咽頭がんをわずらい、今年に入って声帯を全摘出したつんく♂による手記『「だから、生きる。」』が、新潮社より9月10日に刊行された。つんく♂本人のブログでも「自分で読み返しても胸が詰まって先にすすめないページもあります」と語っている通り、赤裸々に描かれるその姿は涙なくしては読み進めることが出来ない感動的な一冊。でありながら読了後はポジティブに生きることを決意したくなる、つんく♂ならではの「究極の、生き方論」が詰まっている。
この本を読んだ誰もが「ほんま、つんく♂、ロックやな」と思うのではないか。それほどまでにつんく♂ならではのロックなイズムがこの本には溢れている。かねてより「ロックか、ロックでないか」という基準で物事を判断し、自身がプロデュースするグループや楽曲にもロックスピリッツを求め続けてきたのがつんく♂という人間だ。しかし一体、つんく♂にとって、ロックとは何なのだろうか?
そこで今回は、つんく♂著『「だから、生きる。」』の中から、ロックすぎる5つのポイントを紹介していきたい。これほどまでにロックな自叙伝は、おそらく他にはないだろうから。なお本記事では『「だから、生きる。」』の内容に触れている部分があるため、これから手に取る皆さんは読了後に本記事を読んでいただければ幸いである。
<その1 奥さんのカッコ良さがロックすぎる>
つんく♂本人ももちろんロックなわけだが、その家族、特に生涯の伴侶である奥さんのカッコ良さもまたあまりにもロックだ。声帯摘出手術を受けた後、近畿大学の入学式で復帰を宣言しようと決意したつんく♂だったが、食べ物を飲み込むことさえままならない。弱気になったつんく♂に対して、奥さんは本気で説教するのだった。
「そんな弱々しい人に入学式でエール送られて、誰が嬉しい? 学生にエールを送るどころか、みんなあなたのことが心配になっておめでたいどころじゃなくなるわよ」
弱った人のそばで慰めることは出来ても、本気で叱りつけるというのはなかなか出来るものではない。だがつんく♂への真剣な愛があるからこそ、こんなロックな台詞が口に出来てしまう。そしてこの言葉でつんく♂のロック魂に火がつかないわけはない。家族の協力もあり、食事や運動で体力を快復し、みごと近畿大学の入学式を成功させるのだった。
<その2 感謝の気持ちの強さがロックすぎる>
つんく♂と言えばロックなわけだが、そのロックの中には「感謝」という概念が中心にある。この『「だから、生きる。」』の中でも感謝を述べた場面は多い。ニューヨークでのライブ直前、モーニング娘。のメンバーに対してかすれた声で感謝の気持ち、歌えるありがたみを忘れないよう告げる場面は涙なくしては読むことが出来ない。また、結果的にシャ乱Qで歌う最後の機会となった二十五周年の記念ライブについても、つんく♂は感謝の気持ちを忘れない。
そして、ライブに参加してくださったみなさん。自宅で成功を祈ってくれてたみなさん、本当にありがとう。みなさんと出会えて僕は本当に幸せです。
これほどまでに素直に感謝の気持ちを伝えられるということは、まさにロックの精神に他ならない。つんく♂作詞によるハロプロ研修生『「アイドルはロボット」って昭和の話ね』という名曲には「勉強次に練習 そして礼儀 結果感謝」という歌詞があるが、これが人生の神髄であり、それを実践しているのがつんく♂なのだ。感謝のないところにロックはない。そんな圧倒的な真実を、つんく♂は自ら伝えている。
<その3 とにかくTOKIOがロックすぎる>
かねてから親交のあるTOKIOだが、つんく♂が最初に癌を公表した際、多くの人が「頑張ってください」「応援してます」とメッセージをくれる中、TOKIOからの色紙には真ん中に大きく「頑張ろう!」と書かれていたという。他人のつらさを自分のこととして考えるTOKIOならではであり、これもまたロックだ。
そして退院後、奥さんと一緒にTOKIOのコンサートを観たつんく♂。TOKIOのマネージャーから「もしホームパーティとかやるときがあったら、みんなで行きたいな、って話していましたよ」とのメールが届き、社交辞令だろうと思いつつも「そのうちきっとホームパーティするくらい元気になりますから、そのときはぜひ来てくださいと伝えてください」と返信。すると「いつごろスケジュールをとればいいでしょう?」という驚きの返事が。社交辞令、という概念を完全に無視したTOKIOらしいエピソードだ。
