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自分だけの時が巻き戻る現象“リバイバル(再上映)”に悩まされる青年・藤沼悟が、自らの過去と対峙し、もがく姿を描く三部けいの“時間逆行”サスペンス『僕だけがいない街』。

原作コミックは先日最終回を迎え、「ノイタミナ」にて放映されていたアニメーションも好評のうちに終了。現在は実写映画『僕だけがいない街』が大ヒット上映中です。筆者も、どハマりし、毎話毎話ハラハラしながら楽しみにしていた“僕街”。この大傑作コミックはいかにして生まれたのか、アイデアについて映画について、三部けい先生に色々とお話を伺ってきました。

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―『僕だけがいない街』完結お疲れさまでした。映画が公開され、アニメも最終回を迎え、ラストに非常に注目が集まっていましたが、先生の中では最初から物語の筋は決まっていたのでしょうか?

三部:大枠みたいな物は出来ていて、一カ所にたどり着くための道筋はいくつか用意してある様な感じでした。話を書いていくうちに、新しいアイデアが出てきてそちらの方が良ければ採用しますが、大枠は決まっていたので話の筋はブレずに済んだかなと。「ラストはこんな感じ」という読後感は思った通りにいけたのでは、と今は思っております。

―毎話毎話とても楽しみにしていたのですが、『僕だけがいない街』の最初のアイデアというのはどういう所から生まれたのでしょうか?

三部:元のアイデアは入浴中とか、リラックスしている時にアイデアが色々浮かんでくるので書き留めてきまして(笑)。最初、全然違う形だった物を、『ヤングエース』用に書き換えました。時間を戻る要素とか、戻った先で犯人が本当は違ったという展開は最初からありましたが、登場人物もまるっきり違うので、また別の作品として出せるくらいですね。『僕だけがいない街』が始まる時に悟というキャラクターも周囲の登場人物も全部作り直しました。

―そうして出来た悟にはどの様な想いがこめられていますか?

三部:うだつの上がらなかった頃の自分を多少は重ねていますね。連載が決まったと思ったら雑誌がつぶれちゃったり、そうしたなんかうまくいかないなあという気持ちだったり。一皮むける為には何かが足りないと漠然と思っているんだけど、そこにたどり着けない人って、自分もそうだったし世の中にたくさんいるんじゃないかと思って。悟をそういうキャラクターにする事で、心境の変化も書き易いですし、リバイバル(再上映)を経て成長していく過程を表現し易いかなと。なので、最初は自分で描いていても、この主人公じゃ地味すぎるなという心配はあったのですが(笑)、結果的には良かったと思っています。

―例えばですが、キャラをもっと派手にしてほしいと言った担当編集さんや周囲からの要望は無かったのでしょうか?

三部:全然無かったですね。

編集担当:そうですね、キャラクターについてお願いする事はありませんでした。ただ、悟の洋服が地味なので雑誌でカラーページになった時にちょっと目立たないなというのはありましたね(笑)。

三部:専門学校行っていた時に、(悟の様な)格好している人が自分の周りには多かったんですよ。学校は卒業したのに、なんとなくその気分が抜けずに生活している……みたいな。でもさすがに地味だったかなってちょっと後悔しましたね。最終回でもすごく素っ気ない感じになってしまったので……。

―『僕だけがいない街』というタイトルもすごく印象的だと思うのですが、こちらを考えた経緯を教えてください。

三部:プロットよりも先にタイトルが思いつきました。最初は説明しないとピンと来ないかなと思ったのですが、「主人公がいなくなった状態の街がある」というイメージがあって、妻にも相談したら長過ぎず、ひっかかりもあるし良いねと言われて。だからまぐれといったらまぐれですね(笑)。元々タイトルをつけるのが苦手なのもあり、こういう良いタイトルってつけようと思ってもつけられないので良かったです。

―本作の魅力は子供や家族の描き方が大きいと思うのですが、こちらについてはいかがですか?

三部:子供が生まれてから「子供ってこんな感じだったっけ」と思う事が多くなったんですよね。それで自分の子供時代を思い出してました。かといって自分の家族がモデルになっているわけでは特にありません。妻の良い所をデフォルメしたり、子供がこういう事を思っている時にこうしてくれる母親って良いな、という憧れの様な物が強く出てると思います。それと子供が生まれてからは、色んなものに対する目線が変わったりしました。

―ここからは映画『僕だけがいない街』についてお伺いします。映画化のお話が来たのはいつ頃でしたか?

三部:二巻がまだ出ないタイミングだったと思います。映画化の話が来て「担当さんの言う事を聞いておいて良かった」と思うことがあったんですよ。一巻のラストは最初は違うシーンで考えていたんですが、昭和63年の小学校の前に立っているシーンで終わることを提案された時に、そっちの方が良いなと。最初自分が考えていたのはもう少しゆっくりと進むストーリーだったのですが、提案を受け入れた事によってスピード感が出て『僕だけがいない街』の物語の意外性が増したなと感じました。

―実際に映画をご覧になっていかがでしたか?

三部:映画、すごく良かったです。自分の好きな役者さんがたくさん出ているというのもありますが、子供の悟役の中川翼君がすごく良かった。彼が一番チャレンジャーだったと思うんですよね、キャリア的にも。他の役者さんやスタッフさんは全て高いスキルのある方だと思えますし、鈴木梨央ちゃんとか演技が凄まじかったですからね。

―主演の藤原竜也さんについてはいかがでしょうか。

三部:実は最初から藤原竜也さんがやってくれたらな、って言ってたんですよ。でもお忙しい方だし、と思っていたので、実際決まった時は「やった!」という感じでした。映画『バトルロワイヤル』がすごく好きなのですが、あんなに良い役者さんがいっぱい出ている中で、藤原さんの存在感って自分にとってすごくて。悟を演じてもらうにあたって、映画の中でそれが自然なのだったら悟というキャラクター自体の描き方が変わってしまっても良いとも思っていました。実際に映画を観て自分が描いた悟とは違う存在感があるなと思いましたが、でもそれが違和感が無いのが素晴らしくて、“藤原竜也流・悟”に感動しました。

―その他、お気に入りなシーンや、ここが良かったなと思った所はありますか?

三部:映画はコミックやアニメと比べると尺が短いと思うので、限られた時間の中で原作の要素を使って、好きに作ってもらうのが一番良いなと思っていたんですよね。リバイバルのルール等も自由に解釈してくれて良いですと言っていました。でも自分がこだわっていたご飯を食べるシーンもちゃんとおさえてくれていたので嬉しかったですね。

―映画でも雛月が悟のお母さんの朝ご飯を見て感動する、というシーンがすごく印象的ですよね。

三部:やはり実際に物が出て来ると説得力があるな、と映画を観て思いましたね。あのシーンはアニメでもしっかり描いてもらって、逆にコミックを観ると「こんなにあっさりしてたんだっけ」と思うくらいなんですが(笑)。映画もアニメも自分が描いたシーンをそうやって理解してくれてちゃんと表現してくれるというのは本当に嬉しいですよね。有り難いと思っています。

―今日は貴重なお話をどうもありがとうございました!

※トップ画像は三部けい先生による自画像イラスト。

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