『テトリス』にハマった際は四角いものを見ると組み合わせたくなったし、『ストリートファイターII』にハマった時には飛び込んでくる相手に対して昇竜拳コマンドをいかに合わせるかということばかり考えていた。
TPSの『ギアーズ・オブ・ウォー』をプレイしていた時には、歩行中、遮蔽物を見るたびに「敵に狙われた時に、隠れられるかも?」なんて思ったものだ。もちろん、そこまで思えるゲームにそうそう出会えるわけじゃない。
……と思いきや、今年に入って出会ってしまった。今筆者の頭の中は、『ユニコーンオーバーロード』でいっぱいなのだ。
ヴァニラウェアが放つ渾身のリアルタイムストラテジー! 『ユニコーンオーバーロード』
『ユニコーンオーバーロード』は、ヴァニラウェアが開発し、アトラスが販売するリアルタイムストラテジー。世界観はファンタジーで、エルフや天使、ドラゴンといった種族が存在する「フェブリス大陸」を舞台にした軍記ものだ。
ヴァニラウェアといえば、超絶気合いの入ったグラフィックで知られている。『オーディンスフィア』に『ドラゴンズクラウン』、『朧村正』に『十三機兵防衛圏』……と、同社が手掛けた作品はいずれも凄まじいグラフィッククオリティ。3DCGが超美麗という方向ではなく、2Dのイラストレーションがそのまま動いているという点がヴァニラウェア独特だ。
ベタ塗りのいわゆる「アニメ絵」が動くのではなく、厚塗りのイラストレーションが動くという点が、ほかのゲームにはない魅力となっている。今作『ユニコーンオーバーロード』もちろん、超絶グラフィッククオリティ&アニメーション! これだけでも十分魅力的なのだが、筆者が夢中になっているポイントは、どちらかといえばゲーム性の部分だ。
先ほど書いた通り、本作のゲームジャンルはリアルタイムストラテジー。このジャンルは海外で非常に人気が高く、日本でも根強いファンを持つゲームジャンルだが、一般的な認知度はあまり高くないように思う。ただ、これをベースにルールをシンプル化したラインディフェンスゲームは比較的高い認知度を持っており、『にゃんこ大戦争』などの有名作品も存在している。
言葉の通り、リアルタイムに戦略(ストラテジー)を実行する。敵味方交互に行動を行うのではなく、敵味方すべての行動がリアルタイムに実行されていく。本作も同様だ。
本作の目的は、主人公・アレイン王子として解放軍を率い、新生ゼノイラ帝国によって支配されたフェブリス大陸を取り戻すこと。大陸は広大なので、一回の戦いで取り戻せるはずなく、いくつものステージを勝ち抜かなければならない。
ステージのクリア条件はステージによって異なるものの、基本的には敵を全滅させ主要拠点を解放すること。そのために戦闘フィールドにユニットを配置し、目的地を指定して移動、敵と接触したら戦闘……という流れをリアルタイムに繰り返すかたちになっている。
トレーディングカードゲームに近い中毒性を持った戦闘シーン
ユニット同士が接触すると戦闘シーンに切り替わるがシステムが異なる。そしてこの戦闘シーンのシステムこそが、本作の魅力の中心といえるだろう。
敵味方の行動がリアルタイムに処理される戦闘フィールドとは異なり、戦闘シーンでは各キャラクターが順番に行動を行っていく。キャラクターA、Bが同時に行動を行うのではなく、キャラクターAの行動が終わったらキャラクターBが行動する……といったかたち。行動は自動的に処理されていくので、プレイヤーは見ているだけでOK。
つまり、戦闘シーンはターン制のオートバトル。とはいえ、それは表面上の姿に過ぎない。「順番」という部分にポイントがある。
本作では、どのキャラクターがどんなタイミングで、誰に対して、何の行動を取るのかを戦闘シーン前に「作戦」として決めておく。たとえば「敵が攻撃してきたら」「HPが最も低い味方に」「ヒール(回復魔法)をかける」などといったかたちで設定しておくのだ。これがおもしろい。
