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『独裁者と小さな孫』モフセン・マフマルバフ監督インタビュー 「質問の答えは我々が見つけなければいけない」

2015/12/18 17:30 投稿

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カナダで亡命生活を送るアフガニスタン人ジャーナリストが家族を救うために危険を冒して故郷に向かう『カンダハール』をはじめ、数々の傑作を送り出しているイランの巨匠、モフセン・マフマルバフ監督。その新作で、架空の国の独裁者が失脚し孫と逃亡の旅に出るストーリーが各国映画祭でも絶賛を受けている『独裁者と小さな孫』が、2015年12月12日より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町などで公開されています。
2005年に検閲の圧力に抗議しイランを離れ、現在はロンドンとパリを拠点にしているマフマルバフ監督ですが、シリアなどの難民が欧州各国に入るという情勢の最中に来日。独占インタビューに成功しました。映画の内容ばかりでなく、日本を含めた世界情勢や、自身の映画製作に掛ける信条についても話が及びました。その一言一句に刮目してご覧下さい。

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ーー今回の『独裁者と小さな孫』では、現実世界ではなく、架空の国の寓話のようなストーリーになっています。その意図からお聞かせ頂けますでしょうか?

マフマルバフ監督(以下、M):最初は9年前、アフガニスタンの独裁者の話を描こうとしていたのですが、その後イランの反政府運動があり、さらに“アラブの春”があって、少しずつ脚本に手を入れていろいろなものを足していったのですけれど、最終的には一つの地域に限らず、どの国の人が見ても自分たちの国のことの映画だと見えるものにしようと思いました。これは、もしかして日本かもしれないし、他の国かもしれない。100%ではないかもしれないけれど、自分たちの国を見るような映画にしたかったのです。

ーー特にアフガニスタンのカブールと、“アラブの春”に着想を得て脚本が書き直されたとお聞きしています。どのような要素が加えられていったのでしょうか?

M:主に3つのことについて脚本を直しました。まず、最終的に幅広い人に見てもらうために、一つの国のサインを消そうと思いました。その上で、どの国の独裁者に似ていないキャラクターにしなければいけない。見ていてある国の独裁者だと特定できないようにしました。3つめは政治的な目で見ていた脚本を社会的な目線に変えようとしたのですね。そうすればモデルになる。モデルになれば、いろいろな国の状況が説明できると思いました。

ーー冒頭、アーチのような明かりの中を車で進んでいく夜のシーンからはじまり、老独裁者が幼い孫に「明かりを消す」ように命令させるシーンからはじまります。一見では幻想的で美しい情景ですが、同時に独裁者の怖さも感じられるように思いました。

M:まず、最初にたくさんの明かりを見せることで、あとから街中の明かりを消す暗闇の感覚が入らない。ものすごく明るい街だと見せるために車を走らせたのですが、ここで賑やかな平和な豊かな街だと感じるのではないでしょうか。その後、ラジオが流れてくると幸せに生活しているのだと思わせる。その後のシーン、すべての街の明かりを消すことで、独裁者の権力を感じることができる。冒頭の5分ですべてを説明できるのです。

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ーーもう一つ、作品で印象的だったのが、独裁者が孫に声を荒げるシーンがほとんどなく、バツの悪い質問に対しても淡々と答えている姿でした。

M:この孫の存在でいろいろ語りたかったのです。この孫は、大統領の純粋な子ども時代でもあるし、この子どもが大人になった時にもしかして独裁者になるのかもしれない。あと、孫はいろいろ質問をしますが、答えは大切ではないのですね。質問が大切なのです。孫は見る側の代表として質問を投げているのです。それは我々が答えを見つけなければならない。暴力は何か、拷問は何か、暗殺は何か……。私達に聞かないといけないのです。本当に私達の生活の中で必要なのか、と。

ーー観客自身が自問自答しなければいけない、ということでしょうか。

M:この映画では大きな質問をしています。我々は人間としてどこに向かって歩いているのか。答えは必要がないのです。答えは我々が探さなければならない。答えを言うと終わってしまいます。いつも自問自答し続けるべきです。なぜなら人は答えを与えられると安心して探さなくなってしまいますから。

ーー途中、独裁者と孫が政治犯の一行と共にします。“愛に生きる政治犯”の結末は悲喜劇的ですが、このストーリーを入れた意味はどこにあるのでしょう?

