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キャプテン・ムラサのスタートレックSEASON2 第一話前編

2015/03/01 18:25 投稿

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キャプテン・ムラサのスタートレック シーズン2


第一話「帰ってきた英雄 前編」


 宇宙はとても静かだ。そして沢山の光に満ち溢れている。地球人が便宜的に数字を与えた名もなき恒星の放つ光が、はるか遠くへと旅立っていく。その光の中から円盤状の物体が姿を見せた。次第にその物体は、ただの円盤ではなく円筒状の構造物に棒状の機関が二本付いている。宇宙船だ。恒星の光が、円盤部を照らすと船の名前が見えた。

“NCC-1701 U.S.S.ENTERPRISE”

 地球人はついに深宇宙探査を実現した・・・わけではない。この宇宙艦は、地球の忘れ去られし秘境、幻想郷に所属する。科学と幻想を調和させた藝術作品だ。エンタープライズ号は今やこの宇宙域で最も有名な艦である。20年前、月の政変を解決し惑星連邦樹立のきっかけを作り、5年間の調査飛行を達成して幻想郷に多大な知識をもたらした。

 艦長室ではひとりの舟幽霊が静かに日誌をつけていた。
「航星日誌、宇宙歴5037.47。我々は未開の星域の探査任務の為に一年間の遠征に出ている。ここ数年、外交任務ばかりだったので久しぶりの冒険に私もクルーも皆、心が踊る。」
村紗水蜜大佐はコンピューターの記録を止めて、椅子に腰かけた。と、次の瞬間ブリッジからの呼び出しが入った。彼女は帽子をかぶりなおして立ち上がると、部屋を出ていった。

 「艦長、前方に惑星を発見しました。信じがたいですが、大気があります。生命体が存在可能な環境にあると思われます。」
パチュリー・ノーレッジ副長がディスプレイを眺めながら話す。村紗が艦長席に着くと今度は射命丸文が操舵席から立ち上がり、メインビューワーを指さして言った。
「周りに恒星は見当たらないですねえ。これ、自由浮遊惑星ですよ。珍しい。」
村紗はしばらくその惑星を見つめ、調査するかどうか考える。ブリッジの機械音やセンサーの音だけが響く。そしてクルー達を見渡して笑顔を見せた。
「なるほど・・・じゃあ寄り道していきましょうか。太子、ブリッジをよろしく。」
豊聡耳神子は頷くと、通信用コンソールから離れて艦長席に着いた。操舵席には鈴仙・優曇華院・イナバが、科学コンソールには多々良小傘が着席、河城にとりは転送室に準備の命令を出した。常識的に考えて、艦長が上陸任務に赴くことは問題ある行動だが、規則を無視するのは艦長の特権だ。村紗、パチュリー、射命丸はターボリフトに乗り込むと転送室へと向かった。未知の世界に期待を膨らませながら。


エンタープライズが発見した自由浮遊惑星は恒星からの光を受けていないにも関わらず、局所的に青白く輝いていた。その理由は地上に降り立つとすぐに解った。発光性のある樹木がジャングルを形成しているのだ。村紗たちは少し開けた場所に再物質化して転送された。
 村紗は深呼吸をして、空気の匂いを嗅いだ。周りの植物から甘い香りが感じ取れる。そして冗談交じりに二人に訊いた。
「さて、まずは旗でも立てようかしら?」
パチュリーは調査用のトリコーダーとスキャナーをいじりながら村紗の質問に真面目な回答をした。
「幻想郷に国旗はないわよ。」
それに呼応するかのように射命丸が返した。
「だけどもうじき設立されますよ、惑星連邦。」
三人は顔を合わせると希望に目を輝かせた。村紗は薄暗い藍色の空を見上げると呟いた。
「ええ。私たちの努力の結晶がね。」


 その頃ブリッジでは他の上級士官たちがたわいもない会話を繰り広げていた。しかし口を動かしつつも任務をこなしている。神子中佐はメインビューワーに表示された惑星の映像を眺め、命令を出す。
「艦長たちが地上で調査をしている間に我々は惑星全体のスキャンを終わらせておこう。まずは赤外線からだ。」
河城にとり機関部長は神子が艦長席に座っている様子が違和感なく馴染むので、つい面白くて茶々を入れる。
「神子さん、第二副長がすっかりサマになってきたねえ。」
にとりの言葉を聞いて、鈴仙は神子の昇進の話を思い出して振り向いた。
「そういえば中佐は来年からエクセルシオールの艦長なんですよね。おめでとうございます。」
まだそのことを知らなかった小傘は驚きと友への心からの賞賛を送った。
「すごーい!おめでとう!」
「ありがとう。にとりも機関長として来てくれるんだ。これから寂しくなるね。」
「そんな台詞が聞けるなんて驚きだ。」
にとりは神子をからかったものの、実のところ彼女もエンタープライズを離れるのは寂しいと思っていた。なにせ20年以上も乗っている艦だ。もはや家同然の場所となっている。エクセルシオール号は何度もトランスワープ航法という新機軸の実験に使われ続け、結局それは実現しなかった。しかし改良に改良を重ねてようやく就役した艦だ。素晴らしい最新鋭艦であることには間違いない。この調査任務が終わったら、惑星連邦の設立と同時に就航する予定だ。にとりは親友の横顔と同時にこのブリッジの光景を目に焼き付けるのであった。

「でも確かに、連邦が設立されたら色々と変わっていくのよねえ」
溜息交じりに鈴仙がぼやく。彼女もまた、エンタープライズを我が家の様に思っている。今の神子の言葉で、長年共に過ごしてきた仲間たちといつかは離れ離れになることを思い知り、ついついノスタルジックになってしまった。そんな繊細な鈴仙を見て小傘は励ますように話しかける。
「もう鈴仙ったら、そんな顔しないで。私がついてるでしょ?」
鈴仙が余計なお世話だと言い返すと皆が笑い、ブリッジはいつもの士官たちの団欒の空気に包まれた。

 上陸班の三人は神秘的な光に包まれたジャングルを進んでいくと、やがて視界が開けて崖の上に出た。目の前には山岳地帯が広がっている。そしてその山も青白く発光していた。村紗は足元に生えている半透明の花を見つけて屈みこんだ。
「これは今までにないタイプの植物ね。というより、これは植物なの?触ることが出来ない。まるで幽霊みたいよ。」
パチュリーはその不思議な花にトリコーダーを向けてスキャンを開始した。
「・・・トリコーダーは奇妙な数値を出しているわ。その花は原子レベルでこの時空連続体を行ったり来たりしてる、不安定な存在よ。」
彼女の分析通り、その花は消えそうになったり輪郭を取り戻したりしている。
「というより、この惑星自体がどうも不安定なんじゃないですか?さっきからあの山、透けては元の色に戻っていますし。」
射命丸は不安な声をあげる。千年以上生きているとある種の勘が身に付く。そして彼女の勘は当たっていた。突然、地面が揺れ始めたのだ。轟音が響き渡り、辺りの景色が消滅し始めた。「一体どうしたっていうの!?」
激しい揺れに身体が倒れぬように足を踏ん張りながら村紗が叫ぶ。確実に、何かまずいことが起きていた。


 軌道上からも惑星の異常は目に見えて明らかだった。スクリーンには星を丸ごと飲み込んでしまうほどの巨大な裂け目が発生しているのが映っている。にとりはスキャン結果を見るまでもなく、それが極めて危険な状況であると判断した。慌てて通信席へ走る。
「艦長!!問題発生だ!!惑星の周りに時空の裂け目が出現した!このままじゃ惑星ごと飲み込まれるぞ!」
神子はそれを聴くや否や、転送室へ艦内通信をかけた。
「転送室、至急艦長たちを収容しろ!」
だが小傘はセンサーの示した異常な数値を見てその命令に待ったをかけた。
「イオン波の干渉が激しいわ。転送パターンが乱れて同時に収容は無理だよ!」

 地上では村紗たちが黒い影のような雲から全速力で逃げていた。幻想郷及び幻想結界が無い場所では空を飛べないので走りだ。パチュリーが早くも息切れを始め、転んでしまい三人は立ち止まる。
「だったら一人ずつ転送室して!!早くしないと三人ともお陀仏だわ!まず文からよ!」
通信でブリッジの会話を聞いていた村紗はコミュニケーターに向かって怒鳴った。
「みーさん!!まず貴女からです!」
射命丸は考えるまでもなく村紗を先に行かせるつもりだ。それはパチュリーも同じだった。「そうよ。にとり、水蜜をお願い。」
親友二人が何の躊躇もなくそんなことを言うので村紗は困惑した。だが彼女の意志は変わらない。自分よりも、二人の命の方が大切だ。
「だめよ!にとり、今のは取り消しよ。」
村紗は一度決断を下すとどこまでも頑固だ。パチュリーも射命丸もそれをよく知っていた。二人は目を合わせると、お互いに何をしようとしているか悟り、頷いた。僅かに身体の中に残っている幻想の力を絞り出して凝縮エネルギーの弾幕を作り、村紗へ向けて発射した。彼女が気絶したのを確認すると、パチュリーはコミュニケーターを取り上げて通信を送った。
「にとり、水蜜を転送して。これは命令よ」
にとりは何が起きたのか、そしてパチュリーの意図を察して、転送シークエンスを開始した。
「・・・了解。」

