「ねえねえ、ママ、ぼく『沖縄』に行ってみたいな」
今年小学校に入学した息子がうれしそうに私に話しかける。さっき見ていたテレビ番組の影響だろう。芸能人が沖縄の見所を紹介する一般的な旅番組だ。しかしそこに映る沖縄の姿は、もう私の知っている沖縄ではなかった。
「いつも暖かくて海も綺麗で美味しい料理があるんだって」
最近の様子はテレビでしか知らないが、昔はもっと綺麗だった。
今では海底資源採掘の工事が始まり、サンゴ礁は殆ど全滅らしい。とてもダイビングなどすることはできない荒れようだ。
それよりなりより、今では沖縄で日本語は通じない。島民の8割は漢民族に取って代わられたらしい。
『琉球自治区』それが今の沖縄の名前だ。近年になっては島に渡れるのも日本人では本当に限られた人間だけとなっている。
「いま行くのはムズカシイわね、パスポートも必要だし、普通の日本人には渡航許可が降りないのよ」
「でも、テレビに出てる人はいっぱい行っているよ?」
不思議そうな顔を擦る息子。
「そうね、マスコミは沖縄が今では完全に中国の支配下『琉球自治区』であることのPRを兼ねているからね。ママが若い頃は何度も行ったことがあるのよ」
「ぼく知ってるよ。沖縄って昔は日本だったんだよね」
「そうよ、沖縄だけじゃなく、尖閣諸島や竹島に対馬、北方領土だって日本の島だったのよ」
2009年、民王党が政権をとってから日本は変わってしまった。弱腰外交と批判されながらも一線を守ってきた日本だったが、民王党政権下では転がり落ちるように国力を弱体化させていった。
「ねえママ、竹島ってなに?」
「そうだったわね今は独島って呼ばなきゃいけないんだったわね」
「ああ、知ってる。学校で習ったよ。独島って日本が違法に侵略していた島なんだよね。沖縄も日本とアメリカが侵略したのを中国が助けたんだよね」
「何を行っているの、今学校ではそんなふうに教えているの?確かに琉球王国に攻撃を仕掛けて属国にしたのは日本だけど、2000年はじめまでは確かに日本の領土として世界的にも認められていたのよ。それを無理に独立させて駐留軍を口実に事実上支配したのが今の中国なんだから。日本は何も悪いことなんてしていないのよ」
「えー、でも先生言ってたよ。『昔の日本人は酷いことをしてきたから僕達も世界の人達に謝らなきゃいけない』って」
「そんなことないのよ、確かに戦争はあったけど、けっして他国を侵略しようとしたわけではないの。白人たちの無理な要求をに対して反抗しただけなの。それにともなってアジアの多くの植民地を開放してきたのよ」
人種差別の撤廃を訴え、白人にる支配に反旗を翻した英霊たちの戦いは日教組が支配する今の教育ではもはや語られることはない。
靖国から切り離された英霊たちは今では記念碑などという縁もゆかりもないただの石碑に封じられてしまった。
すでに靖国はその意味を果たさないただの神社に成り代わってしまっている。
私の知る限り、祖先の栄誉ある日本人の話を聞かせるが、息子は耳を傾けてはくれない。
「ママ、隣のおばちゃんもよく戦争の話をするけど、全然そんな話しないよ」
裕福ではないうちは、主人の稼ぎだけでは生活が厳しく、私も一日の殆どをパートの仕事に充てている。
TPPの締結により多くの低賃金労働者が日本に渡ってきたため私の時給も400円台まで下がった。しかし文句を言えばこの仕事もなくなってしまう。
日本人意外の労働力は余るほどいるのだ。
おとなりの金田さんはほとんど仕事をしていないが、生活保護をもらっているため遊んでいても生活に困ることはない。
私がいない間息子は、年の近いこどものいる金田さんの家で遊ぶことが多かった。
「ねえ、金田さんの家では他にどんな話をするの?」
