同じ時間に同じ場所で起こった怪現象を、女子目線・男子目線それぞれに描いた二本立て、という新鮮な作りが興味をそそる青春ホラー『ドロメ』。森川葵主演、女子目線の『ドロメ 女子編』と、小関裕太主演、男子目線の『ドロメ 男子編』が3月26日より同時公開となる。
今作を手がけたのは、『先生を流産させる会』『パズル』『ライチ☆光クラブ』など、重い題材や容赦ないゴア描写のあるショッキングな作品を作ってきた内藤瑛亮監督だ。
しかし一転、『ドロメ』は笑いあふれる青春ドラマをベースに、ホラーファンもソソる伝統的ホラーの要素を“泥”を使った前代未聞のスタイルで盛り込み、刺激的でありつつも多くの人が楽しめるポップな快作になった。
初めて出会う女子校演劇部と男子校演劇部の合同合宿で、甘酸っぱい恋模様を描くのと同列に、心霊現象・異形の泥モンスター登場・泥によるゾンビ感染めいたことまで巻き起こり、それらと対峙する主人公の成長物語となっているのだ。全編に笑いもあり、観たあとに爽やかな多幸感に包まれるこの作品には一体どんな秘密があるのか? 内藤監督にインタビューをおこなった。
“倒して成長する”新しいJホラーのかたち
記者:これまでの作品よりすごく明るい印象の作品になりましたね。
内藤:結構陰惨な作品ばかり撮っていて、おんなじパターンをやっていると作り手としても劣化してしまうし、今回は明確に明るい、スカッとするものにしようと思って作っています。Jホラーは今なかなか新しい表現も出てこないし、ちょっとシリアスすぎて、縮小再生産に入っている気がしていて。もっと楽しいホラーがあってもいいじゃないかと。
アメリカン・ホラーとJホラーってモンスターの立ち位置がまったく違うと思うんですよ。アメリカン・ホラーのモンスターは主人公の弱さの象徴で、それを倒すことによって主人公が成長できる。だけどJホラーの場合は弱さの象徴じゃないから“倒せない”んです。たとえば『リング』の松嶋菜々子さんが演じる主人公も、貞子に対してなにもできずに終わってしまう。だからこそ貞子は怖いんだけど。僕の資質は子どものころに観ていた80年代のアメリカン・ホラーにあると思っていて。なので、「倒して成長しよう!」と(笑)。Jホラーの雰囲気で始まるけど、アメリカン・ホラーの雰囲気に転化していく。そういう風に作ろうと思いましたね。
ホラーの伝統に敬意を表してパロディにする
記者:ドロメを作るにあたって影響を受けた作品ってありますか?
内藤:『ドロメ』はアメリカのコメディも参考にしてますね。日本で公開されなかったんですが、『21ジャンプストリート』や『ネイバーズ』『ディス・イズ・ジ・エンド 俺たちハリウッドスターの最凶最期の日』とか。アメリカンコメディは下らないだけって捉えられがちですけど、実はすごくクオリティが高くて、ああいう作品もちゃんと主人公の成長物語になっている。まあその成長が結構しょうもないことだったりするんだけど(笑)。ギャグの作り方も参考になりました。メイキングを見ると、アドリブで結構ギャグを言って、その場では滑っていても面白いところだけかいつまんで使ったりしてる。ギャグは作り込み過ぎてもだめで、その場の空気感が重要かなと。『ドロメ』でもそれは大事にしています。
あと強いてホラーで言うなら『ショーン・オブ・ザ・デッド』や『ファイナル・ガールズ 惨劇のシナリオ』かな。 ホラーの伝統に敬意を表しつつ、そこにリアリティやオリジナリティを加えてパロディにする 。たとえば『ショーン~』はイギリスが舞台だから、「イギリス人が立てこもるならショッピングセンターじゃなくてパブだろう」と(笑)。主人公も、“オトナになりきれない大人”というキャラクターに監督の実感がこもっていてリアリティがあった。『ドロメ』もホラーの伝統は引き継いでいるけど、日本という舞台や僕自身の資質は大事にして作品にしようと思いましたね。
ちょっとシリアスな女子編 コミカルな男子編
記者:女子編と男子編、どちらから先に観るのがおすすめでしょうか。
内藤:一本だけ観てもいいし、どちらから先に観てもいいんですが、どちらかといえば女子編を先に観るのがオススメですね。女子編で明かされなかった謎が男子編で明かされるという感じになっています。女子編は、女性が精神的に弱まっていって怪現象に追い詰められるという割とオーソドックスなホラーの形で始めて、それからだんだん笑いが入ってきてコミカルな方向に転化していくんですね。一方で、男子編は最初からコミカルな感じなんです。これは女性は怪現象のような霊的なものに対してシリアスに接する一方で、男子はもっとバカっぽく接するんじゃないかなという僕のイメージが反映されていますね(笑)。