 「・・・あれ?私は・・・パチュリー!?文!?」
転送室に村紗が再物質化して現れた。すぐに目を覚ました村紗は何が起きたのか一瞬理解できなかったが、艦内が激しく揺れているのを感じると自分に起きたことを把握した。
「次は副長を転送するよ!・・・パターンが安定しない!!転送できない・・・」
惑星の大気に異常なイオン嵐が発生し、身体を素粒子レベルに分解することが出来ないのだ。にとりは物凄い速さで転送パターンの数値をいじっているが、やはり不可能であった。
「うそでしょ・・・?二人とも聴こえる!?」
村紗は突然の危機に吐き気を覚えながらも、ふらっと立ち上がり転送機の隣にある通信システムをいじった。すると二人の声が聞こえた。
「どうやら八方ふさがりのようですね・・・。みーさん、エンタープライズを頼みましたよ。」
射命丸は極めて冷静に、自分の最期を悟ったかのように話した。
「水蜜・・・今までも、そしてこれからも・・・私は貴女の友人よ。」
パチュリーは泣き声になりつつ、精一杯の気持ちを伝えた。そして音声は途切れた。
「え・・・?パチュリー・・・?文・・・?」
信じられなかった。いや、信じたくなかった。村紗は膝から崩れ落ちると涙を流すことさえ出来ず硬直し、転送パッドを呆然と眺めるのであった。
 エンタープライズは惑星を飲み込みつつある裂け目に引き込まれないように脱出コースを取り、やがて窓から惑星が米粒ほどの大きさになるまで遠ざかると、その惑星は完全に裂け目に飲み込まれ、消えた。

 その後、何度も惑星の跡地を調査する船が派遣されたが、何の手がかりも、裂け目が発生した理由も解らずに終わり、宇宙歴9505.33にレミリア・スカーレット少佐の指揮する科学調査船U.S.S.ホライズンが最後の調査をし、パチュリー・ノーレッジ中佐と射命丸文少佐は死亡と認定された。





-エンタープライズが五年間の調査飛行を終えてから115年が経った-

 幻想郷にも電気が普及し、亜空間中継器がこのアルファ宇宙域に沢山設置されたことで他の惑星とのテレビ中継が誰でも見ることができるようになっていた。命蓮寺の台所では、寅丸星や雲居一輪、村紗たちがテレビの前に座って、ある放送を熱心に見ている。
「ただいま次期連邦大統領が到着しました!!首都、ボ・カロにくるのは初めてだそうです!あっ!姿を現しました!聖白蓮です!」
白蓮は民衆に向かって笑顔で手を振ると、シャトルから降り立ちボ・カロの首都ヤ・マハの巨大で機械的な広場を歩き始めた。そして彼女を追いかけてボーカロイドのアナウンサーが駆けていく。
「ああ、聖様がついに惑星連邦大統領になるのね・・・!誇らしいわ!」
一輪が喜びに声をあげる。そう、聖白蓮は第28代目の連邦大統領に当選したのだ。20年前に連邦とツェンケチとの戦争が終わり、平和な時代を迎えたアルファ宇宙域には、まさに白蓮のような博愛主義者がリーダーとなるに相応しい。それが連邦市民の大部分の意見だった。
「聖様が大統領の間は、我々が命蓮寺をしっかり盛り立てなくてはね!」
星が目を輝かせながら力強く立ち上がる。今では彼女が命蓮寺を取り仕切る立場だ。村紗はそんな二人を見て微笑みつつ、出かける準備を済ませた。今日は宇宙艦隊幻想郷支部で緊急の会議があるのだ。
「私も本当に嬉しいわ。それじゃあ私は仕事行ってくるから。」
「ええ、気を付けて。今日は遅いの?」
「いや、夕餉には帰って来ると思う。行ってきます。」
村紗は胸に宇宙艦隊のバッチを取り付けると、玄関に向かった。”あの事件”以来、村紗は毎日帰って来る。嬉しい反面、一輪は複雑な気持ちだった。彼女は長年の親友の背中を何も言わずに見送った。


 霧の湖では妖精たちが飛び回り、その光景の恒常性を守っている。紅魔館はすでにその景色の一部となっている。だが湖の一角には巨大なドーム状の建物が異彩を放っていた。これが宇宙艦隊幻想郷支部である。未だに木造住宅が主流の幻想郷で、このような金属質な建物は異質なのだ。村紗は受付を通るとターボリフトに乗り、第二会議室へ向かった。
会議室に入るとまず、懐かしいウサギ耳に目がいって思わず声をあげた。
「あら鈴仙!久しぶりじゃない!」
鈴仙とはもう二年逢っていない。彼女は八坂神奈子の指揮するU.S.S.モリヤの副官として辺境のパトロール任務に出ていたのだ。鈴仙は村紗に気付くと椅子から立ち上がって駆け寄ってきた。
「提督!ご無沙汰しています!お変わりありませんか?」
「おかげさまでね。今日は小傘は?」
「小傘は聖白蓮の付き人で一緒にボ・カロにいますよ。」
そういえばそうだった。小傘も鈴仙と同じモリヤで医療主任として勤務しているほか、八意永琳の下で艦隊医療部の仕事をしているが、今日は白蓮の付き人としてボ・カロへ行くと聞いていた。続けて鈴仙が何か言おうとすると、神子が横から入ってきた。
「やあ中佐どの。そしてこんにちは、提督。」
豊聡耳神子は100年もエクセルシオールの艦長として外交任務をこなし、今ではこの宇宙域で最も名の知れた艦長となっている。何度も提督へ昇進する話を蹴って、未だに宇宙を駆け回っている。そして河城にとりもまた、同艦で機関部長を務めつつ艦隊技術部の責任者として数々の発明に関わっている。
「太子!貴方も任務から帰ってきてたのね!」
「ツェンケチとメルバの紛争の調停でしたっけ?お疲れ様です。」
「鈴仙、君も艦長になったらこういう疲れる仕事ばかりだから覚悟しておきたまえ。」
「いやあ、当分は八坂提督の副官を勤めることになりそうです。」
「彼女は一度良い人材を手にしたら中々離さないタチだからなあ」
エンタープライズ時代の仲間たちで談笑するのはとても懐かしいと同時に寂しくもあった。
「二人とも元気そうで何よりだわ。」
村紗は満面の笑みでそう言ったつもりだったが、神子には彼女の心の闇がはっきりと感じ取れていた。だが指摘するつもりはない、これは村紗自身が乗り越えるべき問題なのだから。
 しばらくすると、会議室に八雲紫と八坂神奈子が入って来て、他の佐官たちは即座に着席した。村紗も神奈子の隣に座る。
「それでは諸君。今日の会議はあまり楽しいものではないけれど重要だからしっかり聴いて頂戴。」
紫は皆の視線を集めて重々しく語りだす。そして神奈子の方を向いて合図した。
「まずはこれを見て欲しい。」
神奈子がそう言うと、テーブルのホログラフィックイメージャーに宇宙艦の映像が映し出された。楕円形の円盤部と、それと機関部を繋ぐ太いドーサルネック、二本のワープナセルを装備した連邦宇宙艦の伝統を踏襲した艦だ。にとりはそれが何なのかすぐに解った。
「ギャラクシー級の新型艦だな。」
より長期の深宇宙探査に耐えうる艦の開発要請を受けて、選りすぐりの技術士官たちを招集したのはにとり自身だからだ。ギャラクシー級は8年間の開発期間を経てようやく就航した。神奈子は話を続ける。
「知っての通り、先月ギャラクシー級の試作艦が進宙したわけだが...攻撃された。救助に駆けつけたエンタープライズCは大破だ。」
その場にいた佐官たちは全員ざわついた。エンタープライズBに続いて、Cまでもが戦没とは・・・一体誰が攻撃したのか?村紗は一同が静まりかえったところで映像を流した。
「そしてこれはエンタープライズが最後に送ってきた映像よ。」
会議室背面の大スクリーンには、巨大な立方体の船影が映っていた。
「...ウンディーネか。」
神子は無意識のうちに呟いていた。120年前、ボ・カロを襲ったウンディーネのことは今でも昨日のことのように思い出せる。兵士と一般人を含めて1億人以上が犠牲となったあの事件を忘れられるはずがない。
「100年以上の沈黙をついに破って、やつらが再びこの宇宙にやって来た。この意味が解る?」
紫のその質問に、鈴仙が真っ先に応える。
「戦いが...始まるんですか。」
彼女はツェンケチとの戦争を思い出してうつむいた。前線で多くの戦果を挙げ、連邦を勝利に導いたのは自分だ。しかし逝った者達には何もしてやることが出来ない無力さを知っている。また戦闘が始まるということは、あの時の苦々しさを再び経験することになるのだ。
「しかし、その前に和平交渉による解決を図るべきでは?」
グラヴィティア人のダナ・バス大佐がもっともらしい意見を述べる。グラヴィティアは平和的な種族だから当然の反応だ。彼の意見を聞いて村紗は別の映像を出した。
「それに関しては既に手を打ってあるわ。先日、初音ミク大使ら平和使節団に亜空間ゲートの向こうに交渉へ行ってもらったわ。」
「そんな危険な賭けに、ミク大使を!?」
ボーカロイドの重音テト中佐が椅子から立ち上がり怒鳴った。それをなだめるように神奈子が声をかける。
「安心したまえ。エクセルシオール級上級重巡洋艦を二隻護衛につけてある。万が一敵対行為に遭遇しても大使は無事に帰還出来るだろう。」
「とにかく、気を許せない状況になったのは明らかよ。現在建造中のギャラクシー級には大幅な装備の変更と、既存の艦にも随時アップグレードの処置を行います。」
紫は手元のタブレットをいじり、各艦のアップグレードスケジュールを転送する。
「今後の任務は一旦先送りにして、半年間の集中的なパトロールと戦闘訓練を現役の宇宙艦すべてに課します。」
村紗が言い終えると紫は立ち上がり、厳粛な雰囲気を漂わせた。
「最後に...エンタープライズCの乗員500名の勇敢な最期を偲んで。黙祷。」
エンタープライズCはアンバサダー級重巡洋艦で、現在の連邦宇宙艦で最も高性能な艦だった。それだけにこの損失は大きい。そして会議室の誰もが、ツェンケチとの開戦のきっかけとなったエンタープライズB撃沈を思い出すのであった・・・。



