しかし、2019年12月にスマホゲーム化と、その制作資金をクラウドファンディングで募集することを発表。募集はクラファンサイト「Makuake」で翌年の1月30日まで実施されると、目標金額とする1200万円には届かなかったが、その半分となる約634万円(総寄附者数338人)が集まった。実は筆者も同プロジェクトを支援して、「オリジナルお茶碗」をもらっているのである。
実際に支援してしまうくらいリリースを楽しみにしていた本作。お茶碗は普段から使っていたが、ゲームの存在は忘れかけていた2020年7月、宇治市役所から1通の郵便物が届いた。中身はリリースのお知らせと、“あるパスワード”だった。
グラフィックもサウンドも◎。しかし操作性が……
ストーリーは、PR動画と同じく、突如何者かに襲われた宇治市に平和を取り戻す……というものである。ゲームをスタートすると、キャラクター選択画面になるが、誰を選んでも「KEMARIO(ケマリオ)」なるキャラで遊ぶことになる。ちなみにこの選択画面に並んでいるうち、10人がクラウドファンディングの支援者たちである。なお、クラファン支援者はコンティニュー画面にも出現する。
アクションステージの画面は、さながら平成初期にカプコンからリリースされたアーケードゲームのようだ。ゲームのBGMは、ピコピコ感と“宇治ボイス”が融合した、中毒性の高いものとなっている。ステージをクリアすると、「イェ~ス! ウズィスィティ~!」という、これまた中毒性高めで一緒に叫びたくなるようなボイスが流れる。
敵キャラやステージボスも、ほぼすべて宇治市にまつわるものである。後半には市長も敵キャラとして現れ、「シチョー!」という鳴き声とともに襲い掛かってくる。ケマリオはパンを食べると“マジ貴族”になり、攻撃を繰り出して敵を倒せるようになる。なぜ宇治市でパンなのかというと、京都府がパンの消費量全国一だからだそう。
やり込み要素としてミニゲームも複数用意されている。鵜飼いの海鵜(ウミウ)から魚を奪い取る“連打力”が必要なゲームや、タイミングよくお茶をタップする“リズム感”が必要なゲームなどが用意されている。ミニゲームは一度エンディングを見ると、タイトル画面からいつでも挑戦できるようになる。
操作は「直感型宇治市系インターフェース」と称した、「湯呑みカーソル」と「茶団子ボタン」で構成されたコントローラーで、非常に“宇治らしさ”を感じさせる唯一無二のUIだ。湯呑みカーソルの左右(時には下も)を押してケマリオを動かし、茶団子ボタンの「甲」でジャンプ、「乙」で攻撃、「丙」は前半では「ヘーイ!」と叫ぶだけだが、後半では頭突きができる。「ポーズ」はゲームの一時停止かと思いきや、ケマリオがポーズを取るだけ。つまりこのポーズは「pause」ではなくて「pose」の意味だったか……。
しかしながら正直、操作性があまりよろしくない。この操作性の悪さは『アクトレイザー』(SFC)を彷彿とさせる。自キャラの動きがぎこちなく、テンポよく進まない。特に「玉露」を泳ぐシーンは、泳いでいる時の操作がストレスを感じるレベルで、ノーダメージで抜けるのはほぼ不可能なのではと思ってしまうほど。ちなみにジャンプ移動時のコツとしては、一度ジャンプしてから、前進する感じで動かすと、多少“動ける”ようになるだろう。
ゲームは後半からパンを取らなくても常時マッチョ化し、体力ゲージも長くなった状態で進むことができるが、それゆえに敵の攻撃も容赦なくなってくる。ラスボスもそうだが、ボスキャラ「橋姫」の攻撃もまた“鬼畜”である。橋姫の場合、筆者は攻撃を避けることを放棄して、力でゴリ押しして勝利することができた。
感動のエンディングを見るためには……
ちなみに本作は、ラスボスを倒しても“実際に宇治市に行かないと”クリア不可能な仕様になっている。アプリ起動時に位置情報の許可を求められたのはそのためだろう。しかし、筆者はゲームリリース前に送られてきた、クラファン限定の“あるパスワード”を使うことでエンディングを見ることができた。
もちろんパスワードを公開することはできないが、エンディングは“ある意味”感動を覚える、狂気じみた内容だった。“サイケ”や“カオス”などというワードでは片付けられない、それらを超越した、熱でうなされている時に見る夢のような世界観が広がっていた。読者諸氏も、このエンディングを見るためだけに宇治市に行ってほしいとは言わないが、もし宇治市に行く機会があれば、ぜひこのエンディングを見てほしい。
観光PRとしてはこの上なく斬新
過去に、このような“観光案内型アクションゲーム”があっただろうか? ゲームをしながら街の見所がわかるのは、普通にウェブや本で見る以上に記憶に残りやすいし、興味を持ちやすいと思った。例えば「宇治橋」であれば、市長が暴れていた場所というように刷り込まれてしまうからである。
前半で、個人的に1か所だけ「いや、そこで案内出すなよ……」と感じた、空気の読めていない案内もあったが、それさえも「空気の読めていない案内があった場所」と、良くも悪くも興味を持ってしまうのだ。“ヤバい敵”が襲ってこない萬福寺や三室戸寺に一度行ってみたい、と自然に思えるようなゲームなのである。
ゲームの内容よりも、筆者のように、一人でも多くの人に宇治市に行ってみたいと思わせることができたのなら、このゲームは“成功”で、目的を果たしたと言えるのではないだろうか。少々野暮だが、もし点数を付けるなら、ゲームとしては100点満点中65点、観光PRとしては100点満点中5億点だろう。
世界初!?宇治市を舞台にした横スクロールアクションゲーム!あなたの手のひらで宇治の魅力が炸裂! – 宇治市公式ホームページ:
https://www.city.uji.kyoto.jp/site/game-of-uji2020/[リンク]
文/浦和武蔵
(執筆者: ガジェット通信ゲーム班)
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