城崎温泉をあとにし、再び東へ。京丹後市に入りました。京都府の最も北、丹後半島に位置する日本海に面した市です。
2013年に116歳で亡くなった、世界最高齢の木村次郎右衛門さんをはじめ、市内には100歳以上の長寿者が全国平均の2.5倍もいらっしゃるという、ご長寿自慢の市でもあります。
JR網野駅。網野は、東経135°の北端。”日本標準時の町”として知られるのは、兵庫県明石市ですが、まっすぐ北にいくと網野に行き着くわけです。網野にも子午線塔があるそうですが、お天気が悪くて見られず。
網野周辺には、『網野銚子山古墳』『神明山古墳』はじめ、日本海側では最大級の古墳が存在します。丹後半島全体の古墳の数は約6000基もあると言われ、鉄剣や精巧なガラス細工などが出土していることから、古代には有力な豪族が統治していたと考えられています。
海岸に出ると、高さ20mの巨大な『立石』が。海底から吹き出した火山が冷えて固まり、波や雨風で削られた結果このような形になったそう。
聖徳太子の異母弟の麻呂子(麿子)親王が、鬼退治をし、鬼を封じ込めた伝説が残っています。今でも風が高く、波が高い夜は鬼の泣き声が聞こえるとか……。
でも岩よりも、波!風!そしてあられがスゴイ! あられがビシビシあたってすっごい痛い! 鬼じゃなくて、こっちが泣きたいよ!!
台風中継のような状態に筆者がわめいていたら、借りたビニール傘のビニールは飛び、傘の骨は折れて散々な事に。鬼の仕業?……寒かったのは鳥取砂丘でしたが、体感の痛さレベルでは立岩のほうが上でした。
立岩周辺には難読地名で有名な『間人(たいざ)』という地名があり、間人という地名は聖徳太子の母、間人(はしうど)皇后に由来します。戦から避難するためにこの場所に滞在されたので間人と書いて『たいざ』と呼ばれているとか。なにかと聖徳太子絡みの土地なんですね。
ここで水揚げされる間人ガニは、水揚げ量が少なく、品質が高いことから幻のカニとも呼ばれます。
立岩をあとにし、海岸線を進むと、少し晴れてきました。
航空自衛隊経ヶ岬分屯地周辺の海岸。ちょっと晴れてますが、荒波が打ち寄せる、まさに冬の日本海!
この付近には『袖志(そでし)の棚田』があり、海岸線を望む美しい景観が評価され、日本の棚田百選にも選ばれています。田植えの時期には多くの観光客が訪れるということです。
海に浮かぶ不思議な町、伊根の『舟屋』
京丹後市与謝郡伊根町に到着。海に面して建てられた家々は『舟屋(ふなや)』と呼ばれ、一階が船場、二階が住居となっています。
2000年には漁村として初めて、重要伝統的建造物群保存地区に指定されました。『日本で最も美しい村』連合の一つでもあります。
舟屋は海が玄関ということもあり、遊覧船で観るのがおすすめ。
お天気が心配でしたが、伊根は条件に恵まれた天然の良港ともいわれ、波も静か。おかげで無事出港。
雪の降り積もる舟屋。冬ならではの眺めです。日本最古の浦嶋太郎伝説が残る浦嶋神社や、”海の祇園祭”と呼ばれる伊根祭など、歴史が息づいている町です。
江戸時代頃からあったとされる舟屋ですが、今は約230軒ほど。
船のそばを飛ぶカモメ。エサとして船内で売られているかっぱえびせんを撒くと…
20~30羽くらいのカモメがすごい勢いで飛んで来ます!!船の方によると「昨日お天気が悪くてお客さんが来なかったので、お腹が空かせてるんだよ」と。
今度は陸側からの舟屋を見てみましょう。
道を隔てた山側のお家。少し奥に引っ込んでいて、何故か自由の女神像が。
舟屋は仕事の作業場として使い、住宅は2階もしくは山側に構えていたことがわかります。
舟屋の中を見せていただきました。船でそのまま入れるようになっています。
漁で使う道具を保管したり、船のメンテナンスをしたりするガレージとしてのスペースです。舟屋の2階は住宅として使われたそうですが、現在は民宿になっているところもあります。
伊根の地酒を作っている向井酒造。創業260余年という歴史ある酒造で、女性が杜氏をされています。
こちらの『伊根満開』というお酒、試飲させていただきました。
古代米の赤米を使ったお酒で、色も赤いです。
味はフルーティーで、ロゼワインのような感じ。とろみも少しあり、甘口ですがベタベタ感はなく、初めての味わいでした。
伊根は日本三大ブリ漁場のひとつでもあります。
伊根には魚屋さんがなく、獲れた魚を漁師さんから直接買うのだそうです。
そんな伊根ブリをお刺身とブリしゃぶで。ブリの脂身がトロけて甘い!ブリしゃぶはポン酢で頂きますが、食感がかわり、脂が少し抜けてさっぱりして美味しかったです。
伊根の町が見渡せる展望台。
舟屋が一望できます。船で観るのとはまた違い、全体がよくわかります。
NHKの連続テレビ小説『ええにょぼ』の碑。放送当時は遊覧船に待ち時間が出るほど行列したそう。
美味しいものの宝庫である山陰地方は、もともとは大丹波国(後に分かれて丹後国)となりましたが、その神様は食物や穀物を司る豊受大神という女神さまです。