 惑星連邦の首都、ボ・カロはウンディーネの攻撃からすっかりと復興し、活気を取り戻していた。中央都市のヤ・マハの首脳官邸の周りには、地球の植物に負けないほど美しい機械の花やホログラムで作られた噴水が散りばめられ、ボーカロイドたちの気品の高さを伺わせる。
 官邸のVIPルームでは就任演説を終えたばかりの白蓮と、付き人の小傘、そして前大統領のカイトが座談していた。
「見事な演説でした、聖大統領。」
「ありがとうございます。村紗から色々とお話は伺っていますよ、カイト提督。」
「提督、と呼ばれるとようやく自分が大統領の責務から解放されたと実感出来ますよ。」
「やはり大変なことが多かったのですね。」
「ええ、まあね。前大統領として何かお力になれることがあればお申し付け下さい。」
カイトはボ・カロの首相を二期務め、連邦が設立されてからは宇宙艦隊の提督を経てツェンケチとの戦争の際に大統領になった。そして任期を終えた彼は再び艦隊へと戻ったのだ。政府の要人であるのは名誉なことではあるが、自由がきかない。これでまた、休暇を取って好きな場所に行けるかと思うと胸が躍った。
小傘が何か言おうとするとドアをノックする音がした。
「入れ。」
カイトが許可を出すと扉が開き、初音ミクが現れた。
「ミク大使!?戻っていたのか!」
ウンディーネと和平交渉を進めるために亜空間ゲートを開き、彼らの世界へ行くと聞いた時は不安でたまらなかったが、どうやら無事だったようだ。
「はい、提督。そして始めまして、大統領。」
ミクは淡々と挨拶をした。
「ウンディーネとの交渉はどうだった?」
「ただ一言"帰れ"と言われただけでした。一切攻撃はされませんでしたが。あまり良い結果とは言えませんでしたね。」
なるほど、それでミクの目には元気がないのか。カイトもまた、彼女の知らせを聞いて落胆する。
「...争いは避けられないようだな。対策を練らねば。」
「私は流血だけは避けるつもりでいます。再び交渉の場を設けられるよう努力しましょう。」白蓮が博愛主義者らしく和平をあきらめないという。
「さて、暗い話はさておき、ここからは私が大統領のお相手を務めますので、小傘中佐もお休みになってよろしいですよ。」
「え?でも悪いよ。それに、国会議事堂を案内してくれるのはルカ議員じゃないの?」
「メイコ首相の意向ですので。」
ミクの口調は非常に淡々としていて、断りづらかった。ましてメイコ首相がそう言っているのなら仕方ない。カイトは腑に落ちない顔をしている小傘に声をかけた。
「まあ...彼女がそう言うなら。行こうか、中佐。」
「...はい」
ミクは普段、健気で明るい人物なだけに今の態度には面食らった。よっぽどウンディーネのことで落ち込んでいるのだろう。小傘は心配でたまらなかったが、白蓮の付き人という仕事をこなすことで気が晴れるなら、と思い部屋をあとにするのであった。



 夜の幻想郷は景観を維持するために極力電気を使わないようにしている。そうすることで、上を見上げれば美しい星空が見えるのだから。
 村紗は帰宅して夕餉を済ませると、ひとり縁側に座って焼酎を片手に晩酌していた。彼女の目は空ではなく、庭の木に向いている。そこに一輪がやって来た。
「今日アリス中佐が訪ねて来たわ。来週の士官候補生の訓練航海に、ぜひ貴女を査察官として迎えたいそうよ。」
その話か・・・。村紗はため息をついて応えた。
「知ってる。もう断ったのに。しつこいなあ。」
投げやりな村紗の返事に、一輪は今までため込んでいた気持ちを吐き出す決心をした。
「...はっきり言わせてもうけどね、貴女は現場に戻るべきよ。デスクワークなんて似合わないわ。」
だが村紗はいつものように、あの事件のことを持ち出す。
「前にも言ったでしょ。私は軽率な判断から部下を...友人を死なせてしまった。艦長の椅子の重さも理解せず、上陸任務に行った結果よ。こんな私に、宇宙へ出る資格はない。」
一輪は村紗の態度にうんざりしていた。それが爆発してつい怒鳴ってしまう。
「またそれ!艦隊のみんなは気を遣って言わないだろうけど私は違うわ!貴女は友達の死を盾にして隠れてるだけなのよ!」
村紗「何から隠れるっていうの?」
一輪「自分からよ、提督。...パチュリーや射命丸が、こんな貴女を望んでいると思うわけ!?」
それを聞くと村紗はごろんと寝転んで、だるそうに答えた。
「...負けたわ。査察任務は受ける。」
「やけに素直じゃない。」
「心の奥では全部解ってるのよ。それを今、一輪が全部露わにした。自分に呆れて、屁理屈をこねる気力もないわ。」
彼女の声に力はなかった。いつまで経ってもこんな状態が続いている友人を見て一輪は心を痛めている。彼女の手をそっと握り、目をのぞき込んで尋ねた。
「...ねえ、宇宙を翔けまわっていた頃の情熱的な舟幽霊さんは何処にいっちゃったの...?」
すると村紗は夜空を見上げて呟いた。
「過ぎ去ったものは二度と戻らない。パチュリーも...文も...私もね。」
今の彼女にあるのは、虚しさと喪失感だけだった。