記者:『ドロメ』の男子は、怪現象をあんまり怖がんないですよね(笑)。
内藤:そうですね(笑)。実際そうなんじゃないかなと。映画やテレビだとホラー的なものに関してすごくシリアスに演出されるんだけど、実際の男子高校生が怪現象に遭遇したら、ワーッと盛り上がったり、それをネタにどんどん遊びが始まっちゃうんじゃないかなと思うんです。ホラー映画として怖さを追求するというよりは、青春映画のなかに「校舎に犬が入ってきちゃった」みたいな感じで幽霊やモンスターを出して、それを観てキャッキャしている男子・女子が愛おしい、みたいにしようかなと。
リアルな登場人物、リアルな会話
記者:登場人物のキャラクターや会話がすごくリアルでしたね。
内藤:ホラー映画は登場人物のキャラクターがガリ勉とかマッチョとかセクシー巨乳とか、とにかくはっきりしてる場合が多いですけど、『ドロメ』の基盤は青春映画なので、登場人物たちはとにかく普通の男子高生・女子高生ですね。セリフに関しては、一般的な青春映画の学生って、セリフがかしこまってるというか自然じゃないなと思っていて。本当に仲良い10代同士がしゃべってると、「もっとうまいこと言ってやろう!」みたいな感じがあると思うんですけど(笑)。ああいうリアルな会話を再現したかったんですね。
記者:『ドロメ』の子たちはしょうもないことで延々盛り上がったりしていて、「こいつらくだらないなあ!」と思いながら笑わされてしまうんですよね(笑)。
内藤:現場でセリフを足して、俳優たちが笑ったらそれを採用するっていうこともやってましたね。包丁が手に刺さった友人を小春(森川葵)が助けようとして、誤ってグリグリねじこんじゃうんですけど、「ごめん、グリグリしちゃった!」というセリフは現場で「言ってみて」と提案したら、森川さんが「アハハ!」って笑ったので採用したんです。逆に現場で言ってスベってボツにしたギャグもあるんですけど(笑)。
泥でできたホラーキャラクター
記者:今作では泥まみれのモンスターが出てきたり、呪われた者が泥まみれになって口から泥を吐いたり、泥をホラー描写に駆使されてますよね。
内藤:僕はもともと田舎育ちなので泥団子とかで遊んでたし、泥には馴染みがあるんですけど。あの泥の質感ってホラーに活かせそうだなとは思っていて。で、アメリカ映画のモンスターホラーってすごくお金がかかっていて、日本でそれをやろうとしても難しい。『リング』の貞子や『呪怨』の伽倻子のような白塗りメイクのホラーキャラクターが日本で流行ったのって、低予算で怖さを表現できるからだと思うんです。でもおんなじことをやっても意味が無いので、低予算でできて日本的なホラーキャラクターということで、僕は泥を使おうかなと(笑)。
記者:泥でできたモンスターのドロメちゃんも、すごく可愛かったですねぇ。ドロメちゃんをフルボッコにするシーンがありますが、「以前からベートーヴェンの歓喜の歌にあわせてモンスターをフルボッコにする映画が撮りたかった」というのは本当でしょうか?
内藤:映画学校時代にそういうアイデアが浮かんでたんですが、ずっと眠ったままで。いつかやりたいなぁとは思っていたんだけど、今回で実現しました。ドロメちゃんがフルボッコにされるシーンは、「スカッとする」を飛び越してちょっと可哀想になっちゃう、可哀想すぎて笑っちゃうみたいな感じになればなと(笑)。『ごっつええ感じ』の「トカゲのおっさん」とかのコントみたいな。でも出来上がった映画を観てあそこまで可哀想なシーンになってしまったのは想定外だったんですけど、スタッフもキャストも、「可哀想!」って言いながらちょっと笑ってましたね(笑)。 そんな笑顔があふれるホラー映画なので、ぜひ楽しみに観に来てください!
映画『ドロメ 女子編』、『ドロメ 男子編』は3月26日より新宿シネマート他にて全国公開。可哀想でかわいいホラーモンスター、ドロメちゃんにも是非ご注目あれ! 観ないと呪われるドロ……。
公式サイト:http://dorome-movie.com/[リンク]
(c) 2016「ドロメ」製作委員会