地方創生という言葉が一般的になって久しいが、その手法はさまざまである。
そんななかで、「DINING OUT」という不定期イベントが注目を集めている。
実際には定期的に開催されているのだが、事前のアナウンスはなく参加したい人は常に開催をチェックしていないと瞬く間に完売してしまうというそのイベントとはどんなものなのか。
宿泊料金込みで、およそ10万円のディナー。その実際を記者が参加してきたのでレポートする。
一流の料理人(プロデューサー、クリエイター)と共に、地域に眠る魅力を再構築し発信するDINING OUTは、「外から一流の視点を入れ、格好いい地方へ!」を旗印に、過去7回開催されている。
今回の開催地は広島県尾道市。
その舞台は真言宗泉涌寺派の大本山「浄土寺」。
境内全体が国宝に指定されている寺院で、食事そのものをする場所は客殿などの重要文化財であるが、いわば国宝の敷地中で食事をするという特別さが一つの価値でもあると言えよう。
DINING OUTは2日間開催され、それぞれ約30名が参加した。合計60名だ。
参加者は緊張とも厳粛ともいえる張り詰めた空気の中でディナーの開始を待つ。
ホストを務める東洋文化研究家のアレックス・カー氏は今回で3回目。歴史や文化についてその都度、知的な解説がなされる。
料理をプロデュースした大橋直誉氏は世界最速でミシュラン1つ星を獲得したミシュラン男。
じょう舌な話術で緊張した参加者を和ませる。
1品目はアペリティフ。ただしお酒ではなくお酢(Vintage Vinegar)が出された。尾道造酢のビンテージものの酢で60年間熟成されたまさに宝がお湯割りで提供された。
写真の2品目はしまがきという広島カキの原種とクレールオイスター(欧州カキ)。お酒は広島の「八反草」が出された。
よもぎクレープはダイダイで煮たカブ、山菜、イノシシ、ふきのとうみそ、季節の花、乾燥ゆばの美しさを楽しんでから自分で巻いて食べる。 お酒は竹鶴BY21。
悪魔トマトパイはバランスの取れたトマトとパイ生地で、ソースはビーツのジュースとハイビスカスのエッセンス。お酒は神雷。
「山おこ」とは山のお好み焼きという意味で、その日に採った山菜やイノシシが入り、ソースはクレソンで作ったマヨネーズ。お酒はYEBISUビール。
海おこは海のお好み焼きという意味でビスク生地のマドレーヌ。これを次の写真のブイヤベースに浸して食べる。
「でべら」のブイヤベースにはマダイ、でべら(瀬戸内で取れる小さなひらめ)などが入る。お酒は三次ワイナリーメルロー。
レモンとお茶という不思議な組み合わせ。生口島シトラスファーム産の皮つきレモンをかじって緑茶を飲む。煎茶なのだが不思議と玉露のような甘さが口に広がる。
この際には照明が落とされ、舌だけで味わう演出がなされた。
軍鶏とはしゃものことだが、寺院なのであえて「ぐんけい」と読ませている。お酒は老亀1992。
デザート1品目はPasturというヤギチーズパンナコッタ、オゼイユのオイル、因島のはちみつ、オキザリスで仕上げた逸品。お酒は雨後の月。
デザート2品目はBlossomというスナップえんどうピュレとビスキュイ、マスカルポーネ、イチゴ、メレンゲ、桜アイスクリーム。イチゴはこの日の朝に摘んだものだそうだ。
およそ3時間にわたる「DINING OUT ONOMICHI with LEXUS」はこうして終了した。
建物自体が重要文化財であるならば、建具や装飾品も一級の文化財。
記者は終了後に二人で参加した女性に話を聞いてみた。
--ずいぶんと慣れてらっしゃるようですが
「はい。6回目です。はじめてテレビで見たのですが、地方創生の志といい一流の料理といい、また普段は絶対にできない特別な場所での食事というのに魅力を感じて以降、参加しています」
--チケットが取りにくいと聞きましたが
「そうですね。事前にわからないので、そろそろかなと思ったら毎日ホームページで情報をチェックです。今回は異様な早さで売り切れたので私たちはキャンセル待ちでした、運よく回ってきましたけどね(笑)」
--値段が宿泊料込とはいえ10万円を超えることについてはいかがですか?
「それは毎回記者さんに聞かれますよ。でも、価値をどこに見出すかではないでしょうか?こんな特別な場所で素敵な食事ができて、地方創生というコンセプトに一役買えるのであれば少なくとも私たちは高いとは感じません。もちろん他の人は別の価値があるのかもしれませんけどね」
写真は広島県指定重要文化財の絹本著色千手観音像。
こうした話を聞いているうちに、値段で価値を判断する「コストパフォーマンス」的な発想はこのイベントについてはナンセンスなのではないかとさえ思った。
価値観で楽しむことができる方は参加を検討してみてはいかがだろうか。次回の開催は未定ながら7月から9月にかけてだろうとのことだった。
※写真はすべて記者撮影(文化財は許可を得て撮影)
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(執筆者: 古川 智規) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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