M:そのシーンはとても重要でした。独裁者は圧政を敷くだけでなく、人々の愛の間に大きな壁を作っていると説明したかったのです。例えば今のイランでは多くが移民となっていますが、彼らは誰かに会いたくても会えなくなっているし、愛を無くしているのかもしれない。シリアやリビアでも一番の問題はおそらく心の中に残っている誰かに会いに行けないということ。だから独裁者は、愛を殺してしまっているのだと説明しているのです。

ーー彼の境遇が、戦争や内戦の混乱で起きる出来事としてリアルに感じられました。

M:いろいろなところでそのシーンが頭から消えないと言われるのですが、現場で息子に黒澤明監督を思い出させると言われました。なぜだかは判然としないのですが、黒澤監督の魂が宿っているように感じられて仕方がなかったです。

ーーまた、“寛大な政治犯”が民主化をするには暴力の連鎖を断ち切る必要性を力説しています。彼は監督ご自身の理性が投影されているのでしょうか。

M:すべての映画の中に自分がいると思います。最後のシーンの政治犯も私かもしれないし、首を出す人も自分かもしれないし、見ている人にも「自分はこの政治犯だ」と思って欲しかったのです。

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ーー日本についてもお聞かせ頂ければと思います。さまざまな問題を抱えつつも、民主主義で平和な国です。この作品が上映されることに関して率直な感想をまずはお願いします。

M:今こそ、この映画は日本で見られるべきと思います。なぜなら日本の平和とデモクラシーは危険と向き合っています。安保法案の集団自衛権について通してしまったことに沈黙を続けていけば、どんどんいろいろな法案が通ります。いままで私達が知っている芸術や文化や技術がアジア一番高い日本は、このままでは全ての産業が軍のためになりますし、文化人だった日本人も銃を手にして戦争に行かなければいけなくなり、少しずつ文化施設が閉じていく。だから、この映画を見て、描かれている人々を見て欲しいです。 

ーー現在の日本は民主主義国家として危ういと見ていらっしゃるのですね。

M:これからやって来る衝撃を、日本の人々は分かってないと思います。

ーー今後、新たな映画の題材として、例えば欧州にやってくるシリアの難民の問題などがテーマとなる可能性はあるのでしょうか。

M:多くの人々が見たでしょうが、トルコの浜辺で死んでいった小さな子どもの写真がありました。その写真があって、その後ヨーロッパの各国が扉を開けて難民を受け入れていきました。それは本当の芸術だと思います。私達が自分を見せるために映画を作るのは間違いです。何かを少しでも変えるために作品を作らないといけないと思います。難民を題材にした作品を作るかはわかりませんが、これからも自分の作品が見る側を考えさせてものを変えたいと感じさせるものにしていきたいと考えています。

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ーー監督ご自身、映画製作への情熱、モチベーションがどこから湧き上がるのか、教えて下さい。

M:「我々は波である。波が止まれば消えてしまう」というイランの有名な詩人の詩がありますが、私達人間は少しずつ成長して変えていくことで生きていると感じますし、止まったらと死ぬと思うし、出来れば蟻ぐらいでも自分の周りを変えていきたいと思っているのですね。だから仕事をしている時は「お疲れさま」と言われたなら「疲れていません」と言うし、いつも自分を直さないといけないと思って動いています。

ーー「自分を直し続ける」ためには、どのようなことを心がけるといいのでしょうか。

M:少しずつ自分を変えていくべきなのですけれど、1つは毎日のように学んで知識を高めなければいけない。2つめは希望を持ち続けて、絶対に絶望してはもたなければいけない。3つめは勇気を持って、自分の手足を縛っているロープを切って、いろいろなものから自由にさせないといけない。それは部屋の隅に座っていてはできないのです。動いてないと成長させないといけません。20年前にインディペンデント映画は死んでしまうと言っていましたが、今も制作されているし上映されています。だから私は絶対に希望を失うことはないです。

ーーお話を伺えて光栄でした。ありがとうございました。

映画『独裁者と小さな孫』予告篇 – YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=-pODo7e5R3c [リンク]

『独裁者と小さな孫』
  
12月12日(土)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町にて全国公開

『独裁者と小さな孫』オフィシャルサイト
http://dokusaisha.jp/ [リンク]

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