博霊饅頭即売所

東方SS 過去の茨

2016/02/03 22:41 投稿

コメント:2

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※この作品は東方Projectの二次創作作品です。独自設定、独自解釈、キャラ崩壊などの危険性を孕んでおります。ご注意ください



 守矢神社の風祝、東風谷早苗は外来人である。外の世界の人間でありながら生まれつき霊力が高かった彼女は、幼い頃から交流のあった神様二柱とともに幻想郷に移り住んだ。
 とはいえ霊力が高いだけのただの人間だった彼女には、神様二柱とは違い現世にも多くの交友関係があった。突然居なくなると彼らに多くの心配をさせてしまう。それを嫌った彼女は、彼らの記憶の中から「東風谷早苗」を消すことにした。知人や親友、家族の中から自分の存在を消す。ある意味、突然居なくなるよりも残酷で非道、後には虚無しか残らない選択。
 現代にいる人達はもう彼女のことを憶えていない。しかし、彼女は彼らのことを憶えている。時々現代にいたころの夢を見て懐かしい気持ちになっても、彼らが自分のことを”知らない”ことを思い出して虚しい気持ちになる。それを何度も繰り返している。




 この日も、昔の夢を見た。
 高校への通学途中に、乗り換えに使う町中の大きな駅。ホームでベンチに座り、電車を待っている私。時間潰しに携帯電話でインターネットを見ていたのだけれど、画面の端に表示された時計をちらっと確認して携帯を閉じる。
 そろそろ彼女が来る時間。そう思った直後、想像通り私に声をかけてくる中学生の女の子が一人。

「早苗さーん!」
「こんにちは、菫子ちゃん。今日も元気だね」

 私に声をかけながら走ってくるのは、宇佐見菫子。いつも同じぐらいの時間帯に、同じようにこのホームで乗り換えをして私立中学に通っている女の子。
 それだけならたくさんいる通行人の一人にすぎない。わざわざ声をかけることもないし、名前を教えあって仲良くなることもない。私達の仲がいい理由。それは普通の人が聞けば、真っ先に正気を疑われるだろう。

「見て見て! ほら、私サイコキネシスも使えるようになったんだよ!」

 菫子はそう言って、自分の被っていた帽子をふわふわと宙に浮かせる。くるくると回しながら手元に持って行き、手にとった帽子を今度は上に放り投げる。縦回転しながら放物線を描いた帽子は、菫子の頭の上に差し掛かった途端にピタッと動きを止め、そのまままっすぐ元の場所に収まった。

「どう?」

 彼女は自信たっぷりに胸を張る。
 そう、仲良くなったきっかけは、互いに霊力の高い人間同士だと気づいたから。互いに力の使い方について話しあったり、他の人はおとぎ話としか考えていないオカルト系の噂話を、「実話」と判断して真剣に話し合ったり調査したり、私たちは他の人たちには求められないものを互いに求め合い、仲を深めていた。

「おーすごいすごい! でも、目立つから人前じゃ無闇に力使わないようにっていつも言ってるでしょ」

 私は彼女の努力を褒めつつ、周りの注目を引きかねない彼女の行動を咎めた。

「どうせ他の奴らには見てもわからないよ。見間違いとか勘違いとか思って終わりでしょ」

 菫子は力が使えない周りの人間を下に見ている印象がある。話を聞く限りでは、学校でも周りと壁を作ろうとしているのだとか。

「そんなんじゃのちのち苦労することになるよ。もし私がいなくなったら、そのあとどうするの? もっと周りと合わせなくちゃ」

 たしか、この時点で私は既に幻想郷行きを決めていたと思う。残していく人たちをどうするか考えている最中だった気がする。幻想郷なんて存在を話しても他の人は信じないだろうが、彼女なら信じるだろう。話しておいてもいいかもしれないと考えていた気がする

「平気平気! 兎じゃないんだから、一人でも死んだりしないって」
「そういう話じゃないんだけど……」

 私は溜め息を吐いて、その話に触れる。

「実は、私もうすぐ引っ越そうと思ってるんだ」
「え? 喩え話じゃないの?」
「うん。仲の良い神様がいるってのは話したよね。その神様たち、信仰が集まらないのが原因でだんだん力が弱くなってきてるの。どうするか前から話してたんだけど、幻想郷っていう妖怪とか神様とかが集まって暮らしてる場所があるらしくて、そこに行くって。私もついていくことにしたの」
「え~! ずるい! 私も行きたい」
「バカ。連れていけるなら誘ってるわよ。その神様たちの力が弱まってるせいで、私以外を一緒に連れて行くのは無理って言われちゃったのよ」
「むー……なら場所教えて! 私は自力で行く!」
「人間が行けるようなとこなら苦労しないわよ。結界とか張られてて普通の能力者程度なら無理って話よ」
「えー」

