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『ストリートファイター6』レビュー:格ゲーというよりもはやコミュニティ! 俺より強い奴と共に生きる世界

2023/06/17 10:30 投稿

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2022年に発表があってから1年以上、待ちに待った……それこそ初代『ストリートファイターII』の待ちガイルのように待った『ストリートファイター6』が、とうとうリリースされた! βテストにもしっかり参加し、「デラックスエディション」を購入して先行プレイ可能にするなど万全の態勢で迎えた本作。

結論から言えば、本作にはカプコンの本気と凄みが詰まっていると感じた。「対戦格闘ゲームの新作」ではあるのだが、そんな単純な言葉に収まるような作品ではない。「対戦格闘ゲームコミュニティ」を丸ごと作り出す……そんなスケールの大きな一作なのだ。

駆け引きの仕組みを再構築したシリーズ最新作! 『ストリートファイター6』

『ストリートファイター6』は対戦格闘ゲームの元祖と言える「ストリートファイター」シリーズの最新作。「バイオハザード」シリーズなどで採用されているREエンジンが使われており、実写に匹敵するほど美しいビジュアルが特徴だ。

ここで「対戦格闘ゲーム」について改めて説明しておこう。「対戦格闘ゲーム」とは、1対1で主に格闘技を使って勝敗を競う、サイドビューの対戦型アクションゲームのこと。

勝利条件は、制限時間以内に相手の体力をゼロにすること。レバーの入力方向とボタン操作を組み合わせることで多彩な技を使え、複数の技を連続で繰り出す、通称「コンボ」が勝敗に強く影響を与える。「どんな技を出すか?」という駆け引きと、技を出すための操作技術が問われるため、プレイヤーの能力がダイレクトに出るゲームだ。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『ストリートファイターII』)

こうした基本的な部分を完成させたのが『ストリートファイターII』で、同作のキャッチフレーズは「俺より強い奴に会いに行く」だった。「プレイヤーの能力がダイレクトに出る」というゲーム的特性と、「当時の対戦はゲームセンター中心に行われていた」という環境的特性。2つの特性を見事に言い表した名キャッチフレーズだ。

シリーズ最新作となる『ストリートファイター6』では、新たに「ドライブシステム」というものが搭載された。その内容は、追加された「ドライブゲージ」を消費して様々な特殊アクションが繰り出せる……というもの。表面的には「新作ならではの新アクションができるよ」という形に見える。

しかし筆者はこのシステムを、単なる「新アクション」に留まらない、「対戦格闘ゲームの駆け引きの仕組みを再構築するもの」だと感じた。

「対戦格闘ゲームの駆け引き」の基本は「3すくみ」……平たく言うと、「じゃんけん」だ。「じゃんけん」にはグー、チョキ、パーという3つのアクションがあり、グーはチョキに勝ち、チョキはパーに勝ち、パーはグーに勝つ……といった具合にそれぞれ有利不利の相性が設定されている。対戦格闘ゲームでグー、チョキ、パーの代わりに存在するのが、打撃技、ガード、投げ技。

投げ技をしようと接近してくる相手には打撃技が決まり、打撃技を出されたらガードで防ぐことができる。そして、ガードしている相手には投げ技が有効だ。

ただ「じゃんけん」の場合、グー、チョキ、パーに性能差が存在しない。これに対して対戦格闘ゲームの場合は、性能差が存在している。

たとえば、ガードは確かに打撃技に有効だ。しかし、打撃や投げと違って相手にダメージを与えることができない。グーでもチョキでもパーでも勝つことができる「じゃんけん」と違い、対戦格闘ゲームはガードだけでは勝てないのだ。

しかし、だからこそ「駆け引き」が発生する。ガードだけでは勝てないので、いつまでもガードし続けるわけにはいかない。言い換えれば、いつかは打撃技か投げ技を仕掛けることになる。

ではそれはいつなのか?……相手の行動を読む。もちろん、相手もこちらの行動を読んでくる。そして、相手が行動を読んでくるということは、「引っ掛け」ができるということ。

たとえば相手の方へ近づいていくと、相手は投げ技を警戒し、打撃技を出してくる可能性が高い。そこで、近づくと見せかけ途中で止まる。すると相手の打撃技が空振りし、その隙にこちらの攻撃を与えることができる……といった具合だ。

