『桃太郎電鉄』シリーズ最新作に抱いていた期待と不安
筆者夫妻は『桃太郎電鉄』(以下『桃鉄』)シリーズが大好きで、ナンバリングが出るたびに購入してきた。かつての『桃鉄』シリーズの新作発売は、ほぼ一年ごと。しかしハドソン吸収合併後は新作発売ペースがダウンしており、最近に発売されたのは2016年。なので、今作は4年ぶりの『桃鉄』シリーズとなる。
それだけに「待ってました!」という思いは強い。ただ心配もあった。というのも、メインキャラクターデザインが土居孝幸氏から竹浪秀行氏に変わったためだ。誤解がないよう断っておくと、竹浪秀行氏が悪いというのではない。むしろ魅力的なイラストレーターだ。そうではなく、土居孝幸氏から変わるという点に引っかかりがあった。
土居孝幸氏といえば、これまでの『桃鉄』シリーズを含む『桃太郎』シリーズのキャラクターデザインを担当してきた人物。いや、それどころか筆者のような『週刊少年ジャンプ』黄金期を直撃した世代にとっては、『ファミコン神拳』や『ジャンプ放送局』のイラストレーターとしてもなじみ深い。
それだけに、今回のキャラクターデザイン変更についてはインパクトが大きかった。タイトルにもあるくらい、『桃鉄』にとって「定番」というのは重要な要素だ。その「定番」イメージを作り上げていたキャラクターデザインが変わってしまう…と言えばこの心理を少しはご理解いただけるだろうか。
しかし! Switchへゲームカードを入れ、ゲームを起動してみてその心配は吹っ飛んだ。いつものあの『桃鉄』の音楽が、効果音がそこにある! 「うわー、懐かしい。これぞ定番!」…とまず感じることができたのがサウンド面だ。また、心配していたキャラクターデザインについても、これまでのキャラクターデザインとは異なりながらも、キャラクターに抱いていたイメージはしっかり再現されており、プレイしてみると違和感なくプレイできた。
総資産ナンバー1を目指せ!改めてルールを振り返る
さて、改めて『桃鉄』のルールを記載しておこう。『桃鉄』の目的は、一定年数経過時点で、もっとも「総資産」を獲得したプレイヤーになること。「総資産」というのは、手持ちの「物件」と「現金」の合計額だ。プレイヤーは1000万円の現金を持ってゲームスタート。様々な駅で「物件」を買っていく。
「物件」を買うための現金獲得の手段は、主に3つ。1つめは、「目的地」として提示された駅に一番乗りすること。一番乗りすることで援助金として多額の現金が手に入る。
2つめは、ブルーの駅に止まること。ブルーの駅に止まると、ルーレットを回し、止めた金額の現金を手にすることができる。ルーレットの出目は、季節によって変化。冬は少額だが、夏には「目的地」の援助金と匹敵するほどの金額を獲得できる。
3つめは、「決算」。1年が過ぎると、「決算」が行われ、手持ちの「物件」に応じた収益を手にすることができる。これら以外にランダムイベントで「現金」を手にすることもできるが、プレイヤーの意思でコントロール可能な方法は主にこの3つだろう。だが、ただ『桃鉄』はただ「現金」を手に入れて「物件」を買っていくゲームではない。ここに「追いかけっこ」の要素が加わってくるのだ。
「追いかけっこ」のメインとなるキャラクターが「貧乏神」。誰かが「目的地」へ一番乗りした際、「目的地」から一番遠い駅にいるプレイヤーへ憑りつくキャラクターだ。「貧乏神」は「勝手に物件を売っちゃう」だとか「勝手に後戻りする」など、毎月様々な悪行によってプレイヤーを苦しめる。さらに、「キングボンビー」をはじめとしたより強力なボンビーへと変身することも!
しかし、他のプレイヤーと重なれば、なすりつけることが可能。この結果、プレイヤー間に「貧乏神をなすりつける!」「貧乏神から離れる!」という追いかけっこが発生するわけだ。
『桃鉄』は駅から駅へとサイコロの出目に従って移動する、「すごろく」的ルールを持ったゲーム。なので、「目的地」への一番乗りにしても「貧乏神」を巡る追いかけっこにしても、ランダム性を持っている。しかし、決して運任せのゲーム…運ゲーではない。
『桃鉄』に戦略をもたらしているのが「カード」要素だ。「カード」を使うことで、サイコロの数を増やしたり、他のプレイヤーを足止めしたり、特定の駅へ飛んだり、「現金」や「物件」を獲得したり…実にいろんなことが行える。サイコロの出目はコントロールできずとも、いつ、どんなカードを使うかはプレイヤーの意思でコントロール可能。このため、「カード」の使い方が上手いプレイヤーは、安定的に勝利しやすい。
シリーズによって細かな違いはあるが、『桃鉄』のルールは基本的に同様。今作も、こうしたルールは継承している。だからこそテレビゲームにして<ボードゲームの定番>と呼ばれているのだ。
筆者VS奥さんVSエンマVSさくま鉄人でプレイ!
