ふみ切のブロマガ

こがナズ小話

2015/07/20 18:50 投稿

コメント:2

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 買い物帰りの俄雨に往生していると、たまたま通りかかった小傘に声をかけられ、一緒に命蓮寺に帰ることになった。天気や事件や日常など二三語った後、唐突に「毘沙門天様って縁結びの神様?」と聞かれて吹き出しそうになる。何故そんなことを思ったのかと問うと、「ナズーリンと星さんは、毘沙門天様がご縁で一緒にいるんでしょ」と言われた。そういう適当な説明を誰がしたのかは大体見当がつく。そもそもそいつ自身、私達が命蓮寺に居る理由をよく解っていないのかもしれない。このややこしい関係図は、私にとっても色々と悩みの種なのだ。
「毘沙門天様は、元は財宝神、日本では武神として扱われるのが一般的だ。ご主人は毘沙門天様の代理で、私は毘沙門天様の直属の部下だよ」
「へえっ偉いんだねえ!」
 今までどう思っていたんだい、と言いつつも、答えた声が少し浮ついたのが自分でも分かった。こうストレートに褒められたのは久々だ。悪い気分ではない。命蓮寺に居ると、私が毘沙門天様の部下であるということを忘れそうになってしまう。ネズミを小馬鹿にする人間達と同じで、体の小さいものはそれだけで愛玩か子供扱いの対象だと思われているのだ。毘沙門天様に言いつけるぞ、等と言っても堪えないのだろう。馬鹿らしいから言わないけど。
「それじゃ、どうしてナズーリンが『代理』にならなかったの?一人で済むのに」
 聖と毘沙門天様の思惑は、私のように内側から見ている者にとっては当然と思えることなのだが、小傘のように世間知がなく、また純粋な尊敬を持って聖を見ている者からすると、割合生々しくて引いてしまう気がした。詳しい説明は割愛することにして、「毘沙門天様の象徴としては、虎の方がメジャーだし、本尊の体が大きいことは信者の安心感に繋がるから」と答えた。私はあくまでご主人のサポート役なのだと伝えた。
「異動とかってあるの?」
「どうだろうね」
「命蓮寺での役目が終わったら、ナズーリンはどうするの」
 役目の終わり。それについては、私も長いこと考えていた。ご主人が毘沙門天代理として的確かどうかを、今更疑う者はない。ご主人の能力によって得られた信者は数多い。何よりあれだけの長い間、寺を一人で支えた人だ。普段あれこれと失敗するけれど、そんな姿からは想像もつかないくらい、信念と辛抱強さを持つ人だということを、彼女と長く付き合った者なら皆知っている。毘沙門天様も、多忙とはいえもう何度もご主人と対面している。彼女の徳の高さは理解されているはずだ。
 御役目が解かれた時、私は本来の職場、即ち毘沙門天様の元に戻ることになる。そうなれば、命蓮寺の面々とはお別れだ。彼女らは別れを惜しんでくれるだろうか?どうせまたちょくちょく来るんでしょ、とか言ってまともに見送りもしてくれないかも知れない。そう考えると癪だが、かといって、ずっと一緒に居ると思っていました、などと泣かれるのも御免だ。
「まず皆に挨拶をしなければね。君とも」
「仕事辞めてここに残ったりしないの?」
「……恐ろしいことを言うな、君は」
「ごめん」
 傘としての役割を忘れたまま、優しい人々と親しんでいることに、君だってどこか落ち着かなさを感じているんじゃないかい――と、言おうかと思ったけれど。流石に意地悪だと思ったのでやめた。目の前の事柄にのめり込みすぎると、本来の役割が何だったのかを忘れてしまうことがある。私はあくまで、毘沙門天様の部下だ。あの方の指示で、私はここに居られている。ここが素晴らしい居場所であることは、どうしたって否定できない。けれど、心地よさに感けて、感謝を忘れることがあってはならない。
 暫く、私と小傘は言葉を交わさなかった。小傘の顔は少し悲しげで、それでいて優しかった。何かを言おうとして言えないのではなく、「語らない」ことを選択してくれているのだと分かった。二人で歩いていることだけを感じている間、雨の音は騒々しくも静やかであった。命蓮寺までの道程もまた、長いようであっという間だった。
「ここまででいいよ、有難う」
「最後まで入ってっていいよ」
「もう多少は濡れてしまったからね。世話になった」
「私こそ有難う。嬉しかったよ」
 互いに手を振って別れる。少しして振り返ると、随分と離れたところから小傘はまだ手を振っていて、その一生懸命さが微笑ましかった。長く長く共に居た人々との別れを、所詮は一時の道連れ、と割り切ることは難しい。心を硬い岩に変えても、優しさと温もりの雨垂れは、ゆるやかに確実に心を穿つだろう。そんな優しい雨がいつか止んでしまった時、私は中途半端に濡れた体を持て余して彷徨うだろう。すっかり乾かすことはできなくても、同じように濡れてしまった仲間と、愚痴を吐きながら身を寄せ合うことはできると思う。雲間から差し込む眩しすぎる日差しにも、きっと少しずつ慣れてゆける。
 願わくは別れの日にも、私は涙を見せずにいたい。どうせなら最後まで、ご主人を支える存在でありたい。命蓮寺に居る間は、さしあたりそれが私に課された役割だと思うから。そんなことを考えながら、私は縁側の柱にもたれ、体も乾かさないまま、しばらく雨の音を聴いていた。


コメント

黒輪
No.1 (2015/07/20 21:56)
傘に当たる雨の音が聞こえるようで・・・。
しかしナズは大変な立場ですねぃ。
noge-wu
No.2 (2015/07/21 01:01)
ふみ切さんの話は、本当に好きです
コメントできなくなってしまうぐらい好きです(ごめんなさい)
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