ふみ切のブロマガ

めーさく小話

2015/06/27 19:44 投稿

コメント:2

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 例によって、美鈴は気持ちよさそうに寝ていた。まだお昼だというのに、健康な娘だ。よく育つはずである。起こそうと近づくと、「寝てませんよっ」と即座に反応する。妙なところで反応がいい。
「あ、お昼ごはんですか」
「違うわ。おやつよ」
「えっ、もうそんなに……」
「嘘」
 やっぱり寝てたんじゃないの、という私の顔に、しまった、という顔で返す美鈴。いつものことだから、今更怒りもしない(呆れはする)。彼女の「気」に対する敏感さは、寝ていても十全に働いているようだ。侵入者に負けることはあっても、見過ごすことはそうそうない。それならば寝ていても問題はないのかしら……と思うけれど。それでも、就業態度としてはやっぱり見過ごし難い。腕を組み、反省の態度を促すと、美鈴は必死に頭を下げる。これだけ居眠りを繰り返しても、謝罪はちゃんと真剣なのだから困ったものだ。強く言うのもやり辛い。10度目のごめんなさいで、今日は許してやることにした。
「咲夜さんは、お仕事中眠たくならないですか」
「睡眠は足りているからね」
「あっ、ひょっとして、時間止めて眠れるんですか!?」
「馬鹿」
 額を小突くと、あて、といって美鈴は笑う。笑いながらも、不思議そうな感情は顔に出ていた。燃費の良さが信じられないといった顔。何でもかんでも時間停止で話が済むわけではない。そもそも寝てしまったら能力のコントロールも出来ないから、停止状態の中で寝てしまうと、その場で能力が解除されて酷くみっともないことになる。寝る時には普通に寝るしかないし、時間停止中に働いた分の休養も、きっちり取らなければならない。制約はそれなりに多いのだ。
「そういえば、咲夜さんは、私の前では時間を止めないですねえ」
「止めても貴女が気付かないだけよ」
「ええー、気付きますよお」
「本当に?」
「本当ですっ」
 戯れに。――時間を止めてみる。
 美鈴の身体が、胸を張っているところで停止する。自信に溢れた表情。私のことを見ている目も、停止した世界では彫像のようにしか見えない。一瞬の滑稽さを感じ、それから無限の寂しさを感じる。いつものこと。
 私が時間停止の能力を多く使わないのは、身体的な問題だけではない。停止をした際に見る世界は、とても孤独だからだ。そこでは私以外、何も動かず静止する。吹く風も、雨粒も、日光すらも。どれほど動きまわっても、それを感知する相手が存在しない。果たして私がこうして「動いている」ことは、現実なのだろうかと不安になる。私が見ているのは、夢の中の世界なのではないかと。……次いで思い至る。果たして現実が、夢とどれほど違うものであろうかと。
「美鈴」
 呼びかけても、勿論彼女は答えない。
 私は人間で、彼女は妖怪。私にとっての無限の時間も、彼女にとっての一瞬間に満たない。蓬莱人とは違う形で、私は永遠を所有している。無限大に引き伸ばされた一瞬は、主観的に見れば永遠に等しい。でも、それは私だけの永遠だ。隔絶された時間の壁を、超えることは出来ない。その永遠の中で、彼女が私を感じることは絶対にない。私だけが彼女を感じられる、閉じた世界なのだ。
「美鈴」
 貴女に触れたい。貴女を見ていたい。ここでなら、私の想いを幾らでも紡ぐことが出来る。でも、それは届くべき場所に届くことはない。ただただ、私の中で生まれ、私の中で消えてゆく言葉。いくつも、いくつも。
「…… ……今、時間停めました?」
「ええ」
「やっぱり!ほら、わかったでしょう?」
 無邪気に喜ぶ美鈴。でも貴女は知らない。今、私がどれだけの時間をあなたの側で過ごしたのか。どれだけの言葉を、想いを、私があなたに告げたのか。
「一年分……と言ったら、貴女は信じるかしら」
「ええっ!?ま、また嘘ですよね?」
「さあねえ。でも、どうでもいいのよ、そんなこと」
 例えそれが真実であろうと。例え一年が十年であろうと。そんなものに価値はないのだから。価値が有るのは、あなたと過ごす時間だけ。
 梅雨の晴れ間のとある昼。時間が止まっているような、ふわっとした時間。そんな比喩に憧れるのは、時間がちゃんと流れているから。私とあなたの関係が、緩やかにでも、確かに変わり続けるから。だからこそ、今がこんなに愛おしい。日々の仕事を今だけは忘れて。あなたののんびりとした時間に、巻き込まれていたい。


コメント

yoshiki
No.1 (2015/06/27 20:25)
これはもう完全に愛の告白じゃないですか!
awafusen
No.2 (2015/06/28 08:34)
止めてから戻ってきた時の咲夜さんの表情でわかるんでしょうなあ
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