 一週間後、村紗は地球軌道上の宇宙ステーション、「スターベース1」の展望台から外の景色を眺めていた。地上を離れるのは何年ぶりだろうか。俄然、乗り気ではないが一応訓練生たちのプロファイルを観ようとタブレットを取り出そうとする。しかし、アリスが声をかけてきたのでそれは遮られた。
「提督、今回の訓練航海に同行して頂きありがとうございます。」
アリスもまた、エンタープライズ時代の仲間のひとりだ。村紗が艦長をやっていた当時は夜間のブリッジ士官で、その後長期の休暇を取って艦隊に復帰し、現在はアカデミーの教官を務めている。そういえば、長期休暇の内容を聞いていないが、一体どんな理由で休職していたのだろうか。
「貴女があんまりにもしつこいからからね。」
村紗は肩をすくめて微笑んだ。
「何と言っても今回の練習艦はエンタープライズですからね。やはりあの艦には貴女がいなければと思いまして。」
「...エンタープライズ、か。」
初代エンタープライズはあの事件から帰還したのち、退役した。月の技術が導入されて、幻想の力なしで稼働できる艦が増えたことで、時代遅れとなってしまったためだ。村紗は遠くの係留ドックに入っている”旧友”を探した。と、そこに誰かがやって来た。
「お母さん、シャトルの準備が出来たよ。」
振り向くと、暗めの金髪を三つ編みのおさげにした少女が立っていた。この候補生は・・・よく見るとあの魔女に似ている。そして何よりも村紗の注意を引いたのは彼女がアリスをお母さんと呼んだことだった。
「魔魅!ここから先、私たちは上官と候補生よ?その呼び方はやめなさい。」
「え、これ...え、アリスあなた...どういうことなの...」
村紗は困惑して尋ねる。
「ああ、ちょっとした誤解ですよ。この子は霧雨魔理沙の娘で、私は育ての親。」
なるほど、アリスは育児休暇を取っていたのか。それにしても意外というかなんというか・・・。
「魔魅といいます。よろしくお願いします、提督。」
魔魅と名乗るその少女は爽やかに挨拶した。産みの親と違って素直で良い子そうだ。
「ええ...。でも娘って...妖怪とのハーフね?」
もし娘だったとしたら、すでによぼよぼの老婆になっているはずだ。それに、少し目の色が人間と違う。
「はい。まだ104歳の若者ですが、母娘に似て努力家でね。艦隊一優秀なパイロットですよ。」
しかし霧雨魔理沙はどうして妖怪と子供を・・・。込み入った事情がありそうだが、時間がないので聞くのはやめた。
「一体どんな事情が...まあいいわ。よろしく頼むわよ、候補生。」
 そしてシャトルに乗り込むとエンタープライズに向けて発進した。スターベース1のドックに係留してあるのは現役の宇宙艦だけだ。退役した艦は月の近くにある保管センターにある。アリスは村紗の方を振り向くと、臭いものを嗅いだような顔をして言った。
「先に言っておきますと、今年の幻想郷から出た候補生たちはアカデミー始まって以来の問題児たちですよ。」
村紗は候補生たちのプロファイルを見ていないが、度々士官たちの話を聞いて何となくイメージはついている。
「だけど成績は優秀だと聴いてるわ。あとは規律を叩き込んでやれば一人前よ。それにしても、確かに貴女の操縦は上手いわね。まるでストレスを感じない。」
普通、小型のシャトルはスラスターを自動で制御しても左右に揺れてしまうものだが、魔魅はマニュアルでスムーズに飛ばしている。ベテランのパイロットが成せる業といえる。
「光栄です。飛ぶのは得意ですから。」
魔魅はにっこりと笑った。ああ、この笑い方はアリスに似てるな・・・。そんなことを考えていると、ようやくエンタープライズが見えてきた。
「そのままシャトルベイに侵入して。」
アリスがエンタープライズに通信を送ると、第二船体後部のシャトルベイのゲートが開き、シャトルが着陸シークエンスを開始した。村紗水蜜、100年ぶりの乗船である。


 第一船体にある巨大なレクレーション室では沢山の士官候補生たちが査察官と教官が来るまで待機していた。部屋の中心には、成績がダントツに高い星熊勇儀、水橋パルスィ、黒谷ヤマメ、キスメが陣取っている。
「訓練航海なんていいから、とっとと士官に昇進させておくれよ。そうすれば地上でも遊びたい放題だ。」
勇儀がこっそり持ち込んだ酒の小瓶を片手に愚痴る。
「早くおうち帰りたい。」
パルスィは不機嫌そうにぶつぶつとぼやく。
「こんなオンボロの船より、ネビュラ級やアンバサダー級みたいなデカくて新しいのが良かったなあ。」
ヤマメはエンタープライズの功績など知らずに、最新鋭艦への憧れを口にした。
 彼女たちが駄弁っていると、ついにアリスと村紗が入室してきた。
「全員気を付け!査察官の村紗水蜜提督がお見えです。」
村紗はざっと部屋を見渡した。だいたい80人程度いるだろうか。候補生たちは村紗に視線をやる中、勇儀は村紗に気付くと大声をあげた。
「お、お嬢!?」
勇儀は背が高いのと、額の角が特徴的なのですぐに解った。村紗もまた、驚きに声をあげた。
「姉御!?」
二人は歩み寄ると肩を抱き合って大笑いした。他の候補生たちがざわめく。
「まさかこんなところでアンタと再開するとはね!」
「ほんと、びっくり!貴女が士官?冗談にしては壮大すぎない?」
「ハッハッハッハッ!いやあ楽しい旅になりそうだ。」
呆気にとられたアリスだったが、我に返って質問する。
「知り合いだったんですか?」
「地底時代に色々とね。...姉御~嬉しいわあ。後でゆっくり話しましょう!」
村紗は心から旧友との再会を喜んで大いに笑った。ヤマメが近付いてきて、同じように村紗の肩に手をかける。
「こりゃまた懐かしい顔だねえ。覚えてるかい村紗?」
「もちろんよヤマメさん。何だか昔を思い出すわね!」
もはや査察官と候補生のやりとりではなく、ちょっとした同窓会になっていた。これでは場の空気が締まらない。アリスは咳払いをして村紗の肩を叩いた。
「て・い・と・く?」
「ああ、申し訳ない...。私が村紗、貴方達候補生の査察を担当します。諸君が連邦宇宙艦隊にとって相応しい人材かどうか、この訓練航海でしっかり見せてもらうわ。私は多いに期待しているので、諸君も頑張ってちょうだい。」
村紗はしっかり切り替えると、候補生たちを改めて見渡した。そしてアリスが各部署への割り当てを指示、候補生たちは解散した。・・・それにしても、星熊勇儀ら地底の妖怪たちと再会できるとは思ってもみなかった。村紗は100年ぶりに艦長室のソファに腰かけると、ニヤニヤと顔を綻ばせるのであった。
 星熊勇儀は地底に封印された頃の村紗たちをかくまってくれた。そして、ある事件をきっかけに村紗と勇儀は確固たる信頼関係を築きあげ、勇儀は力で、村紗は頭脳で無秩序な旧地獄を治めていたのだ。村紗は彼女を姉御と呼び、勇儀は村紗をお嬢と呼んでお互いに慕っていた。地底時代を生き抜くことが出来たのは、勇儀のおかげといっても過言ではないのだ。
 村紗がひとりで地底時代のことを思い出していると、アリスから出航準備が完了したとの報せが入ったので、ブリッジへと向かった。

 「外部管制ダンパー取り外し、OK。全スラスター及びインパルスエンジン、オンライン。」
操舵席の魔魅がアリスの方を向いて報告する。続いて技術コンソールに座っている獣人のノラド人が振り向く。
「ダイリチウム結晶炉安定。プラズマ冷却剤、正常値。シールドジェネレーター起動。」
彼が言い終えると今度は魔魅の隣に座っているパルスィが小さな声でつぶやく。
「ナビゲーションシステム、異常なし。」
次に、メインビューワーの隣に設置されている保安コンソールの前に立っている、腰まで届く白髪をなびかせた少女が振り向きもせずに報告する。
「保安コントロール、チェック完了。」
彼女ほどの髪の長さだと、規則では結ぶことになっているのだが・・・。これがアリスの言っていた”問題”なのだろうか。
「メインセンサー、感度良好。」
科学コンソールに座っているヤマメが笑顔で言う。彼女は医療士官だが、科学士官の資格も持っているようだ。
「通信システム準備完了です。」
ボーカロイドの候補生が通信席から村紗の視線に応えるように声を張り上げた。
「フェイザー、光子魚雷、いつでも撃てるよ。」
勇儀は武器コンソールから立ち上がると村紗にウインクした。全ての部署からの報告を聞き終えるとアリスは艦長席から立ち上がり、村紗の方を向いた。
「よろしい。では...提督、久しぶりにどうですか?」
彼女は艦長席を指さしていた。
「え?私?」
村紗は動揺を隠せず、目をキョロキョロさせる。そんな彼女をアリスはまっすぐ見据えて迫った。
「ぜひ発進命令を。」
自分は提督で、査察官という身だ。宇宙艦を発進させるなんておこがましい。村紗は勇儀に目をやると、眉をつり上げて尋ねた。
「・・・勇儀候補生、宇宙艦を発進させたことはあるかしら?」
「ん、ないけど?」
「やってみて。」
勇儀が驚きに目を丸めるよりも先にアリスが声をあげる。
「提督!?」
「いいのよ。誰にだって初挑戦の時はあるわ。」
村紗は旧友の立派な姿を見たい一心で一杯だった。アリスもまた、村紗の頑固さを知っているので肩をすくめて勇儀に席を明け渡した。勇儀はニヤニヤしながら艦長席に座りどっしりと構えた。
「じゃあやらせてもらおうかね。推力四分の一、発進せよ。」
魔魅はその命令を聞くと、インパルスエンジンを起動してエンタープライズを出航させた。

 「ではコースを」
アリスがそう言いかけると勇儀はそれを遮って魔魅に命令した。
「ああ解ってる。コースを冥王星にセット。ワープ3、かっ飛ばせ!」
地底かから来た候補生たちは艦隊アカデミー始まって以来の優秀な者達だったが、同時に上官への態度や素行の悪さが目立つ。そんな彼女たちがついに宇宙への第一歩を踏み出した。年老いたエンタープライズは、今や練習艦として稼働するのみとなっているが、力強くエンジンを唸らせた。


