いよいよ衆議院が解散し、選挙戦に突入した。
11月14日の党首討論で、自民党総裁の安倍晋三さんに対し、野田佳彦首相が
解散すると宣言したのである。
突然の解散宣言に驚く声も上がった。だが、野田首相には理由があったのだ。

なにより内閣支持率は下がるばかりだった。
そのため民主党内では、野田首相のままでは選挙戦を戦えないという声が、
日に日に大きくなっていた。
「野田降ろし」の風が吹くのは時間の問題だったのだ。
野田首相には、消費税増税という難事をなしとげたのは自分だ、という自負がある。
彼にしてみれば、きちんと仕事をしたのに、みすみす降ろされるのはたまらない
というところだ。
だったら、いっそのこと首相の権限で衆議院解散を、と決意したのだろう。

この日の野田首相には迫力があった。
「衆議員の定数削減」を条件に、安倍さんに「勝負」を挑んだのだ。
挑戦された安倍さんはタジタジであった。
今度の衆議院選挙で、民主党が獲得できる議席数は70~80だと見られていた。
だが、この党首討論の効果で、民主党の票が伸びるのではないか、と僕は感じた。
民主党の議席が100を超え、もしかしたら120くらいまで伸びるのではないか、
とさえ思ったぐらいだ。

ところが、である。
19日からカンボジアで開かれたASEAN首脳会合に参加した野田首相は、
「TPP交渉参加」について、「検討する」と発言したのだ。
TPP参加を「公約にする」と言っていたのだから、これは大きな後退である。
国内で「やる」と言いながら、対外的には「検討する」では、国の内外から信頼を
失うのは目に見えている。
先日の党首討論での迫力が、一気になくなってしまった。

一方、安倍さんは、大胆な金融緩和政策を打ち出している。
大規模な公共事業に伴う建設国債を日銀に引き受けさせ、さらに、2~3%の
物価上昇を目指す。安倍さんの狙いはデフレ脱却だ。
これに対して白川方明・日銀総裁は、
「現実的でない」
「財政再建や実体経済に悪影響を与える」
などと、ただちに反論した。
バックに財務省がついているから、白川総裁は強気なのだろう。
財務省は「締める」金融政策が好きなのだ。
だから、安倍さんが主張するインフレターゲット政策は、財務省官僚にとっては
もってのほかなのだ。

こういった経済政策の論議は、大いにやってほしいと僕は思っている。
民主党にとって、自民党との政策の違いを国民に示す絶好の機会である。
ところが、安倍さんの政策に対して、民主党からは、対論が出されていない。
野田首相が外遊中だから対論を出すのは無理だというなら、金融大臣なり、
官房長官なりが発表すればいい。

ASEAN首脳会合での野田首相の発言、安倍さんの金融政策に対する対応で、
民主党は好機を逃したのではないか、と僕は思う。
14日の党首討論をピークに、民主党の勢いは、ふたたび急降下している。