「うんとね、韓国のかっこいい侍とか忍者の話してくれるんだ。ぼくも大きくなったらコムド習いたいな。真似っこの日本の剣道よりもかっこいいもん」
息子の言葉に不安を感じた私は、諭すように息子に言い聞かせる。
「違うのよ、侍も忍者も剣道も、全部日本の伝統なの。真似したのは韓国なのよ」
「ママ……さっきから嘘ばっかり。テレビも先生も、誰もママみたいなこと言ってないよ。ママは嘘つきだ。嘘つきなママは嫌いだ」
自分を否定されたと感じたのか息子は顔を赤くして私に怒鳴り散らす。それに対し私もつい声を荒げてしまう。
「いい加減にしなさい!あなたは日本人なのよ。先祖代々受け継がれてきた日本の伝統を次世代に伝える大切な役目があるの。目を覚ましなさい!」
私の怒声に息子は声を上げて泣きだしてしまった。ちょっと言い過ぎたかもしれない。悪いのは息子ではなく間違った歴史認識を植え付ける日教組であり、マスコミなのに…
私は泣き続ける息子をそっと抱きしめた。
その時、玄関の扉が乱暴に叩かれた。何事かと考えるまもなく、鍵は無理やり壊され、数名の男女が土足のまま家の中に入ってきた。
あまりの出来事に声も上げられないでいると、一人の男が私の手の中から息子を奪いとった。抗議しようとする私を制して目のつり上がった女性が話しかける。
「あなたは今この子に虐待しましたね?」
「な、何を言うんですか、ちょっと叱っただけですよ」
「虐待している親はみんなそう言うんです。息子さんはひとまず私達、児童相談所が預からせて頂きます。意見は弁護士を通して裁判でお願いします」
「そんな、なんの証拠があって」
「私達に虐待の通報があったのですよ」
「一体誰が?」
その答えはすぐに分かった。開け放たれた玄関からこちらを覗きこむ顔。あれは隣の金田さんだ。
「金田さん!あなたね、虐待だなんて通報したの。ちょっと叱っただけよ、それをなんで……、それに私の息子に自虐的な歴史観を教えこまないで!あなた在日韓国人なんでしょう?日本で生活保護受けるくらいなら韓国に帰ってよっ!」
息子を取られパニックになった私は今までの積もり積もった不満を爆発させた。しかしそんな私の姿を見て、金田さんはうっすらと笑を浮かべる。
「ああ、こっちですこっちです。この中の女が私のことを『在日韓国人のくせにっ』て差別したんですよ」
金田さんはオーバーアクションで差別を訴える。すると今度は玄関から黒い制服に身を包んだ『人権擁護委員』が家の中に上がりこんできた。
「な、なんですかあなたは」
「ワタシハ人権擁護委員デス。アナタ在日韓国人差別シタ」
「別に差別したわけじゃ……それに、人権委員ってアナタも外人じゃない」
「マタ差別デスネ。ワタシハ地方参政権持ッテマス。参政権アレバ人権擁護委員ナレル。法律デ決マッテマス」
人権擁護委員を名乗る男は人権保護を理由に自宅の家宅捜索を行った。
警察に連絡をいれたが対応は無理とのことだった。
権力的に人権委員会は警察よりも強い力を持つ。一般人に抗うすべはない。
「こんなに人権侵害を犯していては息子さんとは二度と合わないほうがいいですね。大丈夫、息子さんは私達がきちんと教育してあげますよ」
人権委員は家の中から日本の歴史に関する資料を根こそぎ持って行ってしまった。そして息子も『保護』されてしまった。
今の私に裁判するお金などありはしない。それどころか人権侵害で刑が確定すれば30万円からの罰金が課せられるだろう。
もう私には何も残っていない。お金も、子供も、生きる気力も……そして日本というこの国そのものも、もはや風前の灯だ。
この話は、今のところ、まだ、フィクションです。今はまだ・・・
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