今回はしんざきさんのブログ『不倒城』からご寄稿いただきました。
東大総長の式辞に関わる大変美しいブーメランについてのお話(不倒城)
子どもの頃、朝礼で校長先生のお話を聞くのは割と好きでした、というとびっくりされることがあります。
「偉い人のお話」という言葉を、まるで「つまらない話」の代名詞のように扱ってる人、います。
偉い人のお話なんて、子どもは基本的に左耳から右耳に通り抜けるもの、って思われてる人もいるみたいですけども、ちゃんと聞くと結構面白い話、いいこと色々言ってらっしゃるんですよ。勿論、時には退屈なこともありましたが、印象深いお話を毎週毎週よく考えてらっしゃってたなあと、大人になった今になって思います。勿論、学校によって色々なんでしょうが。
さて。
東大の入学式や卒業式の式辞というのは毎年話題になるんですが、これも上記と同じ話で、「偉い人のお話」に類すると思うんですが、きちんと読んでみると、毎年毎年、よくこれだけ力の入った式辞を考えられるなあ、と感心することしきりです。正直、こんなブログ読んでるよりよっぽどい面白いし為になります。
昨年は、平成26年度の教養学部の卒業式の式辞が話題になりました。ちょっとリンクしてみます。
「平成26年度 教養学部学位記伝達式 式辞」 『東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部』
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/history/dean/2013-2015/h27.3.25ishii.html
一部を引用するのも気恥ずかしいところではあるのですが、強いて引用してみるとすれば、
私は大河内総長の「痩せたソクラテス」でもなく、濱田総長の「タフでグローバル」でもなく、自分自身が本当に好きな言葉を皆さんに贈って、この式辞を終えたいと思います。
それはドイツの思想家、ニーチェの『ツァラトゥストゥラ』に出てくる言葉です。きみは、きみ自身の炎のなかで、自分を焼きつくそうと欲しなくてはならない。きみがまず灰になっていなかったら、どうしてきみは新しくなることができよう!
もちろん、いま私が紹介した言葉が本当にニーチェの『ツァラトゥストゥラ』に出てくるのかどうか、必ず自分の目で確かめることもけっして忘れないように。もしかすると、これは私が仕掛けた最後の冗談なのかもしれません。
辺りの言葉は、非常にユーモラスでもあり、印象深い言葉だったと思います。是非全文を読まれることをお勧めします。
で、先日の東大入学式の式辞も一部で話題になっているようです。
「式辞・告辞集 平成28年度東京大学学部入学式 総長式辞」 『東京大学』
http://www.u-tokyo.ac.jp/gen01/b_message28_01_j.html
これも、そもそも話のテーマからして、一部引用がお勧め出来るような式辞ではないのですが、全文引用するわけにもいかないので、忸怩たる思いを抑えつつ、話題になっている部分だけ引用します。
ところで、皆さんは毎日、新聞を読みますか? 新聞よりもインターネットやテレビでニュースに触れることが多いのではないでしょうか。ヘッドラインだけでなく、記事の本文もきちんと読む習慣を身に着けるべきです。東京大学ではオンラインで新聞記事や学術情報を検索し閲覧できるサービスを学生の皆さんに提供しています。ぜひ活用してください。その上で、皆さんにさらにおすすめしたいことがあります。それは、海外メディアの報道にも目を通すことです。日本のメディアの報道との違いに注目してみてください。また、世界の中で日本がどのように見られているかということも意識してみてください。
「新聞読みますか?」という問いかけから始まってはいるものの、主眼となっているのは「記事の本文もきちんと読む習慣を身に着けるべき」という部分であって、決して単純に「新聞読みましょう」と言っている訳ではない、ということはわかって頂けると思います。というか、「オンラインで新聞記事や学術情報を検索し閲覧できるサービス」をお勧めしている時点で、全然「新聞読みましょう」とは言ってないです。むしろ逆方向です。
また、「海外の報道などにも目を通し、違いに注目してみて欲しい」という点では、前述されている「忍耐強く考え続ける力」という点とも合わせ、日本の報道を相対的に見極め、妥当性を検討することを勧める形にもなっていると思います。
で、いみじくも、ヘッドラインだけを読むと力いっぱい誤解しそうな記事があちらこちらで観測できるようになっています。
「東大生よ、新聞を読もう…入学式で五神学長」 2016年04月12日 『YOMIURI ONLINE』
http://www.yomiuri.co.jp/national/20160412-OYT1T50071.html
「「東大生よ、もっと新聞を読もう」入学式で学長」 2016年04月12日 『東洋経済 ONLINE』
http://toyokeizai.net/articles/-/113470
上記の式辞を、「新聞を読もう」という6文字で要約するという行為の非常にハイパフォーマンスなギャグセンスについては、みなさんお分かり頂けると思います。
まあ、メディアのヘッドライン詐欺は今更の話です。これも、記事の本文を読めばもうちょっと詳細にわかるとは思うんですけどね。
然るに、世の中にはこの部分だけを取り上げて総長の批判をされている方もいらっしゃるようで、
孫崎 享@magosaki_ukeru
東大学長「新聞読もう」入学式で訓示。びっくり。.相手は小学生や中学生でないんだから、せめて「マスコミの記事を盲目的に受け入れるのだけでなく、自ら各情報の重要性、報道の妥当性を見極める力をつけていただきたい」位行ってほしい。御用学者集団の学長にそれを期待するのはちょっと無理か。
2016年4月12日 21:35
https://twitter.com/magosaki_ukeru/status/719866637558525952?ref_src=twsrc^tfw
これはちょっとブーメランとして美し過ぎるのではないかと思わないでもないわけです。「ヘッドラインだけじゃなくちゃんと本文も読め」という式辞に対して、ヘッドラインだけの情報で批判するというのは、何かのギャグなのでしょうか。何かよっぽど東大を批判したい余り目が曇ってしまった、ということならわからなくもないですが。
まあ、皆様におかれましては、こんなへんぴなブログ記事であればまだしも、価値ある情報については、きちんと中身まで読まれることを強くお勧めします。
全然関係ないんですが、昨日の記事、記事内で力いっぱい触れているにも関わらず、アイスクライマーはどうなんだとかFF6はどうなんだといわれると、ハイセンスなギャグだなあと思って心温まりますよね。
今日書きたいことはそれくらいです。
執筆: この記事はしんざきさんのブログ『不倒城』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2016年04月18日時点のものです。
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