今回のレビューでは、筆者は奥さんと2人でプレイ。「かずぞう」というのが筆者、「どげやん」というのが奥さん。後2人のプレイヤーはコンピューターを設定。コンピューターにもキャラクター…つまりNPCが設定されており、NPCの性格毎に異なる行動をとる。今回選んだのは、『桃鉄』最強のコンピューターキャラクターである「さくま鉄人」と、「さくま鉄人」の次に強い「エンマ」だ。
そして、年数は10年を選んだ。筆者個人の意見を言えば、『桃鉄』でおもしろいのは100年プレイだと思う。ある程度年数が経過しないと「貧乏神」が変身をしない、他にも発生しないイベントがあるからだ。しかし、今回の原稿には速報レビューとしての意味合いもあるので、短い10年をセレクト。年数設定画面にはプレイ時間も表記されており、便利。10年だとプレイ時間は4時間程度だ。
プレイしてみると、「さくま鉄人」が超強い! 人間プレイヤーもNPCも、プレイヤー達は一定確率で「絶好調」という状態になる。「絶好調」になると、基本的にはサイコロの数がアップ。さらに有利なカードがもらえる「ナイスカード駅」の数も増える。
さらに、NPCは追加の効果を持っている。「さくま鉄人」でいやらしいのが、「絶好調」時に攻撃系カードの効果が打ち消されてしまうこと。相手のカードを奪う「刀狩りカード」も、「現金」を吸い取る「ベビキュラーカード」も通じない。いや、そんなことよりも「絶好調」を強制終了できる「絶好調くずしカード」が通じないのが痛い!
実際、ゲーム開始~6年目くらいまでは「さくま鉄人」&「エンマ」が2トップという展開。人間プレイヤー2人は貧乏神に憑りつかれまくった。久しぶりに貧乏神に取りつかれる気分は、懐かしさとウザさと笑いが入り混じった気分。特にあるとき、3ターン連続で貧乏神がウンチをした際には、大いに笑わせてもらった。ちなみにウンチをされると、その線路が通行不能状態になる。
このため、自分が「目的地」に最も近い場合、他プレイヤーの道を塞ぐ格好になり、非常に有利。「貧乏神」の「悪行」は、状況によっては有利にはたらくものも多いのが魅力だろう。だが、これが変身形態「キングボンビー」になれば話は違う。
今回のプレイではじめて「キングボンビー」に憑りつかれたのは、「どげやん」だった。ちなみに「どげやん」は昔から「『キングボンビー』は『桃鉄』におけるバランス装置に過ぎない」と言っていた。これはどういうことかというと、「キングボンビー」はトッププレイヤー一強の状態を崩すためのキャラクターであるということ。『桃鉄』というゲームは、順位の低いプレイヤーが復活しやすいように作られているように思う。
たとえば「現金」がなくなると借金が詰みあがっていくが、どれだけ借金があろうと、「徳政令カード」を使えば一発でチャラ。しかも今作では「徳政令カード」が無料で手に入る。なので、順位の低いプレイヤーが「キングボンビー」に憑りつかれてマイナスが拡大したとしても、実はそれほど痛くないのだ。
一方、順位トップ付近のプレイヤーが「キングボンビー」に憑りつかれると、被害は甚大だ。何せ「キングボンビー」は、「サイコロ10個を振って出た目に応じた現金を捨てる」とか「所持しているカードを全部捨てる」とか、それまでコツコツ築き上げたモノを一瞬で無にしてしまう。このような構造になっているので、100年という長い単位でプレイすると、勝ったり負けたりという波乱万丈の展開が味わえるわけだ。
今回「どげやん」に憑りついた「キングボンビー」は、手始めに現金を捨てた。その後、「時限爆弾カード」8枚をプレゼント。「時限爆弾カード」というのは持っていると一定時間後に爆発し、列車の修理費用として「現金」がマイナスになる上、「カード」も数枚燃えてしまう(失ってしまう)というもの。
ちなみに8枚というのはカードの最大所持数だ。なので、「時限爆弾カード」8枚をもらうということは、その時点の所持カードをすべて捨てて、「時限爆弾カード」をもらうということになる。とんでもねー悪行だ! …だが、結果としてこれが「さくま鉄人」&「エンマ」を切り崩すきっかけとなった。
「時限爆弾カード」は使うことで、他のプレイヤーに渡すことができ、もらう側のプレイヤーに拒否権はない。なので「どげやん」は、手持ちの「時限爆弾カード」を「さくま鉄人」&「エンマ」へ次々渡していく。もちろん、「さくま鉄人」&「エンマ」も「時限爆弾カード」を他プレイヤーへ渡そうとする。…が、「さくま鉄人」&「エンマ」は人数的に不利だ。
というのも、「さくま鉄人」も「エンマ」も、他3人のいずれかへ渡そうとするのに対し、筆者と「どげやん」は「さくま鉄人」&「エンマ」にしか渡さない。そう、筆者と「どげやん」は結託した…! 2人ともドべ1ドべ2なんだから、結託して何が悪い!?
