筆者は先日、天橋立や伊根町など『海の京都』京丹後市や宮津市に取材に行ってきました。冬の日本海側は寒かったですが、古代からの歴史が根付く、神秘的で美しい場所でした。
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http://getnews.jp/archives/1386719 [リンク]
京都府というと、清水寺や京都御所、八坂神社など有名な観光地ばかりが思い浮かびますが、実はとっても広いのです。今回は『海の京都』に続く『森の京都』のお話を聞きに行ってきました。
『森の京都』ってどんなところ?
京都府は、古都京都だけではない、新しい京都のエリアを知ってもらうために『もうひとつの京都』プロジェクトを推進中。その一つが、筆者が先日行った京都北部『海の京都』エリアでした。
『森の京都』は、京都中部の亀岡市・南丹市・京丹波町・綾部市・福知山市・京都市右京区京北といったエリア。古くから京都の寺社仏閣の材料となった木材や、京野菜の産地です。
筆者が天橋立から京都駅に向かう特急『はしだて』の中から、福知山駅の写真を取りましたが、まさに海の京都から森の京都を経て、京都駅に帰って来たことになります。
貴重な自然が残る南丹市美山町の芦生(あしう)の森をはじめ、そこから流れ出る清流由良川の水源の里、大江山や三岳山などの山々や、清流由良川、川下りが楽しめる保津川など、自然豊かなスポットが多くあるほか、元伊勢神社や湯の花温泉、明智光秀の築いた城跡が残る亀山城址などの歴史遺産なども観光の魅力となっています。
2015年が海の京都、今年2016年が『森の京都』のターゲットイヤー。2017年には京都南部を中心とした『お茶の京都』と、京都のエリアごとにスポットを当てたプロモーションが展開されるとのことです。
子育て世代の移住者が増えている背景
『森の京都』エリアの特長は、観光だけでなく移住者が多いということ。最近よく聞く”地方移住”の話題、都会での暮らしに疲れ、自然の中で充実した暮らしをしてみたいと思う人も少なくないはず。でも、興味はあるけどなかなか踏み切れない…というのがリアルなところではないでしょうか。
実際に、移住したいと言っても「いつ、どこで、何を」といった、具体的な条件をはっきりさせている人は一割程度だそう。京都府の移住者数は前年に比べて約3倍、相談者数は約2.5倍増。そのうち、実際に移住先を森の京都エリアに決める人は約7割を占めています。
ぼんやりと『京都ぐらしって憧れ~』と相談を持ちかけた人が、森の京都に決めた理由は4つ。
・森(芦生の森や由良川などの豊かな自然)
・恵み(良質な木材や京野菜、シカやイノシシなどのジビエ食材)
・生活(京都からのアクセスが良く、移住・定住者に向けた経済的なサポートプラン)
・縁(先輩移住者が多い、地元住民の受け入れ体制、移住者同士のネットワーク)
特に森の京都エリアの一つ、綾部市は定住実績が全国第3位、希望登録者が常時600人という”人気の移住先”。しかも移住者の平均年齢は35歳と、子育て世代の移住者が中心です。
その理由の一つは『移住コンシェルジュ』の存在。移住を希望する人のライフプランなどを細かく相談し、実際に現地訪問や家探し、地元の方との交流サポートなども支援します。また、地方移住したはいいものの、なじめなくて失敗してしまった…という話も聞きます。森の京都エリアでは、移住者の先輩が多いため安心感があるのも嬉しい点です。
土地や住居、経済面でのサポートも充実。綾部市では空き家を10年間無償で借り、改修後50歳未満の移住希望者に市営住宅として月3万円で貸し出し。20~55歳の定住希望者に対して、空き家の購入や改修にかかる費用を借り入れる際に300万円を上限に市が債務保証をするなどの取り組みを続けてきました。
さらに2016年には都道府県としては全国初の、移住促進のための空き家や耕作放棄地に関する条例を制定予定。空き家や農地にかかる不動産所得税を半分にしたり、空き家の改修や移住応援金としての補助金交付など、移住者の経済的負担をパッケージ支援する試みです。
懐かしいのに新しい、カッコいい田舎暮らしのススメ
さらに、今注目したいのは、「古くて新しい」カッコいい田舎暮らしのスタイル。
南丹市美山町でかやぶき屋根の家に住む、南丹市美山エコツーリズム推進協議会事務局長の高御堂さんはこう語ります。
「かやぶきの家に住んでいるなんて、2~30年前は恥ずかしくて仕方なかった。でも今は、伝統的な日本家屋に住んでいると胸を張っていえます。屋根はかやぶきで、ヘビもネズミもテンもいますが、住居のほうは床暖房に二重サッシ、ユニットバスに薪ストーブで快適ですよ」
電気もガスも水道もある時代に暮らしている人間にとっては、快適さや利便性を手放すことは難しいこと。見た目はかやぶき屋根でも、中はハイテクで快適なのはありがたいかぎりです。まさに、”懐かしいのに新しい”田舎暮らしのスタイルが京都府で実現できるということも、移住者が増えている理由のようです。
さらに、移住や定住を支援することは、人口減少や過疎化にも歯止めをかけるきっかけになります。綾部市の里山ねっと・あやべ事務局長の朝倉聡さんのお話です。
「里山は放っておいたら荒れ果て、高齢化や過疎化で継承すべき伝統や文化も失われていくだけ。綾部市では全国に先駆けて限界集落を守る『水源の里条例』を制定したほか、黒谷和紙の伝統技術を守るために、地元や各地から移住した若手職人が伝統を継承しています」
移住した人の中には、古民家でカフェや飲食店を始めた人、良質な木材を使ったチェーンソーアートや木工製品を作成している人、農家民宿を始めた人などさまざま。一人一人が、存続の危機に瀕する地域を救う希望となっているのです。
ブランド杉に幻のきのこ、ジビエも!森の京都の恵み
森の京都の魅力のひとつが、豊かな森が育む恵みです。良質の素材と伝統、現在の技術を組み合わせたアイテムもさまざまです。
北山杉を使ったBluetoothスピーカー。インテリアとしても部屋に馴染みやすくておしゃれですね。
北山杉からできた精油、杉乃香。昔ながらの製法で作られた精油で、爽やかでとってもいい香り。
アロマオイルによっては好き嫌いが別れる香りもありますが、この香りはその心配がなさそう。オイルには殺菌作用もあるそうです。
豊かな森には、ニホンジカも生息しています。最近は天敵が増えすぎて、獣害に悩んでいるそう。シカ肉を食べることは、森の保護にもつながります。ジビエ料理、初めて頂きましたが、赤身の柔らかいお肉でした。鉄分や亜鉛が多く、脂が少ないのも嬉しい点です。
丹波地域の丹波栗や丹波大納言小豆、丹波黒豆などは全国的にも有名ですよね。
京丹波町だけで栽培しているという『京丹波大黒本しめじ』。普通のブナシメジとは全く違うきのこです。今までは栽培が難しく「幻のきのこ」と呼ばれていたとか。丹波はマツタケも有名ですが、味ならやっぱりシメジ!
