博霊饅頭即売所

東方SS 貧乏神、贈り物を考える

2018/06/03 22:16 投稿

コメント:2

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※この作品は東方Projectの二次創作作品です。


 穏やかな風が吹く午後。山から流れ出てきている川の岸辺を、大きなリボンが目立つ青髪の少女がふらつく足取りで歩いていた。貧乏神、依神紫苑である。
 博麗神社に居候として身を寄せている紫苑は、いつまでもただで世話になりっぱなしなのは悪いと思い、何かお礼の贈り物をしようと思い立った。しかし金銭など持っていないのでせめて食べられるものをと、朝から川で釣りに挑戦していたが、結果がどうだったかは彼女の手にぶら下がった寂しい桶が物語っている。

「はぁ……お腹空いた。もう昼過ぎだし、今から神社に戻っても何も残ってないよね。今日は昼ごはん抜きかー」

 少し前までは食事を一度や二度抜くことは苦にもならなかったが、霊夢のもとに身を寄せるようになってからは、僅かだが空腹感を辛いと感じるようになった。正常な食生活を手に入れたといえば嬉しいことだが、霊夢に何も返せていない現状、自身がどれだけ霊夢に甘えているかを示すようで、紫苑はため息をついた。
 ぽっかりと隙間が空いているような感覚をお腹に感じながら歩く紫苑の目に、岸に腰掛ける人影が止まった。最近できた数少ない友達であり、少し前の自分と同じように水に糸を垂らしているということはすぐにわかった。違うのは隣の桶に魚が数匹入っているということ。

「天子ー!!」
「うわっ!? っとと……紫苑じゃない。びっくりするでしょ」

 思わず飛びついた紫苑に突然体を揺らされ、驚く少女。比那名居天子は、水から糸を引き上げて持っていた竿を草地に置いた。そして紫苑が持っていた釣り竿に気づいた。

「あら、あなたも釣り? 奇遇ね。釣果は……ご愁傷さま」
「うわーん!」
「そういうこともあるわよ。とりあえずお昼まだなら一緒に食べない?」
「うぅ……いただきます」

 適当に落ちている枝を集めて火を焚き、天子が釣った魚を丸焼きにする。ご相伴に預かれることになった紫苑はほくほく顔で魚が焼けるのを待つ。そして簡単な食事を摂りながら、紫苑は天子に事情を話した。話を聞いた天子は感心しながらも苦々しい顔を浮かべた。

「ふーん。お返しをしようってのは良いことだけど……でも魚かぁ……」
「だめかな。美味しいものなら喜んでくれるかと思って」
「確かに美味しいけど、贈り物で食べ物って言ったら、フルーツとか和菓子とかじゃない?」
「そんなの買うお金持ってないし……」
「それなのよね……せっかくだし私も贈り物探し、手伝うわ」
「本当!?」

 紫苑は目を輝かせた。この天人様ならきっと良い案を出してくれると思ったのだ。

「何がいいかな。やっぱり食べ物?」
「あなたお金用意できないって言ったじゃない? 私が貸すのもありだけど、贈り物でそれは……ねぇ?」
「できれば自分で用意できるものがいいなぁ」
「じゃあ花束とか? 野花でも形を整えれば結構綺麗にできるわよ」
「野花かぁ……」

 そうするとどこで花を探すのがいいだろうかと紫苑は考える。
 近くの平地では小さな花しかないだろうし、太陽の畑や鈴蘭畑は住人とのトラブルの予感しかしない。あとは山の方だろうか。
 そこで紫苑はハッとした。

「そうだ! 山!」
「土地を買うのはちょっと……」
「違うわよ! 山で果物を採ればいいんじゃない! 里で売ってるものより採れたてのものを持っていけるし、山の妖怪とのトラブルも……多分ない!」
「多分って、大丈夫かしら……ま、なんとかなるわね」

 そうして二人は焚き火やゴミを片付けてから、妖怪の山に向かった。




 山を隙間なく埋める緑色の木々。その中の一際大きな木が音を立てながら枝葉を大きく揺らす。揺れた枝は大きく熟した果実を宙へと手放す。枝の隙間から差し込む陽光に照らされ瑞々しく光る果実は、重力に従って木の真下に伸ばされた腕へと……紫苑の腕の中に静かに落ちた。

「ちゃんと取れたー?」

 木の上から、枝に乗って木を大きく揺らしていた天子が紫苑に声をかける。

「取れたよー!」
「よしよし。もうちょっと落とそうか。次そっちの枝ね」

 天子は身軽に近くの太い枝に跳び移り、ガサガサと大きく枝を揺らす。続いて落ちてきた2つの実を、紫苑は慌ててキャッチする。
 紫苑が桶に取った実を入れている間に、上で枝がまた大きく揺れ、紫苑の近くに軽やかに天子が着地した。手にはちゃっかり自分用の実を確保して既に口をつけている。

「んー。やっぱり新鮮なフルーツはいいわね」
「天界には桃がたくさんあるんじゃないの?」
「上の桃はそれなりに美味しいんだけどねー。栄養価ばっかりで余計な味は削ぎ落としてあるから薄味なのよ。あと数が多すぎて飽きた」
「羨ましい理由だね」
「地上のフルーツはいいわー。種類が豊富だし季節によって旬が変わるし」