コンサートは11月2日に行われたにも関わらず、TOKIOはメンバー全員がスケジュールを調整して12月中旬につんく♂でホームパーティが開催される。サプライズで歌のプレゼントもあり、実に3時間にわたってつんく♂とその家族を楽しませた家族。そしてこの日のTOKIOとのセッションをきっかけとして、つんく♂はなくしかけていた自信を取り戻すことになるのだった。
ロックは人を元気にする。ロックは人を勇気づける。あまりにも当たり前の話ではあるが、それを真っ正直にやってのけるTOKIOの姿は、まさにロックを具現化した存在だと言えるのではないだろうか。
<その4 つんく♂の生き方そのものがロックすぎる>
つんく♂はこれまでも日頃からロックというキーワードを多用してきたわけだが、つんく♂の中でのロックという概念を一言で定義するのは難しい。だがつんく♂の中での一つの真理として「結果ロックにしてしまえばええんちゃう」という考え方が確かにある。どんなことがあっても、ロックにすればロックになる。言わば「結果ロックにしてしまう」という行為そのものがつんく♂にとってのロックだと言えるかもしれない。
「『だから、生きる。』」の中でもそんなエピソードが記されている。奥さんが双子を出産し、子育てに積極的に関わることにしたつんく♂は、家族との時間を増やすことによって生活のスタイルが一変する。休日でフードコートでラーメンを食べ、スーパーで買い物をしてポイントを貯める。一見ロックとはかけ離れたように思えるこういった景色を、つんく♂は「実はロックじゃないか!」と捉える。そしてその変化は、つんく♂の歌詞にも影響を及ぼすのだった。
その瞬間、「フードコート」っていう言葉が僕の作る歌詞に採用された。
これはまさに、つんく♂のロックだ。つんく♂は目の前にある日常をこそロックとして捉え、それまで自分が考えていたロックという概念が壊れることを決して非としない。むしろそれを新しい経験として楽しむというのが、つんく♂のロックなのだ。実際、こういった経験により「寂しい乙女心を今日も甘いアイスで癒され」というモーニング娘。の名曲『気まぐれプリンセス』の歌詞が生まれたということであり、これこそが「結果ロックにしてしまえばええんちゃう」の実践だろう。
何があっても、何が起こっても、それはロックに繋がる。あるいは、それをロックに繋げるという行為そのものがロックなのだ。そしてこの考え方は、結果として、次の<その5>へと繋がる。
<その5 つんく♂が長生きせざるを得ないのがロックすぎる>
つんく♂著「『だから、生きる。』」の帯にはつんく♂直筆の文字でこう書かれている。「一番大事にしてきた声をすて、生きる道を選びました。」と。そしてこの自叙伝のタイトルは「『だから、生きる。』」だ。以上の事実と<その4>での考え方を重ね合わせれば、つんく♂はもう、長生きをしなくてはならない。こんな本を出してしまったんだから、長生きしなきゃ嘘だ。そうじゃないなんてカッコ悪いし、そんなのはちっともロックではない。
ハロー!プロジェクトはつんく♂がもしいなかったら存在はしていないし、ハロー!プロジェクトのファンはみなつんく♂の作品の一つでもある。誰もがつんく♂のプロデュースや楽曲に影響を受け、元気をもらい、そして勇気づけられてきた。だからこそ望んでいるのは、つんく♂が生き続けてくれることそれ以外にはなく、この「『だから、生きる。』」という自叙伝は終わりではなく始まりだと信じている。つんく♂はきっと、また誰もが思いつかないようなやり方で、ロックをやってくれるに違いないと。
「『だから、生きる。』」というこの自叙伝は、全ての生きる人にエールを贈る名著だが、それはつんく♂のこれからの生き方もまたロックであるという前提があるからだ。これからもファンはつんく♂のロックを求めて、つんく♂の人生を追い続けるだろう。つんく♂が100歳ぐらいになったときに「『だから、生きる。』」の続編をまた書いてくれるのではないかと期待したい。何故なら、それは、ロックだからだ。
<結論>
先日、NHK総合にて『NEXT 未来のために「"一回生"つんく♂ 絶望からの再出発」』という番組が放送された。つんく♂への密着映像やインタビューで構成されたこの番組だが、食道発声の様子をつんく♂が見せることはなかった。その理由は単純明快だ。「ロックな感じがしないから」。ほんま、つんく♂、ロックやな。
https://youtu.be/UYXNA54dDKs
■参照リンク
つんく♂ 公式サイト
http://www.tsunku.net/
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