 菫子はスネたようにベンチで膝を抱える。彼女は自分と同じ非日常の存在に憧れを抱いている。妖怪や神様が居ると聞いて、行きたがらないはずがなかった。

「……あれ? ってことは、早苗さんは家族の人たちも残していくの?」
「う……うん。皆は神様たちのこと知らないし、なんの説明もなくそんな危ないとこに連れて行け無いじゃん」
「でも、説明できないなら、突然失踪するってこと?」
「……そういう扱いになっちゃうわね。皆には心配かけちゃうだろうなぁ」
「でしょうね。説明してもそんな内容じゃ信じないだろうし」

 溜め息を吐く私を見て、菫子は押し黙る。

「……ねえ。大事なものがいきなり無くなって、二度と手にはいらないってなったらどうする?」

 私はぼんやりと菫子に問いかけた。今まで無くなる側として考えていたため、なくす側ならどう考えるかと聞いてみたくなったから。

「んー……。やっぱり最初は落ち込むかなぁ。でもいつまでも引きずってられないし、代わりのものを手に入れるとか、諦めるとか、いっそ忘れちゃうとか……」

 そこまで言って、菫子はふと何かに気づいた。じっと私を見て、言う。

「あんまり、バカなこと考えないでよ」
「……うん、大丈夫。ちゃんと考える」

 私は笑顔を浮かべながらそう言った。そのタイミングで、電車がホームに入ってくる。私が乗る快速電車だ。菫子の中学は普通電車しか停まらない駅にあるため、もう一本後。それを待っていると私が遅刻してしまうので、いつもここで別れる。
 電車に乗り込んだ私に、菫子は電車の扉の前まで来て、更に念押ししてきた。

「ちゃんと、真っ当な方法で解決してよね」
「大丈夫だって。ちゃんと丸く収めるから。またね」

 そして電車の扉が閉じる。駅のホームから走り出す車内から、不安そうな顔の菫子が見える。
 やっぱりこれしかないか。最低だね。
 そう自嘲しながら、携帯を開き、馴染みの神社の電話番号を呼び出す。何度目かのコールの後、聞き慣れた神様の声が電話口から聞こえてきた。

「決めたよ。……うん。わかってる。……決心はついた」





 目が覚めた。見慣れた天井。嗅ぎ慣れた畳の匂い。外からは、妖精たちの騒ぐ声が聞こえる。いつものように虚しい気持ちを感じながら、私は体を起こす。後悔はしていない……はず。幻想郷に来てよかったと思っているし、外に残してきた人たちは私のことを心配したりはしていないと確信できる。全て丸く収まった。
 そのはずなのに、未だに夢に見るのはなぜだろうか。もう振り切った、過ぎ去った過去のはずなのに。

 ため息を吐き、見た夢の内容を早く忘れようとするかのように首を激しく振る。同時に残っていた眠気を吹き飛ばし、さっさと今日の一日を始めようと巫女服に着替える。縁側に出ると、太陽が思った以上に高く昇っているのに気づき、ちょっと寝坊しちゃったかなと頭を掻きながら境内へ向かう。掃き掃除をさっさと終わらせて、それから昼食を取ろう。
 靴を履いて外に出て、拝殿の横を回って境内へ向かう。拝殿の横から出たところで、賽銭箱の方に人影が見えた。参拝客だろうか。巫女として挨拶ぐらいはしなくてはと、少し早足で人影の方へ向かい……


 ピタッと。足を止めた。止めざるを得なかった。あまりの光景に、喉まで出かかっていた挨拶の言葉も止まってしまった。
 それでもその人影はこちらの足音に気づき、私の方を振り向いた。そして、当時と同じように私の元へ走り寄ってきた。


「こんにちは! あなたがこの神社の巫女さん? 外の世界から来たっていう」

 当時と同じ声で、当時と似た服装で、少しだけ成長が見える顔立ちで、彼女は私に挨拶をする。

「はじめまして! 宇佐見菫子です!」

 知っている。あれだけ仲が良かったのだ。毎日のようにおしゃべりをしていたのだ。それでも彼女は、”初めて会う”私に自己紹介をする。

「現役女子高生ってやつですよ。あとついでに超能力者。まあ超能力者ぐらいじゃないと幻想郷なんて来れませんよね。あなたも能力者ですか? 同じ外来人能力者同士、仲良くしましょう!」





