連続講座「物語と観客の日本文明論ーー『復興文化論』の先へ」(全三回)開講に寄せて
福嶋亮大
昨年刊行した『復興文化論』(青土社)は一種の日本文学通史として書いたものですが、そこには日本的公共性の構想や〈物語〉の再定義、さらには美と観客の関係等々、多様な問題意識が流れ込んでいます。したがって、狭義...
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連続講座「物語と観客の日本文明論ーー『復興文化論』の先へ」(全三回)開講に寄せて
福嶋亮大
昨年刊行した『復興文化論』(青土社)は一種の日本文学通史として書いたものですが、そこには日本的公共性の構想や〈物語〉の再定義、さらには美と観客の関係等々、多様な問題意識が流れ込んでいます。したがって、狭義の文芸批評というよりは文明批評に近い本です。
本シリーズではその一端を解きほぐしながら、日本文明の蓄積から今いったい何を引き出せるのかを改めて問い直します(未読の方でも問題ありませんので、ふるってご参加ください)。文化を骨董品としてではなく、アクチュアルなものとして了解すること。日本で作品を作るとはどういうことなのかを歴史的に再考すること。それが講義のテーマです。アートであれ、文学であれ、評論であれ、これから何かモノを作ろうしている皆さんのヒントになればと願っています。
7月4日開催の第一回目では「日本の〈物語〉とポップカルチャー」と題して、私(福嶋)が『復興文化論』とそれに関連するアクチュアルな問題をお話します。8月22日の第二回はゲストに安藤礼二氏をお招きしての対談、9月の第三回は東浩紀氏との対談と続きます。講義全体を通じて、日本文明の姿を多角的に議論することを狙いとします。
第一回の講義「日本の〈物語〉とポップカルチャー」では、日本の物語が伝統的にどういう仕事を果たしてきたのか、それは東アジアのコンテクスト(文脈)においてどんな意味を持つのか、さらにその伝統は今日のポップカルチャーといかに接続されているのか……といったテーマをお話します。たんにポップカルチャーの流行に右往左往するのではなく、むしろそれを日本的な〈物語〉の系譜に位置づけること。それはかえって新鮮なヴィジョンを私たちに与えてくれるはずです。
第二回の講義では、文芸批評家の安藤礼二氏をゲストにお迎えして、第一回の議論をより深めていきます。安藤氏はデビューから一貫して民俗学者・折口信夫の研究に取り組んできた一方で、近年では井筒俊彦の再導入にも積極的に関わってきました。折口にせよ井筒にせよ、近代合理主義には収まりきらない「危険」な著述家であるばかりでなく、質量ともに圧倒的な仕事を残したということもあって、その思想を見極めるのは容易ではありません。しかし、安藤氏は彼らの「毒」を殺さず、しかもあくまで理性的な筆致によって彼らを現代社会によみがえらせるという難しい仕事にチャレンジし続けているのです。
今回はひとまず折口の文学論を踏まえながら、彼の弟子にあたる角川源義、さらには今日のKADOKAWA—DWANGOの合併問題なども視野に入れて、折口民俗学のアクチュアリティを探ります。と同時に、慶應義塾大学出版会から全集刊行中の井筒についても、その現代的可能性の一端を安藤氏にうかがっていきます。もっぱら日本をフィールドとしながら、神や物語の意味を問い続けた折口信夫。イスラーム神学からロシア文学、さらには言語哲学から神秘思想に到るまで、グローバルな思索を繰り広げた井筒俊彦。この両者の「出会い」にご期待ください。
安藤礼二氏のレジュメはこちら(https://shop.genron.co.jp/user_data/upload/save_image/nihonbunmeiron_2.pdf)からご覧いただけます。