日本語ラップシーンの開拓者・EASTENDのメンバーとして、90年代に大ヒットを連発したラッパー・GAKU-MC。ソロ転向後はヒップホップと他ジャンルを越境する自由な音楽性を突き進む一方で、盟友であるMr.Childrenの桜井和寿とのユニット「ウカスカジー」としての活動も精力的だ。現在は音楽活動の傍ら、震災ドネーションイベント「アカリトライブ」の主宰者として世界中を駆けまわりつつ、愛してやまないサッカーのサポート団体「MIFA」の運営もこなしている。今回は、そんなアクティブ過ぎる男・GAKU-MCに、ニューシングル『LIFE IS A JOURNEY』と、『晴男伝説』の"富士山登頂ミュージックビデオ"、そして近況について話を聞いた。
■新曲『LIFE IS A JOURNEY』について
―― 新曲『LIFE IS A JOURNEY』を聴かせていただきました。「人生」や「旅」がテーマになっていると思います。
ここ数年、海外も含めて年間60本ほどライブを行っているんですが、家を離れていると「旅が好きだな」ってことを実感するんです。それで「そろそろ旅のテーマソングを作らないといけないな」って。それで旅人たちに思いを馳せつつリリックを書いて。
―― 具体的に誰かを思い浮かべて書いたんでしょうか?
これまで出会った旅人たち、中でも世界を旅する日本人のことですね。去年はブラジルにW杯を見に行ったんですが、その時に一緒にブラジルに行った旅人の友人が「現地にいたら一緒にサッカーをやらない?」って、Facebookから呼びかけてみたんです。そうしたら、なんと30人くらい集まってくれて。「日本の旅人ってこんなに沢山いるんだなあ」って驚きましたね。彼らは、僕に色んな思いをぶつけてきてくれました。自分がどんな旅をしてきたのか。楽しかったことだけじゃなく、苦労したことも色々ね。その時に、彼らのバックパックに僕の作った曲が入っていて、何かあった時に背中を押すことが出来たら素敵だなあって。直感的に思ったんです。
―― どんなメッセージが込められていますか?
トラブルをどう回避していくのかというのが、旅の醍醐味だと思ってるんです。電車が来なかったり、言葉が通じなかったりというのは良くあること。個人的に思い出深かったのはブラジルでのピラニア釣りですね。場所はパンタナールっていう南アメリカ最大の湿地帯だったんですけど、ワニだらけなんですよ。
―― 水の中にいるかもしれないとか...?
「いるらしい」ではなくて、目の前にいるんですよ(笑)。40匹ぐらいに囲まれて「これ危ないんじゃないかなあ」って。ちゃんと説明しといてくれたら、心の準備だって出来たのに(笑)。まあ、沢山釣れたから良いんですけどね。そういう話は数え上げたらキリがない。でも、とりあえず死なないで帰ってきて、笑えるエピソードとして話せるうちは、何の問題もないんじゃないかな。トラブルって乗り越えることが出来れば、思い出として刻まれていく。人生も同じことだと思うんですよね。失敗をどうカバーして、理想の状態に近づけていくか。旅というテーマを通じて、そういうことが表現出来たらなあと思ったんです。
―― 同曲のミュージックビデオでは、雄大な風景の中で歌われていましたね。撮影地は、やはりアメリカということですよね?
アリゾナ州にあるモニュメント・バレー。アンテロープ・キャニオンという洞窟みたいなところ、そひてセドナにあるベルロックというパワースポット的な場所で撮影しました。現地にはライブで行ったので、その前後に撮影した感じですね。
―― ライブというのは?
僕は「アカリトライブ」というイベントを開催しています。これは年に1度、東北の被災者の皆さんにメッセージを届けるというもので、今年は9月に開催しました。その1回のために、色んな場所でイベントを開催して、メッセージやドネーションを集めてるんですね。今は国内だけでなく海外でもやっています。去年はアメリカのセドナと隣町のフェニックスというところでやりました。現地の方々に東日本大震災の現状を知っていただくとともにメッセージを頂いて、福島の方たちに届けたんです。今はもう来年に向けて。10月には熊本城でイベントを開催して、4500人くらいの方々にご来場いただきました。年明け早々には宮古島で大きめのイベントが出来るように準備してます。場所に関しては、やっぱり変わった場所でやりたいんですよね、国内でも海外でも。普通の人があまりライブをやらない場所で出来たら良いなあって思ってます。まあ、どんな場所でもチャンスがあれば、明かりを灯して歌う感じではありますけどね。
―― GAKU-MCさんにとってライブとは何でしょうか。
何にも代えがたいものですね。書いて字のごとく「生きてるなあ」と実感させられます。取り返しの付かない時間じゃないですか? レコーディングなら失敗しても歌い直しが出来るけど、ライブは違う。やっぱりそういう緊張感が好きなんです。もちろんレコーディングやMVの撮影、プロモーションだって大切なことです。でも、やはりライブはお客さんの笑顔が見える。一緒に歌って高揚することで、自分が練習してきた以上のものが出せる。まさにキャッチボールですよね。たまらない魅力がありますよ。そこに向かうために頑張っていると言っても過言ではない。
―― カップリング曲でMONGOL800のキヨサクさんとコラボされていますが、きっかけは?
