田舎から都会に出てくる少女たち。それまで、長い間培ってきた純朴さを人はいつ忘れてしまうのだろうか。
横浜市立大学で行われるミスYCUコンテスト・ファイナリストの田中千尋ちゃん(19歳・1年生)は、山梨県から「東京は怖いので」横浜市立大学を選んだのだという。
「横浜って言ったら、みなとみらいみたいな雰囲気を思い浮かべるじゃないですか。でも、実際、横浜市立大学のある金沢八景は、結構な田舎でしたね(笑)。都会過ぎないから、住みやすくていいですけど......」
とはいえ、4人姉弟の家庭から、急に始めたひとり暮らし。寂しさを感じないように、というほうが無理がある。
入学から半年が経ったが、毎日夜には、自分で、野菜を入れたお味噌汁を作る。ひとつは健康のため。もうひとつは、母のことを思い出すため。母が作ってくれていたものを思い
出しながら、出来る限り同じようなものを目指して作っているのだという。
さらに、生活ペースも、都会のそれとはちょっとかけ離れている。友だちと夕食を食べた日でも21時には帰宅。23時には寝て5時に起きるのだとか。 生活ペースが崩れないように、夜のアルバイトなどは入れないようにしている。
そんな彼女は、悩みとしてこんなことを話してくれた。
「こっちに遊びに来てくれた、地元の友だちに『冷淡になったね』って言われたんです。それが、横浜の街の中で、ティッシュ配りの人に何も言わずに、ティッシュをもらわなかった日なんです。山梨だと、道を歩いている人は、顔見知りでなくても話すのが普通で......ティッシュ配りの人にも笑顔を向けて断っていたんですよね。スタスタこっちの街を歩いている私を見て、そう思ったのかもしれないです」
もちろん彼女は、"ティッシュのもらい方"を友人に指摘されたわけではない。それでも、自分で、"都会に出てきたことで失いかけているもの"に気づけたのだ。
そういえば、取材のとき、少し彼女に待ってもらわなくてはいけなくなり、カフェで「好きなもの食べていいよ」と言って1000円を渡した。「いいです!いいです!」と本気で拒否した彼女だったが、取材に協力してもらっているので「おつりだけ戻してくれればいいから」と言って、僕はいったん立ち去った。
戻ってくると彼女のテーブルの上には、コーヒーとドーナッツがおいてあった。そして、彼女は650円のおつりを戻してくれた。その店ではコーヒーが350円・ドーナッツが400円だ。きっとドーナッツが食べたかったけど、ドーナッツまで出してもらうのは悪い、と感じて自分のおかげで別に頼んだのだろう。
大丈夫。千尋ちゃんは、まだまだ自分の感覚を持ち続けられている女のコです。
写真・文:霜田明寛
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