グー、チョキ、パーという「3すくみ」のバランスを崩すことで「駆け引き」の楽しさが生まれた。しかしバランスが崩れるということは、「特定の行動が強くなりすぎてしまう」という問題を抱えやすい。たとえば、「投げハメ」。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『ストリートファイターII』)

ダウン状態から起き上がってくる相手に打撃技を繰り出すと、相手はガードせざるを得ない。そこで隙の少ない打撃技を出し、ガードした相手を投げてしまうという手法が「投げハメ」。キャラクターによっては対抗手段を持っているのだが、持っていない場合、一度ダウンするだけで負けが確定してしまう。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『ストリートファイターII』)

こうした問題点を解消すると同時に、「駆け引き」の楽しさを増やす……。『ストリートファイター』シリーズの歴史は、この繰り返しだったと言ってもいいだろう。

たとえば「投げハメ」については、『スーパーストリートファイターIIX(スパ2X)』において、「投げ受け身」というかたちで対策が行われた。「投げ受け身」は、投げられた後にボタンを押すことでダメージを軽減すると同時に、ダウンを回避できるというもの。ダウンを回避できるため、継続して投げられてしまうことがなくなったわけだ。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『スーパーストリートファイターIIX』)

また、『スパ2X』では「スーパーコンボ」も導入された。これはゲージを消費することで、通常の必殺技よりも強力な技を繰り出せるという要素。

この要素によって、ド派手な技で一気に相手の体力を減らす爽快感が生まれた。さらに、いつ「スーパーコンボ」を繰り出すかという新たな読み合いが発生、劣勢から逆転できるという可能性ももたらされた。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『スーパーストリートファイターIIX』)

その後『ストリートファイターIII』では、「投げハメ」への新たな対策として「グラップディフェンス」……通称「投げ外し」が採用されている。相手が投げを仕掛けてきた時、こちらも投げボタンを押すことで投げ技を回避できるというもの。

ダメージ軽減だった「投げ受け身」に対してこちらは完全にダメージを回避可能。ただしその分タイミングがシビアで、「ここで相手が投げてくるだろう」というタイミングを読み切らなければならない。このため、読み合いの奥深さという意味では「投げ受け身」より「グラップディフェンス」の方が上といえる。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』)

「タイミングがシビアな分、読み合いが奥深くなる」という意味では、同じく『ストリートファイターIII』で採用された「ブロッキング」が見逃せない。「ブロッキング」は相手の攻撃をはじき、打撃技のダメージをゼロにするという要素。

「対戦格闘ゲーム」のガードは、通常技のダメージはゼロにするものの必殺技のダメージはわずかに受けてしまう。しかし「ブロッキング」は必殺技のダメージもゼロにすることが可能。また相手に隙が生まれるため、反撃のきっかけにもなる。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』)

ガードよりも強力なアクションだが、その分操作難易度は高い。相手と逆方向へレバーを倒すことで行うガードと違い、「ブロッキング」は相手の方向へレバーを倒さなければならない。しかも相手の攻撃がヒットする寸前、瞬間的にレバーを倒すという操作なので、ミスするともろにダメージを喰らってしまう。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』)

「ブロッキング」を使った駆け引きは非常にハイレベルな楽しさを持っていた。ただ『ストリートファイターIII』以降、対戦格闘ゲームは冬の時代を迎えることになる。対戦格闘ゲームの新作はリリースされていたし、大会も開かれてはいたのだが、以前ほどの盛り上がりはなくなっていったのだ。

結果として、当時の『ストリートファイターIII』の最終バージョンである『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』から『ストリートファイターIV』リリースまでには9年という年月が経過している。

(画像は『ウルトラストリートファイターⅣ』)

10年近い空白の時間を考慮してか、『ストリートファイターIV』で採用された新アクション「セービング」は、「ブロッキング」程シビアな操作が要求されるものではない。

「セービング」はボタンを押すことでいつでも発動でき、ボタンを離すまでの間、相手の攻撃を一発だけ耐久できる……というアクション。ボタンを離すと、ボタンを押していた時間に応じたレベルの攻撃が発動。最大レベルの攻撃だと、相手のガードを崩すことができる。

(画像は『ウルトラストリートファイターⅣ』)

