『トイレのピエタ』の松永大司監督が、井上靖の短編集「愛」収録の同名小説を映画化した『死と恋と波と』。自殺志願の男女の出会いと葛藤を叙情的に描いた作品で、今年の春には第32回釜山国際短編映画祭のインターナショナルコンペティション部門に出品され、映画ファンの注目を集めた。今回、「GYAO!」での配信を前に、自殺志願者の女性・辻村那美役を熱演した門脇麦が本作への想いや仕事への距離感などを語ってくれた。
■自殺志願者という役柄だが、特別に複雑な女の子とは思っていない
わたしは他の人から見るとエッジが効いてる女の子の役柄をいただくことが何故か多い気がするのですが、でもこの『死と恋と波と』をはじめ、どの作品でも特別な女の子を演じているつもりはいつもなくて。端から見れば、抱えているものがくだらなく見えたりありきたりだったり又は特殊だったりしても、その各々に大小は付けられないと思っていて。今回の那美も自殺志願者という役柄ではありますが、特別に複雑な女の子と思わないようにして演じました。
普段、有難いことに穏やかな生活を送っているので、辛い境遇で生きている女の子や何かを背負って生きている人間を演じる時は、少しでも役に近づけるよう自分を追い込んで撮影に臨んでいます。
『死と恋と波と』の那美は、自分でどうこうというより、松永(大司)監督の想いに染まれれば近づけると思ったので、2日間の撮影という厳しいスケジュールだったこともあり、頭を空っぽにして、何も用意せずに演じましたね。
■お芝居をしていて楽しいと思う瞬間は正直、少ない
今回は(岡山)天音君との共演でしたが、お互いに撮影中は自分の役に集中していましたし、現場中、作品について話し合ったことは一度もなかったです。天音君とは事務所も一緒でデビュー当初、一緒にワークショップに参加したこともあったので、同期の仲間という感覚があり、心の中で「頑張ろうね」と現場中ずっと思っていました。わたしはカメラ前にいない時の現場の雰囲気や相手役の方との関係性も画面に映ると思っているので、現場での距離感はいつも大切にしたいと思ってやっています。
今回の『死と恋と波と』では平行線をたどっていくような関係性だったので、そういう密な関係性は必要なかったですね。お芝居をしていて楽しいと思う瞬間は正直少ないですが、現場にいてみんなで作品を作るということに喜びを感じます。もちろん寝れない日々が続く現場はと辛いと感じる時もありますが、オールアップして2か月くらいたって、「ああ、あの現場楽しかったなあ」と思うこともよくあります。
■俳優を撮ろうというベクトルが強い現場
『死と恋と波と』は、わたしと天音君の映画を作ろうという企画に松永監督が参加してくださった作品だったので、普通の現場よりも作品を撮るというベクトルより俳優を撮ろうというベクトルが強い現場だった気がします。そういう意味では、すごく幸せな現場でした。普通は監督の撮りたい画が優先されるところ、今回はとにかく2人の俳優の良い部分を引き出して映そう、切り取ろうということを最優先して撮影してくださって、それは非常に貴重な経験でした。
もちろん、時間的な限界はあったのですが、ここまで役者から何か出てくるまで粘ってくださる現場を私は経験したことはありませんでした。もちろん限られた時間のなかで自分のベストを尽くすのがプロの仕事だとは思うのですが、松永さんが粘って待ってくださらないと出てこなかった何かが確実に映っているのではないかと思います。『死と恋と波と』は短編映画なので30分くらいですが、濃密な時間を感じていただけると思います。
■参照リンク
『死と恋と波と』
http://gyao.yahoo.co.jp/p/00837/v09938/
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