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千本桜騒動に見るネットリテラシークライシス

2014/02/26 14:04 投稿

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昨年からの長きに渡って様々な媒体を巻き込んで続けられた「千本桜」騒動。ここ1ヶ月ほどでようやく収束したように思われるが、正直最初見た時は、まさか年を跨いでまで続くことになるとは思いもしなかった。知らない方のためにざっくり流れを記しておこう。

2013年8月20日放送の日本テレビ情報番組「ZIP!」において、Vocaloid楽曲の代表作として知られる「千本桜」が紹介された。その後一つのツイートからボカロファンとAKBファンを巻き込む激論に発展する。その原因となったツイート自体はもう消滅しているが、内容は下記の通り。

「なにこれ・・・。千本桜はAKBの歌なのに、勝手にボカロの曲にされてる・・・。日本テレビに苦情の電話いれる。#応援してくれる人RT」

ご覧の通り、完全な釣りである。ほとんどの方が知っている通り、「千本桜」の制作者は黒うさPさん。AKBがミュージカルに使用したのは事実だが、黒うさPの名前も記載してあるし、そもそも著作権の許諾も取っているはずなのでAKB側だってそんなこと認識していて当然である。
 
2chだったら上がってすらこない、「クソスレ」で一蹴されそうなクオリティのこのツイートが、まさかの大炎上を起こした。自称ボカロファンが結託し、千本桜がVocaloid楽曲と主張する旨のツイートが大量に出回ることになる。当然元のツイートをしたユーザーのアカウントも盛大に炎上。ただの愉快犯かと思っていたらアフィリエイトのビュー稼ぎだったらしく、私は切り口の面白さに感心したものだ。

そして多くのボカロファンは「犯人」の金稼ぎに利用されているという自覚も無く、何ヶ月にも渡って主張を続行。そもそも最初から決着がついている話に対してどこまで粘着するんだ、と思わせる恐ろしい執念であった。

しかし炎上扇動側にも実はオチがあり、「千本桜はボカロの曲だと思う人RT!支援URLこちらです」と書くとかなりのビューが稼げると踏んだこれもアフィリエイト誘導が大半だったことがわかってきている。

結局最初に炎上した者も、その後対抗するようなツイートを発信した者も、ボカロファン層の中核を担う10代半ばのファッション的「連帯感」と「正義感」をうまく利用して金儲けをしたに過ぎない。そして真に恐ろしいのは「祭り」に加担した多くのユーザーがその真相に気付いてないであろうという事実である。

中には本気でAKBファンを中傷するような内容もあり、「こいつは危険思想に踏み入る条件が揃っているな」と思わせる狂気のユーザーも多かった。一方のAKBファン層は、件のミュージカルが主要メンバーによる興行ではなかったことも手伝って「千本桜?なにそれ?」状態だったために話が噛み合っていなかった。まあ、元々非がないのに弁解する責務も無いわけで、「なんか騒がれてるけど私たち関係ないから放っておくか」という態度を取ったために事態の収束が遅れたという側面も多分に含んでいる。

そこまで分析をしてから再度最初のツイートを検証すると、これは実はなかなかに秀逸な内容なのかもしれないと感じるようになった。短い文章ではあるが、巧妙な手を使って、長期に渡って炎上するための条件を満たしているのだ。

1.事実誤認を含む、敗戦必至の内容
これは炎上のためには最低限必要。そしてVocaloid楽曲を代表する千本桜を選ぶことで、ライトなボカロユーザーも敵に回すことに成功していることも大きい。

2.AKB側が無抵抗かつほとんど無関心
ここが最大のポイント。例えば千本桜の興行が主要メンバーによるものであり、大島優子あたりが「黒うさPさんの『千本桜』を歌わせていただきます!」などと大々的に言ってしまったらそもそも炎上は起こせないのである。

「相手の正義感を煽り、叩きやすい条件を整える」と、若年層に配慮した方法で、このユーザーは成功を収めた。当該期間の収益は相当なものであっただろう。そして事態が収束に向かうと見るや否やアカウントを始末して逃亡。そもそも相手が匿名であれば叩き続けることに意味は無く、その後しばらく騒いでいた外野も飽きはじめて今に至る、というところである。


さて、前提が長くなったがここで本題に入ろう。まず、今回の炎上から学ばなければならないのは、昨今のネット業界を取り巻く環境についての大きな潮流である。一言で表現すると、「SNSでネットを知る」世代が急増していること。恐らく今の高校生以下の世代はほとんどそうだろう。友人と一緒にFacebookやTwitterを始め、一気に世界が広がる。しかしSNS以外のネット産業についての知識が不足しているために、広汎なリテラシークライシスを起こしているというのが現実だ。2chで育った世代でアフィリエイトを知らない者はほとんどいないだろう。それが今の10代半ばになったらどうか、という調査を一度大規模な統計の上でやってほしいものだ。

「Twitter以外使わないし」と言いながら中身の知れない短縮URLを無警戒にクリックする人間がどれだけ多いことか。アフィリエイトに利用される程度で済めばまだいいが、古典的なフィッシングやスパイウェアなんかに対しても脆弱としか思えない行動も多い。自分の認識不足で迷惑を被るのは自分だけではない。その端末に記録されている、電話帳も含めた全ての情報が危機に晒される。そして現行法上、他人の個人情報を流出させてしまったとしても、悪意の有る第三者に責任が有ると認定された場合、その保持者の責任は問われない。

まず必要になるのは法整備。そして、本質的に必要になるのは教育である。

ここで個人的な話になるが、私は過去に教育業界に身を置いていた経験が有り、今はIT産業に身を置いている。その経験から言わせてもらうと、今の情報教育はあまりに表面的で、はっきり言って役に立たない。ほんの少しコツを覚えるだけで、ネット上の悪意や危険の判別はかなり容易にできるようになる。小学校や中学校においての公演を続けている企業も多いのだが、それもなかなか実効的な内容には踏み込めない。「出会い厨の見抜き方」であるとか、「裏に目的がありそうな人の習性」であるとか、そういった有意義な情報を伝えることができるようになれば若年層の興味を惹くこともできると思うのだが、どうしても公機関において、となると話が難しくなるのがこの国である。その難しい作業を放棄した結果が、お家芸の「水際作戦」である。昨今急成長を遂げたLINEをはじめとするメッセージアプリケーションに強烈な逆風が吹いているのはそのためだ。「LINEが発端で犯罪が起きるから、若年層にLINEを使わせないようにしよう」という発想は短絡的過ぎて言葉も出ない。当然ながら問題はそこではない。刺殺事件が起きたからナイフの販売を取り締まるということが昔あったが、その時に似たバカバカしさを感じる。焦点が狂っているのだ。

ネットの世界に限らず、基本的に門戸開放は不可逆である。これは世界中の歴史が証明しており、一度普及したものを回収するためには膨大な時間が掛かり、方法を変えて法律をすり抜ける者まで取り締まるとなるとほとんど不可能であることも知られている。後退は得策ではない。迎撃に焦点を絞って対策するべきなのだ。知り合いのエンジニアに「猥褻な画像のみを検出して捕捉するアプリケーション」開発に取り組んでいる者がいる。これはリベンジポルノ等の犯罪の対処の一端である。こうした地道な技術開発を続ける傍ら、教育にも大きな変革を呼び込む。そのくらいの対策を取ることができなければ、現状の打破に繋げるのは困難であろうと思う。

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