乳がんに冒され余命わずかだと覚悟した母は、料理の大切さを愛する娘に教える為に、みそ汁の作る方を伝授する――。33歳の若さでこの世を去った安武千恵さんのがん闘病記と、娘のはなちゃん、夫の信吾さんとの日々をつづったエッセイが映画化。『はなちゃんのみそ汁』が1月9日より全国公開となります(一部、先行上映中)。
本作で、母の千恵(広末涼子)を優しく支える夫を演じたのが、俳優の滝藤賢一さん。愛する妻を失う悲しみを抱えながらも、笑顔と時折見せるコミカルな言動で映画全体を和ませてくれます。様々な映画、ドラマ等で大活躍中の滝藤さん。「素晴らしい本ほど演じるのは難しい」「自分が出ている映画で泣くなんてめったに無い」と本作の魅力を語ってくれました。
(撮影:wosa)
―映画を拝見して色々なシーンで涙してしまいました。以前原作は読んでいたのですが、映画になって、ただ辛い、悲しいというのでは無く、明るく楽しいシーンが際立っていた様に感じます。
滝藤:監督の演出は「苦しい所や悲しい所を見せない」でした。闘病中の描写を極力見せずに、ポップに描く事で何度も観られる映画にしたいと熱弁していましたね。置かれている状況が既に過酷ですから。敢えて、そこをピックアップしなくても十分伝わると思います。完成した映画を観て号泣しましたよ。想像以上の作品の出来上がりに正直驚きました。
―完成した映画を観て驚いたと。
滝藤:めったにないことですから。自分が出ていて号泣するなんて(笑)。僕はコミカルなシーンが多かったから、ちょっとやりすぎじゃないか?と不安に思うこともありました。でも、監督は「普通の芝居は見たくないんです」と仰ったので、結構思い切って演じましたね(笑)。根っこに流れる苦しみや悲しみを大事にしないと、ただの空気の読めない人になってしまうので、そこは特に気をつけてました。
一つのセリフをとっても、そのまま言うパターン、思い切りふざけてみるパターン、と色々やってみましたが、結局、奇をてらわず真剣に演じる事が多かったですね。台本に書いてある事が面白いから、上塗りしなくても普通に言うだけでメッセージが伝わる。面白い本の方が演じるのは難しいんですよ。ただセリフを言えばいいのに欲をかいて何かやりたくなっちゃうから(笑)。幸せな悩みですけどね。
―本作は脚本が素晴らしかったからこそ、難しかったという事ですね。
滝藤:原作よりもまたグッと踏み込んだ内容になっていますね。これは監督が安武さんと会って長い時間色々なお話をして、本当のエピソードで構成されているからこそ、より深い作品になったと思います。一本の作品に対して、しっかり時間をかけた方がいいに決まってますから。
―「安武信吾」という人物を演じる上で、意識した事はありますか?
滝藤:台本を読んで、爆笑して、号泣して、安武信吾という男の魅力に一気に引き込まれ、この男の人生を生きたいと強く思いました。クランクイン前にしっかりイメージトレーニングして準備ができましたし、撮影中は他の作品とも被らずに取り組めたので、凄く恵まれた環境で臨めました。
―広末涼子さんとのやりとりがとても自然で温かくて、大好きです。
滝藤:広末さんの、この作品にかける強い想いは非常に伝わってきました。広末さんがどの様に感じているかは分かりませんが、お互いの為に演技が出来たんじゃないかなと思います。本来演技って、相手の為にするものだと思うので、とても丁寧に積み重ねられたと自画自賛しています(笑)。タイトでハードなスケジュールでしたが、疲れた素振りなど、一切見せず、いつも明るく元気で。すごく素敵な方だなと思いましたね。尊敬する女優さんです。
はな役のえみなも、いわゆる子役って感じじゃなくて、素人とプロの間というか…すごく可愛かったです。人懐っこくてね、初対面で手をつないできたり。広末さんがえみなと毎回ちゃんと向き合って接していたので、えみなはより自由にのびのびと演技できたんだと思います。とはいえ4歳ですからね。結構わがままも多くて、早くも大女優っぷりを発揮してくれましたよ(笑)。
―セリフの一つ一つが自然でわざとらしくなくて、すごく愛おしいですよね。
滝藤:『ペコロスの母に会いに行く』(阿久根監督が脚本を担当)も笑って泣ける素晴らしい作品でした。阿久根監督は人間を愛しく描ける方だと思います。この映画に嫌な人って登場しないじゃないですか。全ての登場人物が愛らしい。この映画の内容をなんとなく知って、重いとか辛いとか思う方もいらっしゃると思うんですが、全編笑いと愛に満ちています。きっと「家族っていいな!」って感じていただける作品だと思います。多くの方に劇場で観ていただけたら嬉しいです。
―今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
『はなちゃんのみそ汁』
乳がんを宣告され、不安におびえる恋人の千恵にやさしく寄り添い、夫婦となった千恵と信吾。抗がん剤治療の影響や、がん再発リスクなどの不安を抱える中、無事に娘を出産した千恵だったが、再び病魔に襲われる。余命がわずかであることを覚悟した千恵は、自分がいなくなっても娘のはなが「独りで生きていける力」を与えようと、料理や家事の大切さを娘に教えはじめ、当時4歳のはなに、鰹節を削るところから始まるみそ汁の作り方を伝授する。
【予告編動画】