キャラクターの挙動を事前に決めておくという点で「作戦」は、レトロPCゲームの『ロボクラッシュ』やPlayStationでリリースされていた『カルネージハート』、あるいは『ファイナルファンタジーXII』のガンビットシステムに近い。ただプレイ感という点では、むしろ『マジック:ザ・ギャザリング』のようなトレーティングカードゲーム(TCG)のデッキ構築に近いと感じた。
本作の「作戦」で設定できる行動には、自分の順番が回ってきた時に行動できる「アクティブスキル」と、設定した状況と同じ状況が発生した際に行動できる「パッシブスキル」とがあり、それぞれ別々に設定できる。「アクティブ」と「パッシブ」を上手く組み合わせれば、1回の戦闘で多くの行動が可能だ。
また本作は、1つのユニットに最大5体までのキャラクターを編成できる。これを踏まえて行動を組み合わせれば、複数キャラクターの行動を連携させて敵の行動前に敵ユニットを倒してしまう……なんてことも不可能ではない。
この感覚が、TCGで上手くカードを連携させコンボを作り上げる感覚に近い。「ずっと俺のターン!」という感じだ。
また、敵の行動に対してうまくパッシブが刺さった時の気持ちよさも、TCGに近いものがある。相手の行動を先読みし、手玉にとった時の「そうくると思ったぜ!」感はたまらない気持ちよさだ。
「作戦」はこうした気持ちよさがあるからこそおもしろい。TCGにおいても、デッキ構築はゲームのための準備などでは決してなく、それ自体が楽しさを持ったゲーム性のひとつだ。本作の「作戦」もまた、実際の戦闘時をイメージしつつ条件やスキルを組み合わせること自体が楽しい。
だからこそ、本作をプレイしていない時ですら、頭の中でえんえんと「作戦」を考えてしまう。頭の中は『ユニコーンオーバーロード』一色だ。
考えてみれば、これほど「シミュレーションゲーム」という言葉が相応しい作品もないのではないだろうか。本作のようなジャンルの作品は、最近でこそ「ストラテジー」と呼称されているが、以前は「シミュレーションRPG」と呼ばれていた。「ウォーシミュレーションゲーム」に、「RPG」……とりわけ「ファンタジーRPG」の要素を追加していることから付けられた名称だ。
「シミュレーション」の語源である「ウォーシミュレーションゲーム」とは、戦争をゲームとして疑似的に表現したもの。疑似的に表現しているから「シミュレーション」で、本作もまたファンタジー世界における戦争を疑似的に表現しているので、こう呼んで差し支えないだろう。
その上で、本作の「作戦」にどんなスキルを組み込むか、頭の中であれこれ考えてしまう……ということにも「シミュレーション」という言葉は当てはまる。ゲームをプレイしていないときに、筆者は頭の中で本作の「作戦」を「シミュレーション」しているのだ。
この意味においても本作は「シミュレーション(しちゃう)ゲーム」。本作は二重の意味で「シミュレーションゲーム」と言えるかもしれない(笑)。
ところで、筆者は本作の「作戦」についてTCGのデッキ構築に似ていると書いた。ただ、もちろんこの「作戦」はTCGのデッキ構築と同じではなく、本作ならではの独自の魅力を持っている。
TCGにない、本作の「作戦」ならではの魅力は何かというと、ズバリ、試行錯誤するテンポの速さ。本作の戦闘シーンは、ステージという大きな勝負の中に配置されているため、戦闘シーン単位での一戦は短い。一戦あたり数分かかるTCGのバトルと違い、本作の戦闘シーンは数十秒で決着がつく。
このため、「次はこういう作戦を試してみよう」という発想から実行までを、短いサイクルで行える。このテンポの速さが、高い中毒性に繋がっていると感じた。
「アイデアを思いつく」→「試してみる」→「結果が出る」というサイクルが高速で行われるという点は、ストラテジーゲームに限らず、ゲームという娯楽分野が持つ独自の強力な魅力だろう。これは逆のことを考えると分かる。たとえば現実世界では、何かアイデアを実行してから結果が出るまでの時間が長い。
勉強や、仕事のために行う修行・訓練などを思い出してほしい。数カ月で結果が出ればまだいい方で、下手すると数年かかることもある。だからこそ、努力の実感が沸かず、挫折してしまうことがあるのだ。