ずっと彼の音楽が好きで、ファンの1人だったんです。ここ数年、キヨサクくんは「ウクレレジプシー」名義で、ウクレレの弾き語りをしているんです。それがとても良くて、見ているうちに「彼のウクレレでラップしたいな」って思うようになってきた。で、「ここは直談判しかねえ!」って思って、電話しました。色んな楽器が入っているというのも良いんですが、本当に好きな人にシンプルなメッセージを届ける時に関しては、最低限のコードとリズムがあれば、それで良いんじゃないかなあ、と。これは僕がアコースティック・ギターを使ってラップするようになった理由の一つでもあるんですが。
■『晴男伝説』ミュージックビデオについて
―― その一方で、今回MVがリリースされた『晴男伝説』は、リリックの内容なども割とヒップホップ寄りですよね。
僕のライブは野外フェスなども多いので、雨と遭遇することがあります。でも「僕が出たら晴れるでしょ!」って思ってる(笑)。僕、かなり晴男なんですよ。一度くらい自分から責任を持って言い切ってみようかな! って思ったんです。
―― 晴男レペゼンですね。
そこはヒップホッパーなんで「言わんでどうする!」と(笑)。で、7月の頭くらいにMVを作ることが決まったんですが、「スタッフみんなでGoProを持って富士山に登ったら面白いんじゃないか?」という話になりまして。もちろん僕ひとりで登るわけではないので、スケジュールの調整をしなきゃいけない。で、調べてみたら、9月の閉山まで皆で集まれる日は、なんと1日のみ。スタッフが「ここ雨降ったら終わるな」的なことを言い出したんですが、「僕がいるから大丈夫だ!」って(笑)。そんなこんなで日程が決まったのは良かったんですが、海外でのライブから直行というスケジュールになってしまって。夜中の12時に都内に集合して、夜中3時くらいに現地に着いて。朝バスに乗って五合目まで行って、5時過ぎに登り始めました。頂上に着いたのはお昼。麓に着いたのは夕方でしたね。そんなことをアメリカからの帰国直後にやったんで、体力的には相当キツかった。でも、おかげさまで時差ボケは1日で解消しましたね。
―― GAKU-MCさんもずっとカメラを回してたんですか?
ですね、ずっとセルフィーしながら。五合目あたりはなんとも思わなかったんですが、上の方に行くと1曲まるまるは歌えない。僕はそこそこ毎日運動していて、体力的には自信がある方なんですが、あれは大変でした。やっぱり標高の高いところって、何をするにしても本当にキツいんですよ。
■サッカーとMIFAについて
―― GAKU-MCさんの"運動"と言えば、やはりサッカーだと思います。立ち上げられたサッカー団体「MIFA」とはどのような団体なのでしょうか?
Mr.Childrenの桜井くんとは長い間フットボールを通じて友人関係を築いてきました。僕らが中心となって、まわりにいる仲間達を巻き込んで一緒に立ち上げた団体です。サッカー場の運営はじめ、活動は多岐にわたっています。おかげさまで僕らはプロとして音楽を何年も続けさせていただいているわけですが、そういう状況に対して、色んな形で還元していきたいと思っています。で、僕らはアホみたいにフットボールをやっているし、そのフットボールからハッピーな気持ちを沢山もらっています。そこに対しても何か恩返しをしていきたいなって。
―― サッカーとの出会いは?
小学校から高校1年生までやってました。試合を見るよりプレイするほうが好きですね。今はMIFAのチームで週に2回はやってます。ミュージシャンだけでなく、色んな職業の方がいるんですが、共通するのはサッカーバカ、音楽バカであること(笑)。総勢50名くらいかなあ。紅白戦ばっかりやってますよ。
―― MIFAの今後について聞かせてください。
音楽とフットボールは人と人を繋ぐ最高のコミュニケーション・ツールだと思うんです。MIFAは「世代も国境も超えて繋がろう」という理念のもとでやっているので、色んな人と出会ってハッピーな時間をともに過ごせたらなあと思っています。来年はリオ・オリンピックもありますし、そういうタイミングで何か出来たら良いなと思ってます。
■近況と今後について
―― 最近どんな感じで日常を過ごされていますか?
朝5時くらいに起きてメールをチェック。朝食を食べて、午前中は音楽制作をしながら、サッカーにも行って。午後は打ち合わせや会議。週末はライブをしに出かけるという感じですね。僕は何をしてても、例えばインタビューを受けていても、次の曲のことを考えています。あんまり音楽から離れる瞬間がない。でもサッカーをやってる時だけは、頭の中が真っ白になるんです。友人との会話もサッカーを通してすることが多いかも。で、夜は子どもと一緒に風呂に入る。結局これが一番の息抜きかもですねえ(笑)
―― サッカー以外に趣味の時間などはありますか?
僕の場合は「これは仕事」「これは趣味」という感じではなくて、全てが一つに繋がってる感じなんですよね。富士山でのビデオ撮影にしても気分的にはレジャーなんです(笑)。今週はサッカーで、あるJリーグのチームの前座マッチに出るんですが、単にサッカーするだけで音楽は関係ない。端から見れば仕事なのかもしれないけど、僕からすれば楽しい。元日本代表の方々、櫻井くん、MIFAの面々と一緒に地元の高校生と対戦するんです。ワクワクしますよね。
―― それでは最後に、GAKU-MCとしての今後の展望をお聞かせ下さい。
"自転車操業男"で在り続けたいです。立ち止まると倒れちゃうような。でもそれってポジティブなことでもあるじゃないですか? 僕は休憩してスイッチ入れ直すタイプじゃなくて、常にフルスロットルで生きたい。自転車を全力で漕ぎ続けていたいんです。そんな思いを胸に現在はレコーディング中です。来年の梅雨くらいにはアルバムを出したいんですよ。本当は今年中に後5~6曲は完成してないとマズいんですけどね。とにかく頑張りますよ!
https://youtu.be/mie5bdlRftY
https://youtu.be/xhqUp5ZN1us
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