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小説:にわかが語る(夏のファミレス編:後半)

2013/08/12 12:00 投稿

コメント:4

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 「お前ら、女は太股のさわり心地だろうが。」

 これが第一声である。注意するのかと思いきや、参加希望者だったとは思いもしなかった。

 見た感じ高校生は四人組とは面識があるようだったが、仲が良いという訳でも無さそうで中学生は驚いてぽかんとしていた。塾での知り合いかもしれない。

 女性に対する新しい視点、「さわり心地」追加された。しかし、さて、これは喜ばしいことなのだろうか。

 四人の中学生のボルテージが急速に冷めていくのを見た。微妙な顔つきになって乱入した高校生を見ている。

 「お前ら、触ったことないんだろ。触ったこともないくせに女について語るんじゃねぇよ。」

 高校生は、中学生を見下す口調で、優越に浸りながら、偉そうに語り始めた。チビが「あぁ」「はぁ」とか言って一応相づちを打っていたが、顔が引きつっていた。空気が全く読めずに語る高校生を見る中学生が「すごいっすね、先輩ぱねっす」とハナクソをほじりながら心の中で言っているのが見える様だった。

 語る高校生の話は正直俺も興味が無かった。たぶんさわり心地に関する持論を展開していたのではないだろうか。女に関する自分のこだわりに関する理論なんぞ聞いたところでどうにもならない。俺は本に視線を移して先を読み進めることにした。

 しかし、とにかくうるさい。四人組は静かになったが、それ以上に高校生がうるさくてしょうが無い。声色が偉そうなところが余計に鼻について不愉快だった。

 興奮し気持ちよくなって語っていた高校生がひとしきりしゃべり、一息ついた。もう中学生はげっそりしていたが、その間隙に今まで黙って聞いていたメガネが一言聞いた。

 「そうなんですか。じゃぁどれだけ経験があるんですか?」

 「え?」

 高校生の輪郭が揺らいだように見えた。明らかに動揺している。

 「ば、ばか、あるにきまってるだろ。」

 どの位あるのかと聞かれたのに、有るか無いかの答えになっている。これは大して経験が無いと容易に想像できた。童貞喪失の高揚感がしばらく続く奴もいるからなぁ。

 メガネがあからさまに馬鹿にしたと解らない程度に鼻で息をついた。

 丁度その時高校生に近づく人があった。先ほどあらたに入店してきたのだろう。俺の横を通り過ぎるときちらりと見たが、かなりかわいらしい顔立ちで、惜しげもなく見せている白く細いつややかな足がまぶしかった。

 年齢は高校生と同じくらいだろうか。

 女の子は高校生の目の前に立って言った。

 「ちょっと、いいかな。」

 「え。な、なに?」

 ほほえましいくらいにウブな反応でさっきまでの偉そうな雰囲気が跡形もなく消し飛んでいた。顔は話しかけられたことでうれしいのかにやけていた。お気楽な若者らしい反応だった。自分に興味があると期待して話かけられたと思ってどぎまぎしている。

 女の子は冷たい口調になって続けた。

 「邪魔。」

 「あ、すみません。」

 メガネが立ち上がりながら言った。鞄を持って高校生を手で制するようにしてどけて、ボックス席をでた。突然の出来事で皆がぽかんとしていた。俺もしていた。

 まさかメガネが、リア充だったとは、想像できなかった。だから会話に参加していなかったのか。さっきまでスマホをいじっていたのは連絡を取り合っていたのだろうか。

 「わるい、金、明日払うから立て替えといてくれるかな。」

 メガネが手を合わせてチビに向かって言った。チビは何とか気を持ち直し、辛うじてといった感じで返した。

 「い、いいけど。」

 「わるい。じゃぁ、俺、先帰るわ。」

 気の抜けた声で三人の中学生は「ああ」とか「うん」とか。メガネは頷くと「行こう」と腰の辺りを自然に触れて促した。触れたことについて当然のように反応がないことを見ると、スキンシップは二人の間では多い様だ。

 女の子とメガネがその場を離れると、まるで異次元の穴がそこに開いたかのような感覚を覚えた。まるで通夜の雰囲気だった。空間のエネルギーの形を変えて、そのままごっそりと二人が奪って行ってしまった。

 雰囲気に耐えられなくなったのか、高校生は黙ったまますっと席を離れていった。残された中学生三人は離れていく高校生を見送りながら、何も言わなかった。

 高校生、形無しである。無様、であった。そして、いい気味だった。

 にわかが語るな、とはよく言う。が、実際はにわかだから語るんだよな、と俺はしみじみ思ったのである。自分の理論を補完するために対話を求める、そういう面もある。

 俺は振り返って二人が出て行くのを見た。店から出て行くとき、メガネは馬鹿にしたように高校生の離れていくのを見たような気がした。女の子の方はそんなメガネをいぶかしげに見ていた。恐らくこのあと二人の間で恥ずかしい高校生の話がされるに違いなかった。