-グラヴィティア星にて-

 グラヴィティア星は海洋惑星だが、グラヴィティア人は移民なので海上に都市を築いている。しかし彼らにとって神聖な場所、重力の神殿は海底にある。その神殿では、聖教団のカル・トフ司祭が祈りを捧げ、神秘的に発光する水晶体と通じ合っている。そこへ息子のヴァネ・トフがやって来たが、父の真剣な姿に何も言えず見守るしかなかった。
「神聖なる重力よ、今日も我らを繋ぎ止め、揺るぎなき絆へと導きたまえ。我らに調和と平穏なる時を与えたまえ。宇宙を統べし貴方様に、感謝と願いを捧げます。」
カル・トフが祈りの台詞を言い終えると、ヴァネ・トフは声をかけた。
「父上、もう三時間も祈り通しではありませんか。あまりご無理をなさらずに。」
すると父は手にしていた経典を閉じて、息子のお節介に答えた。
「確かに私は年老いたが、病人扱いはよしてくれ。お前が一人前の司祭になるまでは重力のもとへ旅立ちはしない。」
だがヴァネ・トフは自分の進むべき道を迷っていた。この際、父に打ち明けるべきだと判断した彼はしばらくの沈黙を経て本心を述べた。
「...果たして私は司祭になるべきなのでしょうか?」
カル・トフは息子の迷いを察していた。だから考えるまでもなく言葉が出てきた。
「息子よ、お前の目の前には沢山の道が広がっている。その道のどれかに必ず重力はいらっしゃる。そしてお前を引き寄せてくれるだろう。重力を感じた方へ進みなさい。」
寛大で、なおかつグラヴィティア人らしい受け答えに息子のヴァネ・トフは感銘さえ覚えた。
「...貴方を誇りに思います。しかし、これからボ・カロへ経たれるというのは控えて欲しいのです。父上がデヴィン症候群を患っていることは知っています。どうか...」
デヴィン症候群はグラヴィティア人特有の更年期障害で、頭部を発光させているホルモンが徐々に減退していき最終的には死に至る病気だ。それを知ったうえでの息子の懇願に、カル・トフは胸を痛めつつ諭した。
「まだ初期段階だ。解ってくれ、この命ある限り連邦に貢献するのが私の使命なのだ。それに、先ほどからどうも胸騒ぎがする。この不安の正体を確かめたければ、異国へ飛べと重力からお告げがあった。」
神殿に浮かぶ水晶のひとつから啓示があったのは本当だ。ただの水晶ではない、説明しがたい不思議な力で自発的に浮いている、彼の重力信仰の象徴である。ウンディーネの再出現の報せを聞いて以来、カル・トフはずっと神殿に籠ってグラヴィティアがどう動くべきか重力と問答している。ヴァネ・トフは父が最も重力と通じることが出来る人物だと知っていた。
「父上の悪い予感はよく当たりますからね…お気を付けて。」
もはや父を止めることは出来ないことも解っていた。手元のクリスタル型の端末を操作し、ディキーア型巡洋艦ダ・レク号に出動命令を出す。
「今回ばかりはハズレて欲しいものだ」
カル・トフはため息交じりに呟くと、転送で艦に乗り込んだ。グラヴィティアからボ・カロまでは最大ワープでも宇宙標準時間で2日かかる。地球でいうと42時間だ。グラヴィティアのため、連邦のためにカル・トフは飛んだ。


 初音ミクに仕事を取られて手持無沙汰になった小傘はヤ・マハにあるボ・カロの国会議事堂周辺を散歩していた。この辺りも首脳官邸と負けないくらい電子的で美しい風景が広がっている。そして迎賓館あたりを通り過ぎたところで、馴染みのある人物を発見し、小傘は駆け寄った。
「ルカ議員!」
小傘の呼びかけに巡音ルカは笑顔で応えた。
「小傘さん!ごきげんよう。今日はどちらへ?」
この二人の出会いといえば、最初はひどいものだった。幻想郷とボ・カロの文化交流ということで楽曲を紹介しあったのだが、小傘はボ・カロでは無礼にあたるインストゥルメンタル(ボーカルなしの楽曲)を流してしまい、ルカはそれに対して憤慨したのだ。しかし連邦設立以来、何度か小傘と会う度に彼女に悪気はなかったこと、そして何よりも素直で気さくな彼女の性格に好感を抱くようになり、今では友人だと思っている。
「ちょっと散歩をね。なにせミク大使に仕事を取られてしまったもので暇なんだよねえ。」
小傘の事情を聞かされ、ルカは驚いた。自分も白蓮大統領のボ・カロ外遊の際に付き人を任されていたのだがメイコ首相の意向で外されたのだ。誰が代わりにやるのか知らなかったが、どうやら初音ミクがそれらしい。
「ミク大使が大統領の付き人に?」
「え、聞いてないの?」
「ええ、私はただ役を外されただけで誰がやるとは...。」
ルカがそれを知らないとは不自然だ。小傘は思わず口にしてしまった。
「何か腑に落ちないね。」
すると突然誰かが割って入ってきた。
「実は私も疑問なんだ。」
カイトだった。
「提督!」
「ここ数日間、大統領は部屋に篭りがちだ。明日の議会で提案する政策を考えているとかなんとか...。あれだけ外遊を楽しみにいたのにな。」
彼も怪訝な顔をして、腕を組んでいる。長年政治家をやってきたからこそ、今回の件には違和感を覚えずにはいられない。ルカが不安そうに尋ねる。
「一体何があったんでしょうか。」
その質問はナンセンスだ。カイトには何となく解っていた。
「いや。何が起きるか、だ。」
そう言うと、首脳官邸の方を見つめ、目を細めた。


 エンタープライズは木星の近くを巡航していた。ガリレオ衛星と呼ばれる、四大衛星のひとつひとつに小型探査機を送り、データを収集中だ。村紗は艦長室で個人日誌をつける。
「個人日誌、宇宙歴9607.98。訓練航海は順調に進んでいる。内容は簡単なものだ。太陽系を一周し、各惑星を観測して帰還する。アリス曰く、地底の妖怪達は態度が悪いそうだが、仕事の方は非常に優秀だ。」
 小さなテーブルを挟んで向かい側には、星熊勇儀が村紗を眺めてニヤついていた。日誌をつけ終えると、二人はお猪口を持ち上げて、乾杯する。
「では再会を祝して」
査察官という立場上、候補生の誰かを特別扱いするのはご法度だ。しかし、そんな常識などどうでもいいくらいに、村紗は旧友の顔を再び見ることができて喜んでいる。
「しかし大したもんだ、提督だなんて。同じ地底の妖怪仲間として誇らしいよ。」
勇儀が次の一杯を注ぐ。この酒は勝手に持ち込んだものだが、村紗はそれを知らない。
「これも全部、あの頃の経験のおかげよ。覚えてる?一緒にぬえの正体を見破って退治したこと。」
「忘れるわけないさ。初めてお嬢と出会った頃の事件だ。いいコンビだったよなあ。」
二人はしばらく過ぎ去った青春時代を語る老兵たちのように、昔話に花を咲かせた。
「それにしても、姉御はどうして艦隊に?」
話が落ち着いてしばらくして、村紗が尋ねると勇儀は笑いながら答えた。
「理由は単純だよ。艦隊士官になれば地上にも堂々と出ていけるし、外の世界の酒や食い物も手に入るからね。」
士官の特権をよく解っているようだ。そして自分たちが地底の妖怪である故に課せられる制約にうんざりしているのも村紗には共感できることだった。
「福利厚生目当てで・・・貴女らしいわね。他のみんなは?」
「私が勝手に応募しといた。パルスィ以外はノリノリで受験してたけど。」
迷惑な話だ。だが勇儀なら何故か許せてしまうのが彼女の魅力のひとつである。
「強引なところも相変わらずね。仕事ぶりを見ている限り、姉御は艦長向きかな。」
村紗も次の一杯を注ごうと酒瓶に手を伸ばす。そこで勇儀が訊いた。
「嬉しいこと言ってくれるねえ。...で、この100年どうしてたよ?色々あったそうじゃないか。」
その瞬間、村紗の顔は一気に暗くなった。
「ええ。色んなことがあったわ。」
勇儀は何があったか、友人として全部聞くつもりだった。その晩、二人は寝ることなく語り明かした。


 全ての調査が終わり、エンタープライズは地球への帰路に着いている。全長305m、全幅142m、全高72mという、現在では中規模な艦だが100名のクルーが生活するには十分すぎる広さだ。第三デッキにある居住区へ、パルスィはひとり廊下を歩いていた。
「おーいパルスィ」
後ろからヤマメが声をかけてきた。
「なによ。」
ぶすっとした声で答える。
「この後メシでもどうだい?」
「他を当たって。独りにしてよ。」
パルスィはますますご機嫌ななめになる。そんな彼女をヤマメは愉快に諭した。
「おいおい、もうすぐ本格的な士官暮らしが始まるんだよ?社交性は大事だと思うよ~」
「うっさいわね。私はなりたくてなったわけじゃないの。」
「勇儀のことまだ怒ってんのかい。」
「当たり前よ。勝手に人の名前登録して...ひどいと思わないの?」
「その割りにはやる気まんまんじゃないか。カウンセラーと操舵と二つの資格を取ってるなんて。」
「あんただって科学と医療の学位取ったでしょ。地底組はみんな二つ資格を取ってるから私もと思って...」
長年パルスィを見てきているヤマメは、彼女をどう扱っていいかよく知っている。この橋姫は結局のところ、寂しがり屋なのだ。みんなが士官学校に行くというが、自分から行くとは言えない。いわゆる天邪鬼な性格というやつだ。だから本心を察して無理やり誘ってやるのが本人の為である。
「みんな食堂にいるよ。」
パルスィは肩をすくめて呆れ顔でヤマメの方を向いた。
「・・・解った。食べる。」
計画通りだ。ヤマメはにっこりと笑うと食堂へとすたすた歩いて行った。