ある時、天照大神が雄略天皇の夢に現れて「ひとりではお食事が進まないので、丹波国の豊受大神を呼び寄せて」とおっしゃったそう。
結果、豊受大神は、伊勢神宮の外宮に祀られることになりました。
そのため、丹後の地を元伊勢と呼ぶのだそうです。
日本海に面し、大陸や九州地方との交流が盛んだったであろう丹後。
京丹後市の大田南五号墳からは、卑弥呼が魏の国に使いを送るより以前の年号が記された鏡(青龍三年銘方格規矩四神鏡)が出土したほか、精巧なガラス細工や鉄剣などの多数の副葬品が発掘されています。
しかし、ヤマト政権が出雲討伐などで勢力を拡大していく中、丹後国は従う道を選んだと考えられます。
天照大神が豊受大神を呼び寄せられたという話も、そういった歴史に根ざした伝説なのかもしれません。
丹後王国論の論議も活発ですが、古事記や日本書紀にも矛盾する記述が多い中、それ以前の歴史がどうであったのかは謎のまま。
それでも日本海側から入った文化がヤマトに吸収され、奈良や京都などの大都市の形成の下敷きになったことは確かだといえるでしょう。
そう思って入江を見ていると、晴れ間から光が差しこみ、海が輝きました。
神仏と人間、天と地が交わる橋 『天橋立』
伊根から移動し、約45分。百人一首にも登場する、日本三景の天橋立に到着。
智恩寺。日本三大文殊の一つです。暴れる龍を知恵の力で改心させた、文殊菩薩をお祀りしています。お参りというかただ通りすがっただけですみません!
おみくじが扇の形をしているのが珍しいですね。
智恵の輪灯籠。昔は水路の灯籠として使われていたそう。写っている松林がすでに天橋立(傘松公園)の一部ですよ~と言われてもピンときません。
天橋立がよく見える、天橋立ビューランドへ。
天橋立は”飛龍観” ”昇龍観” ”雪舟観” ”一字観(ななめ一文字)”など、いろいろなビュースタイルが楽しめるわけですが、名前が中二病っぽいなと思ってしまった私を許してください。
それはともかく、ビューランドから見えるのは”飛龍観”です。
モノレール。7分でふもとと山頂を結びます。
お天気が悪いので写真はムリかとおもいきや……ちょっと晴れ間が。山の上なので雨が雪になって寒いです。
こ…これが飛龍観…ッ!! いや、逆さまにならないと飛龍にならない……!
股のぞき台。股の間から覗けばいいだけだけど、天橋立側に落ちそうな気がして怖い。
おまけにこの台は高いところにあって、雪がシャーベット状になっていて危ない。
しかも、逆さまになったまま写真を取るのは結構難しかったうえ、シャッターが降りてなかった。泣きたいです。
と、いうわけで、ひっくり返した写真で恐縮ですが、龍が天に登っていくさまをお楽しみください。そう言われてみればそんな気もするような、しないような。
天橋立は、伝説では、イザナギが天界との往来に使ったはしごが倒れて地に落ち、龍神が一夜にして土を盛り立ててできたとも言われます。
実際には地震によって流れだした土砂により海上に姿ができ、海流で運ばれてくる砂が堆積して現在のような形に成長したと考えられています。
向かい側に、伊勢神宮の元宮とされる丹後国一宮『元伊勢籠神社(このじんじゃ)』その奥宮にあたる『眞名井(まない)神社』があります。
眞名井神社には、磐座(いわくら)と呼ばれる古代祭祀場があり、約2500年前から現在まで変わらぬ形で祀られているそうです。
晴れ間は一瞬、また黒い雲がやってきました。ああ、もう向こう側が見えない。
こういった変わりやすいお天気を『浦西(うらにし)』と呼ぶそう。日本海側の秋冬は、”弁当忘れても、傘忘れるな”と言われるほど、めまぐるしく天気が変わります。
天橋立駅から京都に向かう特急はしだてに乗るため、急ぎ足で駅へ。天橋立駅、新しくてきれいです。
ビューランド滞在は20分ほどでしたが、一瞬の晴れ間に恵まれて大変ラッキーでした!
知るほどに奥深い、山陰海岸ジオパークの旅
山陰と聞いてイメージするものがあまりにも少なすぎた筆者ですが、温泉もグルメも充実な上、見どころのある面白いスポットがたくさんありました。「何にもなさそう」などと失礼なことを思っていて本当にすみませんでした。皆生温泉、湯村温泉、城崎温泉はどこも静かで落ち着いた風情なので、都会の喧騒を離れてのんびりしたい人にはうってつけ。
日本海側に隠れた知られざる歴史がたくさんあるのも、古代歴史オタクとしては大変興味深かったです。旅の後、資料を見直しながら「伊根祭を見てみたいな」「天橋立の元伊勢籠神社にお参りしたいなあ」といったもっと知りたい欲も出てきました。冬の雪や、気まぐれな天気『浦西』に注意して、雪の温泉街や伊根の風景を楽しむと、印象に残る旅ができると思います。
(写真はすべて筆者撮影)
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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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