『ストリートファイターIII』以降、冬の時代を迎えた対戦格闘ゲームだが、『ストリートファイターIV』で再び存在感を取り戻していくことになる。そして、今回の『ストリートファイター6』へとつながってくるわけだ。

シリーズの歴史を長々と語ってきたのは、今回の『ストリートファイター6』は、こうした「対戦格闘ゲームにおける駆け引きの歴史」を踏まえて「ドライブシステム」として再構築しているから。前述のとおり、「ドライブシステム」はドライブゲージを消費してさまざまな特殊アクションが繰り出せるというもの。その中心となっているのは「ドライブインパクト」。

「ドライブインパクト」は、相手の攻撃を2発まで耐えつつ攻撃を行うというアクションだ。ここまで読んでくれた人なら、『ストリートファイターIV』の「セービング」に近いと感じるのではないだろうか。

ただ、ボタンを押して離すという操作が必要な「セービング」と違い、「ドライブインパクト」は即座に繰り出すことができる。このため、相手の技に合わせて出せば、強引にこちらの攻撃を当てることが可能。さらには、ガードしている相手を吹き飛ばすことができるので、たとえガードされても反撃を受けにくい。

ここでやや無理やりにではあるが、あえて「じゃんけん」でたとえたい。

「ドライブインパクト」を「じゃんけん」でたとえるなら、グーを超えるスーパーグーといったところだ。通常グーとグーを出したらあいこになるが、スーパーグーはグーに対しても勝利でき、本来負けるはずのパーに対してもあいこに持ち込める。

「スーパーグーなんて、さすがに強すぎるだろ!」……と思うところだが、スーパーグーがある以上、第二の手段となるスーパーパーも存在する。それが「ドライブシステム」のひとつ、「ドライブパリィ」だ。

「ドライブパリィ」はボタンを押している間、相手の攻撃をオートガードできるというアクションで、「ドライブインパクト」もガード可能。また『ストリートファイターIII』の「セービング」のように、相手の攻撃がヒットする瞬間タイミングよく出せば「ジャストパリィ」が成立。「ジャストパリィ」時は相手の攻撃がスローモーションになるので、反撃のきっかけとなる。

ちなみに、「ドライブインパクト」も「ドライブパリィ」も、通常の投げ技でダメージを与えることが可能。つまり、今回の投げ技は「ドライブシステム」への対抗策という役割を持っているといえる。したがって今作の投げ技は、過去シリーズから相対的に強化されているといっていいだろう。

投げ技そのものが「ドライブインパクト」「ドライブパリィ」の対抗手段になるということを踏まえると、一見、第三の手段となるスーパーチョキにあたるシステムは存在していないように思える。確かに、直接スーパーチョキに該当するようなシステムはない。ただ、近い役割を持つシステムなら存在している。

それが「ドライブラッシュ」だ。

「ドライブラッシュ」は、一部のアクションや「ドライブパリィ」から即座にダッシュ状態へ移行するアクション。これを利用して技を繋げ「コンボ」に仕立てることが可能。ただ、そもそも瞬間的にダッシュで相手に近づけるということは、接近が必要な投げ技と親和性が高いということでもある。

「ドライブラッシュ」は直接的に投げ技を強化したアクションではないものの、間接的に投げ技を強化するシステムといえるだろう。スーパーチョキに近い役割を備えていると書いたのはこのためだ。

つまり、グー、チョキ、パーという「3すくみ」の外側に、スーパーグー、スーパーチョキ、スーパーパーという「スーパー3すくみ」が存在する駆け引き。これが今回の『ストリートファイター6』の駆け引きといえる。

当然、グー、チョキ、パーよりもスーパーグー、スーパーチョキ、スーパーパーの方が強力。だからこそ制約が設けられている。それが、「ドライブゲージ」だ。

「ドライブシステム」は「ドライブゲージ」がなければ使用できない。また「ドライブゲージ」は相手の攻撃を通常ガードすることでも減少。ゲージがゼロになると「バーンアウト」という弱体化状態を招いてしまう。

ただ、「ドライブゲージ」は回復することができる。回復するには時間経過を待つか、相手の攻撃を「ドライブパリィ」で受け止めなければならない。

ここでも駆け引きが発生する。積極的な攻撃で相手をガード状態に追い込み、「ドライブゲージ」の枯渇を狙うか? あるいは「ドライブパリィ」で敵の攻撃をさばいて「ドライブゲージ」を維持しつつ、「ドライブインパクト」による反撃を狙うか……?

本作には新たな3すくみによる駆け引きに加え、ゲージを「いつ使うか?」「どう使うか?」をという読み合い要素がある。こうした多彩な駆け引きを「ドライブシステム」というひとつの形にまとめあげた手腕は、見事というほかない。

正直この「ドライブシステム」をめぐる駆け引きだけでめちゃくちゃおもしろい。この時点で、対戦格闘ゲーム好きなら買って損はない。以上、レビュー終了……と普通の対戦格闘ゲームならなるところだが、本作はここで終わりじゃない。

最初に書いた通り、本作はそんなスケールに収まるような作品ではないのだ。

ゲームの中に完全再現されたゲームセンター! 「バトルハブ」

対戦格闘ゲームは何故、冬の時代を迎えたのか? その原因として挙げられることの多いのが、「難しさ」。

最初に触れたとおり対戦格闘ゲームは「どんな技を出すか?」という駆け引きと、技を出すための操作技術が問われるゲームジャンルだ。まず技を出す操作方法が難しく、練習が必要。技を出せるようになったとしても、駆け引きで勝つためには経験……すなわちプレイ回数が影響する。

これはつまり、初心者が上級者に勝つのは難しいということ。ゲームにせよスポーツにせよ上級者が勝つのはルールとして健全だ。とはいえ、いつも負けてばかりではおもしろくない。

ゲームというのはおもしろさを味わうためのもの。おもしろさを感じないのに、無理にプレイする必要はない。となると、初心者プレイヤーが減っていく……という状況が生まれてしまう。

新規プレイヤー数が増えにくいという問題については、「ストリートファイター」シリーズのみならず、あらゆる対戦格闘ゲームがこれまでに様々な対策を行ってきた。たとえば、必殺技を入力するためのレバー操作をカンタンなものにしたり、ボタンを押しているだけで技が自動的に「コンボ」になるようなシステムを採用したり……。ちなみに今作『ストリートファイター6』にも、操作を簡略化した「モダン」や「ダイナミック」といった操作システムが用意されている。

ただ、いくら操作システムをカンタンにしたところで、時間が経過すればするほど戦略面の知識は熟成されてしまう。

たとえば、自分がダウンした際に相手プレイヤーが接近してきたとする。この次に相手プレイヤーが行うことは、「ダウンからの起き上がりに打撃技を重ねる」「ダウンからの起き上がりを投げる」「何もせず、こちらの反撃を空振りさせて隙を作り出そうとしている」のどれかだろう。こうした相手プレイヤーの狙いに対して、どんな方法が有効なのか知らなければ、状況を打開することはできない。

……いや、そもそも相手プレイヤーが接近後に何をするか?という点ですら、ひとつの知識。「将棋」や「囲碁」といったゲームであれば「定石」と言われる基礎知識部分だ。

今日対戦格闘ゲームをはじめたプレイヤーは、こうした「定石」を習得しなければまともに勝つことができない。そして現在の対戦格闘ゲームが目玉とする最新システムは、過去30年に渡る対戦格闘ゲームのシステムの積み重ねの上に存在している。この結果「定石」も相当なボリュームに達しているため、対戦格闘ゲームで勝つための知識習得の道のりは決して短いものではないのだ。

こうしたことを踏まえると、対戦格闘ゲームの新規プレイヤーが増えにくく、衰退していくのもしょうがないのかもしれない……いや、本当にそうか?

たとえば前述した「将棋」や「囲碁」は、格闘ゲーム以上の歴史があり、当然ながら戦略面の知識も熟成されている。なので、基本的に初心者が上級者に勝つことはできない。にもかかわらず、これまでなぜ長い歴史を重ねられたのだろう?

筆者はその理由のひとつに、「コミュニティ」が影響していると思っている。たとえば「将棋」や「囲碁」であれば、プロ同士が所属して実力を競う場所以外に「将棋センター」や「碁会所」といった、一般客が楽しくプレイする場所が確立されている。こうした場所へ行くことで実力者から戦術を教えてもらったり、イベントに参加して腕試しをしたり、自分と実力の近いプレイヤーと切磋琢磨したり……といった楽しみ方ができるわけだ。

つまり、「同好の士とともに、自分のスキルアップを楽しむ」とか「コミュニケーションの一手段としてプレイする」とかいった多様な楽しみ方ができる。こうなると、単に「勝った」「負けた」だけではなくなるので、その場所に行くことそのものが楽しい。結果として、ゲームをやめなくなる……というわけだ。

対戦格闘ゲームにおいて、かつて「将棋センター」や「碁会所」のような機能を担っていたのが、ゲームセンターだろう。とはいえ筆者の知る限り、初心者のケアまでしてくれるようなゲームセンターはほとんど存在しなかった。しかも、令和の今となってはビデオゲームを置いているゲームセンター自体が少ない。

だったら、ゲームの中に「将棋センター」や「碁会所」のような機能を持たせてしまえばいい……と考えたのが、今回の『ストリートファイター6』だ。普通に考えると相当無茶な発想だと思うが、それを実現してしまっているんだから凄まじい。

今作はメインモードが「ワールドツアー」「バトルハブ」「ファイティンググラウンド」という3つに分かれている。この中の「ファイティンググラウンド」は、これまでのシリーズの内容に当たるモードで、アーケードモードやトレーニングモード、対戦といったモードをプレイ可能。「ワールドツアー」はソロプレイ向けのモードで、後で詳しく触れる。

最後の「バトルハブ」こそ、「将棋センター」や「碁会所」のような機能を担っているモードだ。

「バトルハブ」は、今風にいえばゲームセンターをメタバース化したものといえる。ゲームセンターがオンラインの3D空間として作られており、プレイヤーは自分のアバターを使ってその中を自由に移動可能。

また、ゲームセンターなのでもちろんゲーム機が存在しており、「バトルハブ」内の他プレイヤーと『ストリートファイター6』で対戦できる。いや、『ストリートファイター6』だけではない。なんと、『ファイナルファイト』などのカプコンアーケードゲームもプレイ可能。

さらに、大会などのイベントも行われる。「見た目だけ3DCGで再現しました」という代物では決してない。名実ともにゲームセンターが完全再現されているのだ。

ゲーム内で完全再現されたバーチャルゲームセンターで『ストリートファイター6』の対戦を行う……。このことに価値を感じない人もいるだろう。何を隠そう、筆者がそんな一人だった。

というのも、3D空間内をわざわざ移動して筐体に座って対戦するより、メニューから対戦待ち受けを選ぶ方が手間なく快適にプレイできる。そもそもコミュニケーションがしたいのではなく、対戦がしたいだけだ。だから、「バトルハブ」に価値があるとは思えなかった。

しかし、筆者が間違っていた……! いや間違っているも何も、価値観は人それぞれなので、「バトルハブ」に価値を感じない人がいたとしてもまったく問題ない。ただ筆者は、「バトルハブ」をプレイして感動し、「自分が間違っていた」と感じてしまったのだ。

感動は、「バトルハブ」が「居場所」だと気づいた時に起きた。

メニューから起動する対戦待ち受けというのは、まさしく対戦をするための機能であり、手段でしかない。手段なので目的は別に存在しており、当然、目的達成のためには手間がない方がいい。ではその目的は何かといえば、対戦すること……もっと具体的に言えば、勝つこと。

ただ、目的が「勝つこと」だと、どうしても勝ち負けにフォーカスしてしまう。この結果、必要以上に勝敗を気にすることになる。

一方、「居場所」というのはそれ自体が目的だ。ゲームセンターに行くと友だちがいて、友だちとしゃべったり対戦プレイしたり……一緒の空気を楽しむ。

もちろん、対戦に勝てばうれしいし、負ければ悔しいだろう。だが、必要以上に勝敗を気にすることはない。友だちと一緒に、その居場所にいること自体が楽しいからだ。

筆者は友だちと一緒に「バトルハブ」を訪れ、こうした感覚を体験した。本作の「バトルハブ」は、ゲームセンターをまるごとゲーム内に再現するという超力技によって、「居場所としての空気感」を感じさせてくれるのだ。

ちなみに筆者はコミュ障なので、高校生になったころは友だちがほとんどいなかった。学校に通っていて友だちがいないという状態から、「ここに自分の居場所はないのではないか?」と感じていたものだ。当時、そんな筆者を救ってくれたのが『ストリートファイターII』だった。

複雑な連続技が当たり前に使われる現在からすると想像もつかないかもしれないが、『ストリートファイターII』リリース当時は「昇竜拳が出せるだけでスゴい」という時代。そんな中で筆者は、昇竜拳を身に付けていた。このため、「昇竜拳のコツ教えて」といったやりとりをきっかけに、友だちができていったのだ。

こうしたエピソードは、筆者に限った話ではないのではないかと思う。たとえば、元祖プロゲーマーである梅原大吾氏を描いたコミック「ウメハラ FIGHTING GAMERS!」などでも、「ゲームセンターでの対戦を通じて人間関係が構築されていく」といったエピソードが描かれている。あの時代、対戦格闘ゲームに……ゲームセンターに「居場所」を感じていた人は、少なくないのではないだろうか。

「俺より強い奴に会いに行く」のはどうしてか? 「対戦したいから」というのも理由だろうが、そこが「居場所」だからという理由もあるだろう。

そして本作では、その「居場所」がゲームの中に作られている。だから、会いに行く必要はない。俺より強い奴と共に生きる世界が、そこにあるのだ。

オープンワールドで楽しむストリートファイターワールド! 「ワールドツアー」

対戦格闘ゲームのみならず、その外側に存在する「コミュニティ」的機能までゲーム内に作り上げた『ストリートファイター6』。もうこの時点で十分過ぎるほどのスゴさなのだが、まだ終わらない。3つのモードのひとつ、「ワールドツアー」が残されている。

「ワールドツアー」は、ソロプレイ向けのゲームモードで、主人公はプレイヤーのアバター。「本当の強さとは何か」を求めて、さまざまなキャラクターと対戦し、アバターを育成していく……というRPG的なモードとなっている。

ゲームの流れは「龍が如く」などのオープンワールドアドベンチャーに近い。NPCとの会話イベントでミッションを授かり、その達成を目指すことでゲームが進んでいく。マップ内にはプレイヤーを襲う敵NPCも存在し、敵NPCからの攻撃を受けるとバトルシーンへ。

バトルシーンは、基本的にメインの対戦格闘を踏襲しているが、敵も味方も複数体登場するという点が異なっている。敵を全滅させれば勝利となり、経験値やゲーム内マネー、アイテムなどが手に入るというかたちだ。

最初の舞台である「メトロシティ」は「ストリートファイター」シリーズの舞台である前にベルトスクロールアクション『ファイナルファイト』の舞台。なので、シリーズのキャラクター以外に『ファイナルファイト』のキャラクターも登場し、物語に絡んでくる。ダムドが出た時には思わず「ダムドじゃん!」と喜びの声を上げてしまった。

本作のCMでも描かれている通り、「ワールドツアー」では、スピニングバードキックなどの必殺技を使って移動したり、看板などの街のオブジェクトを破壊したりといったことが可能。荒唐無稽な世界観が、オープンワールドによってリアルに描かれているのがおもしろい。

また、敵にほぼ必ず勝てるというのも魅力だろう。

対人対戦の場合、対戦相手との実力差がまったくない状態で勝率50%。つまり、ちょうどいい実力の対戦相手と戦った場合、2回に1回は負けることになる。もし相手が自分より強ければ、そこから勝率が下がり、負ける数は増えていく。

繰り返しになるが、実力によって勝敗が決まるというのは、競技としては健全だ。しかし、ゲームには娯楽という側面もある。「ちょっと仕事で疲れたから、気分転換にゲームをプレイしたい」という時、誰が負けたいと思うだろう?

こうした欲求に応えてくれるのが「ワールドツアー」。敵がNPCなので、レベルさえ十分上がっていればまず負けることはない。加えて、爽快な勝利を重ねながら少しずつ『ストリートファイター6』の操作や戦術を学習できるという点も魅力といえるだろう。

だが、筆者は「ワールドツアー」にもう一つの魅力を感じている。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『ストリートファイターII』)

それは「90年代」という時代の空気だ。

『ストリートファイターII』がアーケード向けにリリースされたのは1991年。そこから対戦格闘ゲームのブームが始まったわけだが、ブームはなにもゲームセンターだけで起きていたわけではない。1992年に家庭用であるスーパーファミコン向けに移植版がリリースされたことも、ブームに大きな影響を与えている。

前述の通り『ストリートファイターII』リリース直後は、まだまだ昇竜拳が出せないという人が多かった。しかしゲームセンターで練習しようにも、落ち着いて練習することはできない。

当時はまだゲームセンターに対戦台というものが普及していなかったため、「見ず知らずの相手に乱入されてしまう」ということは少なかった。ただ人気のためなかなかプレイできなかったし、プレイできたとしても同じ技をひたすら練習できるトレーニングモードがあるわけではない。

コンピューター相手の実戦、かつ負ければプレイ料金を消費してしまう……という状況は、練習に向いているとは言えないだろう。懐に余裕のある社会人ならまだしも、お小遣いに制限のある学生にとっては、たかが100円、されど100円なのだ。

そんな状況を救ってくれたのが、家庭用『ストリートファイターII』。プレイ料金を気にせず、家で思いっきり昇竜拳の練習ができる。まさに、救いの神だった。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『ストリートファイターII´』)

とはいえ、家庭用機で練習したからゲームセンターで勝てるようになるか……というと、そんなに簡単な話でもない。そもそもスーパーファミコンで『ストリートファイターII』がリリースされるころ、ゲームセンターは次バージョンの『ストリートファイターII´(ダッシュ)』一色。

『ストリートファイターII』と『ストリートファイターII´』は基本的なルールが共通しているものの、4人の新キャラクター追加が行われている上、既存キャラクターのバランスも調整されている。つまり、『ストリートファイターII』の練習がそのままゲームセンターで通じるわけではない。

また家庭用で練習したプレイヤーたちがゲームセンターデビューをするころには、ゲームセンターの猛者たちがさらなる経験を積み重ねていた。家庭用での対戦で友だちに勝つのとは、わけが違う。ゲームセンターで対戦に勝つのは容易ではなかったのだ。

(画像は『ストリートファイター30th アニバーサリーコレクション』収録の『ストリートファイターII´』)

ではゲームセンターで負けたプレイヤーたちはどうしていたのか? ……もちろん、プレイヤーによって違うだろうが、筆者の周りでは筆者も含めて家庭用機でRPGをプレイする人たちが多かった。

当時、ゲームセンターの華は対戦格闘ゲームだったかもしれないが、家庭用ゲームの華といえばRPGだったのだ。実際、スーパーファミコン版『ストリートファイターII』が発売された1992年には、『ヘラクレスの栄光III 神々の沈黙』、『真・女神転生』、『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』、『ファイナルファンタジーV』、『ウィザードリィV 災渦の中心』……と、現在でもシリーズとして名を残す名作RPGが次々リリースされている。

「やっぱりゲームセンターで上手い人相手には勝てないぜ……」と敗北の苦みを噛みしめつつ、家庭用のRPGでは世界を救う勝利を味わっていたというわけだ。

RPG形式のソロ―モードである「ワールドツアー」をプレイして、筆者はそんな90年代の自分を思い出してしまった。友だちと一緒に対戦格闘ゲームを、ゲームセンターを、家庭用のRPGを……ゲームという「居場所」を最大限楽しんでいた時代だ。

そう、本作『ストリートファイター6』にはそんな時代が丸ごと詰まっている! スゴい。これがスゴくなかったら世の中にスゴいゲームなんて存在しないだろうってくらい、スゴい!

言葉で褒めることはいくらでもできるので、最後にひとつ本作にまつわるエピソードを書いて締めよう。

筆者は自腹で自分用『ストリートファイター6』を買ったが、その上で、当時の友だちにプレゼントしてでも対戦してもらおうと思い、「『ストリートファイター6』でたぜ!」とメッセージを送った。友だちは今でもゲームをプレイするものの、対戦格闘ゲームからは離れている。もしかすると本作に興味がないかもしれないので、出費させるくらいなら筆者が購入して対戦につきあってもらおうと思ったのだ。

するとメッセージの返信には、「本作とアーケードスティックをセットで買った」と書かれていた。なんとありがたいことか!

実際には筆者が出費することはなかったわけだが、友達とプレイするためなら出費してもいいと思っていた。つまり本作はそれくらい、人にプレイして欲しい一作であるということだ。対戦格闘ゲームに興味があるなら、是非一度プレイしてみてほしい。

そして俺より強い奴として、いつか俺と対戦しよう!

文/田中一広

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