この「時限爆弾カード」押し付け合い戦争によって最もダメージを受けたのが「さくま鉄人」だ。何度もの爆発によって手持ちの「現金」を失い、ほとんどの物件を処分し、みるみるうちに転落していく。そうして「エンマ」の独走状態となった。また、そんな「エンマ」を転落させたのが「貧乏神」だった。
今回のプレイでは、「貧乏神」は「どげやん」に憑りついていることが多かったのだが、その後、「エンマ」へ憑りつくこととなり、変身が発生。「キングボンビーJr.ポコン」へ姿を変えた。「ポコン」は今作から登場した新キャラクターで、憑りついているプレイヤーの物件を吹き飛ばす。これによってエンマの持つ高額物件が次々吹き飛ばされ、「エンマ」の独走は崩れることになった。
そして今回のプレイで勝者となったのは…筆者だ! 「どげやん」は「キングボンビー」に憑りつかれている時間が長く、最後の1年も憑りつかれていたことから、最下位になってしまった。残念…。あと、今回のプレイでは、「デストロイ号」が登場しなかったのも残念だ。「デストロイ号」も「ポコン」と同じく今作からの新キャラクターで、サイコロを振り、出た目に応じて勝手に動き、通過した駅の物件を全部吹き飛ばすという凶悪ボンビー! 今後のプレイで出会えることを期待したい。
「戦略」「運」「笑い」のバランスに優れたデジタル・ボードゲーム
プレイの結果感じたことは、今作もバッチリ『桃鉄』。定番ここにあり! しかし、ただ定番というだけでなく、随所に新設設計が盛り込まれていて、快適度はアップしている。何より、Switchでリリースされたことによって、家のテレビでプレイすることも、携帯モードでプレイすることもできるというのは嬉しいポイントだ。
また、『桃鉄』をプレイしたことがない、という人に本作の感想を伝えるなら、一言、「最高」だ! 何が最高なのかといえば、「戦略」と「運」…そして「笑い」のバランス。プレイヤーの「戦略」によって十分勝ちを目指すことができるが、「運」も絡むため、初心者プレイヤーの勝つ可能性だってゼロじゃない。
そして、たとえ負けているときであっても、随所に「笑い」の要素が込められているので、ムードが暗くならない。だからこそ、幅広い年齢層のプレイヤーが一堂に会しても、みんなが一緒に楽しむことができるのだ。
また、『桃鉄』はゲームの外側にまでエンターテインメントが込められているのがイイ。『桃鉄』に登場する駅の「物件」は、現実の名産品がモチーフとなっている。たとえば、「奈良駅」で扱われている物件はシカせんべい屋、せんとくんグッズ屋、巾着きつねうどん屋、柿の葉ずし屋、日本旅館、ならまち散歩道といったもの。
筆者は奥さんと2人で奈良に旅行へ行った際、シカせんべいを買い、柿の葉ずしを食べたので、今回のプレイで「奈良駅」に止まった際、「懐かしい! 美味しかったねえ」などと話が盛り上がった。ただ、美味しいものの話をするだけだとお腹が空く。そこで、出前のピザを頼み、お酒を飲みながらプレイした。これも『桃鉄』ならではの楽しみ方だ。
美味しいものを食べながら、美味しかった思い出の話をし、さらに「ここの名物美味しそうだねえ、今度取り寄せしようよ」などと話す…。これが「最高」でなく、何が「最高」か! 『桃鉄』は、100年後の世の中にも残ってほしい傑作のひとつだと思う。
桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~ 公式サイト:
https://www.konami.com/games/momotetsu/teiban/[リンク]
(c)さくまあきら (c)Konami Digital Entertainment
文/田中一広
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