 頭が真っ白になりつつ、・・・いや、真っ白になっていたからこそ、当り障りのない返答で適当にお茶を濁し、菫子が帰っていった後。私は拝殿の階段に座り込んで呆然としていた。
 まったく想像していなかった。記憶を消した後の人物と再会するなんて。知り合いが幻想郷へやってくる可能性は皆無だと思っていた。
 しかし、考えているうちに、当時のことを少しだけ思い出した。神様二柱に協力してもらい、現代の人々の記憶を消す際、「早苗っていう人物の記憶は消せるけど、会話内容やできごとまでは消せない。他の人物との会話や、そういう内容の本を読んだって形に修正される」と説明を聞いたことを。そして、今日の夢の内容。過去の会話。

「……そっか。幻想郷のことだけ知識として残ってて……。来たんだ。自力で。……すごいなぁ」

 最近起きた都市伝説騒動、その際に現代の人物が幻想郷に接触し、以降度々訪れていることは天狗の新聞で知っていた。だが、それが知り合いである可能性など全く考えていなかった。
 ふと、さっきまでの菫子との会話を思い出す。

「……私は菫子ちゃんのこと知ってるのに、向こうは初対面として話してくるんだもんなぁ……。辛いよ、全く」

 ため息を吐く。これは恐らく、神様が私に与えた罰だろう。自分の事しか考えず、自分にとって都合のいい結果のみを追いかけ、「周りの人たちのため」と上辺だけの気遣いで繋がりを全て消し去った私への罰。自分のやったことが最低だと、自覚しているから余計にこの仕打が心に響く。
 菫子は、「また来るわ。またね」と言っていた。あの時、もう会うことはないと思いながら言った嘘。それが数年越しに茨となって絡みついてきたような錯覚を覚える。今更、どんな顔をして会えばいのか。相手は私のことを知らないのだから、謝ることも出来ない。自らが消した記憶を自ら説明するのもはばかられる。
 いっそ私も、当時のことを全て忘れてしまいたい。

「……やっぱり、最低だな。私」






その後も菫子は何度か守矢神社を訪れるが、二人が”再会”するのは、もっとずっとあとの話






終わり

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まさかのシリアス(っぽい話)・・・だと・・・(書きたくなったんだから仕方ない)
シリアスを書くのは苦手、博麗饅頭です。

ツイッターでのお題募集SSです。テーマは「駅のホーム」
話のアイデアとしては、早苗過去話でよく使われる「記憶抹消系」を発展させたもの。
実は早苗と菫子は知り合いで、菫子が幻想郷のことを知っていたのは早苗から聞いていたからなのだ! というご都合主義。それにシリアス風味を加味。

駅のホーム→現代→菫子→そういえば早苗も外来人!→ピキーン!(アイデアが生まれる音)

って感じの流れです。

コメント

HRK
No.1 (2016/02/04 19:10)
なぜ踊らなかった!・・・という冗談はさておき、普通に面白かったです。いい作品過ぎてビビっております。菫子さんが幻想郷のことを知っていたのは早苗さんから聞いていたから、の部分で軽く鳥肌が立ちました・・・!
シリアスは苦手とのことですが、個人的には饅頭さんのこういう作品は好きです。いつぞやのバトル物も面白かったですし。伏線の張り方も上手いと思います。
とても楽しく読ませてもらいました。素晴らしい作品をありがとうございます!

追伸:冒頭の部分ではシャナっぽい設定だなぁと思いました。あんまり東方の二次創作小説とか読まないのですが、早苗さんの話ではよくある設定なのかな?
博麗饅頭 (著者)
No.2 (2016/02/04 20:00)
感想ありがとうございます!
そこまでほめていただけると作者冥利に尽きるってものですよ(*´∀`*)
でも普段ほのぼの系書いてるからか、固めの文章というか、思い雰囲気の出し方がまだ曖昧なところがありまして、まだまだだなと自分でも感じているところがあるんです。
とはいえ、まだ発展途上の文章でも楽しんでいただけるよう精一杯頑張ってますので、これからもよろしくお願いします!

シャナっぽい・・・ありましたね、存在の残り火がどうたらってやつ(もうあまり覚えてない……)
早苗の過去を扱う二次創作では割と見かける気がしますね、記憶抹消系。普通に行方不明扱いのもあると思いますけど。
俺もあまりたくさんの二次創作を見るタイプではないので、ほぼ俺のイメージですw
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