新しい国名に変わりました…」
「トキメキア?どういった意味?」
「わかんない」
「…その時から、私達一族の衰退は始まったのです…」






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