 真夜中、機関室ではアリス、メガネ河童のコング少佐が魔魅に機関部の構造をレクチャーしていた。魔魅も地底の妖怪たちに負けまいと、操舵だけでなく技術士官の資格を取ろうと勉強中なのだ。
「コング少佐、魔魅に機関室と艦全体のEPSコンジットの関係について教えてあげて。」
青色に発光するワープコアに照らされた機関室は時代遅れな幻想エンジンのうねりが響く。その音にかき消されないように魔魅は大きな声で挨拶する。
「よろしくお願いします。」
コングは目を丸くして率直な感想を述べた。
「この子が霧雨魔理沙の娘さんですか。何と言うか、、、、気を悪くしないでね?母親と違って礼儀正しいですね。」
「私が育てたからね」
アリスが誇らしげに言う。
「母は私を産んですぐに亡くなったので、何も知らないんです。少佐も、母がどんな人だったか教えて下さいますか?」
「私はあまり絡みがなかったから、ちょっとだけなら。その前に、まず機関部のエネルギーがどのように艦全体に供給されるかということだけど」
コングの言葉は突然の船体の揺れに遮られた。立っているのが難しいほどの激しい揺れだ。
「こちらアリス!ブリッジ、何が起こったの?」
三人は急いでターボリフトに乗り、ブリッジへ向かった。


 村紗は眠っている最中にこの揺れにたたき起こされて、ベッドから転げ落ちた。ブリッジへ入ると既に候補生や教官たちがあたふたと状況の把握を急いでいた。村紗は近くにいたグラヴィティア人の士官候補生に事情を尋ねた。
「慣性飛行に切り替えたら重力場に捕らえられた、と。現在位置は?」
村紗の問いにアリスが真っ先に答えた。
「地球の公転軌道に入ったところです。」
ヤマメが科学コンソールから立ち上がって怪訝な顔で村紗に訊いた。
「地球までまだ距離があるのにどうして引力に捕まるんだい?」
村紗はその理由が解っていたが、ここは査察官らしく候補生たちに考えさせることにした。「...候補生の諸君の中でこの現象を説明できる者は?」
すると、保安コンソールの横に立っている白髪の少女が手を挙げた。
「惑星が存在しているからだ。120年前、エンタープライズが遭遇した無意識の惑星だろう。」
そう、古明地こいしに導かれて辿り着いたあの惑星があるのだ。地球上にいる知的生命体の無意識はあの星に独立して存在している。
「大正解。貴女、名前は?」
「藤原妹紅。」
妹紅は無愛想に名乗った。それでようやく思い出した。この少女は蓬莱山輝夜と同じ、不死身の蓬莱人だ。アリスは小声で村紗に耳打ちする。
「彼女は一番優秀です。この四年間で科学、戦術、保安部門の三つの資格を取得しました。」
「素晴らしいわね。さて、あの惑星に干渉するのはあまり得策ではないから、重力圏から脱出して頂戴。」
魔魅に命令を出すと村紗は無意識のうちに艦長席についていた。それを見たアリスは、何となく昔を思い出して微笑む。
「了解...おかしいです。インパルス全開でも一向に進みません。」
ちょうど魔魅が言い終えると再び船体が揺れ始めた。パルスィがナビゲーションセンサーを確認し、驚愕の声をあげる。
「これはむしろ...引き寄せられてる!?」
勇儀はコングに向かって、士官候補生でありながら命令した。
「ディフレクターをいじってシールド周波数の極性を変えてみろ。ポジトロン粒子で船体を包んで引力に抵抗できるかも。」
アリスは非常事態ではあるが、勇儀の態度を許さなかった。
「ここは妖怪の山じゃないのよ。階級はコングが上でしょう?」
「い、いいんですよアリスさん・・・。」
幻想郷は人妖の間だけでなく、種族間の階級や差別は克服したことになっているが、内実はそうでもない。まして鬼の四天王である勇儀を、部下として扱える河童など誰もいないだろう。「軍法会議は勘弁してあげる。」
村紗は勇儀にウインクして次の命令を出そうとするとまた船体が揺れて言葉に詰まった。
「やっぱり脱出できません!このままじゃ衝突するんじゃないですか!?」
魔魅は顔を青くして叫んだ。アリスは即座に艦内通信を送った。村紗が立ち上がる。
「総員退避!」
だが、もう一度艦が激しく揺れると、艦内は静寂に包まれた。非常警報の音さえしない。他のコンソールもオフラインになっている。
「と、止まった...。」
パルスィが沈黙を破ると、他の者達もざわつき出した。ただひとり、村紗だけは呆然とその場に立ち尽くしていた。というよりも、抜け殻のように硬直していた。
「提督?」
アリスが声をかけても村紗は上の空だった。
「私を...呼んでいたのね。」
今の彼女はトランス状態のようだ。勇儀は試しに顔を突っついてみたが、やはり無反応である。
「おい、お嬢?」
その声は、村紗には届いていなかった。



 ここはエンタープライズのブリッジだ。しかし自分ひとりしかいない、青みがかった世界で、輪郭はぼやけていた。そして村紗はここが無意識の世界だということを本能的に理解し、自分を導いた者へ問いかけた。
「なぜ私をここに?」
すると目の前に光の玉が現れ、少女の形へと姿を変えていった。徐々に色がついていく。ピンク色の髪に不気味な閉じた目玉・・・古明地さとりだった。
「お久しぶりです。村紗艦長。」




 カル・トフが来訪すると聞いて、カイトはすぐさま艦隊本部へ飛んだ。カル・トフも、唐突に聖白蓮が掲げた奇妙な政策に疑問を抱いているに違いない。そして本部ビルに入るとすぐに彼を見つけ、駆け寄った。
「カル・トフ司祭!ようこそボ・カロへ、と言いたいところですが時間がありません。先ほどの議会で大統領の発言は聞きましたね?」
カル・トフは腕を広げてグラヴィティア人の挨拶をして答えた。
「ええ、カイト殿。直ちに武装解除など...ウンディーネの脅威が確認された今、正気とは思えません。」
就任して初の連邦議会で白蓮が提案したのは、宇宙艦隊の解散だった。今後は調査目的以外の行動は禁止するというのだ。血迷った判断であるのは明らかだ。市民にも、艦隊にも混乱が広がっている。
「聖白蓮は会議が終わると直ぐに自室へと戻った。現在多々良中佐と何を考えているのか尋ねに行くところだ。司祭も?」
「そうしましょう。」
「私もご一緒してよろしいかな?」
突然、神子が横から入ってきた。
「これは豊聡耳殿。」
「いつボ・カロに?」
「メリリアの大使を護送したついでに。どうやら大統領の様子がおかしいようで。」
神子もまた、白蓮のおかしな政策には何か裏があると踏んでいる。彼女はいくら博愛主義者とはいえ、武器を捨てるという選択をするほど愚かに人物ではない。それはカイトも、カル・トフも同じ意見だろう。
「では行くとするか。何か、悪い予感がする。」
三人は移動用のシャトルに乗り込むと、弾丸のような速さで首脳官邸まで飛んだ。


