横田めぐみさん(左:平壌で撮られた20歳時の写真、右:拉致された13歳当時の写真)
〔PHOTO〕gettyimages
日本人拉致被害者をめぐって日本と北朝鮮が全面再調査で合意してから3週間が過ぎた。菅義偉官房長官は5月29日の記者会見で「3週間程度で再調査を開始する」と見通しを述べていたので、そろそろ事態が動き出すタイミングだ。はたして拉致被害者は帰ってくるのか。
後ろ盾を失い、カネとエネルギーで兵糧攻めに
まず北朝鮮はなぜ、このタイミングで動いたのか。2013年5月10日公開コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35752)で紹介した米国の国防総省報告書が指摘したように、北朝鮮の後ろ盾になっていたのは、長らくロシアと中国だった。北朝鮮は自分たちが乱暴狼藉を働いても限界を超えなければ、中国とロシアが支持してくれるはずだから大丈夫、と思っていた。ところが、ロシアがまず離れ始めた。その点を、ことし2月に出た最新版の国防総省報告書(http://www.defense.gov/pubs/North_Korea_Military_Power_Report_2013-2014.pdf)はこう指摘している。
「北朝鮮はロシアとも友好的な関係を有しているが、それは中国との関係に比べれば停滞している。(中略)ロシアから北朝鮮を経由して韓国に通じる天然ガス・パイプラインの建設計画は毎年、トランジット手数料として数百万ドルを北朝鮮にもたらすはずだったが近年、ほとんど具体的な進展がない」
ロシアはクリミア侵攻によって世界に衝撃を与えたが、少なくとも、その直前までは日本との関係を改善していた。2013年4月のプーチン大統領と安倍晋三首相による首脳会談では、北朝鮮の核保有を認めないことで一致したのに加えて、拉致問題についてもロシアの理解をとりつけている。
最大の支援国であったはずの中国はどうかといえば、ミサイル発射や核実験を繰り返す北朝鮮に業を煮やして昨年5月、北朝鮮の外貨口座を凍結する金融制裁に乗り出した。金正恩総書記が中国とのパイプ役になっていた張成沢国防委員会副委員長を処刑した後、中国はことし1月から4月まで4ヵ月連続で北朝鮮向け原油輸出をストップしている。カネとエネルギーで兵糧攻めに出ているのだ。
先の最新版国防総省報告書は中国について、こう指摘している。
「北朝鮮は中国が核実験と高圧的行動を支持していないことを承知しているが、それでも中国は地域の安定維持に主眼を置いて、北朝鮮を厳しく罰したり外交・経済関係を遮断することまではしないだろう、とみているようだ」
実際には、この報告書が出た後、北への原油供給が止まってしまった。中国の北朝鮮に対する怒りは相当、深刻とみていい。米国はといえば、北朝鮮を相手にせず、融和的な態度をみせていない。
隣の韓国はどうか。反日共闘戦線を築く思惑もあってだろう、中国に接近し、中国もまた擦り寄ってくる韓国を可愛く思っているに違いない。習近平国家主席が7月3日に訪韓し、朴槿恵大統領と首脳会談を開くことがあきらかになった。
東アジアにおける以上のような展開の中で、北朝鮮が今回、拉致再調査に同意したのは八方塞がりの出口を日本に求めた結果である。最近、話を聞いた政府高官も「北はとにかくカネがない。日本からの送金を可能にするために再調査に応じたのだ」と語った。
今回の日朝合意(http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201405/__icsFiles/afieldfile/2014/05/30/140529nicchou.pdf)は北朝鮮が特別調査委員会を立ちあげた段階で「人的往来の規制措置、送金報告及び携帯輸出届出の金額に関して北朝鮮に対して講じている特別な規制措置、及び人道目的の北朝鮮船籍の船舶の日本への入港禁止措置を解除することとした」と記している。
北朝鮮にはこれによって、多少なりともカネが入ってくる。北朝鮮に行く在日朝鮮人が手持ちで現金を持ってきてくれれば、一息つけるのだ。
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