皆さんは、RTAというゲームの遊び方をご存知でしょうか?
RTAとは、『Real Time Attack(リアルタイムアタック)』の略で、ゲームを初めからプレイして実時間でどれほど早くクリアできるのかを競う遊び方です。
英語では『speedrun』と英訳されており、世界各国で親しまれているゲームのプレイスタイルです。
そんなRTAですが、2016年4月13日、誰もが一度はタイトルを耳にしたことはある『スーパーマリオブラザース』のRTAでの世界記録がアメリカのRTAプレイヤーであるdarbian氏によって更新されました。
上記の記録達成時の動画を視聴していただければ一目瞭然ですが、物凄いスピードでステージを駆け抜けています。
動画だと手動でストップウォッチを止めているのでタイムが不正確ですが、録画をフレーム単位で改めて見直したところ、世界記録は前記録を約0.167秒上回る”4:57.260”となりました。
この世界記録を達成したという動画は世界中を駆け巡り、様々なメディアで紹介はされましたが、残念ながらこの記録を達成するまでにどのような軌跡があったか、また何が具体的にどう凄いのかを詳細に述べているメディアは調べた限り存在しませんでした。なので、この場を借りて書かせていただきます。
21フレームルールの存在
『スーパーマリオブラザース』では1秒間を60フレームとし、1秒間に60回静止画を映して画面がまるで動いているかのように見せています。
そんなフレームですが、『スーパーマリオブラザース』はとても特殊なプログラムがされており、ゲーム起動後からの総経過フレームが21の倍数にならないとステージを跨いだ際の画面暗転が終わらないという仕様があります。
Every time you enter a new level, the game delays for a varying amount of time. The delay actually waits for a counter that loops every 21 frames (~0.35 seconds).
※Super Mario Bros. – SDA Knowledge Base(https://kb.speeddemosarchive.com/Super_Mario_Bros.)より引用
21フレームというと約0.35秒なのでほんの僅かな時間のように思えますが、『スーパーマリオブラザース』ではBボタンを押して十字キーの右を押せば誰でも、例えそれが小さな子供であろうと熟練プレイヤーであろうと最速で走ることができるため、約0.35秒といってもそれを更新するのは難しくなっています。
例え前記録より多少早かろうと21フレームルールの前では暗転画面の長さで結局は同じタイムになってしまうことから、2011年12月15日に目に見えるミスが何もない状態で”4分58秒”というタイムを達成したAndrew氏のタイムが長年『スーパーマリオブラザース』での最速タイムとなっていました。
第一のブレイクスルー
そんなAndrew氏のタイムですが、ドイツのi_o_l氏によって2014年6月5日に”4:57.693”と塗り替えられます。
i_o_l氏が用いた方法はバグで、得点加算と同時にゴールのフラグに触れるとフラグが降りてこなくなるバグを利用しました。
具体的に何をやったのかというと、8-2ステージではゴール手前にキラーが飛び出してくる箇所があるのですが、そのキラーがゴールのフラグのところに来るまで待ってからジャンプをし、キラーを踏んづけて得点を得ると同時にゴールのフラグに触れるというものです。
キラーが来るまでに少し立ち止まっているのでその分遅くなるように思えますが、フラグが降りてこない時短効果は凄まじく、8-2ステージだけで既存の記録より21フレームどころか42フレーム(約0.7秒)短縮することに成功しました。
第二のブレイクスルー
i_o_l氏の記録は8-2ステージで新たなテクニックを用いたことで大幅に既存記録を更新し、他のステージも21フレームルール上で最速を走っていたので塗り替えるのはさすがに無理かと思われていましたが、ここで登場するのが今回の世界記録を達成したdarbian氏です。
4-2ステージではわざとブロックや壁にぶつかってその際に後ろを向き、マリオのX座標を一定座標以上まで右にずらすとその先へ続く土管のワープ先がステージワープマップに書き換えられるというバグが存在します。
従来の戦略ではここでのずらしはマリオを3回ぶつける『3回ずらし』というものが主流でしたが、darbian氏は2回しかずらさない『2回ずらし』を思いつき、それを実行に移します。
3回から2回に減らしただけだと誰でも思いつく戦略のように見えますが、この『2回ずらし』は操作精度が半端なく求められるもので、少しでもミスをすると土管のワープ先が通常通りのものになってしまったり、逆にタイムが遅くなってしまうもので、並のプレイヤーではまず実行不可能なものとなっています。
4-2ステージで改良を行ったおかげで、従来の戦略より21フレーム(約0.35秒)早くすることができました。
darbian氏のプレイの模様は動画配信サイトを使ってリアルタイムで配信されていたので私も何度か視聴したことがありますが、4-2ステージの『2回ずらし』の難易度は相当なもので、配信を始めてから終わるまで試行回数を重ねても一度も4-2ステージをクリアできないこともあったくらいです。
最後の砦である8-4ステージ
第一と第二のブレークスルーを経て、ステージクリア時の21フレームルールを考慮すると、実は8-3ステージ終了までは人間で出せる理論値ではないかというところまで『スーパーマリオブラザース』のRTAは詰められています。
そして、ここで最後に立ちはだかるのが最終ステージである8-4ステージです。8-4ステージは最終マップなことからステージを跨いだ際の21フレームルールが適用されません。
21フレームルールが適用されないことから、8-3ステージまでは場所によっては数フレームの遅れは暗転画面が終わると最速と同じタイムとなるため許されていましたが、8-4ステージにおいては1フレームの遅れも許されません。
darbian氏も、実は3ヶ月ほど前に8-3ステージ終了までは今回出した世界記録と同タイムで来て”4:57.427”というタイムを出せていましたが、これは水中ステージでミスをして一瞬歩いてしまったがためにほんの僅か遅くなってしまっているものでした。
ここで今回達成された世界記録ですが、8-3ステージまでは人間の理論値で来ており、8-4ステージでも目に見えたミスがないというかなり完璧に近いものとなっています。本人も記録には満足のようで「I have reached my potential in this category – I’m done! My quest is over.」とやりきった旨を動画説明文上で語っています。
これからのスーパーマリオブラザースRTA
darbian氏が一区切りつけたところで『スーパーマリオブラザース』のRTAも一区切りついたように思えますが、これで終わりではありません。
『スーパーマリオブラザース』では4分57秒台でのクリアが一つの目安となるのですが、この4分57秒台に付けているRTAプレイヤーがdarbian氏以外にも少なくとも3人存在することが分かっており、このうち2人は自己記録更新日が僅か1ヶ月前とかなり最近となっています。他のプレイヤーもかなり活発に動いているので、すぐさまこの世界記録が塗り替えられる可能性もあるのです。
今後『スーパーマリオブラザース』のRTAの記録が更新されるとしたら、8-3以前のステージで21フレームルールを超えるほどの時短効果のあるテクニックが発見されるか、または8-3までは世界記録と同速タイムで来た後に21フレームルールの適用されない8-4ステージでdarbian氏を超えるかの二択となっていて、今後も見る目が離せなくなっています。
※写真は全てYouTube https://www.youtube.com/watch?v=Ev-QpxN8wPo より引用しています
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