 入り口では丁度、他の客の女性が入ってきたところで、女の子と入ってきていた客がぶつかってしまったのが見えた。

 メガネは店内を、女の子はメガネを見ていながら歩いていたのだから、当然これはメガネと女の子の不注意だ。また、女の子が出て行くときに女性は少し体をよけていたのにそこへ突っ込んでいったように見えた。

 しかし、それなのに、女性の方がなぜか謝っているようだった。

 俺はそれを見て店内の時計に目を向けた。もうこんな時間か、と思う。約束の時間を三十分ほど過ぎていた。時間までには読んでいた文庫本を読み切ろうと思っていたのだけど、半分くらいしか読めていない。思いの外中学生の会話を盗み聞く事に熱中していたようだ。

 もう一度振り返ると、メガネと女の子は女性を一瞥しただけで何も言わずに出て行くのが見え、女性が後ろ姿に「済みません」と言う感じで軽く頭を下げた。

 女性が店内に入ってきたのを見て出て来た店員に女性がこたえる。

 「あ、ごめんなさい。待ち合わせなんです。もう来ていると思うんですけど。」

 軽く手を上げた俺に気付くと「いた」とうれしそうに笑う。店員に会釈してから、俺のいる席の相対に座った。

 「ごめん。まったでしょ」

 「いや、気にしてないよ。ちょっとした退屈しのぎもあったしね」

 「? へぇ。」

 「それに、涼んでたっていうのもあるし。」

 「あ、そっか。冷房ないんだっけ。最近暑いもんね。」

 「そうなんだよ。だからまぁ、居座る口実が出来て良かったよ。」

 「あはは。」

 彼女は楽しそうに笑った。

 先ほどの中学生達をみると、ショック状態から回復を始めたようだった。

 「クソ、あいつ彼女いたのかよ。」

 「しかもめちゃくちゃ可愛くなかった?」

 「うん、うらやましいな。」

 チビが毒づき、デブとイケメンはねたんだ。

 「いや、うらやましくなんて無いね。だっておっぱい無かったじゃん。」

 「あ、結局そこ行くの?」

 「でも、うらやましいんでしょ。」

 二人に言われて、チビは半分笑いながら軽く舌打ちをした。

 「もう、今日の支払い全部あいつ持ちにしようぜ。」

 三人が笑って、またボルテージは上がりつつあった。皆メガネを批判しながらもメガネに対する嫌悪はなく、楽しそうだった。

 そうだ、大体アホらしいと思われることを語るのは議論をしたいのではない。そういうことを言い合ってバカなことを話して、ただ、楽しみたいだけなんだ。そして、楽しむにはそれに関する事で同レベルにいる人が良い。内容が正しいかどうかは関係ないのだ。

 「ね、私、まだお昼食べてないんだ。食べていって良いかな。」

 「いいよ。」

 俺の答えを聞くと、彼女はうなずいてメニューを広げた。

 俺は、そういえば自分も昼食を食べていないことに気がついた。サラダやサイドメニューじゃあまり腹の足しにはならない。その事実に気がつくと唐突に腹が減ってくるのだった。

 彼女を見ると「どれにしようかなぁ」とつぶやきながら幸せそうだった。こんなチェーン展開されたファミレスなのに、安いなぁ。なんて思いながら、その顔を見ると俺の方も似たような顔になっていることに気がつくのだ。

 俺は心の中で言った。見ろよ餓鬼ども。

 女の価値は胸の大きさでもないし、さわり心地でもない。顔の良さでもスタイルの良さでもない。

 2人でいるときにこうして幸せそうに笑ってくれるのが一番なんだよ。

 俺が彼女を見ていると、彼女はそれに気がついたのか「なに」と小首をかしげた。

 「いや、おれも食おうかなぁと思ってさ。」

 「じゃ一緒に見よっか。」

 笑って彼女はメニューを2人の間に広げた。



コメント

pe
No.2 (2013/08/12 21:44)
 メガネが彼女居て、性経験豊富で語る必要すらもないってのは分かるなぁ。
 知らない事の方が話したくなるってのもわかるな~。童貞こそ、セックスに理想を抱きがちやし、経験しちゃうと、こんなもんかってなっちゃって、夢も希望も語りたくもなくなるものだし・・・w
 夢は夢で、熱く語れるには、夢が必要で、経験しちゃうと、そうしたバカな妄想もできないってのが、難しい。

 まぁ、どっちもどっちかなって思ったりw 経験しちゃって現実見て、他の3人を上から目線で眺められるし。経験してない3人も3人で、夢があるから、話が止まらないってあるし。

 おもしろかったです!
オフウ (著者)
No.3 (2013/08/13 02:52)
>>1
コメントありです。

気に入っていただけて幸いです。


オフウ (著者)
No.4 (2013/08/13 03:00)
>>2
コメントありです。

バカは同じくらいのバカ同士が一番楽しいんですよね。

そして、知らないからこそ理想が出てくるもんです。
逆に知らない方が夢を見ていられるんです。

 そういや、私工学系の学校でているんですけど、設計の分野では工場でどうやって作るか詳しくない方がいい事もある、と言うのを聞いた事があります。
 知らないというのも価値はあるんですよね。
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