この点、たいていのゲームでは、勝敗やスコアという形でわかりやすい結果がすぐに出る。だから気持ちがいい。だから続けてしまう。
TCGより高速な試行錯誤のサイクルを持つ本作が、やめられない魅力を持っているのも納得が行くのではないだろうか。
戦闘フィールドにおける駆け引きも絶妙
ここまでユニット同士の戦闘シーンの魅力について語ってきたが、一方でリアルタイムストラテジーとして構成されている戦闘フィールドも、独自の魅力を持っている。「ブレイブ」をめぐる駆け引きが楽しいのだ。
本作ではユニットを戦闘フィールドに出撃させる際、「ブレイブ」というリソースが必要になる。このため、ステージ攻略序盤から無制限にユニットを出撃させられるわけではない。つまり「ブレイブ」は、ユニット出撃のためのコスト。
一方、「ブレイブ」は「ブレイブスキル」を使うためのコストにもなっている。ブレイブスキルとは、戦闘フィールド上で敵にダメージを与えたり、ユニットを回復したりテレポートしたり……といった効果を発動できる要素。上手く使えば各ユニットの能力を底上げして楽にステージを攻略できるし、戦略ミスを帳消しにすることもできる。
出撃とブレイブスキル、この2つに関するコストを「ブレイブ」という1つのリソースに集約させたことで、そこに駆け引きが発生。ユニットの数を揃えるべきか……それとも、ユニットの能力を底上げするべきか? 悩ましいが、悩ましいからこそ、正しく立ち回れた時の達成感は強い。
幻想物語の中に入って広大な世界を実感できる楽しさ
リアルタイムストラテジー要素と、「作戦」を駆使して戦うユニット同士の戦闘シーンといったバトル要素は、まぎれもなく本作のメインディッシュ。だが本作は、それ以外の部分にもまだまだ魅力が詰まっている。ほかに筆者が魅力に感じているのは、ワールドマップの探索要素だ。
本作では、広大なフェブリス大陸を自由に移動できる。大陸内には街や砦といった施設が存在し、施設を利用できるほか住民たちと会話し、フィールドクエストを受注することも可能。また、挑戦するステージについても順番が固定されているわけではなく、自由に挑戦できるようになっている。
本作が持つ自由度は、世界の臨場感に繋がっていると感じた。ワールドマップは2D見下ろし型であり、決して写実的に表現されたものではない。しかし、ゲームの中にこの世界が確実に存在していると感じさせてくれる。
最近は3DCG表現が進化し、物理エンジンやオープンワールド、AIといった技術の進歩もあってゲーム内世界が現実かのようにリアルになった。ゲームの中で描かれるファンタジー世界も、まるで現実に存在しているかのような臨場感だ。
本作の方向性はそういった作品とは明らかに異なるものだが、確立されたリアリティを持っている。ファンタジー世界を現実のものとして体験するのではなく、自分自身が幻想物語の中に入っているような感覚。本作の世界観はそんなリアリティを感じさせてくれるのだ。
品薄も納得! 買わなきゃもったいないと断言できる一本
この原稿を書いている時点で、本作のパッケージ版が好評につき品薄になっているというニュースを目にした。本作をプレイしている身としては、品薄になるのも当然だろうと思う。予約購入しておいてラッキーだった。
グラフィッククオリティが圧倒的でゲーム性の部分もおもしろく、世界観も絶妙。これで品薄にならない方がおかしいとすら思う。
ファンタジーファンやストラテジーゲームのファンであれば、買わなきゃもったいない……そう言える一本だ。ファンタジーは好きだけど、ストラテジーゲームは苦手……という人も、難易度選択ができるようになっているので安心して欲しい。
興味をひかれたなら、ダウンロード版であっても購入し、プレイしてみることをオススメする。きっと損したと思うことはないだろう。
文/田中一広
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