同じく京丹波町の『京丹波ぽーく』と一緒に頂きましたが、肉厚で旨みたっぷりです。
納豆もち。京北は納豆発祥の地の一つで、近畿でも珍しく納豆を食べる風習があるそう。モチモチ感と納豆の美味しさがマッチしています。お正月料理としても食べられているそうです。
いぶり干したくわん。京北のお母さんたちが地域の再生のために始めたたくわんづくり。北山杉でいぶり干ししたあと、たまり醤油でじっくりとつけた一品です。スモーキーな香りと深い味わいは、お酒にも合いそうです。
『しぼったそのまんま』という亀岡市の丹山酒造のお酒。創業当時から枯れたことのない井戸には良質の水があり、水、酒米、土壌と好条件の中で美味しいお酒が作られるそう。名前の通り、シンプルながら力強い日本酒です。
丹波ワイン。ジビエからきのこまで幅広い食材や料理に合うワインを、と考えて作られたワインだそう。赤は最初からドーンと強く来ますが、雑味がないので飲みやすいです。白は華やかな香りが印象的。フルーティーですが後味はすっきりと、こちらもピュア味わいのワインでした。
「いいことなんてない」暗い未来を、折れない心で生きるには
そうは言っても、わざわざ移住するのはなかなか大変。広い意味での『森の京都』移住の意義について、ゴア元大統領の『不都合な真実』の翻訳を手がけられ、東京都市大学環境学部教授、幸せ経済社会研究所所長の枝廣淳子先生のお話をまとめてみましょう。
今までは右肩上がりの成長をしながら、ひたすらにエネルギーを使って工業製品を作り、効率的であることが重視されてきた時代でした。その中で人間はあくまでも生産資本の一つ。労働力であり、消費者として見られてきました。
ところがGDPが増えても幸せ度は増えない。むしろ生活に満足な人は減る一方です。さらに、人間が使うエネルギーは既に地球1つ分のキャパシティを超えています。今現在、超えている分は未来から前借りし、今ある資源を食いつぶして成り立っているわけです。
更にこれからは、温暖化、高齢化、エネルギー不足、人口減少、人工知能の発展による人の仕事の減少……と、考えただけで目の前が暗くなりますが、そんな中でも心身ともに折れずに生きていくには何が必要?と考えた時、一つ言えることは「今までどおりの価値観では幸せになれない」ということ。具体的には『3脱の時代』です。
・脱所有化(家や車、さまざまなものを持つのでなくシェアする)
・脱物質化(体験や人とのつながり、自然から幸福感を得る『持たない暮らし』)
・脱貨幣化(お金をもらう・貯めるのではなく、半農化で自分の生活を賄う)
意図的に収入を減らしてでも、自分の時間を増やす決断をした人のことを「ダウンシフターズ」と言います。自らの人生をシフトダウンし、自分の心や体にとって良い選択をする。お金や忙しさではない満足や豊かさに気づく人たちは徐々に増えてきているといいます。
枝廣さんは「わたしは”半農半X”と言っていますが、売り物じゃなく自分が食べる分をを作るくらいならなんとかなる。半分は畑仕事をして、半分はやりたいことなど、バランスを取ることができるんです。全部作るなんてムリだから、普段は買い出しに行って買っていい。でも、食料自給率が低い日本では、今後輸入される食品が高騰した時に自分である程度まかなうことができれば強みです」ともおっしゃっていました。
震災の時、生活インフラが使えないと一気に何もできなくなる都会の暮らしの弱さ、もろさを感じた人も多かったはず。何があるかあるかわからない今、地に足の着いた本当の意味での生活力が問われている時代と言えるでしょう。
筆者はヘビもネズミも怖いし、車の免許もないので移住はちょっと厳しそうですが、海の京都とはまた違った、森の京都エリアには是非行ってみたいなと思いました。注目の地方移住、全国各地が移住先として名乗りを上げていますが、移住を具体的に検討している人には『森の京都』エリアも是非、候補に入れてみてはいかがでしょうか。
(かやぶきの里/芦生の森/丹波くり/水源の里 写真は主催者提供)
(丹波大黒本しめじ 写真は(公社)京のふるさと産品協会 提供)
(上記以外の写真は筆者撮影)
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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか