その支援額は3月5日に終了し、85万ドルに達したようだ。
https://store.steampowered.com/news/app/282070/view/3099044462442175643[リンク]
ゲーム業界を見回すと、他の開発会社も支援に乗り出しているが、今回はこの11 bit studiosの『This War of Mine』を詳しく紹介したい。『This War of Mine』のリリースは2014年、つまり8年も前に発売された作品だが、今、この状況でこそプレイする価値のある一作だからだ。
https://twitter.com/11bitstudios/status/1496904408344449027
11 bit studios team statement:#FuckTheWar#Ukraine @RedCrossUkraine @Ukraine pic.twitter.com/bVqBlZnR8j— 11 bit studios (@11bitstudios) February 24, 2022
民間人の視点から戦争を学ぶシリアスゲーム『This War of Mine』
『This War of Mine』は、戦争をテーマにしたサバイバルシミュレーションゲーム。ロシアがウクライナに侵攻したこの状況で戦争がテーマが聞くとゲームとは言え、さすがに不謹慎と感じるかもしれない。だが本作も今回のキャンペーンも決して、戦争を娯楽的に楽しもうというものではない。
同作は「シリアスゲーム」として作られている。「シリアスゲーム」とはゲームジャンルの一種で、「学ぶ」ことを主目的に作られたゲームのことを指す。娯楽的に楽しむのではなく、医学だったり政治学だったりといった専門分野を「学ぶ」ことが目的だ。
そう、『This War of Mine』は、民間人の視点から、戦争を学問(軍事学)として探求するために作られたゲームだ。戦争をテーマにしたゲームは少なくないが、プレイヤーが将として軍隊を率いたり、兵士として戦ったりというものが一般的だ。いずれの場合も基本的には、プレイヤーがヒーローとして戦争を勝利に導くことが目的となる。
しかし、『This War of Mine』は違う。主人公は民間人だ。
主人公となるキャラクターは複数用意されており、それぞれ得意な技術も保有しているが、それも民間人が職業柄獲得できる程度のレベルにとどめている。とてもじゃないが、それは戦争という壮絶な状況を打開できるような、ヒーローレべルの技術ではない。
そんな民間人ができることは、戦争終結まで生き延びること。いや、生き延びるというより「死なないこと」というのが正確だろう。
もともと本作は1992年から1996年の「サラエヴォ(サラエボ)包囲」から着想を得たという。「サラエヴォ包囲」とは、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で発生した包囲戦。包囲とあるようにかつて冬のオリンピックが開催されるまで繁栄していたサラエヴォの街は戦禍で封鎖され、インフラ供給は断絶、町の四方から砲撃される惨状となった。
サラエヴォ市民たちは、いつ死ぬとも限らない劣悪、苛烈な状況下に置かれたのだ。
『This War of Mine』はこうした状況で人々がどうなっていくのか、何ができるのかを描いている。
もちろん、現実の悲惨さとゲーム内の描写とでは比べられるものではないだろう。だが、戦時下で民間人が味わうだろう出来事の一端は知ることができる。
まさに、民間人の視点から、戦争を学ぶことができる一作なのだ。
生きる糧を! 娯楽で希望を! 明日は自分達が作り出さねばならない
正直なところ、『This War of Mine』のプレイ感は陰鬱。そこに、戦う爽快感などはない。なので、ここまでを読んで「自分から進んでプレイしたくはないな」と思った人もいることだろう。
それでも『This War of Mine』はゲーム的にも面白く、サバイバルの手ごたえをしっかり味わえる完成度の高いシミュレーションゲームである。
純粋にゲームシステムだけ見れば、本作は無人島などを舞台にしたサバイバルシミュレーションゲームのシステムと同様といえる。プレイヤーの目的は、3人のキャラクターを一人でも多く終戦まで生き残らせること。そのために生きるための道具を作ったり、料理を作ったり、素材を集めたりするわけだ。
無人島などを舞台にしたサバイバルシミュレーションと大きく異なるのが、舞台が敵占領下の都市ということ。敵に占領されているということは、既に都市の大部分が破壊されているということを示している。当然、食べ物や素材になるものがふんだんに手に入るはずもない。
なぜならそれらは戦争によって破壊されてしまったのだ。
ゲームスタート時、プレイヤーが操作する3人のキャラクターが保有しているのは、住居となる廃墟ぐらい。それぞれ得意な技術……いわゆるスキル的なものは持っているが、同時に疲労していたり、けがを負っていたりと不利なステータスをかかえていることも多い。
本作が着想を得たサラエヴォ包囲と同様、いつ死ぬとも限らない劣悪な状況下なのだ。
ゲームとしてできる活動は昼と夜とに分かれており、昼やることは基本的に廃墟の整備。集めた素材アイテムを使って、アイテムクラフト用の設備を開発したり、椅子やベッドなど生活に必要なものを作ったりする。
ゲームがスタートしたら廃墟の中に落ちている素材アイテムを集めることが急務となるだろう。
一方、夜は敵の警戒が薄くなるため、街を出て探索を行うチャンスだ。街の中にある別の建物に侵入、探索を実行し、素材アイテムや食べ物などを獲得する。
ただし建物内に別の人間がいることもある。主人公と同じように廃墟に住んでいることもあれば、明日生きるための糧を探しているというケースも存在する。
このため、他の人間との出会いが友好的なものとは限らない。お互い民間人同士だとしても、自分の身を守るため、死なないためには攻撃せざるを得なくなり、残念ながらときには戦闘になってしまうこともある。
戦争を引き起こした当事者たちには、もっと別の戦わなければならない理由があるのだろう。しかし民間人にとって戦時下で戦う最大の理由は死なないため、未来に希望をつなぐためでしかない。
だが、死なないために戦い、食べ物を手に入れても、何らかの理由で致命的なけがを負ってしまうことがある。そうなると、当然のことながら生き抜くことは難しくなってしまう。
なお、夜に探索を行うと、その分睡眠時間が減っていく。睡眠時間を確保できないと人は衰弱し、病にかかりやすくなる。本作でもそのようなシステムになっているため、夜は探索だけやっていればいいというわけではない。
残りの食料や素材と、キャラクターの体調を秤にかけて行動しなければならないのだ。
また、気にかけなければならないのは体調面だけではない。メンタルも重要だ。キャラクターたちの精神状況もシミュレートの対象となっており、精神状況が悪化すると、やはり病にかかってしまう。
精神状況を適切に保つためには、他のキャラクターの死などといった、悲惨な出来事を発生させないこと。そして、娯楽などを用いて精神状況をケアしておくことが求められていく。
だがもちろん、戦時下で娯楽などそうそう容易く手に入るものではない。
ここまでの内容をまとめると、同作はプレイヤーキャラクター側が圧倒的に不利な、ハードモードのサバイバルシミュレーションゲームといえるだろう。楽しむことを目的とした一般的なゲームであれば、ちょっと理不尽なくらいハード。だがこのハードさこそが、シリアスゲームである本作にとって、伝えたいメッセージそのもの。
つまり、これこそが「民間人の目から見た戦争」。我々民間人にとっての戦争……タイトルである『This War of Mine』の由来となっているのだ。
劣悪な状況下だとしても理解を深めることはできる
残念なことに今は恐らく湾岸戦争のころよりさらに、戦後最も「戦争」を身近に感じる状況を迎えているのではないだろうか。現在のこの状況に対して、人それぞれ様々な意見を持っていると思う。
一方で、我々が実際にとれる行動はさほど多くない。『This War of Mine』の登場キャラクターのように我々もまた、たいていは一般人だからだ。
そしてその少ない中でできることのひとつが、状況を深く理解して行動することだ。本作のプレイにおいても、1日でも長く生き残るためには、状況への深い理解を踏まえた対応が欠かせない。物資が足りず、日々状況が悪化していく中で、少しでもマシな判断をして生き抜いていくためには、深い洞察力と理解力、対応力が求められるのだ。
我々がなにか意見を持つにしても、対象を深く理解しない状態での意見と、深く理解した状態での意見とではどうしても異なることがある。だからこそ本作は、「今」プレイする価値のある一作だと思う。
ただ、陰鬱さを感じるゲームなだけに、気分が落ち込んでいるときにはプレイしなくてもいい。シリアスなゲームだからと言って、しょせん本作はゲームなのだ。現実を重ねて心に余計なダメージを負ってまでプレイするものではない。
その上でもしプレイするなら、日本で手に入れやすいのは、Steamで配信されているPC版か、スマートフォン版となる。スマートフォン版はiOS、Androidどちらのバージョンもリリースされている。
なお、残念ながら、購入額がウクライナ赤十字社への寄付対象となる期間は既に終了。そこで筆者は、自分ができることとして、この原稿の報酬と同額の金額を国連UNHCR協会の方へ寄付することにした。寄付先はいろいろあるが、寄付金の使途を紛争や迫害により故郷を追われた難民、避難民の保護・支援としている国連UNHCR協会に決めた次第だ。
一人の民間人として、この紛争が一刻も早く終わることを願っている。
文/田中一広
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