 紫苑もさっき手に入れた実を一つかじった。断面から流れ出てくる果汁の甘みが口に広がり、思わず彼女の頬も緩む。
 二人は先程から、食べられそうな果物を採ってはこうして味見を繰り返している。霊夢に贈る果物をどれにするか考えるため、という名目なのだが、結局採ったものは全部持っていくので、ただ二人が食べたいだけである。

「次、あっちのほうを探してみましょう」

 天子がそう言って紫苑の手を引いて行くこともあれば、

「いい匂いがする! あっちあっち!」

と、紫苑が天子の背中を押して進んでいく。二人で果物を食べながら、あっちの果物が甘いだとか、こっちの果物が爽やかだとか話をする。たまに果物と一緒に虫や蛇が落ちてきて騒いだりしていると、近くの妖怪たちが集まってきたりして、果物のおすそ分けをしたりした。
 そうして山を歩き回り、二人の持つ桶がいっぱいになるまで果物を集めていると、気づけば日はだいぶ傾いていた。

「たくさん集めたわねぇ。お腹もいっぱいになっちゃったし」
「夕ご飯食べられるかな……霊夢に悪いなぁ」
「この果物持っていくんだし平気でしょ。採れたてっていうには時間経っちゃったけど。さ、帰りましょう」
「うん」

 二人はそれぞれの桶を持って山を降りた。来たときと同じように川沿いを歩きながら、紫苑は気になったことを尋ねる。

「そういえば、たくさん採ったけど天子はこれどうするの? 神社はなんだかんだ来客が多いから食べきれるだろうけど、そんなに食べれる?」

 桶にいっぱいに入った果物。長期保存のための氷室などが無ければ、食べきれなかったものは悪くなってしまう。

「んー? 私も今は居候状態だし、針妙丸と一緒に食べるわよ。あの天邪鬼もひょっこり現れるかもしれないし。果実酒とか作るのもありよね」
「あ、そっか。このまま食べなくても使いみちはあるんだ」

 そうして二人で果物の美味しい使い方を話しながら歩く。たくさんの果物を食べた後でも、こういうことを話しているとお腹が空いてくるような気もする。

「あっ!?」

 いつの間にか足元がおろそかになっていた紫苑は、川沿いの木から伸びていた太い根に躓いた。傾く体。落ちていく視界。体に伝わる衝撃と、転がっていく果物。

「ちょっと、紫苑。大丈夫?」
「あー! 果物が!」
「あらら……」

 落とした桶は運悪く口を川の方に向けて倒れており、こぼれた果物は斜面を転がって川の中へ。浮き上がってきた果物は水の流れに逆らわずに揺れながら遠ざかっていく。

「あー……」
「相変わらず不運ねぇ。まあいいじゃない。全部落ちたわけじゃないんだし」

 天子は倒れた桶を起こし、まだ中に残っている果物を見て、「残りは3割ぐらいか」とつぶやいた。

「霊夢のために採ったのに……」
「こういうこともあるわよ。それに、贈り物に大事なのは気持ちでしょ」
「うん……」

 紫苑は返事をして立ち上がり。天子から軽くなった桶を受け取って歩き出した。しかし、彼女の様子は明らかに落ち込んでいる。天子はその様子を見てため息を吐き、紫苑の元に駆け寄ってその腕から桶をひったくった。

「えっ!?」
「はい、交換」

 戸惑う紫苑の腕に、自分が持っていた桶を押し付け、そのまま再び歩き出す。紫苑はよく分からずに慌てて追いかけ、どういうことか尋ねた。

「どうもなにもそのままよ。私は紫苑の話に便乗しただけだし、あなたが優先でしょ」
「で、でも悪いよ。これ天子が集めた分じゃない」
「二人で集めたんだからどっちでも変わらないわよ」
「じゃ、じゃあせめて、二人の分合わせて半分ずつに……」
「そんなに持ち帰っても、私と針妙丸じゃ食べきれないわ。針妙丸は食事量少ないし。これぐらいがちょうどいいのよ」
「じゃ、じゃあ……取っておくから!」

 とっさに紫苑の口から出た言葉に、天子は首をかしげる。

「天子用に、取っておくから、数日中に遊びに来てよね! 天子が来なかったら悪くなっちゃうから、絶対だよ!」

 天子はそれを聞いて数秒黙った後、思わず声を出して笑った。

「あはははは! なにそれ、霊夢への贈り物でしょう? なんで別の人用にとっておくのよ」
「いいでしょ別に! 私達が採ってきたものだもん!」

 天子が笑うのでなんだか恥ずかしくなった紫苑は、顔を赤くしながら子供のような反論をした。天子はひとしきり笑った後、嬉しそうに

「わかった。またすぐに遊びに行くわ。ちゃんと涼しいところに置いておきなさいよね」
「うん! 待ってるからね!」

 そうして約束を交わして、二人は別々に帰路についた。





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どうも、博麗饅頭です。
なんだかんだで結局またプレミアムになったので(一般だったの2,3ヶ月か)、渋に上げたSSをこちらに投稿します。
また同時投稿で続けていくと思いますはい。



コメント

HRK
No.1 (2018/06/03 22:39)
てんしおんは良いですね(*´ω`*)
妖怪の山にはどんな果物があるんでしょうか?天子も絶賛するような味なら是非食べてみたいですー。
博麗饅頭 (著者)
No.2 (2018/06/03 22:56)
感想ありがとうございます!!
豊穣の神様がついてますし、割となんでもありそうな気がしますね。外じゃ絶滅したような果実もあったりして・・・想像が膨らみます!!
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