ゲキビズ田原通信

長谷川幸洋 第27回 減反廃止もコメ値上がりの可能性!消費者に目を向けない農水省に必要な政策大転換

2013/11/21 20:00 投稿

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  • 長谷川幸洋
  • 減反廃止
  • 農水省
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〔PHOTO〕[Photo] Bloomberg via Getty Images

コメの「減反を廃止する」というニュースが先週、大きく報じられた。
家計や消費者にしてみれば、この政策がコメの価格低下につながるなら結構な話である。
だが、肝心の農業関係者に話を聞くと、マスコミは「政策の大転換」と伝えているにもかかわらず「コメの価格は下がる場合も上がる場合もある」というのだ。これはいったい、どうしたわけか。

単純な原理から確認しよう。

供給↑で需要↓なら価格↓はコメも同じのはずなのだが

ある生産物の供給が増えて需要が減れば、価格は下がる。これはコメも同じだ。
減反とはコメの生産量を減らす政策であるはずだから、減反を廃止すれば、ヤル気のある農家が元気になって生産量は減らず、むしろ増える可能性がある。需要は趨勢的に減っているのだから、価格は間違いなく下がるはずだ。

そこで今回の政策をみると、どうなっているか。

まず、国が毎年の生産目標を決めて都道府県に配分していた生産調整を5年後の2018年度に廃止する。10アール当たり1万5千円支払っていた補助金も14年産米から段階的に削減し、18年産米からは廃止する。

この補助金は民主党政権時代に「戸別所得補償」として導入された。自民党政権になって「コメの直接支払交付金」と名を変えているが、同じものだ。自民党は「戸別所得補償を止める」と公約していたので、段階的廃止は既定路線だった。

マスコミはこの生産調整と直接支払交付金(=戸別所得補償)の廃止をとらえて「減反廃止」と大見出しを掲げたのだ。
ところが、実は今回の新政策はこれだけではない。同時に飼料用米への補助金は逆に拡充、増額する。

ふたつの直接支払交付金と日本型直接支払制度

こちらの補助金は「水田活用の直接支払交付金」と呼ばれ、10アール当たり8万円支払われている。この金額を増やしたり、支払う条件を拡充するのである。
これ以外にも「農地や水路、農道など多面的機能を維持するために必要な活動を支援する」という名目で、日本型直接支払制度という新しい補助金も14年度から創設する。

舌を噛みそうな補助金の名前がいくつも出てきてややこしいが、ようするに「右手の補助金はなくすけれども、左手の補助金は拡充ないし新設する」という話である。
そうだとすると、これで本当にコメの価格低下につながるのだろうか。

私は11月13日、委員を務めている規制改革会議の農業ワーキンググループの会合で、出席していた全国農業協同組合(JA全中)の冨士重夫専務理事に今回の「減反廃止」をどう受け止めているか、聞いてみた。

すると、専務理事からは「農家は冷静に受け止めている」と拍子抜けするような答えが返ってきた。
減反廃止でコメの値段が下がって農家の収入が減るなら「猛反発するはずだ」と思っていたのだ。

そこで「コメの価格は下がらないのか」と聞いてみた。消費者にとっては、ここが一番の関心事である。

答えは冒頭に紹介したように「値段は下がる場合も上がる場合もある」というものだった。「戸別所得補償を止めたところで、必ずしも米価が下がることはない」とも言った。

これはどうしてか。

大きな理由の一つは2つ目の補助金、すなわち飼料用米への補助金を拡充するからだ。この政策が何を目指しているかといえば、主食用のコメ作りから飼料用のコメ作りに転換する農家の増加を狙っている。

主食のコメ生産が減ることを減反廃止というのか

すると何が起きるか。主食用のコメ生産が減って、飼料用のコメ生産が増える。そうだとすると、主食のコメ生産が減るのに、これで減反廃止と言えるのか。コメの供給が減れば、需要が変わらない限り、コメの価格は下がるどころか上がってしまう。

だから、専務理事は「上がる場合もある」と答えたのだ。

別のJA全中担当者は「コメの需要は趨勢的に減っている」という点も指摘した。
そこで、私は念のために「需要が減っているのはたしかだろう。今回の政策は減っている需要に合わせて、供給サイドも減らしていく政策と理解していいか」と聞いてみた。

すると、出席していた農協関係者は「当たり前のことを聞くな」と言わんばかりの表情で「それはそうだ。政府の政策はずっと、そういう方針でやっている」と異口同音に答えた。

これを聞いて「農家は冷静だ」という謎が解けた。

つまり、今回の「減反廃止」と伝えられた政策は「供給を増やす=価格を下げる」のを狙っているのではなく、逆に「供給を絞る=価格を維持する」ことを狙っているのだ。

それなら、農家は困らない。コメの価格が維持できるからだ。
それだけでなく、農地や水路など農村の大事な基盤も新しい補助金で維持できる。だから反対の大合唱が起きないのである。
農協の最高幹部が審議会の正式な場でこう言うくらいだから、コメの価格は必ず下がるわけではないとみて間違いないだろう。

そうだとすると、今回の「減反廃止」は消費者にとっては、ほとんど何の意味もない話になりかねない。
消費者にとって肝心なのは「高い品質のコメが安く手に入るようになる」ことだ。そのためには減反ではなく、逆に生産を拡大する必要がある。 

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