 神子は大統領専用の執務室から異様なエネルギーを感じていた。そして邪悪な欲の声も。
「大統領閣下、お話があって参りました。入室の許可を。」
カイトがノックすると、ドア越しにミクの返答が聞こえた。
「白蓮大統領は現在書類の作成で多忙でいらっしゃいます。日を改めてください。」
その声は淡々としており、機械的だった。ボーカロイドは機械生命体だが感情がある。彼女の口調は明らかに不自然だ。
「私からもお願いしますミク大使。グラヴィティアも今回の聖大統領が掲げる理想に首をかしげています。どうか話をさせて下さい」
「ですから」
とミクが言いかけたところで神子が遮った。
「そろそろ正体を見せたらどうだ。お前は初音ミク大使ではないだろう。一体何者なんだ?」
突拍子もない神子の言葉にカイトは動揺を隠せなかった。
「何だって!?どういうことだ!?」
神子には欲の声を聴く能力が備わっている。そして彼女がミクの声を聴いて出した結論は彼女が別人であるということだった。神子の言葉を聞いたミクは高笑いするとドアを開けた。目の色がおかしい。白目が無い、真っ黒な目に緑の目玉が不気味に光っている。
「ミク大使!?」
カル・トフはあまりの恐ろしさに後ずさった。ミクは片腕をあげるとエネルギーの玉のようなものを飛ばした。即座に神子が結界を張りそれを防ぐ。
「下等生物にしては良い反応だ。」
ミクの声には邪悪な低い音が交じっている。やはり神子の推測通りミクは何者かとすり替えられているといっていい。カイトはそう判断すると腰のベルトに装着してあるフェイザー銃を取り出すとミクへ向けた。
「おっと、止めておいた方がいいぞ。この身体の主が死んでしまってもいいのなら別だがな。」
「・・・っ!貴様、ミク大使に一体何をしたんだ!?」
怒鳴るカイトをよそに、神子は人間離れした頭脳をフル回転させて状況を把握しようと考えた。先の言葉から察するに、この邪悪な生命体は・・・ミクに憑依しているに違いない。ではどこで憑依した?一番可能性が高いのは・・・亜空間ゲートをの向こうへウンディーネと話し合いに行った時であるのは明らかだ!
「カイト提督!!こいつはウンディーネが憑いてる!!下がって下さい!!」
神子はより一層結界を強めると、一歩後ろに下がった。だが間の悪いことに小傘が駆けつけた。
「みんな!!」
そこへミクがエネルギーの玉を飛ばす。小傘は寸でのところでそれを交わし、神子の張った結界の中に滑り込んだ。
「一体どうなってるの!?」
「あれはミク大使じゃない!!ウンディーネが憑依しているんだ!!」
小傘はミクの異様な姿を見てすぐにそれが本当だと理解した。一瞬、頭が真っ白になったがすぐにこの状況を打破する方法を模索し出す。
「何が望みなんですか。我々を攻撃したのは何故です?未だに前ボ・カロ政府の廃棄物投棄を責めるというのですか?」
カル・トフは落ち着いて尋ねる。それに対してミクはただ一言。
「弱者は滅びるのだ・・・。」
絶えずエネルギー弾を飛ばし続けることで、神子の結界も弱まりつつある。このままではジリ貧だ。だからといって攻撃すればミクの身体が危ない。どうすることも出来ないように思われたが、小傘が動いた。トリコーダーを取り出すといくつかのボタンをいじりミクの方へ投げつけた。当然、ミクはそれを撃ち落す。するとトリコーダーは小さな爆発を起こし、途端にミクが悲鳴をあげだした。
「一体何をしたんだ!?」
カイトが不安そうに尋ねる。
「トリコーダーの亜空間通信モードをオンにして、バッテリーをオーバーロードさせたの。そうすれば亜空間センサーに過大な負荷がかかってテトリオンを遮断する、ある種のフィールドが形成されるの。」
小傘は得意げに答えた。最も、この四人の中で彼女の言っていることを理解したいのはカル・トフだけだったが。
「なるほど、120年前の襲撃の時に、ウンディーネは亜空間ゲートからエネルギーを供給されていると言っていましたね。それがテトリオンだったわけだ。」
要するに小傘はトリコーダーを爆発させてウンディーネへのエネルギー供給を止めたのだ。ミクに憑依している何者かは悶え苦しみながら最後に一言遺した。
「これは・・・始まりに過ぎない。宇宙艦隊が混乱している今が、進撃のチャンスなのだから・・・」
そしてミクは崩れ落ちた。小傘が急いで容態を見る。
「大丈夫、命に別状はないわ。」
「私は大統領を見て来る。」
神子が部屋に入っていく。カイトはその場で凍り付いていた。カル・トフも同じだった。
「カイト提督、どうやら我々は大変な危機を迎えたようです。」
「そのようだ・・・。」
カイトは通信バッジに手をかけると、静かに言った。
「ボ・カロ滞在中の全宇宙艦隊士官に告ぐ。至急、本部へ集合せよ。あらゆる任務よりも、私の命令を最優先とするように。」
嵐の予感がした。



 「ねえ、教えて。どうして私をここに?」
村紗は無意識の世界でさとりとエンタープライズ内を歩き回っていた。しかし彼女は何も答えない。
「ちょっと!?いい加減に・・・」
「ここに来ることを望んだのは貴女です。」
「えっ・・・?」
「だから貴女の周りの者達の無意識を操り、誘導したのですよ。」
困惑しつつ、村紗は立ち止まって尋ねた。
「だけど・・・普段は絶対に姿を見せないあなたたちがどうして・・・」
「恩返しです。以前、貴女は妹のこいしをここに連れてきてくれましたね。あの時の借りを、今返そうと思いまして。」
ますます訳が解らなくなって首を傾げる村紗をよそにさとりは片手をあげ、指を鳴らした。すると周りの景色が白に溶けてゆき、一瞬暗くなったかと思うと二人は命蓮寺の庭に立っていた。星空と鈴虫の鳴き声とが美しい。
「ここは・・・あっ!?」
村紗の視線の先には、書割のエンタープライズブリッジが立っており、もう一人の自分がそれを見つめているではないか!だが、それよりも目を引いたのはその後ろに立つ魔女だった。
「あっ・・・」
小柄で、紫色のローブに月の形をした飾りをつけた帽子を身に付けたその魔女はもう一人の自分に近づいていった。
「貴女が村紗水蜜?」
懐かしい声だった。懐かしくてたまらなかった。もう二度と聴けるとは思っていなかったのに・・・。これは初めてパチュリーと出会った時の記憶だ。
「あそこに立っているのは貴女の無意識です。我々は貴女の記憶を再現しています。」
さとりが説明し始めた。あれが私の無意識・・・。そしてすぐに疑問が沸く。
「じ、じゃあ・・・あのパチュリーは?」
「あれは他の無意識が擬態しているだけです。パチュリー・ノーレッジの無意識はこの惑星から消えました。」
そうか・・・やはり・・・パチュリーは・・・。目の前では自分とパチュリーが握手を交わしていた。その様子を見るだけで、村紗にはこみあげて来るものがあった。

 気付いたら今度はもう一人の自分と射命丸がスタートレックのキャラクターについて駄弁っている場面を見ていた。これもまた懐かしい。次にエンタープライズ就航の時、三人で目を輝かせてブリッジに入室する場面を見た。三人で朝まで飲み明かしたあの日、三人で宮島まで行ったこと・・・。パチュリーと辛いを過去を分かち合ったことも、射命丸と妖怪の山で紅葉狩り数え切れないほどの記憶が溢れ出すように村紗を包み込んだ。
「どうやら八方ふさがりのようですね・・・。みーさん、エンタープライズを頼みましたよ。」
「水蜜・・・今までも、そしてこれからも・・・私は貴女の友人よ。」
二人の最期の声が聴こえてくる。
「もういい、やめて。」
村紗はさとりに懇願した。
「もう十分だわ。」
しかし、さとりは沈黙している。
「早く止めてよ!」
怒鳴ったところで、何も変わらない。記憶の通り、程なくしてもう一人の自分は崩れ落ちて呆然と転送パッドを眺めている。
「貴女は、ここで生きている。」
さとりはやっと口を開いた。一方村紗は、記憶の自分を見つめて泣き崩れていた。
「あの時・・・何もできなかった・・・。泣くことさえも。」
言葉を絞り出すようにして村紗はつぶやいた。さとりは村紗の肩に手をあてる。
「今までずっと逃げ続けていたんですね。だけど、もう終わりにしましょう。我々無意識の住人は貴女方に直接的に干渉することはしない規則になっているのですが・・・。私は敢えて貴女の心を動かします。」
「・・・心を、動かす?」
さとりは村紗の目をのぞき込んで、一言一句に力を込めて語った。
「パチュリー・ノーレッジと射命丸文の無意識は、消滅する最後の瞬間まで、貴女がこれからも宇宙を旅して、未知の世界を切り開いていくことを望んでいました。」
「!!」
「そして貴女の無意識も、それを望んでいるんです。自分を救いなさい。そして友をも救うのです。」
「・・・ありがとう。」
村紗は涙に顔を濡らしながら、笑顔で答えた。二人の死を乗り越えたのではない。むしろ、二人の死と共にこれから歩いていく決心がついたのだ。

「良かったです。・・・しかし貴女が進む道はきっと困難なものとなります。この宇宙は、貴女がいなければ・・・いずれ彼らに滅ぼされるでしょう。」
未来に希望を見出した村紗に、さとりは水を差すように不吉な預言をした。
「彼らって・・・ウンディーネ?」
さとりは頷くと、とんでもないことを口にした。
「ウンディーネはボ・カロを再び攻撃するでしょう。連邦の首都を破壊から守りたければ、貴女も戦闘に参加するのです。」
「ちょっと待って、どうしてそんなことが解るの!?あなたたちは未来を知っているの!?」
「いいえ、私はただ現在の状況から推測して意見を述べただけです。どう受け取るかは貴女の自由ですよ。」
「・・・」
「さて、私は恩返しを終えました。貴女は自分を取り戻し、進むべき道を見つけた。・・・また会える時を楽しみにしていますよ。」
村紗が改めて礼を言う間もなく、辺りは色褪せていき、何も見えなくなった。


