柊幸のショートショート

【ショートショート】大冒険

2013/05/24 22:00 投稿

  • タグ:
  • 小説
  • ショートショート
  • 冒険
  • 勇者

 とある国に勇者と呼ばれる青年がいた。勇者は許嫁でもあるこの国の姫をすくため冒険の
旅へと出発した。

 旅の仲間は力自慢のマッチョな戦士と強力な魔法を操る魔法使いの爺さん。そして紅一点、
まだ見習いの若い僧侶。勇者たち四人は姫がとらえられているという魔王の住まう暗黒城を
目指し旅を進めた。

 旅は過酷だった。次々に襲い来るモンスターを爺さんの魔法で弱らせて、勇者と戦士の攻
撃でとどめをさす。ひたすらこれの繰り返しだ。もちろん時にはモンスターの攻撃で怪我を
することもあった。そんな時は僧侶の回復魔法で治療を行った。

 戦闘には向かない彼女を勇者が体を呈して守ることもあれば、逆に毒に侵され生死の境を
さまよった勇者を彼女が献身的な介護で助けることもあった。

 ともに命がけの旅を進めた男女に特別な感情が湧きあがる。それは仕方のないことだった。
 魔王の城を直前にして勇者と僧侶はついに越えてはならない一線を越えてしまった。

「ああ、なんてことだ。もう魔王の城は目前だというのに……」

「安心してください。このことは二人だけの秘密にしましょう。大丈夫です。私は二番でも
いいんです……」

 そう言って抱きついてくる僧侶のことを信じる他に勇者には方法がなかった。

 勇者一行はついに魔王の城に乗り込んだ。中で待ち受けるモンスターは今までとは比較に
ならないほど強力になっていた。しかし勇者にとってそんなことはたいした問題ではない。
今はもっと大きな問題が浮上しているのだ。

 彼女はああ言ってはいたが、このまま姫を助けたらこれまでの旅以上に過酷な修羅場が待
っているのは必至だ。今も背中に彼女の熱い視線を感じる。ある意味これはモンスターの攻
撃より精神的ダメージが大きい。

 よい解決策も見つからないまま、勇者は魔王の部屋までたどり着いてしまった。意を決し
て最後の扉をあけると、そこには黒いマントをひるがえらせる魔王の姿があった。

「勇者よ、よくぞここまでたどり着いたものだ。その努力に免じて、このわし自らがお前を
地獄へ落としてやろう!」

「き、貴様こそ、この私が地獄に送り返してやるぅ……」

 魔王の言葉に、自ら地獄に片足を突っ込んだ勇者が返す。ここにきて背後から感じる不穏
な空気は一段と濃くなっている。ちらりと僧侶を振り返ると「姫を助けた途端すべてをぶち
まける」そんな意気込みすら感じる表情をしていた。

(このままわざと魔王に負けるのがいちばん平和的な解決なのではなかろうか?)勇者はそ
んなことまで考えるようになっていた。

「勇者よ、何をおびえている?わしが怖いか?」

 勘違いをした魔王の言葉でついに勇者は剣を抜いた。いくら考えても結論は出ない。もう
後は倒してから考えようと、勇者は開き直っていた。

「いくぞ、覚悟しろ魔王!」

 勇者が切りかかろうとする、まさにその時、勇者の前に立ちはだかる人影があった。 

「魔王は殺させません」

 両手を広げ魔王をかばうように現れたのは、まさに勇者たちが助けに来た姫、その本人だ
った。

「姫、何を?」

 驚きを隠せない勇者を睨みつけ、姫は言った。

「彼は優しいのよ、とらえた私を気遣っていろいろ世話をしてくれるし、いつだってそばに
いてくれる。貴方はいつも冒険、冒険ってちっとも私のことなんかかまってくれないじゃな
いの!」

 誰もいない城の中、常に二人で過ごしていれば恐怖のドキドキが恋のドキドキに代わる。
それは仕方のないことだった。 

  おわり

コメント

コメントはまだありません
コメントを書き込むにはログインしてください。

いまブロマガで人気の記事