 「・・・嬢・・・おい・・・お嬢!!」
勇儀に頭を叩かれて、ようやく我に返る。元の世界に戻ってきたようだ。何度か瞬きをして、その実感をつかむと、村紗は勇儀に尋ねた。
「私は・・・どれくらい?」
「んー、2,3分くらいぼーっとしてたよ。・・・泣いてるのか?」
そう言われて、村紗は目に涙がたまっているのに気付いた。パルスィが近寄ってハンカチを差し出す。
「提督は、とても良い体験をされたんですね。妬ましい・・・。」
「ええ・・・。いずれ皆に話したいわね。」
だがその前に確認すべきことがあった。ウンディーネが本当にボ・カロを侵略するのかどうか、彼らの動きを知る必要がある。
「アリス、艦隊本部に通信を送って。ウンディーネの動きはどうなっているか。」
唐突な村紗の言葉にブリッジにいた者達はどよめいた。アリスも例外ではない。
「え?ウンディーネですか?・・・了解。」
アリスは通信コンソールをいじりだす。しかし、メッセージを送る前に艦隊から通信が届いた。
「提督、艦隊本部からの亜空間通信が入りました。」
「スクリーンに出して。」
メインビューワーにカイトの顔が映った。
「こちらはカイトだ。ボ・カロにウンディーネが侵入し、再び我々の星を攻撃することを仄めかした。ボ・カロから18光年以内にいる全ての現役宇宙艦はセクター003に集合し、迎撃準備をせよ。これは第一級の優先命令だ。通信終了。」
ブリッジは再び沈黙に包まれた。誰もが、エンタープライズCの撃沈のことを知っていたが、まさかこれほど早くウンディーネが進撃してくるとは思っていなかったのだ。沈黙を破ったのはまたしてもパルスィだった。
「私たち候補生はどうすれば・・・?」
最もな質問だ。村紗は艦長席のボタンから、幻想郷の艦隊支部にいるであろう八雲紫を呼び出した。
「あら、村紗提督。訓練航海は終わったの?」
「ええ。それよりも、ウンディーネ進撃の件ですが・・・我々はどうすれば?」
「エンタープライズは地球で待機よ。クルーの大半が候補生だし、武装もとてもじゃないけどウンディーネに対抗できるものではない。幻想郷からは八坂神奈子がU.S.S.モリヤで第三部隊の指揮を執るから心配無用。早く帰還しなさい。」
そう言い終えると通信は切れた。勇儀が怒りに立ち上がる。
「なんだ今の!?私たちが候補生だからって理由で出動させないってのか!?ナメんじゃないよ!!」
勇儀はパルスィの座っていた椅子に拳をあて破壊した。
「ちょっ!?勇儀!!」
パルスィが怒鳴る。そこにヤマメが割って入ろうとする。これでは大乱闘になる・・・。
「いい加減にしなさい!!」
村紗が一括する。全員動きが止まり、視線が村紗に集まった。
「どうするんですか、提督・・・?」
アリスが不安げに尋ねる。何となく、村紗の考えていることが解るのだ。
「・・・さっき無意識の住民に教えてもらったの。ウンディーネの進撃、そして私がそれを迎え撃つべきであることも。」
村紗は静かに先ほどのことを述べた。他の者はみな、互いに目を合わせて提督の言っていることの意味を考える。そこに勇儀が声をあげた。
「だったら、私たちもウンディーネ迎撃に参加しようじゃないか。」
だがアリスはそれに猛反対する。
「何を言ってるの!?命令はもう出たはずよ!!提督、帰還命令を・・・!」
彼女は正しい。紫の判断もだ。・・・とはいえ、さとりの預言を無視することは、自分が進むべき道ではないと直感的に解るのも確かだ。村紗は独り言のようにぶつぶつと状況を確認した。
「この艦には候補生が82名、教官は19名・・・。地上勤務や宇宙基地、造船所にいる士官は1800名・・・。クルーには困らない。・・・だけど確かに、エンタープライズでは火力不足だわ。あの時もウンディーネに一切ダメージを与えられなかった。・・・もし戦闘に参加するなら、他の艦が必要ね。」
村紗は出撃する気でいる・・・。アリスは迷った。このまま提督を突っ走らせれば間違いなく軍法会議だ。一方で、ウンディーネの脅威に一隻でも多くの艦が集まらなければ大変なことになるということもアリスには解っていた。ふとブリッジを見渡すと、勇儀の言葉に賛同した他の候補生たちが熱意を込めて村紗を見つめていた。
「なあ、みんなもそうだろ!?私たちはもう卒業間近の立派な士官だ!!連邦の為に戦えるってことを証明してやろう!!なあお嬢!!」
鬼特有の闘志を剥き出しにした勇儀が叫ぶ。他の候補生たちも声をあげる。どうしたものか・・・。するとコングがアリスに近づいて来て、耳打ちした。
「アリスさん、ここは論理よりも自分の直感を信じましょう?」
その言葉でアリスは考えるのをやめた。今までだって、村紗に仕えてきて失敗したことはない。彼女を信じよう。そう決心したアリスはある提案をした。
「提督。火星のユートピア・プラニシア造船所に、ギャラクシー級の二番艦があるんです。建造計画の変更でまだ建造中ということになっていますが、動かせると思います。」
村紗は眉をつり上げて、これからすることを整理した。そして椅子から立ち上がると艦内放送をかけた。
「候補生及び教官諸君に告ぐ。私はウンディーネの迎撃作戦に参加したいと思う。しかしこれは艦隊上層部への命令違反であり、私は軍法会議にかけられるだろう。私に同行した者も同様だ。よって、この任務は志願制とする。志願した者はキャリアを失う可能性が高い。よく考えて決断して欲しい。以上。」
勇儀は満足げに笑うと、魔魅に命令した。
「霧雨の子よ、火星に進路を取れ。」


 ギャラクシー級のブリッジは広いだけではない。優雅で、気品のあるデザインだ宇宙艦隊の伝統に則り、前方隔壁にメインビューワー、その手前に操舵コンソールとナビゲーションコンソール、中央のコマンドエリアには艦長席と副長席、参謀などが座る席が二つ取り付けられており、サブコンソールが装着されている。そしてコマンドエリアの後ろを囲むようにして木製の手すりが取り付けられ、コマンドエリアより床が高くなっている。木製の手すりには戦術コンソール、保安コンソールが取り付けられ、その後ろの隔壁には科学コンソールが三つ取り付けてある。宇宙艦にとって必要なもののすべてが揃っていた。
 河童の建造チームのリーダーであるおかっぱ頭の及川レンチ大尉は、最後のコンソールを取り付けてシステムに接続すると一息ついて、普段は絶対に座れない艦長席に腰かけた。ここに座れる艦長はなんと名誉なことか。連邦の最新鋭艦という肩書だけでなく、旗艦でもあるのだから。果たしてこの艦の名前はどうなるのか。レンチはこの艦の様々なことに思いを巡らしてひとりニヤついていた。すると突然、目の前に転送ビームの光が出現した。
「うわぁ!?なに!?」
びっくりして跳ね上がると、椅子の後ろに身を隠した。頭は丸見えだが。やがて転送されてきた人物の姿がはっきりしていった。一人は誰もが知っているあの村紗水蜜提督、そしてもう一人も河童なら誰もが知っている妖怪の山四天王の星熊勇儀、最後にアカデミーで教官をやっているアリス・マーガトロイド中佐が再物質化した。レンチは驚きながらも、突然の来客に対応した。
「あ、あの・・・あなたたちは一体・・・?」
勇儀とアリスが応えようとするが、村紗がそれを遮る。
「私たちは、この艦を処女航海させに来たの。」
彼女の眼差しはとても力強く、レンチは直感的にこの人が私の上司になるんだなと悟ったのであった・・・。



-ウンディーネが亜空間ゲートを開くまであと2時間-



後編へ続く・・・





コメントしづらいとは思いますが、想う所があれば何でも書き込んで下さいね^^
なるべくコメントには返信するように努めます!

コメント

ハウザー (著者)
No.3 (2015/03/02 17:37)
>>1
コメントありがとうございます!!
TOS劇場版のノリに加えて、村紗の救済あたりはDS9を意識しています笑
これからどんどんオリジナル要素が増していくのでお楽しみに!!
イケピー
No.4 (2015/03/11 21:47)
いつも楽しく見ています。
劇場版のスタートレック叛乱のエピソードもやってほしいです
ハウザー (著者)
No.5 (2015/03/12 22:09)
>>4
コメントありがとうございます。「叛乱」は俺も大好きな映画ですw
東方でやるとなると、寿命が伸びる件は難しいので普通に強制移住の問題を扱う感じになるかな??笑
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